スタスカシティを出発した穂乃果は、すぐにスモーファウンフォレストに入った。
「えーっと何々……?」
入り口の看板を読むと、『スモーファウンタウンへ行く人は、真っすぐ。ポケモントレーナーは、探索』と書かれている。
「穂乃果はポケモントレーナーだから、真っすぐ行かない方がいいのかな?」
一瞬悩んだ穂乃果だったが、
「うん、そうしよう!」
森の脇道へと進んだ。
そしてすぐに、若干後悔した。
まず、草むらの背がかなり高い。穂乃果の腰辺りまであり、しかもいたる所に深そうな池が点在している。
「歩きにくいなぁ……。これ、ポケモン見つかるのかな」
それでもガサガサ進んでいると、
「──ん?」
「ボミ?」
少しだけ開けた場所に、スボミーがいた。穂乃果と目があった。
「ポケモン発見!」
穂乃果が表情を輝かせるのと、
「…………!」
スボミーが逃げ出すのは同時だった。
「あぁ待って!」
穂乃果も慌てて追い掛ける。草に紛れて見失わないように、必死に掻き分ける。
「ボミッ、ボミッ、ボミッ……!」
短い足を必死に動かすスボミー。背の高い草が無ければ、速効で追い付かれていただろう。
「草が邪魔だなぁ……。──そうだ! ムックル、空から探して!」
「キュキュ!」
ほどなくして、穂乃果はスボミーを見失ってしまった。
「どこ行っちゃったんだろ……。せめて図鑑に登録したいんだけど……」
草を掻き分けていると、
「キュキュ!」
「ムックル! 見つかった?」
「キュキュ! キュキュキュ!」
だが、様子が少しおかしい。何やら慌てた様子で、忙しなく飛び回る。
「どうしたの?」
訊いてみたが、答えが返ってくる事もなく。ムックルは前方へ飛んでいってしまった。
「一体どうしたんだろう……?」
首を傾げながらも、とにかくムックルを追い掛ける穂乃果。
ようやくムックルが旋回する場所へ辿り着くと、
「──あっ!」
「ボミ……!」
スボミーが網に絡まってもがいていた。
「どうしてこんな所に……?」
疑問に思った穂乃果だったが、ひとまず網を解きにかかる。が、
「ダメ……」
造りが頑丈なのか、穂乃果の力では解けそうにない。
「よーし……。ちょっと怖いかもしれないけど、すぐ自由にしてあげるから!」
穂乃果はムックルを戻すと、別のボールを掴む。
「ヒトカゲ、ひっかく!」
「カゲ!」
ヒトカゲのツメが、頑丈な網をバラバラにする。だが、少なからずスボミーにも当たってしまった。すぐには起き上がれないスボミーに、
「大丈夫? これで元気になるからね!」
穂乃果は“キズぐすり”を使ってやる。
「ボミ……?」
ダメージが回復したスボミーは、不思議そうに穂乃果を見上げる。
「よしよし」
穂乃果がスボミーを撫でていると、
「ポケモンは捕まって……誰だお前?」
「っ?」
振り返ったそこには、例の奇抜な格好。
「そのスボミー……お前が逃がしたのか?」
「あ! えっと……。お……お……お……リジン団!」
「何でオレらを知ってんだ?」
「だってスタスカシティで邪魔してたもん!」
「ああ! お前が例のお邪魔虫か!」
「む……邪魔したのはそっちじゃん!」
「我々には必要な事だったんだ! ──邪魔するなら、ちょっと諦めてもらうか! コイル!」
「ヒトカゲ、ひのこ!」
「ビー、ピー……」
相性抜群の一撃が入り、呆気なく落下するコイル。
「ぐっ……、思ったより強い……」
「カゲ!」
「ヒトカゲか……。ふん、ならさっき捕まえたコイツだ!」
オリジン団の下っぱが新しく投げたボールから出てきたのは、
「パー!」
「あれは……?」
穂乃果がポケモン図鑑を確認する。
「ウパー……。水タイプ……」
「ウパー! あわ!」
「パー!」
「カゲッ……!?」
「ヒトカゲ!」
直撃を受けたヒトカゲはかなり深刻なダメージと見られ、しかもその泡がまとわりついて動きが阻害されている。
「よし! トドメだウパー!」
「このままじゃヒトカゲが……」
引っ込めようかとボールを穂乃果が掴んだ瞬間、
「パ……!?」
ウパーの体力が、どこかへ吸い取られていく。
「なっ……!」
「これって……すいとる!? じゃあ……」
「ボミー!」
「スボミー!」
穂乃果に回復してもらったスボミーが、ウパーに向かって攻撃を繰り出している。
「水タイプに草タイプは効果抜群……。スボミー、闘ってくれるの?」
「ボミー!」
「よーし! スボミー、すいとる!」
相性抜群の二撃目が入り、たまらずウパーはダウン。
「ぐ……! 野生ポケモンが協力するとか、そんなのアリかよ……」
悔しそうに呟きながら、下っぱは姿を消した。
「ふぅ……。何とか勝てたね……。ヒトカゲもお疲れさま」
「カゲッ」
ヒトカゲをボールに戻し、穂乃果はスボミーに向き直った。
「スボミー、ありがとね」
「ボミ」
スボミーは、じっと穂乃果を見上げる。
「……もしかして、一緒に行きたいの?」
「ボミ!」
スボミーの表情が一気に明るくなった。その場で飛び跳ねる。
「じゃあ……はいこれ」
穂乃果が差し出したモンスターボールに、スボミーは自分から触れる。
スボミーが吸い込まれたボールは、一切の抵抗なくカチッと制止した。
穂乃果はそのボールを拾い上げ、優しく手で包む。
「よろしくね、スボミー」
ようやく森を抜けた穂乃果は、スモーファウンタウンに到着。ひとまずポケモンセンターへ向かった。
「はい、皆元気になりましたよ」
「ありがとうございますジョーイさん!」
ポケモンセンターを出た穂乃果は、即座にジムに向かう。
スタスカジムと違い、プランターに植物が植えてある。
「おお、何か花陽ちゃんぽい! ごめんくださーい。花陽ちゃーん!」
声をかけつつ、穂乃果は扉に力をかける。
「……あれ? 開かない?」
が、扉は微動だにしない。
「ぐぬぬ……!」
押したり引いたりするが、開く気配は無い。
「いないのかな……。どうしよう……」
穂乃果が途方に暮れてジムの看板を見上げていると、
「スモーファウンジムに何か用?」
「!」
振り返ったそこには、十歳ちょっとの少年。
「あ、うん。君は?」
「おれはスモーファウンジムの専属トレーナーだ!」
「へー。そうなんだ。凛ちゃんに聞いて、花陽ちゃんに挑戦しに来たんだけど……」
「スタスカのジムリーダーから? まあ仲良いもんな。──でも残念だったね。今はいないよ」
「え? じゃあどこにいるの?」
穂乃果の問いに、少年はニヤリと笑う。
「教えてやってもいいけど……タダはダメだな。──ジムに挑戦するなら、その資格を試させてもらうぜ! おれと勝負だ!」
ボールを取り出した少年に、穂乃果も応える。
「分かった!」
「行くぜ! コラッタ!」
「コル!」
「コラッタか……。やっぱりノーマルタイプなんだね。よーし! ──ヨーテリー、ファイトだよっ!」
「テリー!」
「コラッタ、たいあたり!」
コラッタは小さい体で、ヨーテリーに接近。
「よけて!」
それをヨーテリーは、危なげなく回避。
「よーし! ついさっき新しく覚えた技、──かみつく!」
「テリーッ!」
側面から攻撃がぶつかる。
「コラァッ!」
地面を滑ったコラッタは、ひとまず立ち上がる。だが、
「コル……」
前脚が震え、相手から目を逸らす。
「ひるんだのか!?」
「かみつくの追加効果! チャンスだよ! たいあたり!」
「テリー!」
動けないコラッタに、ヨーテリーがぶつかる。
「ああ!」
少年の叫び声も虚しく、コラッタは倒れた。
「やった! 勝った! さあ次のポケモン!」
その言葉に、少年は叫ぶ。
「いねーよ! おれはまだ一匹しか持ってないんだよ!」
「あ、そうなの? ──じゃあ穂乃果の勝ちだね!」
「ぐ……、でもそうだな。挑戦くらいはしてもいいんじゃねーか?」
「ホントに? ありがとう!」
生意気な口調が消えない少年に、穂乃果は素直に礼を言う。
「はぁ……。──ジムリーダーは、この先にある田んぼにいるよ」
「田んぼ?」
「知らないのか? ──スモーファウンは、有名な米作りの町だぞ」
少年に言われた通りしばらく進むと、緑一色の田園風景が広がった。
「ひゃー、凄いや。そっか。今は田植えの時期なんだ。──お?」
辺りを見渡していた穂乃果は、やや離れた所に見知った後ろ姿を発見した。
「あれって……」
近づいてみると、
「はあ~……っ! やっと田植えの季節だねぇ……! あと半年で美味しいお米が……♪ 待、ち、遠しい……!」
などと怪しく呟くその姿は間違いなく、
「あはは……やっぱり花陽ちゃんだ……。──おーい、花陽ちゃーん」
「は、はいっ!?」
真後ろから話し掛けられた花陽は、ビクッ、と背すじを伸ばす。
「え、えっと……?」
「私、穂乃果! 花陽ちゃんジムリーダーなんでしょ? 挑戦しに来たんだ~」
「あ、そうだったんですか……」
「凛ちゃんにも言われたんだ! ほら!」
穂乃果はバッジケースを見せる。
「あ、スターバッジ……。凛ちゃんに勝ったんですね。おめでとうございます」
「うん! ありがとう! ──それで、次は花陽ちゃんに挑戦、って思って」
「分かり、ました。準備をしておくので、少ししたら来て下さい」
「うん!」
花陽を見送った穂乃果は、
「よし、もうちょっと特訓しよう! ──皆、出てきて! ファイトだよっ!」