「どうぞ」
「ありがとうございます……」
ツバサと再会した穂乃果は、一軒の民家に案内された。
ツバサは紅茶の入ったカップを二つ置くと、穂乃果の対面に座る。
「遠慮しないで。私の家だから、ここ」
「あ、はい……」
未だ緊張が抜けきらない様子の穂乃果は、ゆっくりとカップに口をつける。
同じように紅茶を一口飲んだツバサは、
「あなたも、カイトゥーン地方の伝説に興味があったのね」
「いえ……あったというか、通り道で寄っただけで……」
「あら、その割には楽しそうだったわよ? シロナさんとも意気投合していたみたいだし」
「シロナさんを知ってるんですか?」
驚いた表情を見せる穂乃果に、
「……あなたこそ、シロナさんを知らなかったの?」
「う……はい。そんな有名な人なんですか?」
「有名も何も、シンオウ地方のチャンピオンよ」
「え……ええぇ⁉︎ チャンピオン⁉︎ チャンピオンって、つまり一番強い人って事ですよね⁉︎」
身を乗り出してきた穂乃果に、
「え、ええ……本当に知らなかったのね」
その辺はゲームもやらなかったし……、と呟く穂乃果。
「…………」
聞こえたかは分からないがツバサはそれをスルーし、
「__ねえ、穂乃果さんにとって、ポケモンって何かしら」
「え? ポケモンが? __うーん……よく、分かりません」
「?」
「ごめんなさい! そもそも私、こういう事考えるのが苦手で……。でも何となく、ここは私がいるはずの場所とは違う気がするんです。ポケモンは可愛いし、強いし、頼りになるし……でも、」
「__何かが違う気がする」
「……はい」
「私も同じよ」
「え?」
下を向いていた穂乃果は、顔を上げる。
「でも、私にも答えは分からない。そもそも、自分が正しいのかも」
「ツバサさん……」
「付き合ってくれて、ありがとう」
そう言って、ツバサは手を差し出す。
「いえ、私も楽しかったです」
穂乃果も握り返す。
「__あ、そうそう。あなたにはこれをあげるわ」
そう言ってツバサは、何かを穂乃果に差し出した。
「これは……? 石……?」
「ちょっとした御守りよ。きっと、あなたを助ける時がくるはず。大切にしてね」
「分かりました!」
穂乃果は大きく頷くと、不可思議な石をしっかりとバッグにしまった。
「この先にあるのは、イースブータウン。すぐ近くで、ジムもあるわよ」
「へぇ……。どんな所なんですか?」
するとツバサは、イタズラっぽく微笑む。
「それは、自分の目で判断するの。それも、旅の醍醐味の一つでしょう?」
「う……そうですね。そうします!」
穂乃果は明るく笑うと、手を振ってチェリーバタウンをあとにする。
「おお……ホントにすぐだった……」
チェリーバタウンを出発して僅か一時間。穂乃果はイースブータウンへ到着した。
入り口では、柳と紅葉の木が出迎えてくれる。
タウン、という割には人が多いが、何となく落ち着いた空気を穂乃果は感じた。
「__と、まずはポケモンセンター」
チェリーバにはポケモンセンターは存在しないため、穂乃果のポケモンはロトムを除いて消耗したままである。
ジョーイさんにポケモンを預け、休憩していた穂乃果。他の人の会話にぼんやり耳を傾けていると、
「……神社?」
という単語が何度も出てきた。
「__お待ちどうさま。ポケモンは皆元気になりましたよ」
ちょうどやってきたジョーイさんに、穂乃果は訊いてみる。
「あの、神社って、何なんですか?」
「まあ、あなた、イースブー神社を知らずに来たの?」
「イースブー神社?」
かなり可哀想な顔をされたが、親切なジョーイさんは教えてくれる。
「イースブータウンには、大昔のポケモンを祀った神社があるの。この町ができる前からある、とても古い神社よ」
「分かりました行ってみます! ありがとうございました!」
お礼もそこそこに、穂乃果はポケモンセンターから駆け出す。
凄まじい行動力に、ジョーイさんは説明した姿勢のまま固まった。元気な後ろ姿は、すぐに見えなくなる。
神社の場所が分からなかった穂乃果だが、その心配は杞憂に終わった。
目立つ場所に、大きな赤い鳥居が口を広げていた。参拝客も多いのか、辺りは人で賑わっている。
「……何か、神田明神を思い出すなぁ。練習したくなっちゃう!」
知らず知らずの内にステップを踏んでいた穂乃果は、
「あー、もしもし、こんな人がいるのに踊ったりしたらアカンよ?」
の声で我に返った。
「! この声……!」
そして振り返った穂乃果は、
「希ちゃん!」
巫女姿の希を視界に捉える。
「んー? 前にどこかで会ったかなぁ?」
「私だよ! 穂乃果だよ!」
「穂乃果ちゃん……。聞いた事あるような気ぃするなぁ……」
「希ちゃんもダメか……」
穂乃果は一瞬肩を落とすと、
「でも希ちゃん、神社でお手伝いは変わらないんんだね!」
「何が変わらないんかはよー分からんけど、時間がある時はここに来るようにしてるかな」
「ふーん……さすがだなぁ」
「穂乃果ちゃん、旅してるポケモントレーナーやろ? せっかく来たんやし、お参りしてき。安全祈願に必勝祈願__あー、必勝祈願は、ウチの立場的に勧めるのはマズいかなぁ……」
「? どうして?」
すると希は、不敵な笑みを浮かべる。
「だってウチ、イースブージムのジムリーダーやからね。そんなウチがトレーナーに必勝を勧めたら、本末転倒やん」
「そういうものかな……」
難しい事が理解できない穂乃果は、首を捻るだけ。それから、
「希ちゃんがジムリーダーなの……?」
「そうや?」
「…………」
今までに無い緊張が穂乃果に走る。
「穂乃果ちゃん可愛いし、負けたら罰ゲームとか面白いかもなぁ?」
そう言って両手を“あの形”にする希。
「ひぃっ!」
すでに被害者の穂乃果には、トラウマモノである。
「冗談や。仮にもジムリーダーやからね。そんな事はせぇへんよ」
「よかった……」
かなり本気で胸を撫で下ろした穂乃果。
「ウチはしばらく手伝いがあるから、神社でゆっくりしていくとええよ。あとでジムに来てね」
「うん! 分かった!」
希と別れた穂乃果は、言われた通りまずは神社を探索する。
正面は玉石を敷き詰めた大通りで、奥には立派な本殿が見える。右側には歴史資料館があるらしいが、
「歴史……勉強……」
穂乃果はスルーを決めた。
「やっぱりまっすぐ!」
結局本殿へ直行に決めた穂乃果は、巨大な長い石段を登る。階段は登り慣れているせいか、非常に軽やかに駆け上がる。
ものの三十秒で登り切ると、目の前にイースブー神社の本殿が待ち構える。
「大っきいなぁ……」
ひとしきり見上げてから、穂乃果は中に入る。
「__あっ!」
そこにいたのは、
「壁画のポケモン……⁉︎」
少し前にチェリーバタウンのウテックス遺跡で見た、あのポケモンだった。
「……銅像?」
もちろん本物ではないが、より鮮明な形でそこに鎮座していた。
「伝説の……ポケモン……」
「そうや。カイトゥーン地方に伝わる、伝承に登場するポケモンなんや」
その声に振り返ると、
「希ちゃん!」
巫女服から着替えた希が立っていた。
「希ちゃん、何か知ってるの⁉︎」
「うーん……ウチも、というか伝承自体、あまり詳しく残ってないんよ……。分かるのは、むかーしむかし、このポケモンがこの地方を栄えさせて、そして大変な事が起きた、くらいのモンなんや」
「そっか……」
肩を落とした穂乃果に、
「まあ旅してるんやったら、どこかで出会うチャンスがあるかもしれへんやろ? 落ち込んでいてもしょーがないで?」
希はポンポンと背中を叩く。
「それより、穂乃果ちゃんジムへのチャレンジャーやろ? 手伝い終わったし、相手するで?」
「__うん!」