お待たせ
ツバサと別れ、再び橋を歩いた穂乃果は、ガーデリーシティへ到着した。
「おお〜! 砂浜だ! ビーチだ!」
街そのものが小さな島になっているからか、海水浴場として遊んでいる人が大勢いた。
「穂乃果も泳ぎたい……。うわ〜んどうして水着持ってないの〜!」
悲しく叫んでみるが、だからと言って水着が現れる訳ではない。
「ーーあなた! 街の入り口で大声を出さないで下さい!」
すると、突然飛んでくる叱咤。
「海未ちゃんごめん!」
殆ど条件反射。無意識にセリフが飛び出し、背筋が伸びた。
「……何故私の名前を知ってるんです?」
それから声のした方を振り向くと、怪訝な顔で佇むロングヘアの少女。
「海未ちゃん!」
「だから何故私の名前を……っていきなり抱きつかないで下さい!」
「ホントに海未ちゃんだった!」
「何なんですかあなたは! ……ああ、あなたが穂乃果ですね? ことりから聞いてます」
「うわーん! 会いたかったよ〜! 海未ちゃ〜ん!」
「いきなり泣き出さないで下さい! 本当に何がしたいんですか!」
少女同士が抱き合っている上に一人は号泣というシュールな光景に、近くの海水浴客が奇異の視線を向ける。
「ああもう……とりあえず来て下さい!」
出会って一分で全てを持っていかれた海未は、げんなりして抱き付く穂乃果を引きずっていった。
「ーーまったく……あなたは本当にいきなりすぎます」
「あはは……ごめんね」
どこかの和室に通された穂乃果は、湯呑みを持つ海未に苦笑いを向けた。
「ところで、ここはどこ?」
キョロキョロと部屋を見回した穂乃果。
「ジムの裏ですよ」
何気なく放たれた言葉に、
「ふ〜ん。…………え?」
そのまま流しそうになる。
「ガーデリージムの裏にある、控え室のような所です。あなたは、ジムに挑戦しに来たのでしょう?」
「あ、うん。そうだけど……」
コン、と湯呑みを置いた海未が、鋭く真っ直ぐな視線を穂乃果に向ける。
「ガーデリージムリーダーとして、あなたの挑戦を歓迎します」
「…………!」
穂乃果はこの海未を知っている。何度か見た、弓道の大会で纏う雰囲気。初めて間近で感じる、幼馴染の本気。
「……うん」
穂乃果もその重圧を真っ向から受け止め、気を引き締める。
「ーーと、言いたい所なんですが」
「ほぇ?」
途端に解ける空気に、穂乃果の口から変な声が漏れた。
「それよりも先に、しなければならない事がありまして」
「しなければならない事?」
はい、と海未は立ち上がると、
「これから海岸に行きます。あなたも来ますか?」
「行く!」
即答だった。
海未について海岸に向かうと、
「あ、ジムリーダー。待ってましたよ」
桟橋に立つ男が手を振った。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。準備はできていますか?」
「ええいつでも。……そちらは?」
「ジムへの挑戦者です。今回は同行してもらいます」
「へえなるほど。じゃ、こちらへ」
クルーザーに乗り込んだ穂乃果は、エンジンがかかる音を聞きながら海未を見る。
「ねー海未ちゃん。どこに行くの?」
「すぐに分かります」
「そればっかりー!」
「少しは大人しくしていて下さい!」
叱られた穂乃果は、ショボン、と小さくなった。
「まったく……。ーー見えて来ましたよ」
「?」
穂乃果が視線を上げると、円状に繋がったブイが浮かんでいた。
「……生け簀? 養殖?」
「間違ってはないです。食べませんが」
船はブイの近くまで行くと、そこで停止した。
「……ポケモン?」
そこには、様々なポケモンが泳いでいた。のだが、
「何か……元気ないね」
動きが遅かったり、弱々しかったり、あまり健康体には見えなかった。
「最近、この辺りで傷ついたポケモンが多数発見されています。明らかに人為的なものですし、サメハダーのような縄張り争いの上位に君臨するポケモンも同じように傷ついているようです。私はそれを保護し、こうして介抱しているんです」
「それって……」
海未は薬をスプレーで噴射し、それぞれに木の実を与える。
「変に攻撃的になっているポケモンもいるようですし、一度調査をした方がいいとは思いますが……どうしたのです? 似合わない難しい顔して」
穂乃果には心当たりがあった。似合わない云々はこの際無視する。
「……ねえ海未ちゃん。私それ知ってるかもしれない」
「知ってるって……何をです?」
「ポケモン達が傷ついてる理由」
「本当ですか? それは是非、詳しい話を聞かせて下さい」
場所は戻って、ジムの控え室。
「……なるほど。オリジン団ですか」
「うん。ここに来る途中でも、それっぽい事を言ってる人と会ったし」
「噂には聞いていましたが、ポケモンをポケモンと思わない非道の集団……。この辺りでは見かけませんでしたが、どうやら活動範囲を広げているみたいですね」
「今までにも、何度かバトルしてきたんだよ。見つけるたびに酷い事してるから」
「そうだったのですか。そういえば以前、スタスカの凛からそんな連絡がありましたね。あの時はあまり気にしてませんでしたが……どうやらそうも言ってられないようですね」
海未は少し目を閉じると、
「目的が分からない以上糾弾するのは難しいですが、迷惑行為をしている事は事実ですし、注意喚起をしておきましょう。他の街にも協力してもらえば、そう簡単に悪事は働けないでしょう」
目を開いて正面に座る穂乃果を見据えた。
「恐らく、あなたが一番オリジン団について詳しいはずです。協力してもらえますか?」
「勿論だよ!」
穂乃果は机を叩いて立ち上がると、
「許せないもん! ちゃんとやめさせないと!」
ふんす、と頬を膨らませた。
「あなたは、私が思う通りの人ですね」
そんな穂乃果を見て、海未は優しく微笑む。
「それが終わったら、今度こそジムバトルを受けて立ちますからね」
「うん!」