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「エンペルト、ハイドロポンプ!」
「ムーランド、あなをほる!」
エンペルトの高圧水流は、誰もいない空間を通過した。
「その戦法は、以前封じたはずよ。エンペルト、穴に向かってハイドロポンプ!」
「飛び出して!」
「ワフッ!」
エンペルトが攻撃を繰り出した瞬間、ムーランドは地面を突き破って飛び出した。当然、エンペルトには当たらない。
「被弾するよりは回避、って事ね」
「まだまだ! ワイルドボルト!」
「電気タイプの……! エンペルト、ラスターカノン!」
「ペルトー!」
「ワウゥゥッ!」
電撃をまとったムーランドの突貫は、銀色の光線に勢いを削がれた。
「すてみタックル!」
穂乃果は息つく暇なく、次の指示を飛ばす。
「受け止めて!」
「ペルト……ッ!」
相性悪い攻撃は、エンペルトを数センチ後退させて止められた。
「あなをほる!」
「ワフッ!」
唐突に地面に潜ったムーランドに、押さえていた相手が消えてエンペルトはよろめく。
「今だ!」
「ペルトー!」
今度は決まった攻撃に、エンペルトは上空へ突き飛ばされる。
「一発当たったくらいで、私のエンペルトは倒れないわ。ハイドロポンプ!」
「すてみタックル!」
再び相殺される攻撃。だが穂乃果は、そこで終わらなかった。
「ワイルドボルト!」
「ワウゥゥッ!」
攻撃直後で反応できなかったエンペルトは、ムーランドの直撃を許してしまう。
「まだまだ! ムーランド、ばかぢから!」
「ウウウワウッ!」
ムーランドは前脚を振りかぶり、渾身の力で振り下ろす。
「ペルトッ……!」
エンペルトは地面に叩きつけられ、そのまま起き上がりはしなかった。
「よし……っ! 倒した!」
「…………」
エンペルトをボールに戻したツバサは、
「以前闘った時とは、まるで別人ね。……いえ、強さだけじゃない。私の計画を絶対に阻止しようという、確固たる意志が成せる事なのね」
「ツバサさん……」
「でも、私だって後には退けない。これが、私の選択した道だから」
ツバサの瞳も、揺るがない。
「行きなさい、マフォクシー!」
「マフォ!」
「ムーランド、一旦戻って!」
穂乃果は、ムーランドをボールに戻す。
「何度もぶつかって、反動ダメージも蓄積してるもんね……。今は休んでて。ーーお願い、ロトム!」
「ウィィッ!」
洗濯機の姿をした青いロトムを見て、
「炎タイプには水タイプ……。堅実ね」
ツバサは変わらず余裕の表情を崩さない。
「水タイプへの対策くらい、用意してあるのよ? マフォクシー、ソーラービーム!」
「マフォ……」
マフォクシーは両手を空に掲げると、天から光を吸収する。
「放ちなさい!」
「ロトム、10まんボルト!」
ロトムの電撃は、マフォクシーのレーザーと交錯し、一瞬せめぎ合った後四散してしまう。
「その程度の威力じゃあ、撃ち消す事は……」
「ハイドロポンプ!」
「!」
続けて撃ち出されたロトムの高圧水流は、先ほどで幾分か威力を相殺されたソーラービームを中心から貫いた。
「くっ……! マフォクシー、かえんほうしゃ!」
「マフォ……!」
攻撃態勢に入ったマフォクシーだったが、その炎が撃ち出される前に、直撃を許してしまう。
「マフォオ……」
相性の関係か、一撃で沈むマフォクシー。
「……攻撃は二段構えって事なのね。狙って……はないわよね。あの一瞬で判断した、素晴らしいバトルセンスね」
ツバサの表情に、少し焦りが浮かぶ。
「戻って、ロトム」
穂乃果はまたしても、ポケモンを戻す。
「ロトムはまだダメージを受けてないわよ? 休ませる必要はないんじゃないかしら」
「私のポケモンを見て欲しいんです。ツバサさんに、私がこの旅で出会った、もう一つの奇跡のような存在を」
「“もう一つ”の奇跡……?」
元の記憶が無いツバサには、一つめが何なのかは分からない。
「……そう。なら私を倒して、その奇跡を証明してみせて。あなたが出した結論を、私に示して。ーーバクフーン!」
「ムクホーク!」
お互い三体目は、同時に繰り出す。
「ムクホーク、ブレイブバード!」
「バクフーン、ふんか!」
ムクホークは低空飛行でバクフーンに迫る。バクフーンは爆熱を噴き出し、それを迎撃する。
「ムクホーク、つばめがえし!」
ムクホークは低空飛行から、一気に急上昇する。バクフーンの攻撃範囲から退避すると、そこから急角度で突撃を仕掛けた。
「甘いわね。ふんえん!」
「バク!」
全方位に放たれる炎。突っ込んでいたムクホークは避けられず、炎を浴びてしまう。何とかバクフーンまで攻撃は届いたが、大したダメージにはならず。
「あら、やけどの追加効果ね」
ムクホークの状態異常を見て、ツバサは勝敗を察する。
だが、
「やけどなら大丈夫!」
「ホーク!」
全く怯まない穂乃果とムクホークに、怪訝な顔をする。
「ムクホーク、からげんき!」
「なっ……!」
勢いよく突っ込んでくるムクホーク。そんな不意打ちに反応できなかったツバサ。そしてバクフーンは直撃を受けて吹っ飛ばされた。
「バクフーン!」
「バク……」
「…………」
立て続けに三体を倒されたツバサは、穂乃果を見やる。
「私が、こうも簡単に追い込まれるなんてね。……穂乃果さん、あなたの原動力は何? あなたのどんな信念が、そこまでの強さを生み出すの?」
改めて訊かれた穂乃果は、少し黙る。
「……私は、この世界が好きです。ポケモンも、ここの人も。旅をして、助けてくれて、闘ってくれて。……でもきっと、続かない。今の毎日は、きっと終わってしまう。だから私は、今を楽しみたい! この限られた時間の中で、精一杯輝きたい! “今が最高!”って、思えるように!」
飾らない、等身大の言葉。穂乃果の想いは、スクールアイドルを始めたあの頃から、何も変わっていない。
「……分かった気がするわ、あなたという存在が。あなたがどう生きるのか、私を倒して見せてちょうだい」
ツバサは、四つ目のボールを掴む。
「私の最後のポケモンよ。あなたの道が正しかったと、その想いを私にぶつけて。ーーフシギバナ!」
「バナ!」
「戻って、ムクホーク。ーーリザードン、ファイトだよっ!」
「グオォォ!」
「さあ、行くわよ!」
ツバサは左手を掲げ、その人差し指にはまる指輪に右手を添える。そこにある、不思議な光を持つ石へと。
「ーーメガシンカ!」
ツバサのメガリングと、フシギバナのフシギバナイトが反応した。
指輪とフシギバナから、光の帯が溢れ出す。それはお互いの帯と結び付き、フシギバナを光が包む。そしてその光が四散した時、
「バナアァァァァァッ!」
フシギバナはメガフシギバナへとメガシンカしていた。
「どうかしら? これがメガシンカ。進化を超えた、ポケモンの新たな力よ」
誇ったような声のツバサ。
「……知ってます」
「……?」
だが穂乃果の反応の薄さに、少し表情を曇らせる。
「あれが、メガシンカなんだね。凄いね、リザードン」
「グオ」
「……私達も、見せてあげよっか!」
「グオ!」
「まさか……!」
穂乃果は、お守りのように身に付けていたいつものリストバンドを掲げる。ヘリの中で、シロナに作ってもらった、キーストーンの付いたそれを。
「メガシンカッ!」
穂乃果のメガリストバンドと、リザードンのリザードナイトXが反応した。不思議な光が四散した時、
「グオォォォォォォッ!」
リザードンはメガリザードンXへとメガシンカしていた。
「さあ、行くよ!」
「……まさか、あなたまでメガシンカを使えるようになっていたなんてね。キーストーンを渡した時は、無理だろうと思っていたのに」
「リザードン、かえんほうしゃ!」
「フシギバナ、ヘドロばくだん!」
威力の上がったお互いの攻撃が、空中で相殺される。
「つるのムチ!」
フシギバナから伸びた蔓が、リザードンの腕を絡め取る。
「そのまま持ち上げなさい!」
「バナァ!」
上に引っ張られたリザードンは、
「叩きつけて!」
「フレアドライブ!」
その力に逆らうように、炎を纏って抵抗する。その炎が燃え移り、蔓が導火線のように燃えていく。
「今だ! かえんほうしゃ!」
焼けて脆くなった蔓を引きちぎり、リザードンは熱線をフシギバナに浴びせた。
「よしっ!」
だがフシギバナは倒れない。
「フシギバナはメガシンカすると、特性が《あついしぼう》に変わるのよ。炎タイプと氷タイプのダメージは半減よ」
「じゃあ、効果は抜群でもダメージは普通と同じって事なんだ……」
「フシギバナ、もう一度ヘドロばくだん!」
飛来する塊を、リザードンは食らってしまう。さらに、
「グオ……ッ⁉︎」
動きが少しよろめく。
「どくになった……⁉︎」
「ヘドロばくだんの追加効果ね。長引けば不利になるわね」
「くっ……!」
「……でも、長引かせるつもりはないわ。勝因が状態異常なんて、私が認めない。フシギバナ、つるのムチで捕まえて!」
力強い眼光。勝利のみを見据えた、曇りの無い目。
「……それは、私だって同じです! リザードン、フレアドライブ!」
「グオォォッ!」
リザードンが纏った炎に、草の蔓は焼け焦げてしまう。
「ヘドロばくだんで撃ち落としなさい!」
「バナ!」
「させない……! これで決める!」
穂乃果はグッ、と拳を握ると、勢いよく突き出す。
「リザードン、げきりん!」
「グオォォォォォォ!」
やたらめったら繰り出される攻撃が、フシギバナの放った塊を爆散させる。
「行っけぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「グオォォォォォォォォッ!」
フシギバナへと衝突するリザードン。爆風が巻き起こり、交錯点が見えなくなる。
煙が晴れたそこには、
「バナ……」
倒れ伏し、メガシンカが解除されたフシギバナの姿が。
「…………負けた、か」
ツバサは結果を認め、長く息を吐くと空を仰いだ。