「それでは穂乃果、これを」
海未が差し出したバッジを、穂乃果は受け取る。
「それが、ガーデリージム認定の証、アローバッジです」
「これが………」
「それとこれも」
海未はもう一つ、技マシンを手渡してきた。
「技マシンの中身は、〈アクアテール〉。特殊な効果はありませんが、その分威力には期待できますよ」
「ありがとう、海未ちゃん」
穂乃果は技マシンをしまうと、改めてバッジケースを眺める。
「八つのバッジを集めたのですね」
「……うん」
「ならば、ポケモンリーグへの挑戦権を得たという事です。どうしますか?」
訊ねる海未。しかし、その顔には笑みが浮かんでいる。
「もちろん、挑戦するよ!」
「そう言うと思いました。分かってましたよ」
「えー⁉︎ だったら訊かなくてもいいじゃん!」
頬を膨らませる穂乃果に、
「覚悟を見ておきたかったんです。許して下さい」
海未はその頬を指でつつく。
プスー、と空気を吐き出した穂乃果は、
「むー」
不満顔で再度頬を膨らませた。
穂乃果と海未がジムから出ると、
「穂乃果ちゃん! 海未ちゃん!」
フワフワした声が響いた。
「ことりちゃん!」
ことりの姿を確認した穂乃果は、勢いよくハグする。
「何故私まで⁉︎」
横にいた海未も巻き添え。
ひとしきりハグを終えた後、
「穂乃果ちゃんと海未ちゃんのバトルが気になって、急いで来ちゃった」
ことりは笑顔で後ろに視線を送る。
そこには、小型のヘリが鎮座していた。
「ヘリで来たんですか⁉︎」
「うん♪」
「…………」
言葉を失う海未。一方穂乃果は、
「へーこれがヘリコプターかぁ〜。こんなに近くで見るのは初めてだなぁ〜。カッコいいね!」
マイペースに感動していた。
「まったく……いくら空港があるからといって……」
「でも、穂乃果ちゃんを送るのにもちょうどいいかな、って思って」
「へ? 穂乃果?」
唐突に話を振られて、穂乃果は自分を指差す。
「バッジ、全部集まったんでしょ?」
「何で分かったの? 穂乃果も海未ちゃんも、まだ言ってないよね?」
驚く二人に、ことりは笑顔で答える。
「だって海未ちゃんが凄く嬉しそうなんだもん。それって多分、穂乃果ちゃんが勝ったからじゃないかな」
「わ、私、そんなにだらしない顔してましたか⁉︎」
「だらしなくなんかないよ。可愛い顔してるなぁ、って思ってただけだから♪」
「かわっ……⁉︎」
顔を押さえて明後日の方向を向く海未に、ことりはひたすらニコニコ笑顔をぶつける。
「それでことりちゃん、穂乃果がバッジ揃えたのと、ことりちゃんのヘリがどう関係するの?」
「あなたは話を聞いていたのですか⁉︎」
先に応えたのは海未。
「怒らないでよぉ〜!」
「ま、まあまあ」
海未をなだめたことりは、
「分かってるとは思うけど、バッジを八個集めた穂乃果ちゃんは、ポケモンリーグへの挑戦権を得たの。それで、ポケモンリーグへ行くにはガジアスシティまで行かないといけないから」
「あっ! 絵里ちゃんが言ってたヤツだ!」
「うん♪ 歩くと結構大変だから、これで送ってあげる」
「ホントに⁉︎ ありがとうことりちゃん! 大好き!」
再び抱きつく穂乃果。
「海未ちゃんも、来るでしょ?」
「行きます。我々に勝った穂乃果が、ポケモンリーグへ挑戦する。その門出はぜひとも見送りたいですね」
「じゃあ出発! 行こうガジアスシティへ!」
ガジアスシティ上空へやってきた穂乃果達は、眼下で手を振る金髪の人影を見つけた。
「ぅ絵里ちゃんだ!」
「私から連絡しておきました。絵里も待ち望んでいたようですよ」
よく見ると、絵里以外の人影も多数見える。
「久しぶりね、穂乃果」
ヘリから降りると、絵里が口を開いた。
「まさか本当に、バッジ八個集めるなんてね」
「信じてなかったの〜⁉︎」
「こんなに早く、って意味よ」
絵里は微笑むと、穂乃果の頭を撫でる。
「穂乃果ちゃん! ついにポケモンリーグに挑戦するんだね!」
「やっぱり凄いなぁ……」
凛と花陽が、ピョンピョン跳ねながら穂乃果の手を取る。
「ま、穂乃果ならやると思ってたけど」
「そんな事言って〜。ずっとソワソワしてたのは誰かしら〜?」
「にこちゃんよ」
「にこぉ⁉︎」
真姫とにこは、誰と会話しているのか分からないが賞賛してくれたのは伝わった。
「いや〜穂乃果ちゃんもポケモンリーグかー。何だか立派になったやんなぁ」
希はマイペースに、のほほんと眺める。
「みんな……ありがとう!」
そして、
「ジム制覇おめでとう、穂乃果ちゃん」
「シロナさん」
シロナはニッコリ笑うと、モンスターボールを一つ取り出した。
「はい、約束よ」
「え、あ!」
穂乃果は一瞬首を捻ると、すぐに思い出した。
「ありがとうございます!」
ボールを受け取り、空高く放る。
「出てきて!」
「ーーワフッ!」
「……あれ?」
ボールから現れたその姿に、穂乃果は目を丸くする。
「ハーデリ……ア?」
「うふふ、違うのよ、穂乃果ちゃん。それはムーランド。ハーデリアの進化系よ」
「進化系⁉︎ 進化したって事ですか⁉︎」
「ええそうよ。言ったでしょう? 驚く準備が必要だ、って」
「そうなんだ……。びっくりしちゃった。ーーそれじゃあよろしくね、ムーランド!」
「ワフッ!」
穂乃果はムーランドの頭を撫でる。
「実はそのムーランドには、もう一つびっくりする事があるけど……」
「えっ、まだあるんですか⁉︎」
「ええ。私も知らなかった事なんだけど、それは実際に自分で確かめた方がいいかもね」
答えを期待しつつお預けを食らった穂乃果は、少なからず肩を落とした。が、すぐに立ち直る。
「よぉし! 何かは分からないけど、ポケモンリーグへの弾みになったよ! やるったらやる!」
穂乃果は拳を突き上げ、空を仰いだ。
「それじゃあ、いいかしら? ポケモンリーグへ、そしてその挑戦者を待ち受けるチャンピオンロードへ案内するわ」
絵里が一歩進みでると、穂乃果は大きく頷いた。
そんな時だった。爆発音が鳴り響いたのは。
「っ⁉︎ 何⁉︎」
大地を揺るがす衝撃に、その場にいた全員がよろめいた。
「じ、地震⁉︎」
「いえ、この辺りで地震が起きたとは聞いた事がないです!」
「じゃあ何なのよ!」
「今の音……ニュルドビレッジの方からだよ!」
「まさか、何かあったんじゃ……」
「…………っ!」
脚が動くようになった瞬間に、穂乃果は駆け出していた。
「穂乃果!」
何か猛烈に、嫌な予感がしていた。