雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第33話

ーサラ・ヒューイットー

 

「待ちな。俺が残ってるのに鎧クンを逃すわけないだろ」

 

とグリードは言いますが、かれは私の前にいて、私がここまで来た道は私の背後にあります。

つまり、

 

「アル君は私が来た道を戻って逃げてください。ここに来るまでにいた手下は眠らせているので問題ありません」

 

すぐに逃げる事はできるんですよね。

 

「サラさんはどうするんです⁈」

 

しかし、私の身が心配なのかアル君は私に尋ねます。

 

「私はグリードさんとお話をしてから帰ります」

 

「サラさんだけを残して、ボクだけ逃げるなんてできません!」

 

アル君ならそう言うだろうと思ってたんですけど、魔法を使う戦いになったとしてそれを見られるのはまだ早いんですよね。

切り札は温存するに限ります。

 

「グリードさんの目的はアル君なんですから、ここは逃げてもらわないと困ります。それに私もそう簡単にやられませんよ」

 

むしろ物理攻撃だけなら負ける要素がほぼないんですけど。

 

「なので…、早く行ってください!」

 

「逃がさねぇって言っただろ!」

 

私の言葉に背を向けて走るアル君と、アル君を追うためにこちらに向かってくるグリード。

 

「ここは通しませんよ」

 

「邪魔だ、嬢ちゃん!」

 

大きく振りかぶった拳を逸らしながら手首を掴み、相手が突っ込んできた勢いを利用してアル君が逃げた方とは反対方向に投げ飛ばします。

背中を強かに打った筈なんですが、そんなにダメージを受けた様子がないグリード。

ラストは爪を自在に伸ばして攻撃してきましたし、エンヴィーは容姿を変える能力を持ってます。

このグリードにもなんらかの能力があると思うんですが、何なんでしょう?

 

「こんなところでもたついてる暇はねぇ。ちょっとブ男になるんで見せたくねぇんだが、本気でいかせてもらうぞ」

 

革ジャンを脱ぎながら言うグリードの皮膚が黒いものへと変わっていきます。

皮膚が何かに覆われるというより、皮膚自体が変化してるんでしょうか?

やがて生身の部分はなくなり、全身が黒で覆われました。

歯の部分は剥き出しで、確かにイケメンとは言えませんね。

 

「さて、さっさと終わらせてやる!」

 

そう言って再びこちらに迫ってくるグリード。

さっきと違うのは拳ではなく手が開かれてる事、その爪は鋭く伸びているという事ですね。

両手から繰り出される爪を使った攻撃や蹴りを躱しながら、こちらも掌底や肘鉄を叩き込むんですが全然ダメージがない様子。

手応えが硬いんですよね。

これはどうでしょう?

 

魔法の射手(サギタ・マギカ) 氷の101矢(セリエス・グラキアーリス)

 

氷の矢を召喚し、グリードへ向けてあらゆる方向から放ちます。

その間にグリードとの距離を開けますが、彼には矢が刺さることなく弾かれてしまいました。

 

「ほう、嬢ちゃんも錬金術師か?だがそんなもん、俺の『最強の盾』には通用しねぇぞ!」

 

私が開けた距離を再び詰めようと迫るグリード。

なるほど、グリードの能力は「盾」というくらいですから、硬化という事なんでしょう。

んー、この人にはもう少し訊きたい事があるんですが、氷の矢では止まらない。

かと言って他の技を使ったら、周りで気絶してる手下まで巻き込んでしまいますし…。

まぁ、止めるだけなら糸を使いますか。

操糸術で手首と足首を縛って磔状態にすると

 

「何だこれ!クソっ!何をしやがった⁈」

 

とグリードが悪態をつきながら、糸から抜け出そうともがきます。

 

「無駄ですよ、それは私特製の糸です。ちょっとやそっとで切れる事はありません。そんな事より少しお話を聞かせてもらえませんか?」

 

「お話ぃ?嬢ちゃんと話して、俺に何の得があるって言うんだ?」

 

「そうですねぇ、グリードさんがウロボロスの人達と袂を分かってるなら、命に関わる話でしょうね」

 

自分の命に関わると聞いてトーンが変わるグリード。

 

「言ってみな」

 

「まぁ、元ウロボロスの一員だったグリードさんなら知ってるのかもしれませんが、このアメストリス国というのはもう直ぐ滅びるかもしれないんです」

 

そう言って地図を広げて、ヒューズ中佐が印をつけていた部分を繋げると賢者の石の錬成陣が出来上がる事、それが北部の一点を残して他は完成している事などを伝えます。

最初は話半分で聞いてたグリードも、話し終わる頃には怒り心頭なようで

 

「親父殿はそんな事を企んでやがったのか!」

 

と唸るように言いました。

しかし「親父殿」とは、また新しい人物が出てきましたね。

 

「私は、グリードさんは周知の事だと思ったんですけど?」

 

「言っただろう?俺は『強欲』だと。親父殿の元で働いてた時も俺の欲は満たされなくて、あそこを離れたんだ。そんな計画を知れば、俺は余計に満たされる事はなかっただろうよ。向こうもそれを理解してたから、俺には計画の話をしなかったんじゃねぇか?」

 

欲が強過ぎたから出奔したんですか?

我が強いというか自分に忠実というか…。

 

「嬢ちゃんこそ、俺が既に知ってたかもしれない事を言ってどうするつもりだったんだ?」

 

「グリードさんはウロボロスとは離れたと仰ってましたが、私には本当かどうかわかりませんから。あちらの計画だろうと睨んでる事を話して、その反応を確かめたかっただけです。とりあえず、グリードさんとウロボロスの関係がなくなっている事と『親父殿』という存在を知る事ができました」

 

「まんまと俺は乗せられた訳か」

 

「いいじゃないですか。そちらも知らなかった事を知る事ができたんですから。それより他にも知ってる事を教えてください」

 

「教えてやってもいいから、いい加減この磔をどうにかしてくんねぇか?俺も攻撃するつもりはないからよ」

 

そう言ってグリードは硬化を解きます。

情報交換しようというのに、この状態は確かによくないですね。

 

「いいですよ」

 

と言って糸を解除します。

 

「ただし、変な素振りを見せたらこうなってもらいます」

 

その言葉とともに影の袋から氷漬けにしたラストを取り出しました。

私の影から大きな氷が出てきた事、その中にラストがいる事で2度驚くグリード。

 

「おいおい、嬢ちゃんの影はどうなってんだよ?それにこいつはラストじゃねぇか⁈…生きてんのか?」

 

「生きてますよ。何ならお話します?」

 

そう言って、氷柩の頭の部分を溶かします。

 

「…ここはどこかしら?あら、懐かしいわね。グリード」

 

直ぐに意識が戻ったラストが言いました。

 

「やっぱりラストなのか。全く、なんてザマだよ『最強の矛』」

 

そのグリードの言葉で、自分がどういう状況なのか首を回して確 認するラスト。

 

「そこの…サラ・ヒューイットといったかしら?彼女に負けたのよ。まさか私の爪が通用しないなんてね。この氷漬けも貴女がやったの?そろそろ解放してくれないかしら?」

 

「解放してあげたいのは山々なんですが、解放したらまた計画とやらのために暗躍するでしょう?かと言って、計画について貴女はお話しないでしょうし、仮に話してくれたとしてもそれが本当かもわかりません。なのでもう暫くは氷の中で大人しくしててください。では、ごきげんよう」

 

そう告げて、ラストが何か言う前に氷に閉じ込め、また影の袋の中に収納します。

 

「まぁ、変な素振りをしたり、またアル君達を襲おうとしたら氷漬けなんで、宜しくお願いします」

 

「ちょっと待て。条件が増えてないか⁈鎧クンの話はまた別だろ?」

 

どさくさに紛れて釘を刺そうとしたら、バレてしまいました。

 

「確かにアル君の話は『それはそれ』なのかもしれませんが、いいんですか?彼らに手を出そうとすれば私が立ちはだかりますよ?ちなみに私はまだ本気じゃなかったので。その気になれば街の一つや二つ凍らせる事もできます。まぁ、そんな事はするつもりありませんが、それだけのエネルギーをグリードさんに向けるとなるとどうなるでしょうね?」

 

真っ直ぐグリードの目を見て言います。

それに私の手札は氷だけではないんですが、それをわざわざ言う必要もないでしょう。

暫く睨み合うような状態が続きましたが、

 

「わかった、わーかった。俺の降参だ。鎧クンには手をださねぇ。俺の知ってる事も話してやるよ。だが、こっちはそれだけ譲歩するんだ。嬢ちゃんもなんらかの誠意ってもんを見せてくれてもいいんじゃねぇのか?ギブアンドテイクって言うだろ?」

 

噯気(おくび)も出さず言います。

まぁ、確かに話だけ聞いてサヨナラっていうのはいい気分じゃありませんし、あちらの都合も考慮してあげないと嘘の話を掴まされるかもしれませんね。

 

「知り合いを誘拐しておいて図々しい気もしますが、いいでしょう。…そうですねぇ。デビルズネストの皆さんは今後もこの地に留まりますか?」

 

「いつ魂が抜かれるかわからん場所に留まるわけねぇだろ?」

 

まぁ、そうでしょうね。

私達はそうならないよう頑張るつもりですが、阻止できない可能性もあるわけですし。

あぁ、エルリック兄弟とマスタング大佐に早く相談しないといけません。

 

「では、貴方方を直ぐにこの国から脱出させるというのはどうでしょう?パスポートを偽造するような技術は持ってませんが、皆さんを隣国の適当な場所に送るくらいなら簡単にできますよ?」

 

グリードは強欲だからなのかわかりませんが、部下に対しても情が深いみたいで、返ってくる信頼も厚い様子。

それなら部下と一緒に逃がしてしまえば問題ないでしょう。

 

「お隣さんとはまだ戦争中だったはずだが?そんな中を移動するっていうのか?」

 

グリードが訝しみながら尋ねます。

普通なら密入国だかのバイヤーを通じて行われるものでしょうが、そういう伝に頼る事なく人を移動させる術を私は持ってますからね。

 

「戦場の真っ只中を移動するなんて危ない事をせずとも、安全かつ短時間で移動する方法を提供しようという事ですよ」

 

私の言葉でグリードはさらに怪訝な表情を浮かべました。




あけましておめでとうございます。
今年も週一ペースではありますが
更新を続けていきたいと思いますので
どうぞよろしくお願いします。
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