「ギャラドス、アクアテール!」
「ギャオ!」
ギャラドスの立派な尾が、ダグトリオに迫る。
「あなをほるで避けて!」
「ダグ!」
間一髪。ダグトリオが地面に潜った直後にその場所が叩かれた。
「逃げられましたか……。しかし、その攻撃は当たりませんよ?」
「ふふ、それはどうかな?」
「……?」
意味深な穂乃果の顔に、海未は怪訝な顔をする。
「ダグトリオ、ストーンエッジ!」
ギャラドスの真下。そこから礫の大群が地面を突き破って飛び出した。
「ギャオ⁉︎」
「よしっ、決まった!」
かつてことりとのバトルで活用した戦法。通用する事に穂乃果は手応えを感じた。
「……なるほど。地面に潜ったのはあくまで攻撃を躱すため、というわけですか」
納得した、という程度の表情をする海未。
「ギャオォ!」
「うそっ⁉︎ あまり効いてない⁉︎ 弱点だよ⁉︎」
元気に吠えるギャラドスに、穂乃果は驚愕する。
「ミロカロスほどではありませんが、ギャラドスも耐久力のあるポケモン。それに、ギャラドスの特性は《いかく》。攻撃の下がったダグトリオでは、いくら弱点を突かれたと言えど簡単には倒れません」
「くっ……、ムクホークと同じ特性か……。でも、ダメージは絶対に入ってる。素早さが勝ってるなら、押し切れる!」
穂乃果は再度、指示を飛ばす。
「ダグトリオ、あなをほる!」
勢いよく地面に潜ったダグトリオは、見えなくなる。
「ふっ……いつまでもギャラドスに素早さで勝てると、思わない事ですね」
「……? ギャラドスも、ミロカロスみたいに素早さを下げてくる技があるのかな……? でも、攻撃は当たらないし……」
警戒はするが、具体的な内容までは判断ができない。
「ギャラドス、りゅうのまい!」
「ギャオォォォォォ……!」
「っ⁉︎」
ギャラドスはその場で、激しく巨躯を踊らせる。
「あれは良くない気がする……! ダグトリオ、今の内に攻めるよ! ストーンエッジ!」
「ダグ!」
地面から強襲した礫はギャラドスを捉えるが、
「ギャオォ!」
「耐えられた……! やっぱり威力が下がってる……!」
「速いですね、そのダグトリオ……」
「攻撃される前に畳み掛けるよ! ストーンエッジ!」
「そう何度も食らいませんよ! ギャラドス、とびはねる!」
「えっ⁉︎」
ギャラドスは俊敏な動きで跳び上がり、誰もいない場所を三度目の礫が通過した。
「さあ、今です!」
海未の指示に沿って、ギャラドスが頭上から降ってくる。
「ダグトリオ、大丈夫⁉︎」
「ダグ!」
気丈に前を睨むダグトリオだが、
「凄い威力……。さっきので攻撃力が上がってるんだ……」
そのダメージは深刻に見える。さらに、
「ダ……ダグ……⁉︎」
ダグトリオの動きが不自然に鈍る。
「え……これって、麻痺⁉︎」
「とびはねるには、相手を麻痺させる事があります。勿論、確定ではないですが」
「ぐぐぐ……麻痺って確か、素早さが下がっちゃうんじゃないっけ……」
「さあ今です! ギャラドス、アクアテール!」
「ギャオォォォッ!」
「ダグトリオ、避けーー」
穂乃果の掛け声終わらぬ内に、ギャラドスは尾から強烈な一撃を叩き込んでいた。
「ダグ……」
「ダグトリオ、戦闘不能! ギャラドスの勝ち!」
「うぅ……お疲れダグトリオ。よく頑張ったね」
ダグトリオをボールに戻し、穂乃果は佇む相手を見据える。
「海未ちゃんの最後のポケモンだけある……。やっぱり、簡単には行かないなぁ……。流石海未ちゃん」
穂乃果は次のボールを掴む。五個目の、即ち、
「最後の、ポケモン……!」
無意識に入った力を、深呼吸と共に抜く。
「……行くよ。リザードン!」
「グオォ!」
「炎タイプ、ですか。不利な相性ですね」
「かもしれない……。でも、それだけで決まるポケモンバトルじゃないでしょ? 海未ちゃんだって」
「……そうでしたね」
海未はクスリと笑うと、
「決して油断も手加減もしません! 最後まで全力で相手します!」
「穂乃果もだよ!」
二人は同時に、指示を飛ばす。
「アクアテール!」
「フレアドライブ!」
飛び出したお互いのポケモンは、フィールドの中央で激しく交錯する。
「ギャオォ……!」
「グオォォ……!」
衝撃で後退するギャラドスとリザードン。だが、リザードンの方が距離が長い。
「……やっぱり、相性が不利なんだ……。それに、ギャラドス自体の攻撃力が上がってるから……」
「上がったのは攻撃力だけじゃありませんよ! ギャラドス、アクアテール!」
「ギャオ!」
ギャラドスは俊敏な動きでリザードンに肉薄すると、強烈な一撃を見舞う。
「グォッ⁉︎」
「リザードン、大丈夫⁉︎」
果敢に立ち上がるリザードンだが、その動きは鈍り始める。
「さっきの技、素早さも上げるのか……! リザードン、かえんほうしゃ!」
「はかいこうせん!」
ぶつかり合う攻撃。ギャラドスが一拍遅れたにも関わらず、相殺されてしまう。
「はがねのつばさ!」
一瞬の隙を突いてリザードンが仕掛けるも、
「ギャオ!」
ギャラドスは倒れない。
「強い……! これが海未ちゃんの本気なんだ……!」
「感心している暇はありませんよ! もう一度アクアテール!」
「フレアドライブで迎え撃って!」
炎を纏ったリザードン。
「ギャオ……ギャオォ!」
「グォッ……!」
しかし、押し返されてしまう。
「ぐぅ……っ!」
ギッ、と歯を噛み締める穂乃果。
「リザードンの動き、大分鈍ってきましたね。……どうやらここまでですか。不利な相性ながら、善戦したと思いますよ」
海未は軽く息を吐く。
「ーーまだだよ! まだ負けてない!」
そんな言葉を振り払うように、穂乃果は声を上げる。
「絶対に諦めない! いつだって最後まで全力! ずっとそうやって……頑張ってきたんだから!」
穂乃果は力強く拳を握り締める。“あの頃”から、一度も揺るがなかった想い。
「絶対に勝つ!」
穂乃果の声に呼応するように、
「グオォォォォォーーーーッ!」
リザードンが猛々しく咆哮を上げた。
「っ! これは……もうか⁉︎」
「突っ込め! フレアドライブ!」
「グオォォォォォッ!」
激しい炎をその身に纏い、リザードンはギャラドスへ突貫する。
「その心意気、あっぱれです。ならば、私もそれに応えましょう。ーーアクアテール!」
「ギャオォ!」
再び、中央でせめぎ合う二体。
先ほどは押し負けたリザードンだったが、今度は拮抗し、その場でぶつけ続ける。
「確かに威力が上がってますね……! ですが、相殺するのが精一杯のようですね」
「……まだまだ! まだまだだよ! 私達の全力の全力! それをぶつけるんだ!」
穂乃果がそう叫んだ瞬間、穂乃果の背負ったバッグがまばゆい光を放った。そしてその光は、リザードンからも。
「なっ……⁉︎ 何ですか……⁉︎」
海未は目を見開いたが、穂乃果はそれすら気にせず、
「行っけぇぇぇぇぇぇぇっ! ーーげきりんっ!」
全力で叫んだ。
「グオォォォォォーーッ!」
炎と光に包まれたリザードンは、凄まじい打撃の応酬を眼前のギャラドスに放った。
爆音。衝撃。爆風。砂塵が巻き上げられ、全てがスモークに包まれた。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
全てを出し切った穂乃果は、砂埃が収まるのを見守る。
「…………」
同じように、海未も静かに結果を見届ける。
そこには、
「ギャラドス、戦闘不能! リザードンの勝ち! よって勝者、チャレンジャー、穂乃果!」
地面にのびるギャラドスと、それを見下ろすリザードンの姿。
「か、勝った……」
緊張が解けたのか、穂乃果はペタンと座り込んでしまう。
「ふー…………。負けてしまいましたか。……逆境を跳ね返そうとする強い心。私に足りない物、バトルの敗因かもしれませんね」
どこか晴れ晴れした表情の海未は、穂乃果に歩み寄る。
「おめでとうございます。……大丈夫ですか?」
「ふえぇ……疲れたよぉ……」
「……まったく。勝ったのですからシャキッとして下さい」
海未は呆れて、手を指し伸ばす。
「……うん。ありがとう」
穂乃果はその手を掴んで、立ち上がった。