今回もサラよりは
エルリック兄弟達の描写が多いです。
ーサラ・ヒューイットー
エド君とイズミさんが何か大事な話をしようとした時、
「イズミせんせー!」
というこの場にそぐわない元気な声が響きました。
声の主は男の子3人組です。
「せん……」
途中で立っていたシグさんを避けるように動いて
「せんせー」
とイズミさんの近くに来ました。
やはり子供にはシグさんは怖く見えるんでしょう。
そのシグさんはというと、子供に避けられたことにショックを受け、メイスンさんに連れられて店に戻ってしまいました。
子供達は壊れた汽車のオモチャを錬金術でチャチャッと直してもらいたくて、イズミさんを訪ねたようです。
しかし、イズミさんは
「なんでも錬金術に頼らないの。自分の手で直せる物は自分で直しなさい」
と言って、子供の1人が持ってた飴の棒を使って壊れた車軸の代わりとして直しました。
少し不恰好になりましたが、子供達は喜んで、また遊びに出かけて行きました。
すると、
「イズミせんせい…」
と再び子供の声が聞こえてきましたが、今度の子は元気がありません。
「メニィ、どうしたの?あんたも何か壊したの?」
イズミさんの問いかけに、メニィと呼ばれた女の子は
「チコが動かないの。直してよ…」
とその腕に抱えていた子猫を差し出しました。
イズミさんはチコの胸に手を当てますが、
「…もう死んでる」
と呟きます。
メニィちゃんには死というものがまだ理解できないようで、「チコを直して」とイズミさんに何度もお願いしました。
イズミさんは、チコとメニィちゃんの胸にメニィちゃんの手を当てさせて、チコの「命」は止まってしまったこと、「命」というものは直せないということをどうにか伝え、チコの墓を作ってあげます。
チコを埋葬し、メニィちゃんのお母さんと思しき人が彼女を連れて帰る頃には夕暮れとなってました。
私達もイズミさんの家に戻ります。
「生きていれば命はいつか尽きる。肉体は土へと還り、その上に草花を咲かせ、魂は『想い』という糧となり、周りの人々の心に生き続ける。世のあらゆる物は流れ、循環している。人の命もまた然り。…自分ではこんなにわかりきってることなのに、未だに子供に死を納得させるのは難しい」
イズミさんがそう口にしました。
小さい子供に死という概念を理解させなければならないこと自体悲しいことですが、そんな場面に絶対出くわさないとは言えません。
でも、私はイズミさんほど上手く説明できるでしょうか?
「師匠は命を…、死んだ人を生き返らせたいと思ったことはありますか?」
エド君の質問に対して、一言「あるよ」と答えたイズミさん。
今度はイズミさんがエド君に質問をします。
「エド。おまえは軍の狗でいて良かったと思ったことがあったか?」
エド君は辛そうな顔をして
「…いつ、人間兵器として招集されて、人の命を奪うことになるのかわからなくて…。怖いです」
と答えました。
イズミさんはそんなエド君を無視するように、さらに尋ねます。
「それでも…、その特権を利用して成し遂げたいことがあると?」
「成し遂げなければならないことがあります」
エド君は真っ直ぐイズミさんを見て答えました。
そのエド君の顔面に、イズミさんが強烈な蹴りを放ちます。
小さい子供に死を理解させるのは難しい、と言ってた人の行動でしょうか…?
「師匠の教えを破っといて、粋がるんじゃない。このガキ!アル、その鎧の中…空っぽだな。エドも機械鎧だろう?」
「どっ…⁈」
イズミさんの指摘にアル君も動揺します。
「どうしてわかったかって?さっきおまえを投げ飛ばした時!左右で違う足音!気付かないと思ったか…?私をなめるな、バカ者。何があった?全てを話せ」
流石2人の師匠ですね、少しの稽古?でそこまで見抜いたなんて。
「何から話せばいいのか…」
そう言ってエド君は現在に至るまでを話し始めました。
父親であるヴァン・ホーエンハイムさんは2人が物心つく頃には家を出ており、母親のトリシャ・エルリックさんと3人で暮らしていたそうです。
幼い頃からホーエンハイムさんの書斎を遊び場としていたエルリック兄弟は「なんとなく」で書斎内の錬金術に関する本を理解し、その頃から簡単な錬金術をトリシャさんに見せては喜ばせていたそうです。
そんなトリシャさんの笑顔を見るために錬金術を勉強していた2人でしたが、一つの転機が訪れました。
女手一つで幼児2人を育ててきたトリシャさんが流行病で亡くなってしまったのです。
ただ「お母さんの笑顔をもう一度見たい」という一心で、錬金術にますますのめり込むエルリック兄弟。
しかし、独学で続けるには限界があり、2人は壁にぶち当たりました。
そんな時に現れたのが、イズミさんとシグさんのカーティス夫妻だったそうです。
その日は誰も経験したことのない大雨が降っていて、河川の堤防も決壊寸前だったところをイズミさんが錬金術で補強することで、ことなきを得ることができました。
この時に一瞬で大質量の錬金を行ったイズミさんを見て、エルリック兄弟は彼女に師事しようと決めます。
最初は「弟子をとらない」と断っていたイズミさんも2人の熱心さに根負けして、「1ヶ月の弟子入り試験に合格したら正式な弟子とする」という条件で2人をダブリスに連れてきました。
弟子入り試験なんてネギ君やアスナちゃんを思い出します。
その試験内容ですが、錬金術も使わず人の手が入ってない孤島で生活し、「一は全、全は一」という言葉の意味を1ヶ月以内に見出せ、というものだったそうです。
こんなサバイバルをまだ10歳になるかならないかの子供にさせるイズミさんは、下手したらうちの師匠よりスパルタかも…なんて思いましたが、よく考えたらネギ君もコタロー君も1週間とはいえ、風雪吹きすさぶ雪山で修行をさせられてたことを考えたら、どっちもどっちなんでしょうか。
話は逸れましたが、エルリック兄弟は「一は全、全は一」の答えを導き出すことができました。
世界からみた生き物の営みなど小さいものでしかない、即ち全の中の一。
しかし、その小さな営みが集まって構成しているものが世界である、故に一は全。
その自然法則を理解するかが課題だったそうですが、見事クリアして弟子入りすることができました。
それから半年後、修行を終えたエルリック兄弟はリゼンブールに戻ってきて、再び人体錬成について研究を再開。
約1年かけた研究は遂に完成し、2人はお母さんを生き返らせるため人体錬成を行いました。
しかし、錬成は失敗し、術式が術師に跳ね返るというリバウンドという現象が発生、この場合エルリック兄弟にそのリバウンドが襲いかかります。
そこでエド君は一度意識を失い、気付いたら大きな扉だけがある見渡す限り真っ白な空間にいたそうです。
そこには「世界」やら「宇宙」、「神」、「真理」、「全」、「一」、あるいは「エドワード・エルリック」だと名乗るモノがいて、強制的に扉の中に引きずり込まれます。
そこで様々な情報を頭の中に直接叩き込まれたものの、その扉が真理であることを理解しました。
その扉の向こうにエド君の人体錬成理論に足りないものがあったそうなんですが、先に理解させられた情報を見た見返り、扉をくぐった通行料として左脚の太腿から下を持っていかれます。
さらに現実世界に戻ってみれば、お母さんを生き返らせたはずが錬成されたのは人のパーツはあるものの人ではないナニか。
アル君も身体を持って行かれたそうです。
そのため、たまたま近くにあった鎧にエド君の血で印を結び、自身の右腕と引き換えに魂だけを現実世界に呼び戻すことができました。
その後、リゼンブールへやって来たマスタング大佐(当時中佐)に国家錬金術師にならないかと勧誘を受けます。
国家錬金術師であれば、一般では手の届かない研究も可能になり、元の身体に戻る方法も見つかるかもしれないからだそうです。
エド君はその勧誘を受けるために、まずは失った左脚と右腕の代わりになる機械鎧を着けました。
手術とリハビリで通常3年かかるものを1年で克服し、国家試験ではブラッドレイ大総統の前で錬金術の実技を見せたことで、晴れて「鋼の錬金術師」となります。
その後はリゼンブールの自宅を焼くことで後戻りしないという覚悟を決めて、アメストリス各地を旅してきた、ということです。
ここまでの話を聴いたイズミさんの第一声は
「…3丁目の通りに…、棺桶屋があるから自分のサイズに合う物を作って来い‼︎」
というものでした。
それも般若のような顔をしてます。
エルリック兄弟は大いに震え上がりました。
「冗談はさて置き…、あれ程人体錬成はやるなと言ったのに…。師弟揃ってしょーもない…」
さっきの般若面が嘘のように、溜息を吐きながらイズミさんは呟きます。
「師弟揃って」ということは
「師匠もやっぱり…」
エド君の疑問というよりも確認するかの一言に対して、
「
イズミさんはお腹に手を当てながら答えました。
つまりイズミさんもエルリック兄弟も「真理」というものを見たお陰で、一般的な錬金術師と異なり錬成陣無しで錬金術を行使でき、その代償として肉体を犠牲にさせられたんですね。
それならアル君も陣無しの錬金術を使えそうな気がするんですが…。
返す言葉のないエルリック兄弟は
「すみません」
と素直に謝りますが、イズミさんの罵倒は続きます。
「ばかたれ」やら「愚か者」やら、果てには「豆」とまで言いました。
いや、「豆」はエド君だk…ゲフンゲフン、それは関係ない気もするんですが、エルリック兄弟はひたすら罵倒を受け続けるしかありません。
やがて、考え得る罵倒を出し尽くしたのか、イズミさんは言います。
「…辛かったね」
エド君はというとこめかみを掻きながら
「いや…、自業自得ですし。辛いとかそういう気持ちは…。なあ?」
と最後はアル君に確認するように答え、アル君も頷きました。
しかし、イズミさんは
「このばかたれが。無理しなくていい」
と言って2人を抱き締めました。
抱き締められた2人も感情が溢れてしまったのか、「すみません」とか「ごめんなさい」を繰り返しながら、イズミさんを抱き返します。
部外者の私は事情を聞いてしまったとはいえ、この場にいない方がいいかもしれません。
そう思って私は部屋から出ました。
30話まで書くことができました。
でも原作で言えばまだ6、7巻のところなんです。
この後のサラの行動でどうなるのかは
自分にもわかりません。