チェリーバタウンへ降り立つと、そこには、
「来やがったなお邪魔トレーナー!」「簡単に進めると思ったら大間違いだぜ!」「数々の恨み、ここで晴らしてやる!」
見慣れたヘンテコ集団に囲まれた。
「オリジン団が、いっぱい……」
「やはり、ここに何かあるようね」
「でも、どこに向かえばいいのかな……」
「そうですね……。あまり時間も無いようですし……」
「敵の警備が厳重な場所を……」
五人が突破口を探す中、
「……遺跡だ」
穂乃果がポツリと呟いた。
「穂乃果?」
「ウテックス遺跡に、何かある。そんな気がする」
「具体性に乏しいですね……」
「でも、今はそれが一番可能性が高いわ」
「そうね……それに賭けてみましょう」
五人が頷き合うのを見たオリジン団員達は、
「何企んでやがる! ここは行かせねえぞ! ーーゴルバット!」「スカタンク!」「キリキザン!」「グラエナ!」「ゴースト!」「マルノーム!」「ゴローニャ!」
各々ポケモンを繰り出した。
「くっ……多い……!」
「へへっ、いくらお前らが強かろうと、数で押し切ればーー」
「りゅうせいぐん」
『『『っ⁉︎』』』
突如降り注ぐ攻撃。倒れ伏すポケモン達。
穂乃果が振り返ると、
「ここは私が引き受けるわ。皆は行って!」
シロナが声を上げた。
「シロナさん……」
「私なら大丈夫よ。こう見えて、シンオウ地方のチャンピオンなんだから」
「……分かりました!」
ウインクしたシロナに、穂乃果は強く頷き返す。
「行こう! 海未ちゃん! ことりちゃん! 絵里ちゃん!」
「はい!」「うん!」「ええ!」
シロナの攻撃に怯んだ団員達の隙間を縫って、穂乃果達はウテックス遺跡に向かって駆け出した。
「あっ、待て!」
「あなた達の相手は私よ」
「!」
「知っている事を話してもらうわよ。オリジン団の目的、方法、野望を」
街内の全戦力をシロナにぶつけたのか、遺跡までの道には誰もいない。
「本当に遺跡に何かあるんですか?」
走りながら、海未が口を開いた。
「分からない……けど、何かが穂乃果を呼んでる気がするの」
「そんな曖昧な理由で……」
「穂乃果のカンが馬鹿にならない事は、皆体験済みじゃないかしら?」
「それは……そうですが……」
絵里の言葉に、海未は言葉に詰まる。
「とにかく、今は穂乃果ちゃんについて行くしかないよ、海未ちゃん」
否定材料が無い以上、海未も頷くしかない。
四人が遺跡奥の洞窟に入ると、いつぞやの巨大壁画が出迎える。
「行き止まりですよ……。ここに何が……」
「手分けして、手掛かりを探しましょう」
穂乃果が頷くとほぼ同時に、視界の端を黒い影が横切った。
「あれ、アンノーン……」
『M』の形を模したアンノーンは、無感情の一つ目で穂乃果を見つめる。
「ねえ、アンノーン。この遺跡の秘密とか、何か知らないかな。教えて欲しいの」
そして、話しかけてみる。
「お願い! 私達、行かなくちゃいけないの!」
「…………」
アンノーンは静かに穂乃果を見つめ返す。
「…………!」
「…………」
そのまま十秒ほどが経過し、
「…………」
アンノーンはフワリと壁画の方へ浮遊して行った。
「ダメかな……」
穂乃果が肩を落とすと、アンノーンは壁画のある一点に向かって不思議な光線を撃ち出した。
「あれは……めざめるパワー!」
「めざめるパワー?」
海未の声に、穂乃果は首を傾げる。
「アンノーンが唯一覚える技よ。タイプも威力も分からない、不思議な技なのよ」
穂乃果の隣に来た絵里が、補足説明をする。
「でも何で、そんなのを壁画に……」
ことりの声は、途中で途切れた。
アンノーンが技を撃ち込んだ場所、そこが崩れると、崩れた石片が積み重なり階段を生成した。
『…………』
四人同様、口を開けて固まった。
「…………」
アンノーンは、これでいいかと言わんばかりに穂乃果を見つめ直すと、どこかへ消えていった。
「あっ、ありがとう〜! アンノーン!」
我に返った穂乃果は、慌てて姿の見えぬアンノーンに手を振った。
「驚きました……。まさか、この壁画にこんな秘密が隠されていたなんて……」
「誰だって驚くわよ……。どういう仕組みなのかしら……」
「昔の人って、謎が多いねぇ〜」
「でも、おかげで進めるようになった! 行こう!」
海未、絵里、ことりが衝撃の余韻に浸っている中、穂乃果は前を見る。
階段は真っ直ぐ、描かれた伝説のポケモンの足元へ消えている。
「……この先に、何が待ってるんだろう……」
不安を覚えながらも、穂乃果は階段を登っていく。
四人が壁画の向こう側へ到達すると、階段は音を立てて穴を塞いだ。
「……ホント、どういう仕組みなのかしら」
ただの壁になった穴を撫でながら、絵里が呟く。
「見て、絵里ちゃん!」
ことりの声に、絵里は視線を前に戻す。
「これは……!」
そこには、敷き詰められた砂利による道。所々風化が見られつつも立派な石段。何かを模した石像。明らかな人工物が並んでいた。そして何より、
「照明……? 何故ここに……?」
煌々と灯りを灯す電球。そのおかげで周りの様子が分かるのだが、歴史を感じる石造りの中、明らかに雰囲気から浮いていた。
「……何者かが、ここを拠点として使っているって事ね」
「何者かって……」
「まあ、十中八九オリジン団ね」
絵里は息を吐くと、
「ウテックス山の中が、遺跡として続いていたなんてね。こんな大発見に喜んでいる余裕が無いなんて」
辺りを見渡す。
「行こう、皆。何となく、急がないといけない気がする」
一歩進んだ穂乃果が、振り返って三人に視線を送る。三人も、深く頷く。
「でも……どこに行けばいいのかな」
「そうね……。道や階段があるとはいえ、複雑に入り組んでそうだし……」
ことりと絵里は、いくつもある階段を見て二の足を踏む。
「とにかく、目指すのは山頂です。上へ登って行けば、辿り着けるでしょう」
「そうだよ!」
「はぐれて迷うと大変ですし、固まって移動しましょう」
方針を定め、四人はいよいよ行動を開始する。
階段を登り、砂利を踏みしめ、四人は山の内部を登っていく。
「……何だか、静かだね」
「ええ……人もポケモンも、全く見当たらないわ」
「壁画の隠し扉の先ですし、そう簡単に入り込める場所ではないという事でしょうか」
「……ちょっと、怖いかも」
岩の成分のせいなのか、声の反響も少ない。まるで別世界へ進んでいるような感覚に、四人の足が僅かに早まった。
「ーー!」
不意に、先頭を歩く穂乃果の歩みが止まった。
「わぷっ」
後ろを歩く絵里がぶつかる。
「どうしたのよ……。急に止まったら危ないじゃない……」
「何か……聞こえない?」
「え?」
穂乃果の声に、全員が耳をすます。
「…………風?」
「うん、風の音……だね」
微かに、風が抜ける鋭い音が聞こえる。
「という事は……」
「出口が近いって事だ!」
穂乃果は顔を輝かせると、勢いよく駆け出した。
「あっ、ちょっと穂乃果! 一人で進んだら危ないでしょ!」
絵里の声を背後に聞きながら、しかし穂乃果は止まらない。
「! この上か!」
目の前に、明らかに今までと違う巨大な石段が現れた。かなり長いが、頭上に光が見える。
「あの先に何かが……」
「ヤミラミ、シャドーボール!」
「っ⁉︎」
不意に飛んできた指示に、穂乃果はその場を飛び退る。数瞬遅れて、穂乃果が立っていた場所の砂利が衝撃で飛び散った。
「悪いが、ここから先に行かせる訳にはいかない」
「あなたは……⁉︎」
姿を見せたその人物に、穂乃果は息を飲んだ。
「ここまで来たのに、ごめんなさいねぇ〜」
さらに、もう一人。
「……英玲奈さん、あんじゅさん……!」
穂乃果の前に立ち塞がったのは、見間違えるはずもない、AーRISEの二人。
「あら、私達を知ってるのねぇ」
「どうしてここに……!」
「もう分かっているだろう? 我々の計画の、リーダーの邪魔をされる訳にはいかないんだ」
「それじゃあ、まさか……!」
「これ以上話す必要もない。ここまでだ! ヤミラミ、シャドーボール!」
「ムーランド!」
「ワフッ!」
濃い影の塊は、ムーランドにぶつかった瞬間霧散した。
「相性を考えたか……。だが、それはそちらも同じ」
「ーー穂乃果!」「穂乃果ちゃん!」「穂乃果!」
ようやく追いついた三人は、目の前の二人を見て足を止める。
「こんな所にいたのね……!」
「ええ。しかも、今までの相手とは少し違うようです」
「ちょっと手強そうだね……」
「絵里ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん。穂乃果、この先に行かなくちゃいけないの。だから……」
やや申し訳なさそうに、三人に視線を送った穂乃果。返ってきた答えは、
「分かってるわ」
だった。
「何かしら事情を知っているのでしょう?」
「行って! 穂乃果ちゃん! ことり達なら大丈夫!」
「皆……うん! ありがとう!」
笑顔で礼を言った穂乃果は、英玲奈とあんじゅに向き直る。
「……行くよ、ムーランド。突破する!」
「ワウ!」
「ムーランド、すてみタックル!」
「攻撃が効かないのは、どちらも同じだぞ?」
ほくそ笑んだ英玲奈の目の前で、
「ヤミィィッ⁉︎」
ヤミラミが派手に吹っ飛ばされた。
「なっ……⁉︎」
「うそ……どうして⁉︎ ーーゴルーグ、出てきて!」
「もう一度すてみタックル!」
「ゴルッ……!」
「どうしてノーマルタイプの技が、ゴーストタイプに当たるの……⁉︎」
困惑する二人。それを後ろから見ていた海未が、
「“きもったま”……?」
ふと呟いた。
「ノーマルタイプや格闘タイプの技が、ゴーストタイプにも当たる特性です。いやしかし、ムーランドの特性は違うはず……」
「……もしかして、隠れ特性……?」
引き継いだのは、絵里。
「隠れ特性?」
「ええ。ポケモンには、普通とは違う、珍しい特性を持った個体がいるのよ。普通では、まず出会えないのに……」
「じゃあ、あのムーランドがそうだって事?」
ことりは、すでに英玲奈とあんじゅの横を抜け、石段を駆け登る穂乃果を見やる。
「あ、そっか……。シロナさんが言ってた、びっくりする事って、これの事だったのかな……」
「……あの子には、驚かされっぱなしね」
「……まったくです」
やれやれと苦笑した三人は、
「悪いけれど、穂乃果を追わせはしないわよ?」
「私達が相手です」
「手加減しませんよ〜!」
それぞれポケモンを繰り出し、バトルを始める。
一方、
「はっはっはっ……!」
一心不乱に石段を駆け登る穂乃果は、すぐにそれを登りきった。
光射す出口から外へ飛び出すと、眩しさに思わず目を細める。だが、
「よく来たわね、穂乃果さん」
聞こえてきた声に、前を見据える。
そこには、穏やかな笑顔でこちらを見つめる、
「ツバサさん……!」