ーサラ・ヒューイットー
ウィンリィちゃんの希望で、ラッシュバレーから離れた山奥に
ドミニクさんは息子のリドルさんと機械鎧の整備師をしており、お嫁さんのサテラさんと3人で暮らしていました。
サテラさんはあと半月で出産を迎える妊婦さんだったんですが、先程急に産気づいてしまいます。
しかも悪いことは続いて、街へと通じる吊橋が落雷によって焼け落ち、激しい雷雨の中サテラさんを街まで運ぶこともできないので、ドミニクさんは仕方なく隣街へ通じる遠回りの道でお医者さんを連れてくることになりました。
私もサテラさんとお腹の赤ちゃんを救うために行動を始めましょう。
まずはロバに乗って街へ向かったドミニクさんを追いかけます。
出発して間もなかったので、すぐドミニクさんの後ろ姿が見えました。
山奥で大雨が降っているので問題は無いと思いますが、一応周囲に誰もいないことを確認してから
「
を唱え、ロバもろともドミニクさんには眠ってもらいます。
これからやることは、まだ誰にも知られたくないですから。
眠ったドミニクさんとロバを抱えて、影の
雨で濡れない場所にとりあえず置いといて、今度はお医者さんを迎えに行きました。
この大雨で昼は軒を連ねてた露店も今はなく、閑散とした大通りを病院を探して走ります。
病院の位置は把握してなかったので、眠らせる前にドミニクさんに聞けばよかったかなとも思ったんですが、幸いなことにすぐ見つけることができました。
「すいません、急患です。山奥の機械鎧技師ドミニクさんのところのサテラさんがさっき産気づきました。この大雨で街まで連れてこられなかったので、お医者さんを派遣してください」
と受付の看護師さんにお願いすると、
「わかりました。準備がありますので、待合室で少々お待ちください」
と言われました。
暫くすると眼鏡をかけ重そうな鞄を持った白衣の男性がやってきました。
この人がお医者さんで鞄の中身は医療器具なんでしょう。
「お待たせしました。すぐにドミニクさんのお宅へ向かいましょう」
「よろしくお願いします。案内するのでついてきてください」
そう言って病院を出ると、すぐに人のいない裏路地に入りました。
そして、お医者さんにも
「
でもって眠っていただきます。
お医者さんを抱え、影の転移魔法でドミニクさんとロバも回収し、ドミニクさんの家の近くまで戻って来ました。
そこでドミニクさんたちを起こします。
「ドミニクさん、先生起きてください。家に着きましたよ」
「…ん?あぁ、ここは…?そうだ!医者を連れて来ねぇと‼︎」
「…えぇっと、そうです!急患はどこですか⁈」
「「はい?」」
2人とも目が覚めたばかりで、まだ状況を飲み込めてません。
まぁ、当たり前でしょうね。
「何を言ってるんですか、ドミニクさん?背後にお医者さんを連れているじゃないですか。先生もしっかりしてください。そちらのドミニクさんのお嫁さんが産気づいてるんです。家もすぐそこなのでお願いします」
違和感だらけかもしれませんが、それを口に出させる前に畳み掛けます。
「あ、ああ。先生、こちらになります。サテラと孫をお願いします」
「え、ええ。ドミニクさん、案内お願いします」
そう言って2人は家の方へと走って行きました。
っていうか、ドミニクさん。
ロバのこと忘れてますね。
ロバを起こさなかった私も悪いのかもしれませんが…。
ロバどころではないというのもあるかもしれませんし。
仕方がないので、ロバを抱えて私もドミニクさんの家へと戻りました。
ロバを納屋に寝かせて、家の中に入ると
「サラ!お前また何かやっただろ⁈」
何やらお冠っぽいエド君がいました。
「どういうことですか?」
「橋が焼け落ちて、街まで遠回りしなけりゃ行けねぇってドミニクさんが言ってたのに、俺たちが街からここへ来た時より早く、ドミニクさんが医者を連れて戻ってきたってありえねえだろ‼︎」
「確かにありえない話ですが…、それに私が関与したという証拠もないでしょう?」
「そ…、それはそうだけどよ…」
語気を強めてたエド君の勢いが小さくなります。
「ドミニクさんがお医者さんを連れて来て、サテラさんを診てくれてる。その事実が大事でしょう?」
「…」
何か言いたいことがあるけど、言えなくて恨めしそうな顔のエド君。
そんな顔をされても、まだ言えないことは言えないので仕方がありません。
「兄さん!赤ちゃん生まれたって‼︎あ!サラさんも‼︎赤ちゃんが生まれたそうですよ‼︎」
寝室前で待っていたんでしょうか?
アル君が慌ただしく駆け寄ります。
「本当か、アル⁈」
エド君はさっきの顔はどこへやら、アル君と一緒に寝室へと走って行きました。
私も2人から少し遅れて寝室に向かいます。
寝室前ではパニーニャが倒れて
「血…。血はダメなのぉぉぉ…」
と呻いてました。
まぁ大丈夫でしょう。
寝室に入ると入れ違いでエド君におんぶしてもらってるウィンリィちゃんが出て行きましたが、何かあったんでしょうか?
ベッドではお医者さんの診察を受けてるサテラさん、リドルさんは生まれた赤ちゃんを産湯につけ、ドミニクさんは赤ちゃんをニコニコと眺めてます。
「おい、孫だぞ!俺の孫!カワイイなぁぁ〜」
弟子は取らん!と言っていた頑固親父はどこへやら。
もうデレデレが止まりません。
「いやぁ、良かった良かった。急なお産で一時はどうなるかと思ったが…」
「母子ともに体調良好です。適切な処置を彼女が取っていたお陰で、私も問題なく出産に立ち合うことが出来ました。初産の立ち合いなんて大人でもビビるのに大したものだ」
ドミニクさんの呟きに対して、お医者さんが私の背後を見ながら答えました。
私の背後にはいつの間にかウィンリィちゃんが戻ってきてて、
「いえ、もう必死で何がなんだか」
と首と手をブンブンと振っています。
今の話からすると、ドミニクさんがお医者さんを連れて来るまでは、ウィンリィちゃんがサテラさんの出産を助けたということですか⁈
ウィンリィちゃんは医者の家系らしいですが、本人は出産に立ち合ったことなんてないでしょうに。
それでもお医者さんにお墨付きをもらえたんですから、すごいですね。
すると、徐にドミニクさんがウィンリィちゃんに頭を下げました。
「本当にみんなには…、特に嬢ちゃんには世話になった。感謝する、ありがとう!」
「そんなに畏まられたら照れちゃいますよ」
ウィンリィちゃんは恥ずかしそうに答えます。
そこで、何かを思いついたのかエド君がすすすっとドミニクさんに近付いて、
「どうでしょうか、社長?機嫌がよろしいところで、ひとつ弟子などとってみては…」
なんてどこかの悪商人のように囁きました。
ドミニクさんはウィンリィちゃんに恩がある、ウィンリィちゃんはドミニクさんに弟子入りしたい、エド君は今より軽い機械鎧を着けられるという皮算用を一瞬で考えたんですね。
そういう悪巧みは上手ですが、ドミニクさんはというと
「却下」
と一刀両断。
「出産では確かに世話になった。が、それとこれとは話が別だ。俺は弟子は取らん。それに嬢ちゃんにも家で待ってる家族がいんだろ。若ぇ女の子が心配かけさせるもんじゃねぇ」
取り付く島がありません。
孫にデレデレしてても、「弟子は取らん」は変わらないんですね。
ウィンリィちゃんもきっぱり断られて俯きます。
「確かにウィンリィがいなくなったら、リゼンブールにピナコばっちゃん1人になっちゃうね…」
とアル君が言ったところで、ドシャッとドミニクさんが椅子から転げ落ちました。
あら?どうかしたんでしょうか?
「リゼンブールの…、ピ…ピナコ……?」
冷や汗を垂らしながら、恐る恐るという感じで確認するドミニクさん。
キョトンとした顔でウィンリィちゃんは答えます。
「はい。ピナコ・ロックベルはあたしの祖母ですけど…」
ウィンリィちゃんの答えを聞いた途端、ドミニクさんはすごい勢いで壁際まで後ずさりました。
言い方は悪いんですが、まるで台所の黒い悪魔みたいです。
人間必死になるとあんな動きができるんですね。
じゃなくて、顎に残る切り傷を摩るドミニクさん。
「ピナコ・ロックベルの孫だと…」
「あのぉ…ばっちゃんと何かあっt「訊くな!古傷が裂ける‼︎」…」
ウィンリィちゃんの質問をドミニクさんは遮ります。
「思い出すのもおぞましい…。あのリゼンブールの女豹めぇぇぇ…‼︎」
リゼンブールの女豹⁈
あのピナコさんが?
とてもそんな感じには見えませんが、頭を抱えてるドミニクさんも嘘を言ってるようには見えません。
嘘を吐く必要もありませんし。
まぁ、ピナコさんも昔はヤンチャだったということなんでしょう…。
「とにかく!俺は弟子は取らねぇし、あの女の孫とわかったら、余計おっかなくt…いやいや。ゴホン!」
咳で誤魔化しましたが、今おっかないって言いましたよね⁈
ピナコさん、貴女は何をやったんですか…?
「ま、どうしても修行してえってんなら、麓の腕のいい技師を紹介してやるから、そっちに行け」
それだけ言うとドミニクさんは部屋を出ようとします。
「…あの!たまにお仕事を見学に来てもいいですか?」
ウィンリィちゃんの問いかけというかお願いに対して、
「けっ。邪魔するなら来るんじゃねぇ。ただし、孫の顔を見になら、たまーにでも来るがいいさ。そっちの手癖の悪ぃ跳ねっ返りも、改心したら一緒に来てもいいぞ」
と短髪の頭をガシガシ掻きながら、返事をして出て行ってしまいました。
頑固一筋だからか、素直に感情を表現できないんでしょうね。