ーサラ・ヒューイットー
ヒューズ中佐が行方不明扱いになってる事をエルリック兄弟に問い詰められ、仕方なく私が魔法使いである事、中佐と家族を魔法でリゼンブールに逃がした事を話しました。
しかし、中佐を行方不明にした犯人がロス少尉となっている理由がわからなかったので、それを確認しようとマスタング大佐の元へ向かっていると、件の少尉にばったり出くわします。
それもなぜか第五研究所でアル君と戦ってた鬼鎧の人に連れられて。
ついでにリンもいました。
留置所から逃亡していた少尉はエド君の問いかけに応じる事なく、暗闇の路地裏へ逃げます。
その後、少尉が逃げた先から爆発音が響き、鬼鎧とリンも逃げ出したので、爆発が何だったのか確認に行きました。
そこには大佐と黒焦げになったヒトのような何かが転がっていて、手首には少尉の認識票が巻かれてました。
その黒焦げが少尉だと思ったエド君、アル君は激昂しますが、私は少尉が別の路地に逃げていく気配を感じたので、これは大佐による何らかの計画が動いてるのだろうと判断し、様子を見る事にします。
黒焦げの司法解剖に立ち会うエルリック兄弟と大佐を軍病院の敷地外で待ち、険悪な雰囲気の3人をどうにか宿まで連れてきました。
道中は本当に誰も喋ることなく重苦しい空気が漂っていて、一刻も早く宿に戻りたかったので、部屋に着いた時は思わずホッとしました…。
「さて、何から話しましょうか?…まずはこの嫌な雰囲気からどうにかしましょう。マスタング大佐、率直にお尋ねしますがロス少尉は生きてますよね?」
私の問いかけに大佐は黙ったままな代わりでしょうか、エド君が声を荒げます。
「何言ってんだ⁈サラも見ただろ、あの黒焦げになっちまった姿を!」
「確かに黒焦げのモノを見ましたが、私は『大佐が少尉を焼死させた場面』を見ていません。エド君は見ましたか?」
「それは…。でも少尉の認識票が手首に巻かれてたじゃねぇか!」
「認識票こそどうにでもなるでしょう。錬金術ででっち上げる事も出来るのではないですか?もっと簡単なのは『本物の少尉』から認識票を貰ってあの黒焦げに巻きつける事ですよ」
「ですが、サラさん。鑑定医の人は歯の治療痕から、あの遺体は少尉だと断定してましたよ」
「そのトリックは私にもわからないですが、私の能力であの場から逃げる少尉の気配を感じてましたから」
そこまで言うとエルリック兄弟は少尉が生きてるのではと思えてきたのか少し笑顔になり、今度は不審気な表情の大佐が口を開きました。
「サラ君、その言いようでは少尉が生きてると確信してる様に感じるのだが?それに君の能力や少尉の気配というのは?」
「ええ。私は少尉が生きてると知ってます。私の能力というのはですね、こういう類のものです」
エルリック兄弟に見せたように、影の
流石の大佐もいつもの澄ました顔を唖然とさせて、沈んでいく私を見送ってました。
今回はエド君の影から姿を現します。
「オイ!人の足元から急に現れんなよ‼︎」
「すみません、手頃な場所にあったもので。とにかく、これが私の能力の一部なんですが…。改めまして、私は魔法使いのサラ・ヒューイットと申します。以後お見知り置きを」
エド君のツッコミに一応答えながら、大佐に挨拶をします。
「…君は今、魔法使いと言ったか?」
「ええ、この魔法というのは自分の魔力やら、気といったものを媒体として発動させるんです。なので魔法使いは必然と他人の気配なんかも察知しやすくなるんですよ」
大佐の確認に対して、魔法の仕組みを簡単に説明します。
気はまた別物ですが、そこまで踏み込んだ話をする必要はないでしょう。
「これが少尉の生存を確信してる理由ですね。死んだ人間の気配が、その場を離れるように動くはずがないでしょう?」
私は話を黙って聞いていた大佐の目をじっと見ます。
大佐も真っ直ぐ私を見ますが、
「…ふぅ、仕方ない。君の言う通り、少尉は生きている。尤も、軍の捜査が疑わしいのでこちらで確保した、と言うのが正しいんだがな…。私も独自に犯人を探していたが、少尉を犯人と断定する材料が少なすぎて疑問に感じていたのだ」
諦めたように少尉の生存を認めました。
しかし、少尉の事を疑っているようで「確保した」と仰ってます。
「ちょっと待て!それじゃあ、オレは殴られ損じゃねぇか‼︎なんでその事をあの時、言ってくれなかったんだよ⁈」
エド君の導火線に再び火が着きますが、
「上官に手を上げたのだ。殴られただけで済んだのを感謝してほしいくらいだぞ?それに説明する時間もない上に、君は直情的だからな。少尉の死を偽る、という腹芸ができるとはとても思えんし、期待もしておらん。サラ君は違うみたいだがな」
大佐はいつも通りからかうようにエド君を諭し、最後に私へ嫌味?を言います。
「私は少尉の気配を感じたので黙ってただけですよ。あの時私が口を出しても、余計な混乱にしかならないと思いましたから。では少尉の件はこれでいいですね?」
「んで、肝心の少尉はどこにいんだよ?」
そろそろ中佐の話に移ろうかと思ったんですが、エド君から待ったがかかりました。
私は少尉が逃げた事しか確認してないので、大佐に目を向けます。
「ん?サラ君も居場所まではわかってないのか?今は準備が整えば迎えを送る、とだけ言っておこう。それで、サラ君の話の続きは何かね?」
大佐は私に続きを促しました。
心なしか顔がニヤけてるような気がします。
少尉が生きてる事をバラした私を出し抜いたからでしょうか?
なら、こちらももう一枚カードを切りましょう。
「そうですね。少尉が逃亡するきっかけになったヒューズ中佐の話です」
私の言葉に大佐の目つきが鋭くなります。
「君はあの件の何を知っている?」
「まず、中佐もご家族も生きていらっしゃいます。どうして分かるかといえば、まだ気を感じる事ができるからとだけ言っておきます」
「…そうか。ヒューズは生きているのか…」
しみじみといった感じで呟く大佐。
大佐と中佐は特に仲が良かったのかもしれませんね。
「ええ、そもそもヒューズ一家失踪事件の犯人は私ですよ。まぁ、中佐の身に危険が迫ってたので、緊急措置として私がリゼンブールまで逃したという状況なんですが。これから詳しい話を中佐にしてもらうために、エルリック兄弟はリゼンブールに行きますが、大佐はどうされます?」
「いろいろ聞き逃せない言葉を言っていたが、それも説明してもらえるならいいだろう。私も連れて行ってもらおうか」
大佐もリゼンブール行きを希望したので、
「わかりました。方法は先程お見せした影の転移魔法を使います。影に沈むという未知の感覚を味わう事になりますが、暴れたりしないでください。私から離れてしまった場合、現実世界に戻れなくなりますので」
私が説明するとエド君も大佐も顔を引きつらせます。
アル君の表情はわかりませんが、身体の動きが固まってしまいました。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私から離れなければいいんですから。では私の前に集まってください。心の準備はいいですね?では転移魔法を展開します」
ぎこちない動きをしながらも3人が集まったので、いつものように影の転移魔法を発動させます。
私も含め4人が影の中へズブズブと身体を沈めていき、次に目にしたのは牧草地帯の中の一軒家でした。
「本当にリゼンブールに来たのかよ…」
「兄さん、あれ間違いなくウィンリィの家だよ」
「全く、君には驚かされてばかりだな」
エド君、アル君、大佐がそれぞれ感想を言います。
「まあ、セントラルからリゼンブールくらいの距離は余裕で移動できますが、そうそう連発するつもりはないので、エド君はこれからの移動をこれで済まそうとか思わないでくださいね。それと大佐はもっと驚くことを聞かされると思っててください」
「何でだよ⁈あの魔法を使えば遠い距離も一瞬だし、その分お金もかかんねーじゃんか」
「充分驚いたのだが、まだ驚かされる話があるのかね?」
「あれだけの距離を移動するのに、全く元手がないわけないじゃないですか。あれは私の魔力を使って移動してるんですよ。ひょっとして移動の度に、私に負担をかけるつもりですか?それと驚きの話は中佐から話してもらいますので、早速伺いましょう」
私はそう言ってウィンリィちゃんの家へと歩を進めました。
エド君は「私に負担をかけるのか」という言葉に何も言わないものの少し恨めしそうに、アル君はそんなエド君を宥めながら、大佐は特に不満を言うでもなくついてきます。
そして、家の扉の前へと立ち、前回同様ドンドンとノックしました。
扉を開けてくれたのはピナコさん…ではなくウィンリィちゃん。
「はーい…って、サラじゃない⁈エドにアルまで!こんな時間にどうしたのよ?」
「こんばんはウィンリィさん。夜分すみません。ちょっとヒューズ中佐に用がありましてね」
「そうだ、サラ!確かにヒューズさんリゼンブールに来てたけど、まさかウチに来てるって思わなかったわよ⁈知ってたなら教えてくれてもよかったんじゃない?荷物を置きに家に戻らなかったら、町中探してたわよ」
「それはすみません。別にからかうつもりはなかったんですが、説明不足でした」
ウィンリィちゃんが非難がましい目で見るので素直に謝ります。
するとウィンリィちゃんの背後から、
「ウィンリィ、何騒いでんだい?おや、またサラちゃんかい。今度はエドとアルも連れてきて。それにそっちにいる軍人さんも見た顔だね」
とこの家主であるピナコさんが出てきました。