新作発売までの完結を目指して……
「本当にいいの? ここには空港があるから、次のガーデリーシティまですぐだよ?」
街の出入り口で、穂乃果を見送りに来たことりが口を開いた。
「うん! せっかくの旅なんだから、自分で歩いてみたいの!」
「……やっぱり、流石は穂乃果ちゃんだね」
「ことりちゃん! 約束、忘れないでね!」
「うんっ」
ハイタッチでことりと別れた穂乃果は、最後のバッジを求めてガーデリーシティへと歩を進めた。
サウシティを抜けた先は、左右を海に挟まれた海岸線だった。砂州が続き、その上に舗装された低い石橋が伸びる。うっすらと見えるのが、目的地のガーデリーシティなのだろう。「満潮だと島になっちゃう場所を、陸繋島って言うんだよ」とついさっきことりから教わったのだが、
「海だー!」
すでに覚えていない穂乃果はとりあえず叫んだ。
「水着持って来ればよかった……」
そして大きく肩を落とした。
「でも、海にはまだ知らないポケモンがいるかも! 行ってみよう!」
切り替えの早さは流石か、グッと拳を握ると砂浜を踏みしめた。
「水綺麗だな〜。ーーわっひゃ! 冷たっ」
靴を脱ぎ、波打ち際ではしゃぐ穂乃果の前に、
「テッポ!」
海面から何かが顔を出した。
「ん? ポケモン?」
穂乃果はポケモン図鑑を取り出し、
「テッポウオ、か。うん、水タイプだ」
挨拶のために穂乃果が近寄ると、
「テポッ!」
その笑顔目掛けて水を噴射してきた。
「わぷっ! 何するのー!」
当然怒った穂乃果だが、
「「「テポッ!」」」
新たに何体ものテッポウオが顔を出し、さらに、
「ッシャー!」
「うわっ、あれって確か、サメハダー?」
見るからに凶悪そうなポケモンまで登場し、穂乃果は数歩後ずさった。
「こうなったら……やるしかない!」
穂乃果はボールを掴むと、空に放った。
「お願い! ロズレイド!」
「ロズ!」
「リーフストー……ってどうしたの?」
指示を飛ばそうとした穂乃果は、テッポウオ達に歩み寄るロズレイドを見て首を傾げる。
「ロズ……ロズレイ……」
「テポッ!」
「シャー」
何かを話すロズレイド達を後ろから眺め、穂乃果の首の角度はさらに大きくなる。
「ロズッ」
何やら頷いたロズレイドは、穂乃果の元へ戻ってきた。
「何か分かったの?」
穂乃果の質問に、ロズレイドはいきなり悪そうな顔を作った。
「へ?」
それから、テッポウオ達を示し斜め上に攻撃を放った。そして、もう一度テッポウオ達を示す。その後、自分も。
「んー……? ーーあっ、もしかして、誰かにいじめられてるとか……?」
「ロズレイ!」
正解、とロズレイドは大きく頷いた。
“誰か”とは言ったが、穂乃果には何となく見当がついていた。かつてロズレイドをゲットした頃。まだ進化していないスボミーだった頃。懲らしめたあのヘンテコな格好。
「ーーバブルこうせん!」
「!」
突如、どこからか攻撃の指示が聞こえた。そして、泡の弾幕がテッポウオ達を襲った。
「テポッ……!」
「テッポウオ! サメハダー!」
穂乃果が駆け出そうとすると、
「ん? お前は……噂のお邪魔トレーナー? こんな所に……」
海からあまり聞きたくないセリフが届いた。
「やっぱりオリジン団だった!」
そこには、モーターボートに乗る、やはりヘンテコな服装をした男。横には、浮き草らしきものをかぶったポケモン。
「今度は何やってるの!」
「この辺からは、良質な鉱石が採れるんだ。その採掘さ」
「それとポケモンを攻撃するのと、関係ないじゃん!」
「コイツらが縄張りから出てけってうるさいからな。ちょっと大人しくしてもらってるだけだ」
男は、テッポウオ達を睨む。
「そっか。だから私を見て怯えてたんだ……。もー許せない!」
「ロズレイ!」
穂乃果が激昂すると、それに応えるようにロズレイドも一歩踏み出す。
「お、何だやるのか? ハスブレロ、バブルこうせん!」
「ロズレイド、フラッシュ!」
ハスブレロが攻撃を繰り出す直前にロズレイドが発した光によって、泡の弾幕はあさっての方向へ飛んでいった。
「ロズレイド、ヘドロばくだん!」
「ロズレイ!」
間髪入れず繰り出された追撃は、目が眩んでいたハスブレロに直撃。
「ハス……」
「は、ハスブレロ!」
一撃で倒れてしまった相棒に慌てたのか、
「お、おわっ⁉︎」
男はボートから落ちてしまう。盛大な水柱が上がった。
「穂乃果だって、怒ると怖いんだからね!」
「く、くそ……。こんな小娘に……!」
何とかボートに這い上がった男は、悔しげに毒付く。
「ーーやめておきなさい」
とそこへ、何者かの声が飛んだ。
「ん?」
穂乃果が振り返ると、
「あなたの実力じゃ、彼女には敵わないわ」
「ツバサさん!」
不敵な笑みを浮かべるツバサの姿が。
「な……アンタは……」
「退きなさい」
「く……分かったよ! お邪魔トレーナー! 次会ったら覚えてろよ!」
典型的な捨て台詞を残した男は、モーターボートに乗って消えて行った。
「ツバサさん……」
「久しぶりね。チェリーバ以来かしら?」
「あ、はい」
「残念だけれど、今はポケモンを連れてないのよ。バトルはまた今度ね」
出鼻をくじかれた穂乃果は、
「そうですか……」
軽くうなだれた。
「……ごめんなさいね」
不意に、ツバサが謝った。
「オリジン団、よね? あなたの行く先々で頭痛の種になっているみたいで」
「そうなんですよ! さっきのテッポウオ達もそうですけど、このロズレイドも昔いじめられてたんです!」
「あの時のロゼリアね。随分強くなったみたい」
「えへへ〜。あ、でもツバサさんが謝る事ないですよ。いつも助けてくれるじゃないですか」
「そう思ってくれるなら、嬉しいわ」
ツバサは海を眺め、
「綺麗な景色ね」
「はい。普段あんまり海って見る機会なくて……こういう所に住んでみたいなぁ、って思います」
「フォルリーフ出身だものね。確かに海は近くないわね」
「あーあははー……そうなんですよね……」
穂乃果の本音はここではない秋葉原の街の事だが、それを言葉にしても通じないとすでに学んでいる。
「……ねえ、穂乃果さん」
「?」
「あなたは、この世界をどう思う?」
「え……?」
「あなたは、私達とは違う『何か』が見えている。そんな気がするの。そんな穂乃果さんには、この世界はどう映っているのか。興味あるの」
向ける事は多くても、向けられる事はあまりない真っ直ぐな目。
「えっと……」
少し考えた穂乃果だったが、
「とってもいい世界だと思います。みんなもポケモンも、仲良くて。こんな世界もあるんだなぁ、って。……でも、やっぱり別の世界も気になります」
難しい事は分からないので、素直に答えた。
「そう。参考になったわ」
ツバサは意味深に微笑むと、
「引き止めて悪かったわね。次のバッジが最後でしょう? 頑張ってね」
踵を返した。エールを残して。
「はい!」
「また会いましょう。あなたがこのままでいるなら、近い将来会う事になると思うから。その時は、今度こそバトルしましょう」
「必ず! リベンジしてみせます!」
「ふふっ、楽しみにしてるわ。……私を、倒してみせてちょうだい」