海未は三つ目のボールを掴む。
「さあ、まだまだ行きますよ。ーーお願いします、ミロカロス!」
「ミロ!」
「また、凄く強そうなのが……!」
トリトドンを撃破した喜び一転、穂乃果はグッ、と気持ちを引き締める。
「でも、動きは速くなさそう……。それなら! ムクホーク、からげんき!」
再び攻撃を続けるムクホーク。
「くっ……ミロカロス、あなたの耐久力なら、この程度では倒れないはずです!」
「ミロ!」
「ゴッドバード!」
「ホーク……!」
力を溜めるムクホーク。
「今です! こごえるかぜ!」
「!」
ミロカロスから、広範囲に向けて霜のような冷気が放たれた。
それは攻撃態勢に入った瞬間の、ムクホークにも届く。
「ホーク⁉︎」
「何……⁉︎ でも、とにかく突っ込めー!」
一瞬遅れたムクホークだが、先ほどと同じように猛スピードで突進を開始する。
「やはり、まだ速いですね……!」
衝突。爆風。
「効いたはず……!」
穂乃果は爆心地を確認する。
「ミロ!」
「くぅ……! 耐えられた……!」
「ミロカロス、もう一度こごえるかぜ!」
再度襲い掛かる冷気。
「ムクホーク、躱して!」
「ホー……クッ⁉︎」
ムクホークが急降下しようとした瞬間、羽ばたきが鈍る。
「やはり、やけどのダメージは誤魔化し切れないようですね」
海未の声と共に、ムクホークは白く包まれた。
「ムクホーク!」
「さあ、これでムクホーク自慢のスピードも消えました! ミロカロス、なみのり!」
「ミロー!」
ミロカロスに呼ばれるように、巨大な波が出現。
「ムクホーク、避け……!」
スピードが奪われた上に、逃げ場のない広範囲攻撃。ムクホークはなす術なく大波に飲まれた。
「ムクホーク、戦闘不能! ミロカロスの勝ち!」
「あぅ……お疲れムクホーク。ゆっくり休んでね」
ムクホークをボールに戻し、穂乃果はミロカロスを見据える。
「あのミロカロス、強い……。耐久力もそうだけど、海未ちゃんの指示が的確なんだ……。長引くと海未ちゃんのペースに持ってかれそう……。ーーだったら、そうなる前に倒す!」
穂乃果は気持ちを表すように、ボールを強く放る。
「ロトム、ファイトだよっ!」
「ウィィ!」
「やはりロトムですか。ですが!ミロカロスの耐久力を甘く見ない方がいいですよ?」
「分かってる。だからこそ、ロトムで倒す!」
「やってみなさい。こごえるかぜ!」
「ハイドロポンプ!」
白い冷気は高圧水流に纏わりつくと、その表面を凍らせる。相殺こそできなかったが、その勢いはかなり落ちる。
「それで充分です! りゅうのはどう!」
「ミロー!」
勢いが鈍り表面が凍結した水流に、ミロカロスの光線がぶつかる。それは水流をアッサリ砕き散らすと、ロトムへ肉薄する。
「ほうでん!」
直撃する瞬間に電撃を放ったロトムだったが、僅かに威力を散らす程度だった。
「ロトム、大丈夫⁉︎」
大部分のダメージを受けたロトム。
「ウィィ……!」
健気に構えるが、最早その動きの鈍りは隠せない。
「やっぱり、今までのダメージが残ってる……。多少強引でも、思い切って攻めた方が良さそう……!」
「何を考えてるかは知りませんが、その消耗したロトムでどこまで闘えますか?」
「最後までだよ!」
「ウィッ!」
「……そう答えると思いました!」
劣勢ながらも、キラキラした笑顔の穂乃果。釣られて海未も、口元に笑みを浮かべる。
「ロトム、おにび!」
「ウィィ!」
青白い炎が、ミロカロスに飛来する。
「状態異常でジワジワ削る作戦ですか? そうは行きません! ミロカロス、なみのり!」
「ミロー!」
ミロカロスが起こした大波は、炎を飲み込み消火してしまう。
「あなたの思い通りにはーー」
海未の声は、波が崩れ切った所で途絶えた。
「ロトムがいない……⁉︎」
つい先ほどまでそこにいたはずのロトムの姿が、消えていた。
「どこに…………っ⁉︎」
その時、海未は見た。ミロカロスの背後。ちょうど自分とミロカロスの間に滑り込んできた影を。
「ミロカロス、後ろで……」
「ほうでん!」
「ウィィィィーッ!」
指示間に合わず。超至近距離で放たれた電撃は、ミロカロスを襲う。
「み、ミロ……ッ!」
「そのまま押し切れーーーーっ!」
「ウィィィィーッ!」
さらに強くなる電撃。
「諦めてはなりません! ミロカロス!」
海未は知らず知らずの内に、両手を握り締めていた。
「ミラーコート!」
「ミロ……! ミローッ!」
凄まじい衝撃。爆風と砂塵が舞い上がり、状況が見えなくなる。
「ロトム!」
穂乃果がその名を呼ぶが、
「ウィィィ……」
見えたのは、フィールドに倒れるロトムの姿だった。
「そ、そんな……」
穂乃果が肩を落とすと、
「ミロ……」
ミロカロスが首を持ち上げる。が、
「ミ、ロ…………」
一瞬不安定に揺れたかと思うと、地面に横たわった。
「ミロカロス、ロトム、共に戦闘不能! よって両者相打ち!」
審判の旗が、両方振られる。
「……やはり、ダメージが深刻すぎましたか……。よく頑張りました。ゆっくり休んで下さい」
海未は長く息を吐き出すと、ミロカロスをボールに戻した。
「ーーおにびは囮だったわけですか。なみのりを目くらましに利用されるなんて、思いませんでしたよ。一杯食わされました」
「海未ちゃんこそ。まさかあそこから反撃してくるなんて思わなかったよ」
「ええ。ミロカロスが頑張ってくれました」
「お互いのポケモンを信じた結果だね!」
「ええ、そうですね」
誰もいないフィールドの端と端で、二人は笑い合う。
「……さて、私の最後のポケモンです。だからと言って、負けるつもりは毛頭ありません。少しでも気を抜いたら、全力で畳み掛けますよ?」
「穂乃果はいつだって全力だよ! どんな相手でも、絶対に負けない!」
「では、その心意気を見せて下さい! 行きます、ギャラドス!」
「ギャオ!」
「ダグトリオ、お願い!」
「ダグ!」
穂乃果の繰り出したポケモンを見て、海未は少し意外な顔をする。
「ほう、ダグトリオですか。ギャラドスには飛行タイプがあります。地面技は効きませんよ?」
「うん、今確認した」
ポケモン図鑑をしまい、いけしゃあしゃあと言い放った穂乃果に海未は呆れて肩を落とす。
「どうして今知ったんです……。ここまで素晴らしいバトルをしてきたのに、台無しじゃないですか……」
「い、いや〜……、ポケモンって難しいねぇ……」
穂乃果もバツが悪そうに頭をかく。
「……まあいいでしょう。その程度で負けに繋がるあなたではないと思いますし」
フゥ、と息を吐く海未。下を向き目を閉じ、そしてゆっくり開ける。
「ーーさあ行きます!」