長い山道を乗り越え、ようやく穂乃果はガジアスシティに到着した。
芝生に土の道路が伸びる、開放感のある土地が広がる。涼しいそよ風が、穂乃果の頬を撫でた。
「うーん、いい所だね!」
登山で疲れた身体で、穂乃果は大きく伸びをする。
ひとまずポケモンセンターで疲れを癒し、それから探索を開始する。
だが、街の様子がどうもおかしい。
「どうしたんだろう……。何となく、忙しないような……」
ひとまず案内を確認しジムに向かうと、
「あれ? 開いてない……」
門扉は固く閉ざされていた。
穂乃果が頭を抱えていると、
「あんた、トレーナーかい?」
初老の男性が声をかけてきた。
「あ、はい。ジムに挑戦しに来たんですけど……」
「ジムリーダーなら、リンモンタワーだよ」
「リンモンタワー?」
「ここからすぐの所に、ニュルドビレッジという小さな村がある。そこにある、カイトゥーン地方の秘宝を祀ったリンモンタワーという塔が賊に襲われたそうでな。ジムリーダーはそこの鎮圧に向かっておる。ここの住民は、万が一襲撃されないように住宅に避難してるんじゃ」
「そうだったんですか……」
「あんたも、ここでのジム挑戦は諦めて、次のジムを優先する事をお勧めするぞ」
それだけ言うと、老人は足早に近くの民家へ入っていった。
「賊って、泥棒なのかな……。だとしたら放っておけないよ! 助けに行かないと!」
穂乃果は拳を握り締めると、勢いよく駆け出した。
ニュルドビレッジは、ガジアスシティからの階段を登った先にあった。
持ち前の階段ダッシュで駆け登ると、数軒だけある民家が目に飛び込んでくる。
「本当に小さい村なんだ……。それで、そのリンモンタワーは__」
探す必要は無かった。穂乃果の目の前に、灰色のそれはそびえ立っていた。
「ひゃー……思ったより高い……」
高さにしておよそ百メートル強。小さい建物が並ぶ中、明らかに異質だった。
「とにかく、行かないと!」
塔の中に入ると、幾つかの小部屋、上へ登る階段など、やや複雑な構造が穂乃果を出迎えた。
「うっ……」
一瞬二の足を踏んだ穂乃果だったが、
「何とかなる!」
と飛び出した。
__するとすぐ、
「行かせるか!」
見覚えのあるヘンテコな格好の男。
「オリジン団⁉︎ 泥棒って、オリジン団だったの⁉︎」
「お前……噂のお邪魔トレーナーか!」
オリジン団の男はボールを掴むと、
「行け、コマタナ」
「ムクホーク、インファイト!」
穂乃果は足を止めずにムクホークを繰り出すと、即座に指示を飛ばす。吹っ飛ばされたコマタナを見て、
「つ、強ぇ……こんな強かったのか……!」
呆然とする男の横を走り抜け、穂乃果は近くの階段を駆け上る。
「……最近、階段登ってばかりかも……」
穂乃果がぼやくのとほぼ同時に、
「__なさい!」
声が聞こえてきた。
右側の部屋から聞こえてきたその声に、穂乃果は足を止めた。
「この声……」
さらに上へ続く階段を無視して、穂乃果は部屋のドアを開ける。そこには、
「そこをどきなさい! あれは選ばれぬ者が持ち出していいものじゃないの!」
「ぅ絵里ちゃん!」
金髪のポニーテール。
絵里は驚いたように振り返り、
「あなた……街の人じゃないわね。でもこの人達とも違う……」
こちらを向く絵里の背後には、五人のオリジン団員がポケモンで壁を作っていた。
「あれは……」
ポケモン図鑑を取り出し確認すると、
「マルノーム……」
重量感のあるマルノームが五体並ぶと、通り抜ける事は不可能。後ろのルートが正解なのは一目瞭然なのだが、それをさせないオリジン団。
「倒すしかないのか……」
穂乃果が呟くと、
「へへっ、マルノーム、たくわえる!」
「ノーム!」
マルノームは攻撃に備える。
それを見た絵里が、悔しそうに前を睨む。
「ああやって、耐久力を上げて時間を稼いでいるのよ。せめて、弱点さえつければ……」
「弱点……? __! まかせて絵里ちゃん!」
穂乃果はムクホークを戻すと、別のボールを掴む。
「ダグトリオ! じしん!」
「ダグ!」
「ノーム……ッ⁉︎」
ダグトリオの攻撃は、マルノーム五体全てに届く。
「じしんは全体攻撃技……。やるわね」
絵里は笑みを浮かべると、
「ここは任せるわ。私は上へ行って、泥棒を止めるわ」
穂乃果の肩に手を置いた。
「分かった! 任せて!」
「お願いね」
絵里は倒れ伏すマルノームの脇を通り抜け、階段を登っていく。
「あ、待て!」「くそっ、ジムリーダーは行かせるなって言われてたのに……」「追いかけるぞ!」
「__ストーンエッジ!」
『『『っ⁉︎』』』
絵里を追いかけようとしたオリジン団の背後から、礫が飛来する。
「穂乃果が相手だよ!」
「くっ……いつもいつも邪魔しやがって……!」
憎々しげにボールを掴むオリジン団へと、穂乃果は次の指示を飛ばす。
「__絵里ちゃん!」
五人のオリジン団にアッサリ勝利すると、穂乃果は階段を登ってそこにあった扉を開けた。
「あら、早かったわね。こっちも終わったわ」
絵里の前には、へたり込む三人のオリジン団。
「__さあ、答えなさい。ここに来て、何をするつもりだったの?」
絵里の問いに、オリジン団はそっぽを向く。
「お前らに話す事は無い。我々の思想を理解できないヤツらは、滅ぶしかないのだ!」
そう叫んだオリジン団の三人は、
「今回は退こう。だが、気付いた時にはすでに手遅れだろう!」
絵里と穂乃果の間を抜けて、部屋から姿を消した。
「何なのかしら……」
疑問符を浮かべたままそれを見送った絵里は、穂乃果に向き直る。
「ありがとう、助かったわ。__あなたが穂乃果ね?」
「! 分かるの⁉︎」
「希から連絡が来たのよ。__まったく……『スピリチュアルなトレーナーが挑戦しに行く』なんて、分かりにくいのよ……」
「あはは……希ちゃんらしいや」
若干がっかりしつつ、穂乃果は苦笑い。
「穂乃果、本当にありがとう。__おかげで、九つ水晶を守れたわ」
「ここのつすいしょう?」
「ええ。これよ」
絵里が示した先には、古びた台座に安置された、根元から九つに分かれた結晶体があった。
青や赤、緑や黄色。絶えず色を変え続けるその水晶は、穂乃果の視線を釘付けにした。
「綺麗……」
「これは遥か昔、カイトゥーン地方に伝わる伝説のポケモンが、私達人間に与えたと言われる秘宝なの。理由までは分からないけれど……繁栄を願ったとも、戒めのためとも言われているわ。__見える?」
絵里は塔の窓から、外を指差す。
穂乃果が視線を向けると、ウテックス山の山頂が見えた。うっすらとだが、何かの建造物が確認できる。
「ここから、唯一頂上が見えるの。何故か雪が積もらず、カイトゥーン地方の神話と何かしら関係があると言われているけれど……あの頂上に向かう道が無いの。野生のポケモン達も近寄らず、今まで謎に包まれたままなのよ」
「ほぇ〜……。よく分からないけど、凄いんだね〜」
「そうね。__ふふっ、こういう謎めいた事は、希が好きなんだけどね」
絵里は微笑むと、穂乃果の横を通り過ぎる。
「私は先に戻るわね。穂乃果はジムに挑戦しに来たんでしょう? 待ってるわよ」
「うん! 待っててね!」
絵里が部屋から出、辺りは静寂に包まれる。
「九つ水晶……」
不思議な輝きを放つそれを、穂乃果はしばらく見つめていた。