ミカンと別れた穂乃果は、ようやくウテックス山の麓、サウシティに到着した。
入り口にある展望台から街を見下ろし、街の全体を眺める。
「おー! 何か広々してるね~! あれは空港かな? 飛行機飛んでる!」
かなり開けた雰囲気を出すサウシティへ、穂乃果は一気に駆け出した。
「到着!」
まずはポケモンセンターを探し、ポケモンを回復してもらう。
「んーと、ジムは……」
穂乃果が辺りをキョロキョロと眺めていると、
「あれー? 穂乃果じゃん!」
「もうここまで来たんだ」
「やるぅ!」
聞き覚えのある懐かしい声が背中から響いた。
「ヒデコ! フミコ! ミカ!」
「順番にジムを巡ってるなら、バッジは……」
「六個だよ!」
「へー。じゃああと二つなんだ」
「いいペースじゃん!」
「えっへん!」
胸を張った穂乃果。
「次はサウジム?」
「うん!」
勢いよく頷いた穂乃果に、ヒデコは無慈悲な一言を告げる。
「今は、やってないよ」
「……え?」
「もう、ビックリしたよ!」
「ごめんごめん、説明が足りなかったね」
プンスカ歩く穂乃果と、その後ろからなだめつつ歩くヒフミ。四人が向かっているのは、
「__さ、ここだよ」
「ここがトレーナーズスクールかぁ……」
大小様々な建物が並ぶ、トレーナーの為の専門学校だった。
「サウシティのジムリーダーはここの教師も兼任してるから、ジムにいない事も多いんだよ」
「へ~。先生なんだ~」
穂乃果が感心していると、
「どうせ穂乃果は勢いだけで乗り切って来たんだろうし、少しくらい勉強した方がいいんじゃないの?」
「うっ……それは確かに……」
フミコの“勉強”という単語に拒否反応を示した穂乃果だったが、発言を否定もできない。
「とりあえず、見学だけしてみるよ……」
「まったく……」
ひとまず目の前のメインの校舎に入ると、授業を行っているという教室に案内してもらった。
「__このように、ポケモンのタイプによってはダメージが変わってくるのです」
そこから聞こえてきたのは、懐かしい、聞き慣れた柔らかい声。
「ことりちゃん!」
穂乃果はようやく思い出した。フォルリーフタウンで理事長、もとい博士からヒトカゲを貰った時、ことりはサウシティにいると言っていた事を。
「へ?」
「ことりちゃん! 穂乃果だよ!」
目を丸くしていることりに、穂乃果は構わず抱きつく。
「会いたかったぁ!」
「へ? え? ほのか……ちゃん?」
「うん! 穂乃果の事分かる?」
「ううん、よく知らない」
「そ、そんなぁ……!」
「でも、面白いし私、好きになっちゃう!」
「ホントに? さっすがことりちゃん!」
一応初対面で独自の世界を作り出す二人に、案内したヒフミは勿論、教室内の生徒もポカンと口を開けていた。
せっかくなので授業を受けていく事にした穂乃果。
「勉強は苦手だけど、ことりちゃんが教えてくれるならできるよ!」
かつてその相手が、赤点回避のために四苦八苦してくれた事など忘却の彼方。穂乃果は、一番前の席でそんな事を言った。余談だが、他の生徒はみな十歳前後の子供。明らかに浮いていたが、そんな事を気にする穂乃果ではない。
「それじゃあ今回は、古〜い歴史の話をします」
ことりは黒板に幾つかの絵と文字を書く。
『昔、このカイトゥーン地方には大地以外何もありませんでした。しかし、一匹のポケモンがいました』
『そのポケモンは、不思議な力を持っていました。その力を使って、ポケモンはこの地を一瞬で自然溢れる恵みの大地に変えました』
『それと一緒に、人や他のポケモンも、どこからかやってきて色々な場所で暮らし始めました』
『そのポケモンはそれに満足して、この地の中心で深い眠りにつき暮らしを見守りました』
『人々は感謝し、そのポケモンを祀って建物を造りました。そして日々の祈りをこめて歌を作り、歌いました』
『しかし時が経つにつれて、みんなそのポケモンの事を忘れていきました。そんなポケモンはいないと言う人まで出てきて、感謝を忘れ好き勝手に生きていました。ついには、権力を巡って争いも起きました』
『それに気付いたポケモンは、怒り目を醒ましました。そして、人間へ攻撃を始めました』
『その強大な力になす術がなく、人々は二度と争いをしないと誓いました。ようやく許したポケモンは、悲しみの涙を流しました』
『それは結晶となり、ポケモンと同じように不思議な力を秘めていました』
『人々はその不思議な水晶を大事に保存し、戒めとしました。再びポケモンが目覚める時、心正しい選ばれた人物が歌を奏でる事で、この地は繁栄していくだろう、と伝えられています』
ことりがそこまで説明すると、
「ねえことりちゃん、そのポケモンの名前は何ていうの?」
という質問が穂乃果から飛ぶ。
それにことりは首を横に振った。
「ごめんね、それはよく分かってないの。書物に残されるずっと前の事だから、歴史なのかただの伝説なのかも分かってないくらいだから」
「ふーんそっか! でも、穂乃果はいると思うよ!」
高らかに言い切った穂乃果に、ことりはどうしてか訊ねる。
「その方がワクワクするから!」
案の定中身の無い返答に、ことりはクスクス笑う。
「でもそうかも。私も会ってみたい。みんなはどうですか〜?」
ことりが教室に問うと、あちこちからいると思う、見てみたい、という声が飛んだ。
「よーし、伝説のポケモンに会えるように、みんなで歌おう!」
唐突に、穂乃果が立ち上がった。
「ほ、穂乃果ちゃん?」
「え、だって昔の人は歌ってそのポケモンに感謝したんでしょ? 穂乃果達は感謝じゃないけど、困ったら歌おうよ!」
という無茶苦茶な自論に、教室の誰もが呆気に取られる。だが、穂乃果の勢いに押されるように一人、また一人と立ち上がり、最終的に全員が立ち上がり臨時の音楽教室が開催されたのだった。
時を同じくして、ニュルドビレッジ・リンモンタワー。
かつて穂乃果が死守した九つ水晶が、僅かに輝きを強めた。
「……オル…………」
「……ブンネ…………」
「どうかしたかにゃ?」
「どうかしたの?」
互いのパートナーで特訓をしていた凛と花陽は、パートナーが一点を見つめた事に、首を傾げた。