ジムを出てポケモンセンターを経由した穂乃果は、絵里と希の案内で街を北上する。
「ねー絵里ちゃ〜ん、どこに行くの〜?」
「もうすぐ着くわよ」
「もうちょっと待ってな〜」
『待て』を食らう飼い犬のような状態で、穂乃果は二人の後ろをチョコチョコとついて行く。
「__さ、ここよ」
絵里が振り返ったその先には、立派な門扉。さらにその奥は、海。
「これは……何?」
「ジムバッジを集めてる穂乃果ちゃんの、最終的な目標やな」
「目標って?」
「バッジケース見れば分かると思うけど、カイトゥーン地方のバッジは八つ。あれは、八つのバッジを集めたトレーナーのみが開ける事を許された特別な扉なのよ」
「ほぇ〜……。あの先には何があるの?」
「最後の難関、チャンピオンロード。そして四天王とチャンピオンが待ち受ける、ポケモンリーグや」
「見えるかしら」
絵里が指さした先には、もやに隠れてうっすらと島が見える。そこにそびえ立つ、巨大な建物も。
「あれがポケモンリーグよ」
「ポケモンリーグは島なんだね……。__あれ? じゃあチャンピオンロードは?」
希は軽く笑って、
「チャンピオンロードは地下にあるんや。あの扉の先は海底洞窟になっていて、そこがチャンピオンロードになってるん」
「そうなんだ……。でも穂乃果はまだバッジ六個だから、行けないね……」
「そうね。__でも穂乃果なら、きっとすぐに残り二つも手に入れるんじゃないかしら?」
「ウチもそう思うで。そん時は、またここに来れば絵里ちが門を開けてくれるハズや」
「うん、分かった! 私、頑張るね!」
穂乃果は確固たる意志を込めて、彼方の建物を見据えた。
場所は移って、街の出入り口。
「じゃあな、穂乃果ちゃん。次のジム戦も頑張るんやで」
「うんっ!」
「次のジムがある街は、ここからウテックス山を下った先にあるサウシティね」
「サウシティ……?」
穂乃果はその単語に引っかかる。
「どこかで聞いた事ある気がする……」
懸命に乏しい記憶力を辿るが、
「思い出せないよぉ……」
ここまで非日常の膨大な知識を蓄えてきた脳内には、それを留めておく力は無かったようだ。
「ま、まあ必要になれば思い出せるわよ」
「せや。思い出せないなら、そこまで重要な事じゃないかもしれんし」
「うーんそっか……」
やや納得いかない穂乃果だったが、ここで知恵熱を出していても進まない。
「よしっ、行けば思い出すかも!」
自分のペースで、考えを振り切った。
「またね、絵里ちゃん、希ちゃん。絶対また戻ってくるからね!」
「ええ、待ってるわ」
「気を付けてな〜」
大きく手を振った穂乃果は、ガジアスシティをあとにした。
ガジアスシティまでの道は登り坂だった分、こちらは下り坂。早歩きのペースで、穂乃果は調子よく歩いていく。
ある程度下った所で、
「ん? 何だろここ」
鉄組みの足場が行き交う、開けた場所を見つけた。
「工事現場みたいだけど、誰もいないね……。ポケモンも見当たらないし……」
鉄骨の足場は古くはなく、試しに乗ってみても崩れる気配は無い。
「せっかくだし、ちょっと探検してみよっと! 珍しいポケモンがいるかもしれないし!」
静寂の中、穂乃果は意気揚々と歩き出す。
そしてすぐに飽きる。
「う〜……結構広いし、何もいないし……つまんな〜い!」
ため息をついて俯く穂乃果。__ふと、何かの気配を感じて視線を上げた。
「…………」
目が合った。
「うっひゃぁ⁉︎」
慌てて仰け反った穂乃果は、勢い余って尻もち。
「いった〜い!」
何事かと涙目で前を見やると、
「ネール」
鋼色の身体を持った巨大な蛇のような、
「あ、ポケモン……?」
穂乃果がポケモン図鑑を取り出すより早く、
「__ハガネール、どうかしたの?」
ポケモンの後ろから声が飛んだ。
「あ、トレーナーさん⁉︎ ごめんなさい! 大丈夫ですか⁉︎」
「あ、はい……」
アタフタとする目の前の少女に、穂乃果は逆に申し訳なく立ち上がった。
「あたしの名前は、ミカンといいます。一応、ジョウト地方のアサギシティという所でジムリーダーをやっています。使うポケモンは、__シャキーン! は、鋼タイプです!」
「し、しゃきーん?」
「わ、忘れて下さい!」
「はあ……。あ、鋼タイプって事は、真姫ちゃんと同じですね」
「真姫さん……ウェスリードシティのジムリーダーですね」
「はい! 強かったです! ミカンさんは、ハガネールを使うんですね」
「はい」
「でも、ここで何を?」
「ここは、少し前まで珍しい石が採れると採石場として使われていた場所です。ですが、ポケモンの生態系が壊れてしまうと廃棄されたんです」
「あ、だからなんだ……」
穂乃果は、この場所にポケモンがいない理由を知った。
「なので、ちょうどいい修行の場所として使わせてもらってるんです」
「へー……。__ミカンさん、バトルしてくれませんか?」
「あたしとですか?」
「はい! ジムリーダーなんですよね? 闘ってみたいです!」
一瞬固まったミカンだったが、
「分かりました。やりましょう」
強く頷いた。
「__あたしは、このハガネールでいきます」
「じゃあ私は……よしっ。ロゼリア、ファイトだよっ!」
「リア!」
飛び出したロゼリアに、穂乃果は早速指示を飛ばす。
「ロゼリア、フラッシュ!」
「リアッ!」
ロゼリアが全身から眩い光を発すると、
「ネール……!」
「くっ……」
ハガネールは顔を背けて怯む。
「うおっ、眩しっ⁉︎」
「今だ! ギガドレイ……うん?」
何か変な声が混じった気がして、穂乃果は指示を止めた。
「今の声は……?」
当然ミカンでもなく、彼女も不思議そうに辺りを見渡す。
「__ああああーっ!」
突然、穂乃果がある一点を指さして叫んだ。
ミカン、ロゼリア、ハガネールがつられてそちらを見やると、
「うげっ、お邪魔トレーナー!」
「オリジン団!」
にっくき派手な服装の男が、渋い顔でこちらを見た。
「こんな所で何やってるの!」
「ふん、ただの調査さ。そのついでに、ちょいと石を回収しただけの事!」
「石……?」
「ここはいいな。ほのおのいしにみずのいし、かみなりのいしの他にやみのいしなんかもあるじゃねーか」
下っぱはそれらの石が入っているであろう袋を持ち上げる。
「その量……明らかに多すぎます! ここの鉱石は、落ちている物を拾う程度で発掘は禁止されています!」
ミカンの訴えは、
「あーだから拾ったぜ? “埋まっていた石を掘り起こして”な」
ヘラヘラ笑いで流された。
「むっ……そんなズルは許さないんだから!」
「ヘッ、お前に許して欲しいなんて思わねーよ。__だがいつも邪魔ばっかするからな。ここらで、ちょっと痛い目見てもらおうか!」
下っぱが何か合図すると、十人強の下っぱが新たに姿を見せた。
「こんなにいたの……⁉︎」
「行け、ゴローニャ! 何やらおまけもいるが、運が悪かったって事で__」
「ハガネール、アイアンテール」
「ネール!」
衝突音。そして下っぱのゴローニャは後方へ吹っ飛んだ。
「……は?」
反応すらできなかった下っぱは、ゆっくりとミカンを見る。
「あなた達がどういう人かは知りませんが……ルールを守らないのであれば容赦しませんよ!」
「こ、コイツ、強ぇ!」
慌てた下っぱは、他の仲間に指示を飛ばす。
「あのお邪魔トレーナーを集中攻撃だ!」
『了解!』
怒るミカンを前に、長髪の幼なじみを彷彿としていた穂乃果は、少し反応が遅れた。
「ガントル、ロックブラスト!」
「ゴローン、どろばくだん!」
「トルッ!」「ゴロッ!」
「へ? __うわわわっ⁉︎」
「リアッ⁉︎」
ロゼリア共々慌てて避けるが、体勢を崩して危うく地面へダイブする所だった。
「穂乃果さん!」
「お前の相手は俺だ! ゴルバット!」
「ストーンエッジ!」
「ゴルゥ……ッ⁉︎」
「ゴルバット⁉︎」
下っぱのゴルバットを瞬殺したミカンは、穂乃果へ向き直る。
「大丈夫ですか?」
「平気です……。ちょっと前まで、転ぶのは当たり前だったし……」
「はい?」
「こ、こっちの話です」
苦笑いで穂乃果が起き上がろうと手を付いた時、
「ん……? 何だろう、これ……」
その手が、何かを掴んだ。
「それは、ひかりのいし……! 穂乃果さん、それをロゼリアに!」
「へ? はい!」
言われるがまま、穂乃果は手にした石をロゼリアに向かって放り投げた。
石がロゼリアに触れた瞬間、
「リアーッ!」
ロゼリアの姿が光に包まれた。
「これって……進化⁉︎」
光が収まった時、そこに立っていたのは、
「ロズレイッ!」
ポケモン図鑑を取り出した穂乃果。
「ロズレイド……。__あ、これって……」
何かを発見した穂乃果。グッ、と顔を引き締めると下っぱ達に向き直った。
「くそっ……進化したからどうした! 数で押し切るんだ! 行け、ヌオー!」
「__リーフストーム!」
「レイッ!」
ロズレイドが放った新緑の嵐は、残っていた下っぱのポケモン全てをまとめて飲み込んだ。
「んなっ……強すぎるぞ……!」
面白いように口を開けた下っぱは、
「くそっ! もうポケモンがいねえ……。退くぞお前ら!」
流石に戦意喪失したのか、下っぱは仲間を連れて退散した。その際、
「仕方ねえからこれは置いていってやるよ!」
大量の石が入った袋を投げ捨てた。
「やったねロズレイド!」
「レイ!」
「__ロゼリアは、ひかりのいしを使う事でロズレイドに進化するんです」
「そうだったんだ……。特別な進化の方法もあるんですね」
「はい。私のハガネールも、普通じゃ進化しないんですよ?」
「へ〜」
感心した穂乃果に、
「バトル、中断しちゃいましたね。お互いのポケモンも万全じゃないですし……またの機会にしましょうか」
ミカンはそう提案。
「う〜んそうですね……。ちょっと残念。__ミカンさんは、これからどうするんですか?」
「せっかくなので、ウェスリードシティに行ってみます」
「じゃあ真姫ちゃんに会ったら、よろしくお願いします!」
「分かりました。穂乃果さんは?」
「私はこの先にある、えっと…………サウシティ! に行きます。そこでジムに挑戦!」
「そうですか。頑張って下さいね」
「はい!」
差し出されたミカンの手を、穂乃果は強く握り返す。
それからお互い手を振って、逆方向へ歩き出した。