雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第34話

ーサラ・ヒューイットー

 

「戦場の真っ只中を移動するなんて危ない事をせずとも、安全かつ短時間で移動する方法を提供しようという事ですよ」

 

私の言葉にグリードは怪訝な表情を浮かべます。

エルリック兄弟を見逃す事と、ウロボロスの人造人間(ホムンクルス)達の事を話してもらう代わりに、アメストリス国からの脱出を提案した私。

その脱出方法をグリードは尋ねましたが、この世界の移動方法は限られます。

自動車は現代ほど普及しておらず、汽車や馬車やらが現役のこの世界。

ですが、私の影の転移魔法(ゲート)なら話は別です。

長距離でも多人数でも、魔力さえあれば問題ありません。

 

「南のアエルゴ、西のクレタとは戦闘中。北のドラクマとは不可侵条約を結んでいるが、国境警備は厳しいと聞く。東は大砂漠を越えてやっとこさシンがある、という状況でどうやって安全かつ短時間で移動するって言うんだ?」

 

この世界の常識に照らし合わせたら、グリードの心配というか疑心も納得できます。

なので少し驚かせてやりましょう。

 

「グリードさんの懸念も当然です。そこで、今からそれができるという事を証明しましょう。論より証拠とも言いますしね」

 

そう言って私は影の転移魔法を展開し、身体をズブズブと沈めていきます。

その光景に目を見開くグリード。

私はグリードの背後に伸びる影から姿を現し、私を捜してキョロキョロする彼の肩を叩きました。

驚いて振り返るグリードの目の前で再度影の転移魔法を展開、今度は近くに置いてあった木箱の影から姿を見せます。

 

「んなっ⁈何だよ、今のは⁉︎嬢ちゃんの身体が沈んでいったぞ!」

 

「今のは『影の転移魔法(ゲート)』と言いましてね。名前の通り影を使って転移する魔法です」

 

「魔法…」

 

グリードは唖然としながら呟きます。

錬金術もファンタジーな技術ですが、ファンタジックの度合いで言えば魔法の方が上でしょう。

錬金術はまだ質量保存とかの科学に基づく技術ですし。

いや、ホムンクルスも大概ですけどね。

 

「その魔法ってのは俺にも身につけられんのか?」

 

あら、そちらに喰いつきますか?

身につくかつかないかで言えば、つかない可能性の方が高いでしょう。

この世界には既に錬金術が普及しているんですから、魔法の研究をしている人がいない可能性が高いですし。

いたとしても人造人間であるグリードに使えるものかわかりません。

そもそも、私は彼に魔法を教えるつもりがありません。

なので言います。

 

「身につけられるか否かで言えば、無理だと思います。私の他に魔法を使える人を私は知りませんし、私は教える事ができません。なにせ料理でさえ、きちんと教える事ができなかったんですから。勿論、無理矢理聞きだそうとされるなら止めはしませんが、その時も全力で対処させていただきます」

 

思い出すのはイーストシティのゴートンさん。

肉マンの作り方を教えようと頑張ったんですが、なぜかちゃんと思った事を伝えられなかったんですよね。

今でも元気にやってるでしょうか?

 

「とりあえずこれを使えば今すぐにでも越境できます。どうです、すぐに移動しますか?国土錬成陣がいつ発動するかまではわかってないので早いうちがオススメですよ」

 

「さっき使った氷の矢も錬金術でなく魔法って事か?」

 

先程の戦闘で私が射ち込んだ氷の矢を思い出したのか、グリードは尋ねてきます。

 

「そうですね。さっきのは100本程でしたがやろうと思えば4桁いけます。それでもって氷の矢というのは氷系魔法の中でも基本のものですから、当然その上位魔法も存在します。しかし私が言うのも何ですが、よく魔法なんて眉唾物を信じる気になりましたね」

 

「目の前で実演しておいてよく言うぜ。だが俺は『ありえない、なんて事はありえない』と常々思っててな。こうして受け入れられるって訳だ。その力を手に入れられないのは残念だがな」

 

そう言ってガハハと笑うグリード。

強欲なら未知の力はさぞ魅力的でしょう。

まぁ、教えませんし、教えられないんですが。

それでも無理に聞き出そうとしないのは、ラストを見せたこともあるんでしょうけど、手下を国土錬成陣から守るためなんでしょう。

ラストとエンヴィー以外のホムンクルスを知りませんが、なかなかの人格者じゃないですか。

 

「いやぁ、グリードさん。部下思いのいい上司ですね」

 

「あ⁈何言ってんだ?俺は強欲のグリード様だぞ⁉︎金も女も部下も何もかも俺の所有物なんだよ。俺は俺の所有物を見捨てねぇだけだ」

 

私の言葉に少し苛ついたような反応をしますが、本人がそう言うならそうなんでしょう。

 

「あー、わかりました、わかりました。それじゃあ、その所有物である『デビルズネスト』の皆さんを連れてきてください。皆さん寝てるだけなんで問題ありません。さっさと隣国に移動しますよ。ところでどの隣国に移動しますか?」

 

「俺の手下を眠らせたのも魔法か?全く便利なもんだな。その便利さ序でにここに手下を集めてくんねーか?」

 

「自分で『俺の所有物だ!』と仰ったんですから、責任もって集めてください」

 

「へいへい、わーったよ。それと行き先は南のアエルゴな。ここより少し暑くなんだろうが、然程変わらん気候だろう」

 

そう言ってグリードは他の部屋で寝ている手下を連れてくるため出ていきました。

 

暫くして、どうにか手下と連れの女性を私の待つ部屋まで運んだグリード。

 

「本当に手伝ってくんなかったのな」

 

恨めしそうな目でこちらを見てきます。

 

「私はか弱い乙女ですから、人を運ぶなんてとてもとても」

 

「俺をぶん投げた癖に、か弱いとか何の冗談だよ?とりあえずこれで全員だ。さっさと運んでくれ」

 

適当なツッコミを入れつつも転移を催促されたので、早速やるとしましょう。

 

「では、アエルゴに転移しますが暴れないでくださいね。それで私から離れたら2度と現実世界に戻れないと思ってください」

 

私の注意に真剣な表情でグリードは頷きます。

ヒューズ中佐の時は説明なしでしたが、今回は大丈夫でしょう。

デビルズネストの皆さんは私の操糸術で作った網の中でお休み中です。

 

「じゃあ、行きます」

 

そう言って影の転移魔法を展開、グリードも手下も纏めて影の中へ潜っていきます。

次に姿を現したのは何かしらの倉庫の一画。

なかなかの広さで最近使われた形跡がないので、新しいアジトにするには丁度いいのではないでしょうか。

グリードの要望通り小さ過ぎず、かと言って大き過ぎない程度の街に転移しました。

小さいと悪目立ちするし、大きいと官憲が厳しくなるんだとか。

私はアメストリス国内の地理もよくわかってないので、行き先はグリードに決めてもらったんですけどね。

 

「驚いた、本当にアエルゴに移動したのか」

 

グリードはというと、本当にアエルゴに転移したのか確認するため、すぐに街を散策し戻ってきました。

 

「これでそちらの要求には応えたという事でいいですね。今度はこちらの要求に応えてください」

 

「あぁ、わかってるよ。と言っても俺があそこにいたのは100年前の話だ。今は何かしら変わってるところもあるだろうがそこまでは保証できんぞ」

 

そう言ってグリードはホムンクルスの情報を教えてくれました。

曰く、お父様と呼ばれるホムンクルス達のボスがいて、ホムンクルスはお父様から産まれる。

ホムンクルスは賢者の石を核として生み出されるので、お父様にも体内に賢者の石を持っているはず。

はずと付けたのは確認のしようがないからみたいですが、十中八九持ってるでしょうね。

ホムンクルスは七つの大罪と呼ばれる感情を基に造られた。

1番目は「傲慢(プライド)

2番目は「色欲(ラスト)

3番目は「強欲(グリード)

4番目は「嫉妬(エンヴィー)

5番目は「怠惰(スロウス)

6番目は「暴食(グラトニー)

7番目はわからないそうです。

グリードが出奔する時はいなかったそうですが、100年も経てば新しいホムンクルスが産まれててもおかしくないとか。

ホムンクルスの能力ですが、プライドは子供の容姿をした容れ物に影の本体を持っていて、その影が攻撃手段になるそうで。

ラストは封印してますし、グリードはちょっかいを出さないと言ってるので問題なし。

エンヴィーはやはり容姿を変える能力を持っているそうで、本来の姿は全長10m以上の醜悪な化物だとグリードは言いました。

スロウスは巨体で普段は名前通り怠けているものの、本気を出せば常人には視認できない程のスピードで動けるそうです。

その代わり、ハイスピード状態では自分をコントロールできないとか。

グラトニーも普段は腹を空かしてばかりで戦闘能力自体は高くないものの、暴走すると何もかもを飲み込み、お父様が真理の扉を作るのに失敗してできた疑似・真理の扉という空間に送り込む事ができるそうで。

しかも入ったら最後出てくることは叶わないんだとか。

真理の扉の空間もよくわからないのに、それの偽物なんてさらによくなさそうですね。

私もグラトニーの暴走にだけは注意しないといけません。

 

「俺に教えられんのはこんくらいだ。あとは嬢ちゃん達次第だが、魔法を使えんならチャチャっと片付けられんじゃねぇか?」

 

グリードの言う通り、私がホムンクルスやらお父様やらを国土錬成陣発動前に倒してしまうのが手っ取り早いでしょうけど、これはエルリック兄弟の物語ですからね。

私はこの世界のイレギュラーですから、あくまで黒子に徹するつもりです。

既に何度か介入してるので、原作からは離れてるのかもしれませんが…。

それでエルリック兄弟が心身ともに原作よりも弱くとかなったら目も当てられないので、なるべく彼らに頑張ってもらわないと。

それをグリードに言ってもわからないので、

 

「私は旅人ですからね、いつまでもここにはいられません。今回の事件が終わるまではここにいますが、その後私がここを去ったとして同じような事が起こった場合、私がいないせいでとかなったら嫌じゃないですか。そうならないよう私は手助け程度の事しかしません」

 

「俺はアメストリスから逃がしてもらった身だからな、嬢ちゃんがそう言うならそれでいいんだろう。今回は世話になったな」

 

「いえいえ、こちらとしても相手の事を知る事ができたので、とても有意義な取引でしたよ」

 

「アメストリスの動乱が終わればまた戻るつもりだが、嬢ちゃんはもう旅に出てんだろ?それならここでお別れだ」

 

「ええ、そうなりますね。手下の皆さんはもう起きれるはずですので。それでは私はこれで失礼します」

 

「あぁ、達者でな」

 

グリードの返事にお辞儀で応えながら、私は影の転移魔法を展開しズブズブと沈んでいきました。




グリードの死亡フラグがなくなったので
グリリン(グリード+リン)が生まれる確率もなくなりました。
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