穂乃果がイースブータウンを出発してすぐ、道は上り坂、そして階段が続いた。
比較的階段は登り慣れている穂乃果だが、それを長時間続く経験は無いし、何より、
「……飽きてきたかも」
退屈を覚え始める。
険しい道のせいか、歩くトレーナーも少ない。疲労の蓄積と退屈が相まって、あまり人に見せられない表情をしていた。
そのせいか、足元がおろそかになっていたのだろう。一部が崩れていた階段を踏み外し、
「うわわわわっ⁉︎」
さすがの反射神経で転倒だけは回避し、そのまま尾根を五メートルほど駆け下り、平らになっていた場所で止まった。
「…………こ、怖かった……」
しばらく肩で息をしていた穂乃果は、やがて立ち上がる。
「ここは……」
辺りを見渡し、上を仰ぎ、下ってきた尾根が登れないほどではないと知る。
登るかどうか悩んでいた穂乃果の視界を、
「ビビビビ……」
「バチュチュッ」
コイルとバチュルが横切った。
「あれは……」
ポケモン図鑑で確認した穂乃果は、ゲットするか定かではないがとりあえず追いかける。
途中、エレキッドやシビシラスといったポケモンを見かける。
「何か、電気タイプが多いような……」
穂乃果が首を傾げつつ歩を進めると、
「__うわっ……」
何やら開けた場所に出た。そこには、
「何これ……テレビ? あ、こっちは冷蔵庫だ。あっちには扇風機……。電子レンジもある」
様々な電化製品が無造作に山積みにされていた。そしてその周りに、コイルをはじめとするポケモンが群がっていた。
「あ、だから電気タイプが多いのかな。__電気って、食べ物なのかな……」
警戒の色を見せるポケモンたちに気を付けながら、穂乃果はスクラップの山を探索開始。
とはいえ、一つ一つが重量のある電化製品。持ち上げる事はおろか動かす事も困難なので、ためすすがめつして状態を確認する程度である。
「これ……もう絶対動かないよね……。あ、でもこっちは微妙に音がする」
電化製品の状態は様々。完全に金属の塊と化したものや、まだ照明が灯るものまで。中には、原型すらとどめていないものもある。
「でも、何でこんな所に……? __はっ、まさか不法投棄⁉︎ それは穂乃果、許せないよ!」
実際にはその通りなのだが、穂乃果にそれを知る術は無い。
「ゴミはゴミ箱! 海未ちゃんに言われたもん!」
微妙にずれた事を言いながら、スクラップの山で憤慨する穂乃果。
「__ん? __わわわっ! 何⁉︎」
突然、穂乃果が身に付けるモンスターボールの一つが、盛大に暴れ出した。
たまらず上へ放り投げると、
「ウィィィィィッ」
「ロトム?」
中にいたロトムが飛び出した。
「どうかしたのー?」
穂乃果は呼びかけてみるが、ロトムはせわしなく飛び回るだけ。
「うーん……電気タイプだから、嬉しくなっちゃったのかな?」
穂乃果がロトムを眺めていると、
「____!」
空気が変わった。それとほぼ同時に、周りにいたポケモンたちが一目散に逃げていく。
「何だろう……この感じ。海未ちゃんに怒られる時と同じ雰囲気が……」
例えとしてそれはどうなのかとツッコミを入れたくなるが、それをいてくれる人はこの場にいない。
「__はっ! まさか本当に海未ちゃんが⁉︎ ……でも、別に怒られるような事してないし……」
的外れな事で悩む穂乃果の前に、
「ドサ……」
木々の陰から大きな何かが現れた。
「! あれは……⁉︎」
とっさにポケモン図鑑を取り出し、電化製品の山の陰に隠れる穂乃果。
『ドサイドン。がんせきポケモン__』
ポケモン図鑑から無機質な説明が流れ、穂乃果は種類を把握する。
「ドサイドン……。大っきいポケモンだなぁ……」
穂乃果が見つめる先で、ドサイドンはおもむろに近くのパソコンらしきものを叩き潰した。完全にスクラップと化したパソコンを見つめ、じっとするドサイドン。
「何やって……」
穂乃果が首を傾げていると、先ほど逃げたバチュルたちが数匹、恐る恐る姿を見せた。
「ドサ」
ドサイドンが何かを伝えると、
「「「バチュ……」」」
バチュルたちはドサイドン目掛けて、電撃をぶつけた。
「え⁉︎」
今度は驚く穂乃果の前で、電撃を浴び続けるドサイドンは満足そうに、そして元気になっていく。
疑問一色の穂乃果は、ポケモン図鑑を確認し、そして理解する。
「特性、ひらいしん……。電気技を吸収しちゃうんだ……」
感心した穂乃果は、ふとバチュルたちに目を向ける。すると、
「バチュ……」
「! あのバチュルたち、元気が無い……。もしかして、無理矢理やらされてるのかも……!」
穂乃果は、目の前の状況を何となく理解する。
「あのドサイドン、悪者かも! よーし……。__こらー!」
穂乃果は立ち上がり、ドサイドンに向かって吠える。
「ドサ?」
ドサイドンは何事かとこちらに視線を向け、同時に、浴びていた電撃がやむ。
「ドサー!」
するとドサイドンは、怒ったように声を上げる。そして再び、電撃が飛来する。
「むー……。あのドサイドン、やっぱり悪者だ……! お仕置きするんだから!」
確信を得た穂乃果は、相性を考えロゼリアのボールを手に取る。
「ウィィィィィッ!」
その前にロトムが躍り出た。
「ロトム? もしかして、電気タイプのポケモンがいじめられたのが許せなかったの?」
「ウィッ!」
「よーし! 頑張るよロトム! あのドサイドンを懲らしめるんだから!」
穂乃果は意気込み一つ、ロトムに指示を飛ばす。
「シャドーボール!」
「ウィィッ!」
ロトムが放った影の塊は、ドサイドンに命中。だが、
「ドサァ!」
「! 受け切られた……!」
それを物ともせず、反撃を敢行してくる。
突如出現した礫の大群が、ロトムを襲う。
「ロトム、大丈夫⁉︎」
「ウィ!」
「あの技……ストーンエッジだっけ。結構強いよあのドサイドン……!」
野生の強さを垣間見た穂乃果は、気を引き締める。
「ロトム、おにび!」
ロトムが放った青白い炎は、ドサイドンへ肉薄する。
だが、ドサイドンの体が僅かに輝いたかと思うと、異常な速さでそれを回避する。
「何あの速さ!」
穂乃果が驚愕していると、ポケモン図鑑が答えを教えてくれる。
『ロックカット。素早さを上げる技』
「そんな技まで使えるなんて……」
穂乃果が立て直すその間に、ドサイドンはロトムに急接近しストーンエッジをかます。
「ウィィーッ!」
「ロトム!」
慌てて呼び掛けるが、ダメージは深刻に見える。
「このままじゃ……。やっぱり、相性のいいロゼリアに交代した方が……」
「ウィィーッ!」
だがそんな穂乃果の呟きをかき消すように、ロトムは起き上がる。
「ロトム……」
ロトムの決意を感じた穂乃果は、掴んでいたロゼリアのボールを離す。
その時だった。
ロトムの体が、近くにあった洗濯機に吸い込まれていった。
「な、何事⁉︎」
当然驚き慌てる穂乃果。そんな穂乃果を安心させるかのように、ロトムは洗濯機の中から出てくる。__のだが、
「ロトム……だよね?」
「ウィ!」
姿が変わっていた。四角い体に、青い色。そう、さながら、洗濯機のような姿に。
「これって……進化なの?」
穂乃果はポケモン図鑑を確認してみるが、表示はロトムのまま。
「!」
だが、そこに補足の説明が追加されていた。
『ウォッシュロトム』
「“ロトムは、モーターに潜り込む事で、姿を変える事がある”……。__じゃあ、今のロトムはウォッシュロトムって事?」
「ウィ!」
「凄い! 凄いよロトム! しかも新しい技まで覚えて!」
ひとしきり興奮した穂乃果は、
「ドサァッ!」
ストーンエッジを放ってきたドサイドンへ向き直り、
「ロトム、__ハイドロポンプ!」
「ウィィィィーッ!」
ロトムが放った渾身の高圧水流は、迫り来る礫をあっさり粉砕。
「火力も上がってる……⁉︎」
そして、
「ドサァ!」
ドサイドンへと直撃した。
「グゥ……」
たまらず倒れたドサイドンを見て、
「やった! 勝てたよロトム!」
思わずロトムに抱き付く穂乃果。
「ウィ!」
ロトムも満足そうに笑った。
「__あ、そうだ。洗濯機になれたなら、他のにもなれるのかな?」
早速好奇心が爆発した穂乃果は、電化製品の山を調べてみる。
「……ダメだぁ。他は全部壊れてる……」
だが、モーターそのものが壊れているのか、ロトムが入り込む事もできなかった。
「__でも、よかった。私たち、また強くなれた」
流石の切り替えを見せた穂乃果は、ウォッシュロトムの頭に手を乗せた。
「これからもよろしくね、ロトム!」
「ウィィッ!」