マイペースに書いていきます
鳥のさえずりが聞こえる。カーテンの隙間から差し込む朝日に、穂乃果は寝返りをうつ。
「うー……あと五分だけ……」
「──こら穂乃果、起きなさい! あんた、今日が何の日か分かってるの?」
「あ、お母さんおはよー。何って今日は日曜日……」
起こしに来た母に、半分閉じた目で応える穂乃果。
「何言ってるの。おはようじゃないわよまったくもう……。──とにかく、早く下に降りてらっしゃい」
「はーい」
ようやく体を起こした穂乃果にため息をつきつつ、母は去り際に、
「今日はポケモンをもらう日なんだから……」
ん? ポケモン?
よく分からない単語を聞いた気がした穂乃果だったが、母はすでにいなかった。
朝食を食べ、着替えを終えた穂乃果は、ずっとあの言葉の意味を考えていた。
「ポケモンって、あのポケモン……? ゲームの? お母さん、どうしちゃったんだろ……」
訊いてみたい気もしたが、家族に特に変わった様子はない。
「今日はμ'sの練習も休みだし……。──そうだ! ことりちゃんと海未ちゃんに電話してみよっと」
穂乃果はケータイをコールするが、
「あれー……? 出ないや……」
どちらも繋がらなかった。
仕方がないので散歩に出かけようとすると、
「穂乃果、はいこれ、カバン」
「ちょっと出かけてくるだけだから、そんなのいらな──」
「旅に出る人が、何言ってるのよ」
「……え? 旅?」
「──何これ!」
自宅を一歩出た穂乃果は、景色の変わりように絶句した。
どこまでも伸びるアスファルト──は無く、砂を固めたような薄茶色の道。乱立するビル群──の代わりに、青々と茂る森林。
振り返ると、そこにあるのは間違いなく我が家、“和菓子屋穂むら”だ。
「いつまで寝呆けてるのよ。──博士のいるポケモン研究所は、右に真っすぐ行った先だから。あまり博士を待たせるんじゃないわよ」
それだけを言うと、母は家の中に戻ってしまった。
「…………」
呆然とする穂乃果は、ある可能性に思い至った。
「そっか。──これは夢なんだ! そうだよ! 夢に決まってる!」
夢と決め込んだ穂乃果は、足取り軽く研究所に到着した。
「えーと何々……? 『フォルリーフタウンポケモン研究所』。──ここはフォルリーフタウンっていうのか!」
割り切った穂乃果に、もう戸惑いは無い。
「お邪魔しまーす」
扉を開けて中に入ると、出迎えたのは、
「あら、あなたが穂乃果ちゃん? いらっしゃい」
「ことりちゃんのお母さん!?」
「あら、ことりを知っているの?」
「え?」
一瞬、穂乃果の表情が凍り付いた。知らないはずがないだろう。
だがそれを追求する前に、
「改めて、初めまして。──カイトゥーン地方のポケモン博士で、トレーナーズスクールの理事長を兼任しています」
「ど、どうも、穂乃果です……」
何が何だか分からない穂乃果だったが、
「この夢だと、穂乃果はことりちゃんを知らないのかな……?」
で割り切った。
「今日穂乃果ちゃんに来てもらったのは、私──というよりこの研究所が所持しているポケモンを、あなたにプレゼントするためです」
「ホントにポケモンがもらえるんですか!?」
色めきたつ穂乃果に、
「はい、そのために呼んだのだけど……」
若干気圧されながら、理事長は頷く。
「その代わり、私のお願いを聞いてもらえるかしら」
「何ですか?」
「私はポケモンの研究をしています。しかし、とても手が回りません。──そこで、穂乃果ちゃんにはこのポケモン図鑑を埋めながら旅をして、研究のお手伝いをして欲しいの」
手渡されたポケモン図鑑を見つめながら、
「おお……本物のポケモン図鑑だ……。オモチャじゃないんだよね? ──分かりました! 私、やる! やるったらやる!」
そう意気込んで踵を返し、
「あっ、まだポケモンを渡してないわよ」
「あ、そうだった。あはは……」
気まずそうにさらに半回転。
「あなたには、この三匹の中から一匹をパートナーとして選んでもらいます。──草タイプのフシギダネ。──水タイプのゼニガメ。──炎タイプのヒトカゲ」
「えっと……じゃあこれ!」
ほとんど迷わずに手に取ったモンスターボールの中には──
「──ヒトカゲ、でいいのね?」
「はい! 穂乃果、ポケモン選ぶなら絶対これって決めてたんです」
「そう。そこまで思いがあるなら、ヒトカゲも安心ね。──では穂乃果ちゃん、あなたの冒険が始まります。きっと大変な事もあるでしょうけど、ヒトカゲや他のポケモン達と乗り越えて下さい」
「はい!」
「それと、これをあげましょう」
穂乃果は、五つのモンスターボールとバッジケースを貰った。
「そのモンスターボールで、野生のポケモンを捕まえるといいでしょう。ポケモンが傷ついたら、ポケモンセンターに行く事も忘れずに」
「分かりました! ──あ、ことりちゃんって、今どこにいるんですか?」
「ことりはサウシティにいるはずたけど……ここからはかなり距離があるわ。まずは、お隣のスタスカシティでジムに挑戦、ポケモンを鍛えるといいんじゃないかしら」
「そうですか……。ちょっと残念だな。──でも分かりました! この世界にもことりちゃんはいる!」
「この世界……?」
「あ、何でもないです! あはは……」
誤魔化すように研究所をあとにした穂乃果は、
「夢……じゃないのかな」
やや混乱を残しながらも1番道路へ足を向けた。
「──ヒトカゲ、ひのこ!」
「カゲェーッ!」
「キャキュッ!」
相手のポケモンは、技をまともに食らって地面に倒れる。
「今だ! モンスターボール!」
穂乃果が投げたボールがポケモンに当たると、ポケモンはボールの中へ吸い込まれ僅かな抵抗として数回揺れた後、カチッと小さな音がして制止した。
「やった! ──ムックル、ゲットだぜー!」
ボールを高々と掲げ、高らかに宣言する。
「くうぅ~っ! 一度やってみたかったんだーこれ!」
さっそく、ゲットしたムックルを出してみる。
「よろしくね!」
「キュキュキュイ!」
その後穂乃果は新たにヨーテリーを加え、しばらく進むと目的のスタスカシティが見えてきた。
「ここがスタスカシティ! 広ーい!」
穂乃果が入り口で歓声を上げていると、
「──お、穂乃果じゃん」
「ん?」
声のした方を向くと、
「スタスカに来たんだ~」
「ヒデコ! フミコ! ミカ!」
ショートボブ、ポニーテール、ショートツインテールの少女三人が立っていた。
「よかった~。三人は穂乃果の事覚えててくれてたんだ!」
「はい?」
「それよりも穂乃果、スタスカは初めてなんでしょ?」
「案内してあげる!」
「ホントに? ありがとー!」
当たり前のように聞き慣れない単語を口にしているが、穂乃果はもう気にしない。夢云々も気にしない。
「とりあえずポケモンセンターね。この十字路を右だよ」
「ふむふむ」
「フレンドリィショップは、反対の左側。“キズぐすり”とか不足しているなら、早めに揃えた方がいいわよ」
「そんでもってポケモンジムが、この先真っすぐ」
「へー。──ここのジムリーダーって、どんな人?」
「格闘タイプの使い手で、穂乃果に負けじ劣らず、元気な子だよ~」
「それは楽しみかも! ありがとね!」
手を振ってポケモンセンターへ駆け出す穂乃果に、ヒデコが声をかける。
「どうせすぐジム戦行くんでしょ。応援してあげるわ」
「うん! ありがとう!」
姿が見えなくなった穂乃果に、
「まったく……元気だけはいいんだから……」
「でもトレーナー向きだよね」
「それが穂乃果ちゃんだもんね」
ヒフミは苦笑する。
『スタスカジム』。シンプルに、しかし派手にそう記された看板の前に、穂乃果は立っていた。
「ここがポケモンジムかぁ……」
「オトノキ地方には八つのジムがあって、各ジムのジムリーダーに勝つとバッジが貰える。全てのジムバッジを集めた者だけが、ポケモントレーナーの最高峰、ポケモンリーグへ挑戦できる──と。分かった? 穂乃果」
「うん大丈夫。そのくらいは私も分かってるから」
「じゃあ最後に確認ね。──スタスカジムは格闘タイプの使い手で、」
「飛行、エスパータイプが有効で、」
「逆にノーマル、岩、鋼タイプだと厳しい」
「あとゴーストタイプならダメージを受けない、だよね! でも穂乃果、ゴーストタイプいないから関係ないけどね。あはは……」
軽く笑う穂乃果に、
「緊張感無いわね……穂乃果」
ヒデコは呆れる。
「よしっ、じゃあちょっと行ってくる!」
「頑張りなよ!」
「絶対勝ってね!」
「応援してるから!」
声援を背に、穂乃果は力強くジムの扉を押し開けた。