「ムクホーク、ファイトだよっ!」
「ホーク!」
「ゴースト技が効かないもんな……。当然やな」
早速希が指示を飛ばす。
「ゲンガー、おにび!」
青白い炎は、またも火傷を負わせる。
「うぐぐ……。あれやっかいだよ……」
「んー……でもたたりめは効かないし、あまり有利でもないなぁ。__ひとまず、ヘドロばくだん!」
「ガー!」
「躱してつばめがえし!」
ゲンガーの塊を紙一重で回避すると、ムクホークは素早く叩きつける。
「ガー?」
だがやはり、致命傷には至らない。
「やっぱり、このままじゃ勝てない……」
悔しそうに悩む穂乃果に、希は笑みをぶつける。
「時間が経てば、火傷のダメージもかさむで?」
見ると、ムクホークの羽ばたきが若干鈍っている気がする。
「火傷……火傷さえ無ければ……」
穂乃果が無いものねだりを始めたかと思われたその時、
「……火傷? __そうだ! そうだよ!」
何やら顔を輝かせる穂乃果。
「ムクホーク、戻って!」
「……何や?」
希が首を傾げる前で、
「ロゼリア!」
「リア!」
穂乃果はロゼリアを繰り出す。
「ロゼリア、フラッシュ!」
ロゼリアが放つまばゆい光を受けたゲンガーは、思わず顔を背ける。
「今の内に……! __ロゼリア、アロマセラピー!」
「! なるほど……」
穂乃果の意図を察した希は、感心したように呟く。
「ゲンガー、落ち着くんや! そんでヘドロばくだん!」
心地よい香りが広がる中、ゲンガーの攻撃はしっかりとロゼリアを捉えた。
「ほっ……。ちゃんと当ててくれたか。偉いで、ゲンガー」
「ロゼリア、戦闘不能! ゲンガーの勝ち!」
「ああ……。__でもありがとう、ロゼリア。ゆっくり休んでね」
ボールに戻したロゼリアに労いの言葉をかけると、穂乃果は最後のボールを掴む。
「頑張れムクホーク!」
「ホーク!」
飛び出したムクホークは、元気に羽ばたく。
「アロマセラピーは、味方の状態異常を治す……。よく思いついたやん」
「前に、花陽ちゃんが教えてくれたから!」
「花陽ちゃんって、スモーファウンのジムリーダーやろ……? 随分前の話やろうに、よう覚えてんなぁ……」
「今思い出したの!」
変な所でドヤ顔をする穂乃果に、
「……褒めたいのに、そうさせてくれへんなぁ……」
希は悩む。
「……まあええ。__火傷が治っても、ふりだしに戻っただけや。まだ勝ちが決まったわけやないで?」
「分かってる! もうおにびは食らわないようにしないと……」
穂乃果は一度深呼吸すると、
「行くよ、ムクホーク!」
そんな穂乃果を見ながら、
「気合い充分、って所やな。燃えるやん」
希も力が入る。
「まずはこっからやな。ゲンガー、おにび!」
青白い炎は揺らめきながらムクホークに飛来するが、
「当たらん……!」
誰もいない場所を通過した。
「ロゼリアのフラッシュが効いてるのかも……! チャンスだよムクホーク!」
穂乃果が意気込むと、
「ホーク!」
「え、ちょっと⁉︎」
ムクホークは指示を待たず突っ込んだ。
何やら凄まじい勢いで突っ込むムクホークを見て、
「! あれはアカン! __ブレイブバード……!」
希は慌てた様子。
「よく分かんないけど……行っけーっ!」
迫り来るムクホークとの距離を確認した希は、不可避を悟る。
「もう避けられんか……! ゲンガー、おにび!」
「が、ガー!」
苦し紛れに近い反撃は、目のくらみが治らないのか外れてしまう。
__そして直撃。衝撃と共に粉塵が舞い上がる。
「くっ……!」
何となく結果を悟った希だったが、粉塵の爆心地を見る。そこから飛び出すのは、当然ムクホーク。
「ふー……」
希が息を吐くのと、
「ゲンガー、戦闘不能! ムクホークの勝ち! よってこの勝負、チャレンジャー、穂乃果の勝ち!」
審判のジャッジは同時だった。
「勝った……。勝ったよ! やったよムクホーク!」
「ホーク。……ッ」
着地して穂乃果を首にぶら下げたムクホークは、一瞬よろける。
「だ、大丈夫?」
「攻撃の反動やな」
降ってきた声に顔を上げると、
「希ちゃん」
「さっきの技、ブレイブバードっていうんや。強力やけど、反動でダメージ受けるから使い所には注意やな」
「そっか……。新しい技。__頑張ったね、ムクホーク」
「ホーク」
穂乃果はムクホークをひと撫ですると、ボールに戻した。
「__さて、ウチに勝利した穂乃果ちゃんには、このタロットバッジを進呈するで」
「五個目のバッジ……。ありがとう!」
「それと、これも。わざマシン、〈たたりめ〉や。この技はな、相手が状態異常だと、ダメージが二倍になるんや」
「あ! それでさっきのダグトリオは……」
「せや。まあ、状態異常にしてから攻撃、って二段構えは大変やから、結構扱いは難しいんや。でも、穂乃果ちゃんなら使いこなせると思う。頑張ってね」
「……うん!」
後半標準語で話された穂乃果は、背筋を伸ばして頷いた。
「__この先にあるのは、ガジアスシティ。ウテックス山の中腹にある町で、道のりは結構山道になっとるんや」
ポケモンセンターで回復した後、到着した入り口とは反対側に穂乃果と希はやってきた。
「山道かー」
「苦手なん?」
「多分大丈夫! 普段階段登るし!」
「? むしろ階段が多いのは、ここからなんやけど……」
「あ、ううん、何でもない!」
ごまかした穂乃果が前方を見やると、緩やかな上り坂になっているのが確認できる。さらにその先には、チェリーバで見上げたウテックス山がそびえる。
「思ったより大変そう……」
思わず呟いた穂乃果に、
「大丈夫や。ここまで闘ってきた穂乃果ちゃんとそのポケモンは、実力と一緒に凄いパワーを持っとるんやと思う。どんな困難でも乗り越えられるような、とびきりのパワーを」
「希ちゃん……」
「これからも頑張るんやで」
「うん!」
五つ目のバッジを手に入れ、穂乃果は先を目指す。遥かそびえるウテックス山と、そこにあるという次の町を見据えて。