「それでは、ガーデリージムリーダー、海未対チャレンジャー、穂乃果のバトルを始めます。ジムリーダーの使用ポケモンは四体。チャレンジャーに制限はありません。なお、チャレンジャーにのみ交換が認められます」
持ち前のカリスマとリーダーシップを発揮し、穂乃果と海未は数多くの人にオリジン団について注意を呼び掛けた。
そうしてジムに戻ってきた二人は、今フィールドを挟んで向かい合っている。
「最後のバッジなんですね? ならば、あなたの本気を私にぶつけて下さい。私も全身全霊を持って、それに応えます」
再び変わる雰囲気。目を凝らせば、空気が陽炎のように揺らめいて見えそうなほどである。
「……穂乃果はいつだって全力だよ。そうやって走り続けてきたんだもん!」
「そんな気がします」
海未はフッ、と笑うと、
「ーーアバゴーラ、お願いします!」
「クアッ!」
最初のボールを投げた。
「水と岩タイプか……。やっぱり海未ちゃんは、水タイプの使い手かな。ーーこっちも最初から全力で行くよ! ロズレイド!」
「レイッ!」
「草タイプ、ですか」
「うん! 水タイプも今ひとつだしね! ことりちゃんとのバトルでも大活躍だったもん!」
「だからと言って、ここでも同じとは限りませんよ。ーーアクアジェット!」
「クアッ!」
水を纏ったアバゴーラは、目にも止まらぬ速さで突貫した。
「速い……!」
「ロズッ……!」
「……やはり、今ひとつでは大したダメージは望めませんね」
少し押し返されただけにとどまったロズレイドは、
「離れられる前に行くよ! リーフストーム!」
「ロズレイッ!」
繰り出された若草の嵐に、アバゴーラは直撃を許してしまう。
「一瞬の隙も逃さない……。なるほど。これは強敵ですね」
多大なダメージを受けたアバゴーラを見ても、海未の余裕は消えない。
「流石に一撃は無理か……。でも、相性は有利だしこのまま押し切るよ!」
勢いよく拳を突き出す穂乃果。
「……そう、させると思いますか?」
あくまで静かな海未に、穂乃果は一抹の不安を覚える。
「アバゴーラ、からをやぶる!」
「クアーッ!」
「仕掛けて来る……! ロズレイド、リーフストーム!」
「ロズレイッ!」
「避けなさい」
猛スピードで肉薄する攻撃を、アバゴーラは余裕を持って回避する。
「そんな……!」
「アバゴーラ、れいとうビーム!」
「氷タイプ……⁉︎ ロズレイド、ヘドロばくだん!」
「クアーッ!」
「ロズッ!」
何とか間に合ったロズレイドの攻撃はしかし、相殺し切れず吹き飛ばされてしまう。
「凄い威力……! これがさっきの技のおかげなの……?」
「からをやぶるは、耐久力を下げてしまう代わりにそれを補って余るパワーとスピードを上昇させる技です。それに、アバゴーラの特性は《がんじょう》。どんな強力な攻撃でも、一撃では倒れません」
「そっか……。だから不利な相性でも平気だったんだ」
「さあ、お喋りはここまでです! れいとうビーム!」
「ロズレイド、フラッシュ!」
「レ……ロズ……ッ!」
ロズレイドが技を発動する前に、アバゴーラの攻撃が届く。
「くっ……、これじゃ目くらましは間に合わない……!」
かつてことり戦で同じ素早い相手にした戦法が通じず、穂乃果は歯噛みする。
「迷ってる暇はありませんよ。アクアジェット!」
「クアーッ!」
「しまっ……!」
先ほど以上のスピードで突っ込んできたアバゴーラは、ロズレイドに激突するとそのまま吹き飛ばした。
「ロズレイド!」
「ロズレイド、戦闘不能! アバゴーラの勝ち!」
「そ、そんな……ロズレイドがこんな簡単に負けちゃうなんて……」
改めて、海未の強さに愕然とする穂乃果。
「もうおしまいですか? 闘志が消えたならここまでにしますが?」
「……まさか! こんなに強い海未ちゃんとバトルできて、穂乃果最っ高に楽しいよ!」
その目に宿る光は、太陽のように輝く炎。
「……そうでしょうね。そうこなくては!」
「まだまだこれからだよ! ロトム!」
「ウィッ!」
「水タイプのロトムですか。確かに、アバゴーラでは弱点が突けませんね」
「……頑張るよ、ロトム」
穂乃果には分かっていた。
「……それで万策尽きたとは、言いませんが」
この幼馴染が、単純な相性で倒せる相手ではない事は。
「アバゴーラ、いわなだれ!」
「クアッ!」
突如頭上から出現した岩石が、ロトムに降り注いだ。
「やっぱり速い……! でも……ロトム、ほうでん!」
穂乃果の指示はしかし、
「ウィッ……!」
「ひるみ⁉︎」
「言い忘れてましたが、いわなだれには相手を怯ませる効果があります。ーーさあ、動く暇を与えませんよ! アバゴーラ、れいとうビーム!」
アバゴーラの放った超低温の光線は、
「ロトム、ハイドロポンプ!」
ロトムの高圧水流を一瞬で凍りつかせる。
「アクアジェット!」
ロトムの攻撃が止まった瞬間、アバゴーラが突っ込んでくる。
「ウィィ……ッ!」
「いわなだれ!」
再度ロトムに、岩石が降り注ぐ。
「ぐっ……!」
「さあ、もう一度いわなだれ!」
「負けるな! ロトム! 絶対勝てる!」
海未の指示を、アバゴーラの攻撃を遮るように、穂乃果が叫んだ。
「ウィィィィーッ!」
「なっ……⁉︎」
それに応えるように、ロトムから電撃が迸った。
「クア……」
「アバゴーラ、戦闘不能! ロトムの勝ち!」
反応すらできなかったアバゴーラは、フィールドに倒れた。
「まさか、気合いで乗り切るとは……。いえ、それが穂乃果の強みなんですね。ポケモンを心から信頼しているからこそできる、呼び掛けるだけの攻撃……。やはり一筋縄ではいかないようです」
対して、海未の顔に浮かぶのは微笑み。楽しそうな様子が伝わってきた。
「まだ一体……。絶対に負けない……!」
穂乃果の握る拳に、力がこもる。
「では、私の二体目ですね。お願いします、トリトドン!」
「トリ!」
フィールドに鎮座したポケモンを、穂乃果は確認する。
「水と、地面タイプ……? 電気タイプが効かないって事……?」
「トリトドンなら、ロトムのアドバンテージを無効化できます」
「ロトムは電気タイプだけじゃないもん! ハイドロポンプ!」
「ウィーッ!」
「……ふふっ」
「えっ……?」
撃ち出された超威力の高圧水流は、トリトドンの前で急激に勢いを失うと、そのまま吸収されてしまった。
「トリーッ!」
そして、トリトドンの目つきが変わる。
「な、何で……⁉︎」
「トリトドンの特性は《よびみず》。水タイプの技を吸収し、自らをパワーアップさせるんです」
「そ、そんな……」
明らかに先ほどと違うオーラを放つトリトドンに、
「ロトムじゃ不利すぎる……。一旦戻って!」
穂乃果はロトムをボールに戻した。
「お願い! ムクホーク!」
「ホーク!」
「なるほど。賢明な判断だと思います」
「ムクホーク、ブレイブバード!」
ムクホークの全力の一撃。それは確かにトリトドンを捉えたのだが、
「そんな攻撃では、私のトリトドンは倒せませんよ」
トリトドンは余裕を持って耐え切る。
「トリトドン、ねっとう!」
攻撃を終え上昇するムクホークの背後から、トリトドンの熱線が襲う。
「ホーク⁉︎」
「やっぱり威力が上がってる……。ムクホーク、大丈夫?」
「ホーク。…………ッ⁉︎」
急に、ムクホークの動きが鈍った。
「えっ……やけど……? 何で⁉︎」
「ねっとうは、攻撃した相手をやけど状態にする事があります。水タイプでも、こういう事ができるんですよ?」
得意げな海未。
「さあ、これで物理攻撃の高いムクホークの脅威は薄れました。ここからどうす……」
「ふっふっふ……」
「……?」
それを遮るように、穂乃果が笑いを漏らした。
「やけどには、希ちゃんに散々苦しめられたからね……。色んな人にアドバイスを貰ったんだよ」
穂乃果の瞳が、鋭い光を放った。
「ムクホーク、からげんき!」
「ホーク!」
「なっ……⁉︎」
トリトドンに衝突するムクホーク。そのダメージは軽減するどころか、逆に増えて見える。
「からげんきは、状態異常の時に威力が上がる技……。あなたなりに、対策を講じていたのですね……」
「ムクホーク、ゴッドバード!」
「! それはことりの……!」
「ホーク……!」
力を溜めるムクホーク。
「行っけぇぇぇ!」
穂乃果の合図と同時に、ムクホークは弾き出されるように突貫する。
「くっ……! まだです!」
甚大なダメージを受けつつ、何とか持ち堪えるトリトドン。
「ねっとう!」
「と、トリ……!」
しかしトリトドンは、震えて動けない。
「! 怯み……⁉︎」
「今だ! ムクホーク、からげんき!」
「ホーーーーク!」
衝突音。思わず海未が顔を庇うと、
「トリトドン、戦闘不能! ムクホークの勝ち!」
審判の旗が振られた。
「……お疲れ様です、トリトドン。まさか、やけどが仇になるとは思いませんでしたよ」
少しだけ呆れたような、賞賛する顔。
「えへへ。まさか、本当に役に立つなんて思わなかったよ」
一瞬緊張感を忘れ、照れるように頭を掻く穂乃果。
「……ですが、まだバトルは終わっていません。これまで以上に全力を以って、私はあなたに勝ちます」
再び戻る、鋭い眼光。
「……望む所だよ。穂乃果だって負けない!」