雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第29話

ーサラ・ヒューイットー

 

エルリック兄弟の師匠であるイズミさんから手荒い歓迎を受けた2人、と私はそのままお宅へと案内されました。

リビングに通されるなり、すぐに「賢者の石」についてイズミさんに訊ねるエド君。

 

「賢者の石?」

 

「師匠なら何か知ってるかなーと思って…」

 

「私は石には興味がないからなぁ。そんな伝説でしか存在しないようなモン、研究してどーすんの?」

 

イズミさんに逆に訊ねられたエド君は、

 

「いえっ…、ほら、あのー、知的好奇心!と言いましょうか…」

 

と目を白黒させながら答えます。

その反応ではやましいことがありますと言ってるようなものですよ…。

まぁ、「人体錬成」という錬金術師の禁忌を犯して、さらに代償で失った身体を取り戻すために「賢者の石」を探してるなんてイズミさんにバレでもしたら、玄関前での対応を鑑みてもどうなるかわかりませんからね。

 

「んー、賢者の石ねぇ…」

 

イズミさんは顎に手を当て呟きます。

何か引っかかるものがあるんでしょうか?

その横からシグさんが

 

「そう言えば…、この前の旅行で中央(セントラル)に寄った時、石についてやたら詳しい錬金術師に会ったよな」

 

と言いました。

イズミさんも引っかかりがなくなったみたいです。

 

「ああ、あの男!えーと、確か…『ホーエンハイム』って名乗ってたっけ」

 

とシグさんの言葉に応えました。

すると、今度は珍しくアル君が食い気味に訊ねます。

 

「どんな人でした⁈」

 

聞いたことのある名前なんでしょうか?

エド君も驚いたように目を見開いてます。

 

「割と背が高くて…、金髪メガネにあご髭だったかな。歳はよくわからなかったけど…、結構男前だったよ。…って、やっだぁ!あんたの方がいい男よぉ‼︎」

 

ホーエンハイムという男性の説明をイズミさんがしていると、シグさんが「男前」という単語に嫉妬したのか、ムスッと不貞腐れたような顔をしました。

それに気付いたイズミさんがすぐにフォローして、肩をバシッと叩きます。

そんなところで惚気なくてもいいんですよ。

本当に仲がいいようで…。

 

「生きてたんだ…」

 

そんな惚気も無視するようにアル君がボソッと呟きました。

エド君は俯いてますが、やっぱり知り合いなんですね。

 

「知り合いか?」

 

「…父親です。僕達の……」

 

イズミさんの質問にアル君が答えます。

知り合いレベルの話ではありませんでした。

まさかお父さんのことだったなんて。

 

「あの昔出ていったっていうおまえ達の父親?なら丁度いいじゃないか。まだ中央にいるかm「あんな奴!」…」

 

イズミさんの言葉をエド君が大声で遮りました。

 

「あんな奴に頼るのだけはごめんだ…‼︎」

 

エド君がここまで感情を露わにするなんて、そのお父さんにはあまりいい感情を持ってないみたいですね。

しかし、エルリック兄弟のお母さんは亡くしたと聞いてましたが、お父さんの話は聞きませんでしたね。

家族のことを根掘り葉掘り訊くなんて失礼ですし、話題にも上りませんでしたが、イズミさんの言う通りなら、お父さんは少なくとも子供を残して失踪中ということですか…。

一体何があったんでしょうか?

 

「あ…あの?父さん、石について何か言ってましたか?」

 

雰囲気を変えるためでしょう、アル君が訊ねます。

 

「ん〜…。長年の望みがもうすぐどうとか…、嬉しそうに語ってたっけ」

 

と、イズミさんはなんとか思い出したかのように答え、丁度昼食の時間ということで話は一旦中断となりました。

 

 

「へぇー、世の中には悪どい奴がいるんだねぇ」

 

がつがつとスパゲッティを口に頬張りながら、メイスンさんが言いました。

食事をしながらエルリック兄弟がこれまで旅してきた場所での出来事を話していて、今はユースウェルが舞台となっています。

 

「オレもムカッ腹が立ったからさ。東方司令部の大佐にチクっといた」

 

フォークに刺した肉を同じようにがつがつ頬張りながら、エド君が答えます。

そう言えば、あのロキだかヨキだかの中尉さんはどうなったんでしょうね?

 

「馬鹿だねぇ。炭坑の権利書をそのまま持ってりゃ、老後も安泰なのに」

 

「あんまり危ない事しちゃダメだぞ。まだ子供なんだから」

 

優雅にカップを啜るイズミさんと、豪快に骨つき肉にかぶりつくシグさんがそれぞれ思ったことを言いました。

でもなんでしょう、2人の言ってる内容と食事の光景がチグハグな感じを受けるのは私だけでしょうか?

 

「ボクは平和に生きたいと思ってるんですけどねぇ。兄さんが…」

 

アル君がシミジミと答えます。

なんかエド君が悪いみたいなセリフですが、中央の第五研究所の件を私は忘れてませんよ。

危険だから行くなとアームストロング少佐に釘を刺されてたのに、2人揃って忍び込んだでしょう。

エド君より控えめなだけで、アル君も無茶する人だと思いますよ。

まぁ、口には出しませんが。

 

「エド君はすぐトラブルに巻き込まれるか、巻き込むタイプですよね」

 

「サラまでオレの所為にすんのかよ!」

 

「違いますか?」

 

会話は続き、先日のラッシュバレーまで進みます。

 

「ラッシュバレーでは出産にも立ち会ったんだよな!」

 

「師匠!ボク達、赤ん坊を取り上げるの手伝ったんですよ!」

 

「バッカおめー!あんなん手伝ったって言えねーよ!オレ達廊下で震えてたじゃん」

 

エルリック兄弟はあの時の体験を嬉しそうに報告します。

 

「『案ずるより産むが易し』って正にあの事だよね。家族が協力して、母親も命を懸けて…。みんなに祝福されて人間は産まれてくるんですね」

 

「そうだよ。おまえ達もそうやって生を受けたんだ。自分の命に誇りを持ちなさい」

 

アル君の感想にイズミさんも深く頷いて返します。

ふと思うところがあったのか

 

「そう言えば、師匠のとこは子供はいないですけど…」

 

とエド君が言ったところで、

 

「エドワード君‼︎」

 

慌てたようにメイスンさんがテーブルに両手をついて、椅子から立ち上がりました。

エド君は純粋な疑問を口にしたみたいでしたが、私はその瞬間にイズミさんが少し悲しそうな目をしたのを見てしまいました。

ひょっとしたら以前は子供がいたのかもしれません。

なのに見当たらないということは…。

 

「……あー…、ほら。えーっと…」

 

メイスンさんはなんとか会話を繋げようとしてます。

 

「そうだ!あれから君達の錬金術も進歩したろう?修業の成果を見せてくれないかなぁ?」

 

「ああ!それならいくらでも!」

 

メイスンさんがどうにか捻り出しただろう言葉に、エド君は自信満々で応えます。

 

「オレ達、リゼンブールに戻ってからも毎日研究を怠らなかったし!」

 

「師匠の言う通り身体も鍛えてますからね!」

 

エルリック兄弟はすっかりやる気になっていて、

 

「ボク達、かなり大質量の錬成もできるようになったんですよ!」

 

「アル!どうせなら表でドーンとやってやろうぜ!」

 

と席を立ち、玄関へと向かいます。

 

「サラさんもほら」

 

「はい、わかりました」

 

メイスンさんに促されたので素直に従います。

しかし、部屋を出る直前、

 

「イズミ……」

 

「ん?ああ、大丈夫よ」

 

というカーティス夫妻の会話を聞いてしまいました…。

 

 

場所を移して、玄関前ではアル君が錬成陣を描いてます。

陣を描き終え手を添えると、錬金術特有の光とともに馬を象った石像が現れました。

 

「ほー、早くて正確になったな」

 

イズミさんが石像を確かめながら感想を言うと、アル君は照れ臭そうに頭へ手を乗せます。

 

「次、オレ!」

 

エド君も早く成長を確かめてほしいのか、自分を指差して名乗り出ると、いつものように掌をパンッと合わせ、馬?を錬成しました。

馬と断言できないのは翼や角が生えていて、それなら「ペガサス」だか「ユニコーン」だからと言われれば、まぁ納得します。

でも下顎から上向きに牙が生えていて、脚の付け根らへんに炎が燃えているものは「ペガサス」でも「ユニコーン」でもないでしょう…。

アル君とエド君は「ディティールが…」とか「オレのセンスが…」と口論し始めました。

兄弟でも性格によって随分違うんですねぇ。

 

「おまえ、錬成陣無しでできるの?」

 

エド君の作品を見て、イズミさんが最初に言った言葉がこれでした。

しかも少し険しい表情です。

エド君はキョトンとしながらも

 

「え?はい。一応…」

 

と答えました。

それを聞いたイズミさんはアル君を眺めた後、さらに問いただします。

 

「エド。おまえひょっとして…、『あれ』を見たのか?」

 

その途端、明らかに狼狽えるエド君。

 

「……な…、何を言って…」

 

「見たんだろう?」

 

イズミさんは質問というよりも、確認するかのように重ねて尋ねます。

 

「…見ました」

 

観念したかのように、エド君は一言吐き出しました。

 

「流石はその歳で国家資格を取る程の天才……ってことか」

 

「天才なんかじゃありません…。オレは『あれ』を見たから…」

 

この世界の人間じゃない私は当然ついていけない会話なんですが、アル君とシグさん、メイスンさんもこのやりとりには戸惑いを隠せないみたいです。

エド君が今にも泣きそうな顔で

 

「師匠は…!」

 

と問いかけようとしたところで

 

「イズミせんせー!」

 

場違いな子供たちの声が響きました。

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