ーサラ・ヒューイットー
ウィンリィちゃんに少し顔見せするつもりだったのが、余計な騒動に巻き込まれたせいで時間をとりましたが、やっとラッシュバレーからこの国の首都セントラルへやってきました。
ウィンリィちゃんはヒューズさん一家に会いたいという事で汽車を乗り換えてリゼンブールへ向かい、私とエルリック兄弟、ラッシュバレーの騒動で出会ったリン一行はマスタング大佐と話をするために中央軍司令部へ向かうので駅を出ます。
ところが、ここで問題が発生しました。
「おイ!若はどこダ?貴様らずっと一緒だっただロ?」
リンの付き人のフーお爺さんが尋ねます。
確かに汽車を降りて駅を出る少し前まではリンも一緒にいました。
しかし、空腹で力尽きたのか歩いてる途中で倒れたんですよね。
気付きはしたんですが、今から大佐とする話を他所の人に聞かれるのもどうかと思ったのと、お付きの人もいるから大丈夫だろうという事で放っといたんですよね。
まさか付き人の方でも見失ってるとは…。
それで付き人やっていけるのかとも思いますが、私がどうこう言う話でもないでしょう。
エルリック兄弟もキョロキョロと周囲を見渡しますが、人の出入りが激しい駅前で行き倒れ1人を見つけられる訳もなく…。
エルリック兄弟やフーお爺さん、同じく付き人であるランファンちゃんも初めてリンが行方不明だと気付きます。
付き人2人は膝をついて落ち込みますが、エド君は
「せーせーした!行くぞ!」
と言って歩きだしました。
アル君もエド君に付いて歩みを進めたので、申し訳ないと思いつつ私もその場を後にします。
っていうか、ラッシュバレーでも散々ご飯食べたのに行き倒れるリンもリンですよね。
…ご愁傷様です。
中央軍司令部の営門へ来ました。
エド君は軍に属してるので問題ないのですが、私とアル君は一般人なので、司令部内に入るには受付を済ませないといけません。
しかも中に入ったところで自由に行動できないので、どこか休憩所でマスタング大佐を待つ事に。
さらに話の内容はホムンクルスやら軍上層部の悪巧みである事を考えると他の軍人にはきかせられない…。
あら?私が軍司令部に来る必要ってあったんですかね?
軍御用達ではない適当な宿に泊まって、そこに大佐を呼んで話をした方がいいじゃないですか。
そんな事を考えながら受付用紙に記入をしようとしたら、背後から声をかけられました。
「やあ、鋼の。それにアルフォンスにサラ君も。元気にしてたか?」
振り返るとホークアイ中尉を従えた大佐がいました。
「げっ…。サラが言った通りじゃねーかよ」
「あ、大佐と中尉だ。こんにちは」
エド君は心底嫌そうな表情で、アル君はいつもと変わらない感じで返事を返します。
「お久しぶりです。マスタング大佐、ホークアイ中尉」
私もお辞儀をして挨拶します。
「なんだね、その嫌そうな顔は?それにサラ君の言った事とは…」
大佐が私の言った事が気になったみたいで尋ねました。
「大佐がセントラル勤務になった、というのを先日耳にしただけですよ。それはともかく、大佐にお話したい事があったんですが、ちょっと長くなるので都合のいい時を伺えたらと思いまして」
「話を聞くだけなら今からでも構わんが?」
司令部を少し案内しようと大佐は言いますが、ここではよくないんですよ。
「いえ、後で連絡しますので、お手数ですがそちらに来てください」
私が強く言ったのと営門の守衛がこちらを気にしだしたからか、大佐は折れてくれました。
「わかった、サラ君に従おう。ただ、私も少々忙しい。連絡をもらってすぐ、という訳にはいかない事は了承しておいてくれ」
「もちろんわかってます。この後宿を取るので、それから連絡させていただきますから」
「ああ。では行くぞ、中尉」
「はい」
そう言って、大佐と中尉は営門を通り、
「それと鋼の。先走って無茶な事はするなよ」
最後に一言残して司令部の建物の中へ入っていきました。
「珍しいね、大佐が兄さんを心配するようなセリフを言うって」
アル君の言葉にエド君も頷きます。
「ああ。なんか悪い物でも食ったんじゃねーか?それより、サラ。大佐にも用があったんだろ?だからセントラルまで足を運んだってのに…」
エド君が不満気に言いました。
「入院中に言われたじゃないですか、『敵がどこにいるかわからない』と。だから大佐にこっちへ来てもらった方がいいんですよ。それより宿を探しに行きましょう。もちろん普通の宿ですよ」
私はそう返して営門を離れます。
エルリック兄弟もブラッドレイ大総統の言葉を思い出したのか、それ以上何も言わずついてきました。
中央軍司令部に大佐を訪ねてから数日経ちました。
あの後、すぐ宿をとり、エド君に大佐へ連絡もしてもらったんですが、仕事が忙しいそうでまだ話はできてません。
今日も大佐を待って宿にいたんですが、アル君が慌てたように部屋に入ってきました。
「兄さん!サラさん!これ…。フロントの…、新聞に…」
そう言いながら新聞を差し出してきます。
「ん?なんだよ…おいっ…⁈どういう事だ…こりゃあ…」
受け取ったエド君の手が震えだしたので、私もエド君の背後から新聞を覗き込みました。
そこには「マリア・ロス少尉を先月のマース・ヒューズ中佐及び家族の失踪事件犯人と断定」と大きく見出しが書かれています。
犯人は誰かと言われたら、まぁ私なんですが、エンヴィーに襲われてたので仕方なくの非常手段だったんです。
それをどうしてロス少尉の犯行としたのでしょうか?
「サラ!中佐は休暇じゃなかったのか⁉︎」
エド君が声を荒げて尋ねました。
中途半端な説明は許さないといった表情です。
ラッシュバレーで休暇なんて咄嗟に言ったおかげで、こんな事になるとは…。
ウィンリィちゃんがいたので、きな臭い話はできなかったんですが、今回は正直に話した方がいいかもしれませんね。
「休暇と言ったのは誤りでした。申し訳ありません」
「じゃあ、やっぱり…」
アル君が最悪な展開を想像してしまったのか、小さく呟きました。
「でも安心してください。中佐とご家族も無事ですから」
「なんでそんな事言えんだよ⁈」
エド君は睨んだまま、再び尋ねてきます。
「どうしてかと言えば、セントラルからリゼンブールにヒューズ一家を連れて行ったのはこの私だからです」
「ちょっと待ってください。新聞には中佐が行方不明になったのは先月って書いてあります。この一月ずっと一緒だったサラさんに、そんな事できるわけないじゃないですか⁉︎」
アル君も私がふざけてると思ったのか、最後は声を大きく言いました。
「冗談でも何でもありません。その証拠を今からお見せしましょう」
私はそう告げると影の
人が影の中に沈んでいくというありえない光景に、怒り心頭だったエド君も、表情はわかりませんがアル君もポカンとなりました。
私は2人から見て右手にあるタンスの影から姿を現します。
「2人とも、私はこっちですよ」
声をかけたら、グルッと顔をこちらに向けるエルリック兄弟。
「…何だ、今の?オレにはサラが影に沈んでったように見えたんだが…」
「ボクもだよ、兄さん。サラさん、あなたは一体…」
まだ目の前で起こった現象に頭がついてこれてないのを、どうにか動かして2人が言います。
「エド君が言ったように影の中に沈んで、また影から出てきたんです。では、改めて自己紹介をしましょう。私はサラ・ヒューイット。この世界ではない『魔法使いが存在する世界』から来た者です」
私の言葉にとうとうエルリック兄弟も固まってしまいました。
まぁ常識的に考えれば、…この世界の常識はどうなってるのかわかりませんが、いきなり「魔法使いがいる世界から来ました〜」なんて言われても、頭がおかしい人と思われてしまうでしょう。
しかし、実際に魔法を見せられれば、その常識も吹っ飛びます。
「一応お尋ねしますが、影を使って自分を移動させるような錬金術はありませんよね?」
「そんな事できるわけねぇよ!『魔法使い』とか『他の世界』とかありえないだろ…」
まだ信じられないのか、呻くように言うエド君。
「まぁ、その話は置いといて、この『影の
「…という事は、中佐と家族は…」
アル君の質問に対して、
「はい。さっきも言ったように私がヒューズ一家を、今お見せした術でリゼンブールに送りました」
私が答えると、安心したのか2人ともホッとした表情を浮かべました。
アル君の表情はわかりませんが、胸を撫で下ろしてます。
「そっか…、中佐は無事なんだな…。でも、待てよ。サラが今まで黙ってたのは、あとで問い詰めるとしてだ。どうして中佐は家族と一緒にセントラルを離れなきゃならなかったんだ?それも行方不明扱いだから、誰にもその事を教えてないわけだ。それをロス少尉の犯行にする理由も分かんねぇ」
別に黙ってたわけではなくて、タイミングが悪かっただけなんですが…。
黙ってた事ではなくて、魔法について問い詰められるんでしょうか?
それはともかく、エド君は私も思った疑問を口にします。
「中佐をリゼンブールに送ったのは、ちゃんと理由がありますよ。私から話してもいいんですが、気になるなら2人をリゼンブールに送りもしましょう。中佐本人に会えば納得もしてもらえるでしょうし。ロス少尉に関しては私にもわかりません。ただ言える事は、少尉は犯人ではないという事です」
私の言葉で考え込むエド君。
「兄さん、情報が少ないから大佐に確認しようよ。中佐のところにはサラさんが連れてくって言ってくれたんだから、まずは少尉の事を確かめよう」
アル君の提案で私達は大佐に会いに行く事となりました。