穂乃果が真姫とにこを連れてジムを出ると、
「ん……? __お前は!」
相変わらずヘンテコな格好をした男が通りかかった。
「オリジン団!」
穂乃果にとっては、もう見慣れた格好だ。
「スタスカでの雪辱を晴らす時だ! 勝負しやがれ!」
記憶に残っていないが、そう言ってボールを持つ下っ端に、穂乃果もボールを掴む。
「__あ」
そして気付いた。ジム戦直後で、闘えるのはロゼリアだけ。真姫も同様に気付いたのか、苦い表情を見せる。
「お? 何だ何だ。怖気づいたのか?」
「ち、違うもん!」
と言いつつ、バトルすべきか悩む穂乃果。すると、
「まったくしょうがないわねぇ。にこがいなかったらどうするつもりだったのよ」
「にこちゃん?」
にこが二人の前に出た。
「私が相手になるわ。掛かって来なさい!」
__五分後。
「ふん、口ほどにもないわね」
「サナ!」
「く、くそ……っ」
下っ端のポケモンは瞬殺され、悔しそうににこを睨んだ。
「ジムリーダーである、このにこにーに勝てるわけないでしょ〜?」
ドヤ顔で見下したにこに、
「ま、穂乃果には負けたんだけどね」
「うっさいわよそこの真姫!」
「ふん、まあいいさ。我々の野望は少しずつ近づいてきている。お前らがどう足掻こうと、未来は決まっているのだ!」
にこまきのやり取りの最中に、下っ端はそんな言葉を残して逃げて行った。
「……何よあれ」
「さあ……」
穂乃果とにこは首を傾げ、
「意味分かんない」
真姫はそう呟いた。
町の外れ、真姫とにこに見送られて、穂乃果は出発した。
「次のジムがあるのはイースブータウンよ。でも、その前に小さな町があるわ」
「チェリーバタウンっていって、ウテックス山の目の前にある伝承を伝える町なの。穂乃果、あまり詳しくないみたいだし、カイトゥーン地方について何か分かるかもしれないわよ」
「うん、ありがとう! にこちゃんも、さっきは助けてくれてありがとう!」
にこは腕組みをするとあさっての方向を向き、
「さっさと行って、次のジム戦も勝ってきなさいよ。負けたら承知しないわよ!」
「うん!」
ウェスリードシティとチェリーバタウンを繋ぐ道は、軽い山道だった。
鍛えるトレーナーも多いのか、しょっちゅうバトルを挑まれる。
だが、
「ムクバード、つばめがえし!」
「ああ……ゴーリキー!」
その度に連勝記録を伸ばしていく。
「ふぅ……海未ちゃんのメニューよりは楽だけど、やっぱり大変だなぁ……」
うっすらと額に浮かんだ汗を拭いながら、穂乃果は空を見上げる。
そのせいか、足元への注意が欠けて何かに躓いた。
「てっ⁉︎ __うわわわわわわっ⁉︎」
バランスを崩した穂乃果の体は前に傾き、
「__はっ!」
寸前で手をつき、地面への激突を免れた。
「いった〜い!」
痺れた手を振ると、何に躓いたのか振り返る。
「……あれ?」
一瞬、何もいないのかと思った。だが、よく見ると地面が凸凹と盛り上がり盛り下がっている。
「何だろうこれ……」
穂乃果が屈んで覗き込むと、
「__ダグ!」
その顔面目掛けて何かが飛び出してきた。
「うひゃっ⁉︎」
慌てて避けた反動で、そのまま尻餅をついてしまう。
「痛たたたた……」
お尻を押さえつつ前を見ると、仏頂面でこちらを睨む顔。顔。顔。三つ。
「あれ……ポケモン?」
ポケモン図鑑を取り出し、目の前に掲げる。
『ダグトリオ。もぐらポケモン。ディグダの進化系』
図鑑から、若干無機質な説明が流れる。
「ダグトリオ……。ゲットしよう! __ロゼリア!」
「リアー!」
ウェスリードジムでは出番の無かったロゼリア、元気に登場。
「まずは弱らせて……メガドレイ__って……あれ?」
指示を飛ばした穂乃果は、ダグトリオの姿が無い事に気付く。
「どこに……」
キョロキョロと辺りを見渡していると、ロゼリアが一点を見つめている姿が目に留まった。
それは、地面に空いた、一つの穴。
「下⁉︎」
穂乃果が反応した頃には、
「ダグ!」
「ロゼリア!」
ロゼリアは空高く吹き飛ばされていた。
「ま、まだまだ! __メガドレイン!」
「リア!」
「ダグ……ッ!」
今度は命中し、ダグトリオの勢いは一気に衰えた。
「このまま行くよー! ロゼリア、ねむりごな!」
「リアー!」
ロゼリアが噴霧した緑色の粉は、ダグトリオを覆う。
「ダグ……」
視界が晴れた時、ダグトリオは深い眠りに落ちていた。
「よしっ、今だ! モンスターボール!」
穂乃果が放ったボールは寸分違わずダグトリオに命中すると、そのまま吸い込む。ほとんど抵抗も無いまま、カチッと小気味いい音が響いた。
「よーし、ダグトリオ、ゲットだぜー!」
新たな仲間が入ったボールを掲げ、穂乃果は満足げに微笑んだ。
「よろしくね、ダグトリオ! __でてきて!」
「ZZZ……」
「って寝てるし!」
持っていた道具でダグトリオを回復し、その後のトレーナーバトルでも止まらない快進撃を続けた穂乃果は、チェリーバタウンに到着した。
木造の小さな民家が立ち並ぶ町並みを眺めながら、
「何か落ち着くなぁ……」
探索を開始する。
「__ん? ウテックス遺跡?」
と、矢印と共に書かれたそんな看板を見つけた。
「あの、すみません」
ちょうど近くを通りかかった女性に声をかけ、
「質問なんですけど、このウテックス遺跡って何なんですか?」
「あら? あなたも遺跡に興味があるの?」
「“も”?」
「実は私も、ここの遺跡が気になって別の地方から旅行に来ちゃったの」
「あ、そうだったんですか……。__町の人じゃなかった……」
そう穂乃果が呟くと、女性は穂乃果の顔をじっと覗き込む。
「あ、あの……何か……」
「あらごめんなさい。何となく、可能性を感じる目だなって思って」
「は、はあ……」
何が何だか分からない穂乃果だが、女性は構わずマイペースに続ける。
「ね、あなた、名前は?」
「あっ、穂乃果です」
「そう、穂乃果ちゃん。__もしよかったら、一緒に遺跡に行かない? 少しなら、案内もできるから」
「お願いします!」
「ふふっ、いい返事ね」
そう小さく笑うと、黒のドレスコートを着た金髪のその女性は、
「__私はシロナ。よろしくね、穂乃果ちゃん」
そう名乗った。