それとなく追加される設定
「皆、大丈夫⁉︎」
ようやくシロナがウテックス山の頂上に姿を見せ、
「っこれが、伝説のポケモン……!」
パミュークスの姿を認めてボールを構えた。
「大丈夫ですシロナさん!」
それを穂乃果が慌てて止める。
「このポケモンはもう、怒ってませんから!」
「……どういう事?」
怪訝な顔をするシロナに、九人が口々に、そしてフォローし合って状況を説明する。
「…………」
話を聞き、それをまとめたシロナは、
「……つまり、歌を歌ったら解決できた……って事?」
「そうなります」
「……驚いたわ。そんな解決法があったなんてね」
シロナは一瞬言葉を失い、
「私も闘ったオリジン団から情報を聞き出したのだけど……、世界を新しくするって聞いて……穂乃果ちゃん達が、カイトゥーン地方を救ったのね」
「そ、そんな、私達はただ必死で……」
「それで世界を救ったんだもの。凄いじゃない。皆、頑張ったわね」
シロナに労われ、九人は笑顔を見せる。
「…………」
穂乃果は振り返ると、こちらを見つめるパミュークスを見つめ返す。
「ごめんね、いきなり酷い事して。でも、穂乃果は歌えて楽しかったよ! あなたはどうだった?」
「…………」
パミュークスは答えない。
「また一緒に歌おうね! 今度は、皆で仲良く!」
両手を広げ、満面の笑みを浮かべる穂乃果。その輝く笑顔を、パミュークスは静かに見下ろす。そして、
「キュオォォォォ……!」
遠吠えのように、空に向かって声を響かせた。その声は、耳を塞ぐような不協和音ではなかった。
「綺麗な声……」
その声に全員が聞き惚れていると、十人を不思議な光が包んだ。
「これは……!」
視界がホワイトアウトした次の瞬間、立っていたのはチェリーバタウンのヘリの前だった。
「今のはテレポート……。でも、自分以外をこんなにも移動させるなんて……。やっぱり、秘めていた力はとんでもないようね……」
シロナは目の前にそびえる、ウテックス山を見上げる。穂乃果達もつられて見上げ、
「キュオォォォォ…………」
僅かに聞こえてきた声が、唐突に途切れたのを感じた。
「……さようなら」
穂乃果は微笑みを浮かべて呟き、
「今が最高♪」
小さく口ずさんだ。
翌日、ガジアスシティ。夜明け。
穂乃果は朝日を浴びながら、大きく伸びをした。
「うーん……! いい天気になりそう!」
「随分早いですね」
呼びかけられ振り向くと、
「海未ちゃん!」
海未が立っていた。
「まだ朝早いですよ?」
「だっていよいよだもん! オリジン団の事件も解決して、いよいよ挑戦できるんだよ?」
穂乃果はある一点へと、視線を送る。そこにあったのは、大きな門扉。
「……ポケモンリーグ!」
前日、チェリーバタウンでシロナと別れた九人は、ヘリでガジアスシティへ戻った。ニュルドビレッジで簡単な復興作業を手伝い、翌日、穂乃果のポケモンリーグ挑戦を見送ろうとなった。
久しぶりの挑戦者という事で、ガジアスシティあげての見送りとなった。
豪華な食事や激励の言葉など、多くの人に背中を押された穂乃果は、μ'sの八人と共にポケモンリーグへと続く扉の前に立った。
扉のすぐ向こうは海岸であり、まるで異世界へ続いているかのような雰囲気を醸し出している。
「それじゃあ、開けるわね」
絵里は持っていた鍵を、扉の鍵穴に差し込む。
カチン、と小気味いい音がし、絵里が扉を押す。
身長の二倍を超える重厚な扉はしかし、驚くほど簡単に開ききった。
その先に見えるのは、暗闇へと消える下り階段。
「この先が、ポケモンリーグ。そしてそこに立ち塞がるのが、最後の難関チャンピオンロード」
絵里は穂乃果に向き直る。
「チャンピオンロードには、挑戦権を得ながらも腕を磨くトレーナーが数多くいるわ。全員、バッジを全て揃えた手強い相手よ」
「……うん。頑張る」
穂乃果は強く頷く。
「穂乃果なら、心配はいらないと思うけどね」
対照に、絵里は笑顔を作る。
「そうだよ! オリジン団をやっつけた穂乃果ちゃんだもん! 絶対大丈夫にゃ!」
凛は元気に飛び跳ね、全身で激励を表現する。
「穂乃果ちゃんは凄い人だから、きっと勝てる。ううん、絶対勝てる!」
花陽は両手を握りしめると、自分の事のように頷いた。
「このにこにーが認めたトレーナーなんだから、負けたら承知しないわよ!」
若干理不尽ながらも、にこは彼女なりの声援を送る。
「不思議な人よね。何でもやりそうって、そんな気がする。……あと、一緒に歌えて楽しかったわ」
後半の声小さく、少し頬を染めた真姫。
「きっと凄いトレーナーになるんだろうって、ウチは最初から分かっとったで? スピリチュアルパワー、分けてあげる」
穂乃果の両手を包み、穏やかに話しかける希。
「頑張ってきなさい。穂乃果の真っ直ぐな気持ちがあれば、どんな壁だって壊せるわ」
絵里は笑顔で、ウインクする。
「頑張ってね、穂乃果ちゃん。ずっと応援してるから!」
ことりは小さく手を振り、ニッコリ笑いかける。
「あなたの強さは、私達がよく知っています。さあ、その強さを見せつけてきて下さい」
海未は穂乃果を見つめ、その目に宿る激しい炎を焚きつける。
「みんな……ありがとう! 絶対、ポケモンリーグ制覇してくるね!」
穂乃果はそれぞれの想いを受け取り、拳を空に突き上げる。
「あ、そうそう。先のオリジン団事件で、パミュークスの影響が少なからず出ているみたいよ。世界のズレが生じてしまったみたいね」
「え……それ大丈夫なの?」
「世界が崩壊するような規模じゃないみたいだから、平気よ。ただ、今まで生息していなかったポケモンが現れたり、一部ポケモンのタイプにも影響が出ているようね。そこら辺、頭に入れておくといいわ」
「分かった。ありがとう絵里ちゃん!」
穂乃果は階段へとつま先を向けると、
「じゃあ、行ってきます!」
勢いよく駆け下りていった。
階段を駆け下りてすぐ、
「新たな挑戦者か? 早速だが、相手してもらおう!」
いきなりバトルを挑まれた。
「いけ、グランブル!」
「ブル!」
「あ、このポケモン知ってる! 確かノーマルタイプだ!」
穂乃果はゲームの記憶を引っ張り出し、
「ムーランド、ファイトだよっ!」
「ワフッ!」
「ばかぢから!」
いきなり攻撃を叩き込んだ。
だが、
「ブル!」
「え、ウソ……! 全然効いてない⁉︎」
「フッフッ……さてはお前、最近起こった変化を知らないな?」
「うっ……」
知らないどころか解決した張本人なのだが、それと知識はまた別問題。穂乃果はたじろぐ。
「そんな勉強不足でポケモンリーグに挑戦なんて、片腹痛い! 出直して来い!」
「すてみタックル!」
「ワウゥゥッ!」
「ブルゥッ……⁉︎」
トレーナーが言い放った直後、グランブルが後方に吹っ飛ばされた。
「……は?」
目が点になるトレーナー。
「よしっ! 何かよく分かんないけど、これなら勝てる!」
「よ、よし分かった! お前は見込みがある! 特別に変化について教えてやろう!」
「ホントに⁉︎ ありがとう!」
無邪気に喜ぶ穂乃果は、このトレーナーが実力不足で立往生していた事など知らない。
「……簡単に言うと、新たなタイプが発見されたんだ」
「タイプ?」
「ああ、フェアリータイプってヤツでな。今まで別のタイプだったポケモンがフェアリータイプになってたり、一つしかタイプが無かったのにフェアリータイプが追加されたポケモンもいる。俺のグランブルは前者だな」
「ほぇ〜」
「あと、今まで未発見だったポケモンも出現するようになったんだ。例えば、さっき捕まえた……」
「エリキ!」
「わ、可愛い!」
「コイツはエリキテル。カイトゥーン地方にはいなかったはずなんだが、昨日からいきなり現れたんだ。……不思議な事があるもんだな」
「絵里ちゃんが言ってたのって、この事だったんだ……」
「あとこれは聞いた話なんだが、どうやら鋼タイプに悪タイプとゴーストタイプの攻撃が、いまひとつじゃなくなったらしいんだ」
「え、そうなの?」
「ああ。自分で確かめたわけじゃないからよく知らないが、どうやらそうらしい」
「ふーん……。色々変わってるんだ……」
「変化が見られたのはその辺だ」
「分かった! ありがとう!」
「気にすんな。……お前、強いな。ムーランド見てすぐに分かったよ。お前ならもしかして、本当にポケモンリーグ制覇しちまうかもな」
「そうかな。でも頑張るよ!」
「おう、頑張れよ」
なんだかんだで親切だったトレーナーと別れ、穂乃果はチャンピオンロードを突き進む。
「ロズレイド、リーフストーム!」
挑まれたバトルは全て応え、
「ムクホーク、ブレイブバード!」
その研ぎ澄まされたバトルセンスを発揮し、
「ダグトリオ、じしん!」
スクールアイドルの練習で培った体力と直感を駆使し、
「ロトム、ハイドロポンプ!」
とどまる事を知らない連勝記録を叩き出し、
「ムーランド、すてみタックル!」
そして時には、
「メガシンカ!」
全力でぶつかり、
「リザードン、げきりん!」
気が付くと、チャンピオンロードで修行する全てのトレーナーを打ち破ってしまっていた。
それと同時に、
「……あの先、明るい? もしかして出口⁉︎」
最後の難関が、終わりを迎える。
階段を駆け上り、海底洞窟から飛び出す。
そこは小さな島。芝生に色とりどりの花が咲き誇り、そよ風に揺れている。
そして、目の前に建立されたポケモンリーグ。平和な自然風景とは真逆に、圧倒的なオーラを放つ。
「…………ここが、ポケモンリーグ……!」
顔を伝った汗を拭い、穂乃果は武者震いをした。最後の挑戦が、始まる。