「ロトム、ほうでん!」
ロトムが放った電撃は、ユラユラ浮遊するフリージオへ直撃する。
「よしっ」
「フリリリリリ」
「うそっ、効いてない⁉︎」
フリージオはまったく堪えた様子も無く、不気味に笑い声を漏らす。
「私のフリージオを甘く見ない事ね。__フリージオ、ソーラービーム!」
「フリリリリリ!」
フリージオはゆっくりと光源を吸収し始める。
「あれって、草タイプの技……? それはマズいよ……! ロトム、ハイドロポンプ!」
「ウィィィィーッ!」
かつてドサイドンを一撃で屠った高圧水流は、フリージオにはアッサリ受け切られてしまう。
「やりなさい、フリージオ!」
「フリリリリリッ!」
フリージオから放たれた極太のレーザーは、的確にロトムを貫いた。
「ロトム!」
「ウ、ウィィィ……」
何とか持ちこたえたロトムだが、ダメージはこの上なく深刻そうだ。
「くっ……一回戻ってロトム!」
ロトムをボールに戻した穂乃果を見て、絵里は頷く。
「賢明な判断ね。あなたのロトムじゃ、私のフリージオには勝てない」
「悔しいけど、その通りかも……。でも、私はみんなを信じてる! __ムクホーク、ファイトだよっ!」
「ホーク!」
穂乃果は拳を突き出す。
「つばめがえし!」
低空飛行でフリージオへ肉薄するムクホーク。
「れいとうビームで迎え撃って!」
「フリリリリリ!」
フリージオもビームを放ち、
「上へ逃げて!」
上昇するムクホークの背後を追いかける。フリージオの傾きが四十五度を超えた辺りで、
「今だ!」
「ホーク!」
穂乃果の掛け声で、ムクホークは急降下を仕掛ける。
「フリリリリリ……⁉︎」
突然の事にフリージオは反応が遅れ、その隙にムクホークは突撃。そして華麗に舞い上がった。
「よしっ」
衝撃で吹っ飛ばされたフリージオは、何度もクルクル回るとようやく静止した。そこには、若干の焦りが滲み出ている。
「……?」
穂乃果は、違和感を覚える。
「ロトムの攻撃は全然効かなかったのに、ムクホークの攻撃は効いてる……? __もしかして!」
何かに気付いた穂乃果。
「ムクホーク、もう一度突撃!」
「させない……! フリージオ、ふぶき!」
「躱して!」
ムクホークはギリギリでブリザードを避けると、フリージオへ肉薄。
「インファイト!」
そして全力の打撃をお見舞いした。
「フリージオ、戦闘不能! ムクホークの勝ち!」
「やったぁ!」
フリージオをボールに戻した絵里は、
「よく気付いたわね、フリージオが物理攻撃に弱い事に」
「うん。ふと思ったの!」
「バトルの最中に成長していく……。まったく、底なしのポテンシャルね」
絵里は四つ目のボールを掴む。
「私の最後のポケモンね。けど、負けるつもりは無いわよ?」
「望む所だよ!」
「ふふっ、ワクワクさせてくれるわね。__行きなさい、ユキノオー!」
「ノオー!」
「氷と草タイプ……。リザードンがいれば、活躍できそうだったのに……。って言ってもしょうがないか。飛行タイプだってバツグンだもんね!」
穂乃果が気を引き締めると、頭上から小さな氷の塊が降ってきた。
「な、何⁉︎ あられ⁉︎」
「ユキノオーの特性はゆきふらし。フィールドにあられを降らせるのよ。__そしてこれは、」
「ほ、ホーク……?」
「氷タイプ以外に、少しずつダメージを与える」
ムクホークの羽ばたきが、一瞬不規則に乱れる。
「油断していると、そのまま負かしちゃうわよ? __ユキノオー、ふぶき!」
「ノオー!」
「ムクホーク、躱して!」
ムクホークは全力で上昇する。だが、フリージオとは比べ物にならない広範囲でムクホークを飲み込んだ。
「ムクホーク、戦闘不能! ユキノオーの勝ち!」
「そ、そんな……あんなの避けられないよ……」
「その通りよ。あられが降っている時は、ふぶきは絶対に当たる。逃がさないわよ?」
ユキノオーの強さを再認識した所で、穂乃果は悩む。
「どうしよう……。ロトムはもうほとんど体力が残ってないし、ダグトリオもロゼリアも氷タイプが弱点だし……」
「どうしたの? 降参かしら?」
「絶対しないもん!」
即座に言い返した穂乃果は、
「考えていても仕方ない……。よし。__ダグトリオ、ファイトだよっ!」
「ダグ!」
「地面タイプ……? 何か意図があるのか、もしくは万策尽きたか、ね」
絵里の表情に、少し余裕が見える。
「ユキノオー、ふぶき!」
「ノオー!」
「ダグトリオ、あなをほる!」
「ダグ!」
ダグトリオは地面に潜り、攻撃をやり過ごした。
「やっぱり、これなら当たらない!」
「だからと言って、地面タイプじゃユキノオーには効かないわよ? さあ、あなたはどうするの?」
バトルフィールドに、一瞬の静寂が訪れる。
「大丈夫、できる」
穂乃果は、自分に言い聞かせる。「私達なら、できる! __ダグトリオ、今だ!」
穂乃果の合図で、ダグトリオはユキノオーの真下から体当たりをかます。だがやはり相性が悪いのか、体勢を若干崩すに終わった。
「ふふっ__」
「そこからストーンエッジ!」
「ダグッ!」
「なっ……?」
ゼロ距離で襲う礫の群れに、たまらずユキノオーも吹っ飛ばされる。
「くっ……ユキノオー、ふぶき!」
「ノオー!」
同じく超至近距離から放たれた攻撃は、逃げる暇なくダグトリオを襲った。
「ダグトリオ、戦闘不能! ユキノオーの勝ち!」
「ああ、一撃……お疲れ、ダグトリオ」
ダグトリオをボールに戻した穂乃果は、もう一度、あのボールを掴む。
「ロトム、頑張って!」
「ウィ!」
「まさか、攻撃を繋げてくるなんてね。あんなの初めて見たわよ?」
「できるか分からなかったけど、きっとできるって信じてたから!」
「……本当、不思議なトレーナーね。__でも、まだ私のポケモンは負けてない。元気な五体目じゃなく傷ついたロトムという事は、残りはユキノオーに不利という事。違う?」
「ぐ……ロトムなら行けるよ! ねっ?」
「ウィ!」
絵里の的を射た発言を跳ね返した穂乃果は、ロトムをしかと見据える。
「そう。なら、闘ってみせなさい! __ユキノオー、ウッドハンマー!」
腕を振りかざして向かってくるユキノオーに、
「ロトム、おにび!」
ロトムは青白い炎をぶつける。
「やけど、ね。__けど、勢いを止めるには弱すぎるわ!」
ユキノオーは渾身の力で、ロトムに一撃をお見舞いした。
「ウィィィ……ッ!」
後方へ弾き飛ばされるロトム。
「お願い、耐えて……!」
「ウィ…………ウィィィィーッ!」
「そんな、耐えられた……⁉︎」
「これで決めるよロトム! __たたりめ!」
「! その技は……!」
「ノオ……ッ、オッ……!」
ユキノオーの周りに現れた人魂のような光。それはすぐに消えたが、
「ユキノオー、戦闘不能! ロトムの勝ち! よって勝者、チャレンジャー、穂乃果!」
そこにいたのは、倒れ伏すユキノオーの姿だった。
「はぁ……はぁ……。か、勝った……!」
緊張のあまりか、肩で息をする穂乃果。
「……負けた、わね」
小さく息を吐き、下を見る絵里。
「絵里ちゃん……」
それを見た穂乃果は、ゆっくり歩み寄る。
そして、手を差し出した。
「穂乃果……?」
「絵里ちゃん、すっごく強かった。何度も、負けそうになった。__だから、穂乃果はまた絵里ちゃんと闘いたいな!」
「穂乃果……まったく、あなたって人は……」
明るい笑顔を浮かべる穂乃果に、絵里も苦笑する。穂乃果の手を握り返した絵里は、
「次は負けないわよ?」
「望む所だよ!」
「__あ、そうそう。忘れる所だったわ。これが、ガジアスジム制覇の証。リーダーバッジよ」
「これが、六個目のバッジ……。ありがとう!」
「そしてこっちは、技マシン《ふぶき》。強力な氷タイプの技よ。天気があられなら、絶対に当たるようになるわ。……例外はあるけどね」
「うん、ありがとう!」
「それにしても、まさか希の技で決着とはね」
「ん〜? 悔しいん?」
「って希⁉︎ いつからそこに……!」
「ついさっきやん。絵里ちが、ウチの技で負ける所からや」
絵里の背後から現れた希は、悪戯っぽく笑う。
「まったく希は……」
少しだけふてくされた絵里に代わり、希が穂乃果に向き直る。
「穂乃果ちゃん、勝利おめでとさん。ちょっと見て欲しい場所があるから、案内させてな?」
「見て欲しい場所?」
「そうね。バッジを集める穂乃果には、ぜひ見て欲しい場所」
絵里と希が、同じような笑みを浮かべる。後輩を試す、不敵な笑みを。