雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

35 / 44
第35話

ーサラ・ヒューイットー

 

影の転移魔法(ゲート)を使ってアエルゴからダブリスまで戻りました。

ホムンクルスの情報を得る事ができたのは幸運だったと思います。

あとはエルリック兄弟やマスタング大佐達と話し合うだけですね。

どう話を切り出したらいいでしょうか?

そんな事を考えてるうちにイズミさんの家に帰ってきました。

 

「ただいま帰りまs「サラさん大丈夫ですか⁉︎」」

 

扉を開けた途端アル君が慌てて私に近づいてきて、ペタペタと腕や脚を触ってきます。

 

「サラさんに逃がしてもらった後、師匠と一緒にあのアジトに行ったのに、サラさんだけでなくホムンクルスの人やその手下達までいなくなってたんですから、かなり心配したんですよ!」

 

「ご心配おかけしてすみません。でも、私は大丈夫ですよ」

 

と応えたんですが、アル君は私の周りでオロオロしっ放しです。

 

「本当に大丈夫だったんですか?どこか怪我したりとかs「落ち着け、このバカチン!」…⁉︎」

 

あまりの態度を見かねたのか、イズミさんが釘バットでアル君の頭をぶん殴りました。

 

「で、でも…」

 

「そもそも、知らん奴の口車に乗ってノコノコ拐われてるんじゃない!それにサラのような女の子の助けがないと脱出できなかったなんて、まだまだ鍛え方が足りなかったかね⁈それならアルの特訓メニューを更に…」

 

このままだとイズミさんによる釘バットとお説教が続きそうだったので、ストップをかけます。

 

「まあまあ、イズミさんもその辺で。特に問題なく終わったんですから。私自身は師匠にある程度のピンチも切り抜けられるよう鍛えられてたので、実際こうして無事に戻れた訳ですし。アル君は…、まぁ特訓メニューを少しばかり厳しくするくらいでいいんじゃないですか?」

 

私の言葉で信じられない事を聴いたかのように、こちらを見るアル君。

ですが、鎧の身体の中に他人の侵入を許して動きを鈍らされたところを捕まってたんですから、同じ轍を踏まない為の努力はしてもらわないといけません。

 

「私が助けに来た時、アル君の鎧の中にデビルズネストの人がいたじゃないですか。おそらく、中から動きを封じられて捕まったんでしょう?同じ事が起こらないように鍛えておくことは大事だと思いません?」

 

そういう私に反論できないのか項垂れるアル君と早速とばかりにメニューを考えるイズミさん。

その手に握られる釘バットを見ながら、ふと考えます。

記憶を無くした人に外から刺激を与えることで記憶を取り戻させる、というのはよく聞く話です。

イズミさんも先日、病院でその話を聞いてアル君を釘バットで殴ってましたし。

結果はダメだったんですが、それはきちんと肉体を持つ人間だから効果のある話であって、鎧が身体となっているアル君ではやり方を変えればいいのではないでしょうか?

身体はこの世にないので、魂の方に衝撃を与えればいいと。

その手の話は魔法にもあるんだとは思いますが、残念ながら私はそんな魔法を知りません。

それに錬金術で魂をこの世に繋いでるアル君に、魔法を使ったせいで変な影響を与える可能性も全くないとは言えない現状で、魔法の行使は無理ですね。

でも、錬金術なら、というかこの場合魂を繋ぐための媒体として使ってる血印、血液なら、それも可能ではないかと思いました。

その事を、魔法の話は誤魔化しながら2人に伝えます。

 

「確かに肉体がないから、外因性ショックの効果もないというのは考えられる事ね」

 

「それなら魂の方に衝撃を与えようってよく考えましたね!普通はそんなこと思いつきませんよ」

 

イズミさんとアル君に驚かれたり褒められたりしました。

いやぁ、私が元いた世界にはまさに魂だけの存在とも言える幽霊のさよちゃんがいましたから。

だなんて口が裂けても言えません。

なので曖昧に笑いながら話をそらします。

 

「それで、魂に刺激を加えるなら血印に血をかけてみるのがいいと思うんですよ。むしろ血液以外だと血印自体を壊しかねないですから。問題は誰の血がいいかですね。その血印を描いたエド君の血は親和性が高い代わりに、新しく血をかけたところで効果が出るのかという疑問が残りますし、かと言って適当な人の血が血印に悪影響を及ぼしかねないという不安もあります」

 

その言葉に考え込む2人。

結局エド君が帰ってきてから、試すかどうか決めようという事になりました。

 

 

 

アル君誘拐騒動から2日、エド君が査定を受けに行ってた南方司令部から戻ってきました。

何故かブラッドレイ大総統とアームストロング少佐を伴って…。

どうしてこの2人がいるのかというと、そもそも総統は南部戦線の視察の為、南方司令部を訪れていて、少佐はその護衛を務めていたと。

そこへ査定を受けにノコノコやって来たエド君が少佐に見つかってしまい、査定自体は総統が判を捺してあっさり終了したものの、エド君の師匠であるイズミさんの話になりました。

エド君が優秀ならその師匠も優秀なはず。

ならばイズミさんを国家錬金術師に勧誘しようという感じで、ダブリスまでエド君を尾けていた。

要約するとこういう事らしいです。

総統自身はアロハシャツにパナマ帽っていうんでしょうか?

如何にもバカンスに来ましたというような格好で、少佐はいつも通りの軍服、完全にお偉いさんとそのお付きと言った具合ですね。

まぁ、その表現で間違ってないんですが。

その2人は表の肉屋でシグさんを相手にイズミさんの勧誘話をしています。

まぁ、イズミさん自身国家資格に興味ないというか、むしろ毛嫌いしてる部分がありますから、答えは決まってるんでしょうが、奥さんの身体の調子を心配したシグさんが総統の矢面に立った、という事ですね。

あ、総統の話を聞かないと感じた少佐が軍服を脱いで筋肉をアピールしました。

対するシグさんは、すー…と息を吸い、こちらも負けじと筋肉をアピールしました。

シグさんは服まで破いてます!

これ某天空の城だと奥さんに怒られるシーンがありましたが、カーティス夫妻の場合はどうなるんでしょう?

互いに筋肉を見せつけながら睨み合っていたシグさんと少佐は、暫くしてがしっと握手を交わしました。

何かしらの友情が生まれたんでしょう。

私にはあの暑苦しい雰囲気が全く、これっぽっちもわかりません。

ホント、紅き翼(アラルブラ)世代のどうしようもない人達を思い出します。

いえ、今はそっちを気にしてる場合ではありません。

 

「はぁ⁈アルが誘拐されかけた⁉︎」

 

「正確に言えば、誘拐されたところをサラに助けてもらった、よ。誘拐犯どもはサラが片付けたらしいわ。どうやったのかは知らないけど、確かにアジトには人っ子一人残されてなかった。とりあえず、アルの特訓メニューは倍にしといたわ。それは解決したから置いといて、サラから面白い話を聞いたのよ」

 

そう言いながら、イズミさんが血印へのショック療法の説明をエド君へとします。

 

「確かに、魂の方に揺さぶりをかけるなんて思いつきもしなかったです。サラ、よくそんな事思いついたな?」

 

「まぁ、そういう類の話を皆さんより少し知ってたというだけの話ですよ。エド君の事ですからアル君の事を慮って、そんな実験紛いな事はしたくないでしょうが、アル君自身はやる気みたいですよ。拐われたところでも催眠術を受けてみたそうですが、効果がなかったそうなので、少しでも可能性に賭けたいだそうで」

 

エド君に返事をしつつ私の目をやった先では、頭を掻く仕草をするアル君がいました。

 

「兄さんは反対かもしれないけど、ひょっとしたら元の身体に戻る為の手がかりが掴めるかもしれないから、ボクはやってみたいんだ」

 

「…アルがそこまで決意してるなら俺も協力するしかないな。それでどういう風にしたらいいとサラは考えてんだ?」

 

「そうですねぇ、やはり最初はエド君の血で試した方がいいでしょう。元々アル君をこの世に繋いでるのはエド君の血ですから。それを少し血印に垂らす程度でいいのではないですか?どれだけ垂らせばいいかはわかりませんが、血印を崩してしまえばアル君の魂もなくなってしまう事を考えれば大量にかけるのはよくないでしょうね」

 

「大量にってそんな事すりゃオレだってヤバいだろ」

 

エド君が呆れたようにツッコミを入れます。

 

「それもそうですね。結局血印に気を付けながら試すしかないって事ですよ。そういうのは錬金術の分野じゃないんですか?」

 

「アルの魂を引っ張ってきたのだって必死だったんだから、そんなのわかる訳ねぇだろ。とりあえず試してみるか…」

 

そう言ってエド君とアル君は部屋の奥の方へと行ってしまいました。

そんな2人を見てたイズミさんが

 

「私もあいつらの様子を見に行くけど、サラはどうするんだい?」

 

と私に尋ねました。

 

「私ですか?私は今回お役に立てないので遠慮しておきます。もしエド君の血で記憶が戻らなければ、イズミさんの血も試してみてください。エド君ほど親和性が高くないけど、2人の師匠で関係性の高いイズミさんなら可能性があるかもしれませんので」

 

「私よりもサラの方がいいんじゃないか?最近、2人とずっと行動してたんだろ?」

 

「最近と言っても、ここ数ヶ月だけですから。それよりもイズミさんの方が繋がりは強いですよ」

 

「まぁ、サラがそう言うなら…」

 

そう言ってイズミさんもエルリック兄弟の後を追いました。

私は特にやる事がなかったので店の方に顔を出したんですが、シグさんと少佐がまだ筋肉の会話をしてました。

総統はそれをニコニコと眺めてます。

こうしてみると好々爺という感じですが、ホムンクルスと共にこの国を滅ぼそうとしてるかもしれない人物なんですよね。

以前病院でお会いした時は頼れる国のリーダーかと思ってたんですが、わからないものです。

そんな事を考えてたら、あちらから話しかけられました。

 

「君は…サラ・ヒューイット君だったね?」

 

「はい、覚えていただいて光栄です。キング・ブラッドレイ大総統閣下」

 

「あー、そんな堅苦しい肩書きで呼ばなくてもよい。君は鋼の錬金術師君と共に旅をしていると聞いたが…」

 

「はい、おっしゃる通りです」

 

「君の噂も私の耳に届いているよ。あの国家錬金術師連続殺人犯である傷の男からエルリック兄弟を庇ったのだろう。氷の矢を100本近く錬成陣もなしに作ったとも聞いておる」

 

あの時の事が総統にまで報告されてたんですか…。

はしゃいだつもりはなかったんですが、やり過ぎだったかもしれません。

 

「その事につきましてもおっしゃる通りです。しかし、現場にはそちらのアームストロング少佐や、焔の錬金術師であるマスタング大佐、その指揮下の軍部の方々もいらっしゃいましたので、私のした事など微々たるものです」

 

「謙遜せずともよい。確かに東方司令部のマスタング大佐も現場にいたかもしれんが、君の方が先に傷の男と対峙したのだろう?それに軍部が奴を包囲したが、結局は逃げられてしまった。そのおかげでエドワード・エルリックという優秀な錬金術師を失わずに済んだのは不幸中の幸いと言ったところか」

 

私としても目の前で友人が殺されるなんてたまったものじゃありませんから。

まぁ、あちらが私を友人だと思ってくれてるかは別ですが…。

 

「それからもう一つ幸いだったのは、エドワード・エルリックの他に優秀な錬金術師を見つけられた事だな」

 

あぁ、イズミさんの事ですね。

エルリック兄弟を鍛えてますし、イズミさん自身も真理の扉とやらを見たそうですから、優秀でしょう。

でも、イズミさんは軍の狗と揶揄される国家錬金術師を嫌がってるんですよね。

本来、錬金術師は大衆のためにあるべきと言うのがこの世界の常識なんですが、国家錬金術師は様々な特権を与えられる代わりにその能力を民草の為に使わない。

故に軍の狗と蔑まれるそうで。

イズミさんも「錬金術師は大衆のために」という考えの持ち主なので、国家資格を貰いたいなんて思ってないみたいです。

シグさんはその辺を総統に伝えてないんでしょう。

少佐と筋肉を見せつけあってますし。

その辺は私が説明した方がいいのかもしれませんね。

 

「あのぉ、イズミさんの事でしたら国家錬金術師にならないと思いますよ。総統の前で言うのは失礼かもしれませんが、『軍の狗にはならん!』と言ってらしたので」

 

「あぁ、イズミさんの事か。それはもうよい。私が勧誘してもイズミさんのご主人は肉の値段しか言わなかったのだ。つまり振られたのだろう。私にもそれ位はわかる。私が優秀だと目を付けたのはサラ君、君の事だよ」

 

はい?私ですか⁈

いやいや、それこそ無理でしょう。

私が使ってるのは錬金術じゃなくて魔法ですし。

っていうか総統もその周りも国を滅ぼさんとする連中の可能性が高いんですから、そんなところに所属なんてしたくありません。

 

「一国の主人とも言える方からそこまで評価して頂けるなんて、大変光栄です。しかし、私には国家錬金術師なんて大役を勤めあげる自信がありません」

 

「過度の謙遜は却って嫌味になるぞ。それに今すぐ返事をしろとは言わん。君の将来にも関わる事だからな。だが、もし興味を覚えたならセントラルの軍部に寄ってほしい。君の知り合いでもあるマスタング大佐やその部下も人事異動で今はセントラルにおるからな。君達が顔を出せば彼らも喜ぶだろう」

 

なるほど、マスタング大佐はセントラルにいるんですか。

ホムンクルス達の計画とかをそろそろ話し合わないといけなかったので、丁度いいですね。

 

「わかりました。勧誘のお話はまだ決められませんが、セントラルへは足を運ぼうと思います」

 

「うむ、今はそれだけでも収穫があったとしておこう。そろそろ我々もお暇させてもらおうか。私にはまだまだ視察をせねばならん所があってな。全く、若い頃はもっと活動できたのだが、寄る年波には勝てないという事か」

 

いやいや、五月蝿い護衛を撒いてエド君の病室にやって来た人の言葉ですか?

私には乾いた笑いしか浮かべられません。

 

「では、次はいつになるかわからんが、また会えるのを楽しみにしているぞ」

 

「はい、それではご機嫌よう」

 

総統の言葉に一礼と共に返事をします。

 

「少佐!南方司令部へ戻るぞ‼︎」

 

「はっ、わかりました。閣下!」

 

総統の指示にシグさんと筋肉の会話をしていた少佐は敬礼で応え、シグさんと握手をして店を出て行きました。

前回も思ったんですが、嵐のようにやって来て嵐のように去っていく人ですね。

そんな事を考えていると、

 

「サラ!ビンゴだ‼︎アルの記憶が戻った!」

 

とエド君が私のいた店内までやって来て言いました。




誤字を修正しました。
指摘していただいたxanaさん
ありがとうございましたm(._.)m
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。