μ'sバトルスタート!   作:『シュウヤ』

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初めから決めていたキャスティング。


第35話 一人目の四天王

ポケモンリーグの建物に入ると、まず目に入ったのは一番奥のシンプルな扉だった。聞かなくても分かる、あの先が四天王とチャンピオンが待つ部屋だ。

「…………」

無意識に気を引き締めた穂乃果は、ひとまず兼任しているポケモンセンターにポケモンを預けた。

「あなたも挑戦者ね? 頑張って」

ジョーイさんも見慣れているのか、優しく激励してくれる。

「はい!」

ポケモンを受け取った穂乃果は、すぐに奥の扉へ向かう。

「あ、少し休憩した方が……。チャンピオンロードを抜けて、疲れてるでしょう?」

「大丈夫です! 私、燃えてるので!」

ジョーイさんの心配を、穂乃果は力強い笑顔で返す。

「……あなたなら大丈夫そうね」

ジョーイさんもそれ以上は引き止めなかった。

穂乃果は扉の前に立つと、大きく深呼吸。

「……よし!」

そして、扉を押し開けた。

 

 

そこには、

「あ、やっと来た!」

「待ってたよ」

「おっそ〜い!」

三人が待っていた。見慣れた、三人が。

「ヒデコ⁉︎ フミコ⁉︎ ミカ⁉︎」

何事かと目を見開いた穂乃果だったが、

「私達が、四天王だよ」

ヒデコの声と表情に、穂乃果はそれが冗談でも何でもない事を悟る。

「私達だって、サポートだけで終わるつもりはないからね」

「ちょっと前まで、新米トレーナーだったのにね〜」

「まさか本当に、ここまで来ちゃうんだもんね」

ヒフミの決意に、穂乃果ほ底知れぬ力を感じた。

「一人目は私だよ。負けないんだから!」

ミカが自分を示す。

「穂乃果だって負けないよ! 皆に背中を押してもらったんだから!」

「じゃあ、私達は奥の部屋で待ってるからね。穂乃果が来るかは、分からないけど」

「行くよ! すぐに行くから待ってて!」

穂乃果は答えると、部屋から出ていく二人を見送る。それから、所定の位置についた。

「全力で来てね! 穂乃果!」

「うん! ミカも、全力で来てよ!」

「…………」

するとミカは、何かを考える。

「どうしたの?」

「うん……ちょっと。ーーあの、審判さん」

不意に、ミカが審判に話し掛けた。

「このバトル、本気で闘いたいの。いいですか?」

「いやしかし、このチャレンジャーは一回目の挑戦ですし……」

「お願いします!」

渋る審判に、頭を下げるミカ。穂乃果には、何が何だか分からない。

「……分かりました。特例ですからね」

渋々、といった様子の審判は、大きく息を吐くと、

「これより、四天王・ミカとチャレンジャー・穂乃果のバトルを始めます。使用ポケモンは、お互い六体のフルバトルとします!」

高らかに言い切った。

「フルバトルって……」

「本当は、私達四天王は五体までしか使っちゃいけないの。でも、穂乃果とは何故か、真剣勝負しなくちゃいけない気がするから!」

短いおさげを揺らし、気合いを入れるミカ。

「……ありがとう。穂乃果も、本気でぶつかるね!」

その気持ちに感謝するように、穂乃果は一つ目のボールを手に取った。

「ロズレイド、ファイトだよっ!」

「お願い、メガヤンマ!」

「ロズレイ!」

「ヤンマ!」

「私は虫タイプの使い手! 虫タイプの本気、見せてあげる! メガヤンマ、げんしのちから!」

「ヤンマッ!」

撃ち出された攻撃は、

「ヘドロばくだん!」

簡単に相殺される。

ミカも穂乃果も、表情に変化は無い。ただの小手調べだと、お互いが分かっていた。

「エアスラッシュ!」

「リーフストーム!」

空気の刃と若草の嵐はぶつかり合い、同時に四散した。

「へえ……相性悪い相手に、よく闘うね」

「当然! 穂乃果のロズレイドは、そういうポケモンだもん!」

「ロズレイ!」

胸を張る穂乃果に、ロズレイドも同じポーズをする。

「うんうん、流石は穂乃果! いい勝負ができそう! ……でも、メガヤンマの本当の力はこれからだよ?」

ミカは意味深に微笑む。

「……?」

「さあ行くよ! メガヤンマ、エアスラッシュ!」

「ヤンマ!」

「ロズレイド、リーフストーム!」

「ロズレ……ッ⁉︎」

しかし、穂乃果の指示を実行するより早く、メガヤンマの攻撃が届いた。

「速い……! さっきまで互角だったのに、どうして……!」

「ふふふ、メガヤンマの特性は《かそく》。時間が経てば経つほど、速くなってくんだよ」

「そんな……! ロズレイドじゃ不利だ……。一旦戻って、ロズレイド!」

穂乃果は即決で、ロズレイドをボールに戻した。

「ロトム、お願い!」

「ウィ!」

「今度は逆に、こっちが相性不利か……。でも、どんどん速くなるメガヤンマに、攻撃が当たるかな?」

ミカの言葉に、穂乃果はグッと力を込める。

「確かに……。押し切られるかもしれない……けど!」

「メガヤンマ、むしのさざめき!」

「ヤンマ!」

メガヤンマは翅を震わせ、その振動がロトムに届く。

「ウィ……!」

「ロトム、ハイドロポンプ!」

ロトムは攻撃を放ち、音の拘束からは抜け出す。しかし、

「避けて!」

肝心の攻撃は、簡単に躱されてしまう。

「メガヤンマ、もう一度むしのさざめき!」

「ヤンマ!」

メガヤンマが攻撃のモーションに入った瞬間、

「今だ! ほうでん!」

「ウィィ!」

全方位への電撃が迸った。

「えっ……⁉︎」

音の振動を突き破り、無防備なメガヤンマに電撃が襲い掛かる。

「ヤンマ……!」

「止まった! ロトム、ハイドロポンプ!」

「ウィィィィーッ!」

ダメージを受け一瞬だけ動きが止まったメガヤンマに、ロトムの高圧水流が直撃した。

「メガヤンマ、戦闘不能! ロトムの勝ち!」

「倒した……!」

一体倒すだけで、かなりの精神を消耗した穂乃果。

「こんな強敵が、あと五体……」

「これがフルバトルだよ? 疲れちゃった?」

「まだまだ! 絶対に最後まで走り抜けるよ!」

気合いを入れる穂乃果に、ミカは笑みを浮かべる。

「お願い、シュバルゴ!」

「シュバ!」

「わお! 何かカッコいい!」

「ふっふっふ。カッコいいだけじゃないよ。シュバルゴ、メガホーン!」

両手の槍を構え、突貫してくるシュバルゴ。

「ロトム、おにび!」

「ウィ!」

ロトムが放った青白い炎を、シュバルゴは避けようともしない。結果、シュバルゴは火傷を負ってしまう。

「動きは、速くないみたい……」

先ほどのメガヤンマを見たせいか、穂乃果の目にもシュバルゴの動きは緩慢に見える。

「ロトム、たたりめ!」

だが、

「シュバッ!」

「ウィ……⁉︎」

たたりめの攻撃を受けているにも関わらず、シュバルゴは止まる事なく攻撃を繰り出してきた。しかも、ロトムを盛大に後退させる。

「うそ……火傷してるんだよね……⁉︎ しかも、威力の上がるたたりめで攻撃してたのに……!」

「シュバルゴは、確かに動きは遅いよ。でも、それを補って余るほどのタフさと破壊力を秘めてるんだよ」

シュバルゴは槍を交差させ、戦意の高さを示す。

「さあ、畳み掛けるよ!」

「させない! ロトム、ハイドロポンプ!」

「ウィィィィー!」

「アイアンヘッド!」

シュバルゴの鋼鉄の頭突きで、ハイドロポンプは二つに裂けていく。

ロトムが撃ち終わった所で、

「メガホーン!」

再び強烈な一撃が襲った。

「ウィ……!」

徐々にダメージが蓄積していくロトム。

「ぐ……! でも、こっちのダメージだって入ってるはず……。ロトム、諦めちゃダメだよ!」

「ウィィ!」

「ロトム、ボルトチェンジ!」

「シュバッ⁉︎」

ロトムはリング状の電撃を放ると、シュバルゴに当たって戻ってきたそれを纏うと穂乃果のボールに収まった。

「ダグトリオ、ファイトだよっ!」

「ダグ!」

「ボルトチェンジで交代してきたか……」

「ダグトリオ、じしん!」

揺れる地面に、シュバルゴは流石にたまらず動きが鈍る。

「ストーンエッジ!」

穂乃果が指示を飛ばし、

「ダグ!」

ダグトリオが動く。

だが、いつもの礫は飛んでいかなかった。代わりに、シュバルゴの真下から巨大な岩石が突き出した。

「え、何あれ⁉︎」

穂乃果本人も驚き、シュバルゴは高々と吹き飛ばされた。

「シュバルゴ、戦闘不能! ダグトリオの勝ち!」

審判の旗が振られる。

「パミュークスの影響が、技にも出てるって事……?」

確信が持てないながらも、そう結論付けた穂乃果。

「いやー、穂乃果強いね。楽しくなってきちゃった」

二体目が倒されたにも関わらず、ミカは楽しそうである。

「ポケモンリーグのチャレンジャーとかどうでもよくて、純粋に楽しいよ……っと」

ミカは、笑いながら三つ目のボールを放る。

「アーマルド!」

「アマ!」

飛び出たポケモンは、両手の爪を振り回しやる気を見せる。

「岩と虫タイプ……。ダグトリオ、有利だよ!」

「ダグ!」

「アーマルド、つめとぎ!」

アーマルドは両手を研ぎ合わせ、鋭い目付きでダグトリオを睨む。

「ダグトリオ、じしん!」

「受け止めて!」

激しく揺れる地面の中、アーマルドはしっかりと大地を踏みしめる。

「シザークロス!」

「アマー!」

アーマルドは爪を重ね合わせると、ダグトリオ目掛けて突き進む。

「あなをほる!」

ダグトリオは素早い動きで、危なげなく地面へ潜り回避する。

「このままいつもの戦法で……」

「ふっ……やると思った」

「えっ……⁉︎」

ミカの口元が緩んだのを、穂乃果は見た。

「アーマルド、じしん!」

「アマーッ!」

今度はアーマルドを中心に、激しく揺れる地面。

それが収まったすぐ後、地面を突き破ってダグトリオが頭を出した。

だが、

「ダグ……」

すでに闘える状態ではなかった。

「ダグトリオ、戦闘不能! アーマルドの勝ち!」

ダグトリオをボールに戻した穂乃果。

「どうして……」

「じしんは、相手があなをほるで地面に潜っている時にも当たって、しかもダメージが二倍になるんだよ?」

「そ、そうだったんだ……。知らなかった……」

目から鱗な穂乃果に、流石に苦笑いのミカ。

「ここに挑戦できる実力があるのに、その辺は知らないんだ……。穂乃果って変なの」

「だ、だって知らなかったんだもん!」

「はいはい、穂乃果らしいよね」

「むー……」

少しだけむくれた穂乃果だったが、

「まあいいや……。ーーロトム、ファイトだよっ!」

自慢の切り替えの早さで、次のボールを放った。

「ロトム、ハイドロポンプ!」

「ウィィィィー!」

ロトムが放った高圧水流は、

「ストーンエッジ!」

地面から突き出した岩石によって、その進路を阻まれた。

「そんな使い方が……!」

「攻撃するだけが、技じゃないって事! アーマルド、シザークロス!」

「アマッ!」

その隙に、交差した爪をぶつけるアーマルド。

「ウィ……ッ」

「まだまだ! ロトム、おにび!」

「ストーンエッジ!」

青白い炎は、またも岩石に阻まれる。さらに連続で突き出し、それはロトムの真下からも。

「ウィィ……!」

吹き飛ばされるロトムに、穂乃果は歯噛みする。

「あれをどうにかしないと……。それに、アーマルドの攻撃も上がってるし……」

穂乃果は一度深呼吸すると、

「……私が得意なのは、突っ走る事! それはきっと、バトルも同じ!」

前だけを見つめる。

「ロトム、ほうでん!」

「ストーンエッジ!」

ロトムの電撃は、またしても岩石の壁に止められる。

「ハイドロポンプ!」

「え……⁉︎」

アーマルドに指示しようとしていたミカは、不意を突かれる。

アーマルドもまた、攻撃に転じたくても動けずロトムの攻撃を受け流す。

「もう一度ハイドロポンプ!」

「ウィィィィーッ!」

二度目の高圧水流。強力な攻撃を受け続けた岩石は、ついに激しく砕け散った。

「アマ……⁉︎」

「おにび!」

そこに間髪入れず、炎が飛んでくる。

「たたりめ!」

火傷を負い一瞬動きが鈍ったアーマルドの周りに、人魂のようなものが浮かびそして消える。

「アーマルド、戦闘不能! ロトムの勝ち!」

ロトムの猛撃がやんだ時、アーマルドは地面に崩れ落ちた。

「……凄い勢い。攻撃は最大の防御って、こういう事を言うのかな……」

半ば呆れながら、ミカはアーマルドをボールに戻した。

「これが、穂乃果の闘い方だから! いつだって、全力で!」

「うーん、穂乃果って面白いなあ」

「ええ⁉︎ 穂乃果は真面目なんだよ⁉︎」

「分かってるよ〜。だからこそ、面白いトレーナーだなって思うの」

「そうかな……。よく分かんないや」

「それでいいよ? 分かんないままの方が穂乃果らしいから」

「…………」

ニッ、と笑うミカに、穂乃果は様々な感情が押し寄せて黙る。

「さ、まだ負けてないんだからね! デンチュラ!」

「チュラ!」

ミカの四体目。

「電気と虫タイプか……。このまま押し切るよ、ロトム!」

「ウィ!」

気合いを入れる穂乃果とロトムに、ミカは力強い笑顔を浮かべる。

「そう簡単に行くかな?」

「ハイドロポンプ!」

「かみなり!」

ロトムの放った高圧水流は、天から降り注いだ落雷によって霧散してしまう。そしてその一つが、ロトムへ落ちてくる。

「くっ……! 小さいロトムに、的確に当ててくるなんて……!」

「デンチュラの特性は《ふくがん》だからね! そう簡単に避けられると思わないでね!」

「ウィィ……ッ」

ダメージがかさみ、ロトムの動きはやや鈍り始める。

「ロトム、ボルトチェンジで一旦戻って!」

「逃さないよ! デンチュラ、シグナルビーム!」

ロトムが放った電気のリングは、極彩色の光線に相殺されてしまった。

「そんな……!」

それを見た穂乃果は、普通にボールを取り出す。

「逃さないって言ったでしょ! デンチュラ、エナジーボール!」

「チュラー!」

「草タイプ……⁉︎」

予想外の攻撃に穂乃果が一瞬固まると、その隙に攻撃はロトムに被弾する。

「ロトム⁉︎」

「ウィィ……」

「ロトム、戦闘不能! デンチュラの勝ち!」

振られた審判の旗を確認して、穂乃果はゆっくりとボールにロトムを戻した。

「お疲れ様、大活躍だったね。後は任せて、ゆっくり休んでね」

ボールに労いの言葉をかけると、三つ目ボールを掴む。

「もう一度、ロズレイド!」

「ロズレイ!」

「へー、ロズレイド? あんまり相性は良くないよね」

「うん、でもそれは、デンチュラも同じだよ?」

「それもそっか。じゃ、お互い押し切った方が勝ちだ!」

「負けないよ!」

「こっちだって! ーーかみなり!」

「リーフストーム!」

降り注ぐ落雷は、巻き起こった若草の嵐に飲まれ、それを吹き飛ばしながら消滅した。

「やっぱり、草タイプに電気タイプの技は効かないか……。それなら! シグナルビーム!」

「チュラー!」

「ロズレイド、フラッシュ!」

「ロズッ!」

突如、ロズレイドが眩い光に包まれた。

「チュラ⁉︎」

突然の光に、面食らうデンチュラ。しかし特性のおかげもあってか、さほど逸れる事なく光線はロズレイドへ迫る。

「受け止めて!」

「レイ!」

ロズレイドは腕を重ね、両手の先の花で光線を受け切った。

「よーし! ヘドロばくだん!」

未だ状況が把握できないデンチュラへ、塊が飛来する。

「チュラ……ッ⁉︎」

パニックに陥るデンチュラ。

「落ち着いて! デンチュラなら大丈夫だから、ちゃんと相手を見て!」

「ヘドロばくだん!」

「シグナルビーム!」

ミカの声が届いたデンチュラは、的確に飛んでくる塊を撃ち落とした。

「よしっ」

だが、

「チュラ……ッ」

デンチュラは、苦しそうである。

「毒状態……⁉︎ さっきの攻撃で、追加効果を引いちゃったのか……!」

「このまま畳み掛けるよ! リーフストーム!」

「まだ負けてない! エナジーボール!」

お互いの攻撃は空中でぶつかり合い、相殺される。

「デンチュラ、かみなり!」

「チュラーッ!」

一瞬早く動いたデンチュラが、ロズレイドの頭上に電撃を落とした。

ダメージこそ浅かったが、

「ロズ……ッ」

ロズレイドの動きが鈍った。

「よし! 麻痺した! こっちも追加効果だ!」

歓喜するミカ。しかし、穂乃果は余裕の表情を浮かべる。

「ふふ、そうは行かないよ! ロズレイド、アロマセラピー!」

「ロズ!」

「え……⁉︎」

緑色のベールがロズレイドを覆い、ロズレイドは俊敏な動きで屹立した。

「麻痺の状態異常が……」

それと同じ時、

「チュラ……」

体力の限界を迎えたのか、デンチュラが静かに倒れ伏した。

「デンチュラ、戦闘不能! ロズレイドの勝ち!」

「毒が回っちゃったのか……。お疲れデンチュラ」

ミカはデンチュラをボールに戻し、穂乃果へ笑いかける。

「まさか、私の作戦の上を行かれるなんて思わなかったよ」

「エッヘン! 穂乃果だってやればできるのだ!」

「ホント、ちょっと前まで新米トレーナーだったなんて信じられないよ。恐ろしいほどの急成長だよ」

ミカは感慨深げに呟く。そして、

「私の、五体目。今度は、そう簡単には行かないよ!」

打って変わって、力強い顔。

「ビビヨン!」

「フィリリリ!」

「わ、何だかオシャレなポケモンが……」

「本当は、このポケモンは使わないんだよ? でも、これは真剣勝負のフルバトルだから。私も、本気だから!」

「……望む所だよ!」

穂乃果は頷き、ロズレイドへ指示を送る。

「ヘドロばくだん!」

「むしのさざめき!」

ロズレイドの放った塊は、空中で空気の波紋にぶつかり爆散する。

「やっぱり、ただ突っ込んでもダメか……。なら、ロズレイド、フラッシュ!」

そう簡単に攻略できる戦法でない事は、穂乃果は知っている。ことりとのイレギュラーが無ければ、有効に機能するはずだ。そう、思っていた。

「ビビヨン、みがわり!」

「フィリ!」

「……⁉︎」

突如ビビヨンの姿が消え、不恰好な人形らしきものが出現した。動かないそれは、眩い光を受けても無反応である。

「さあ今の内に! ビビヨン、ちょうのまい!」

「あれは、絶対に良くないヤツだ……!」

技の効果はよく分からずとも、直感的に穂乃果は危険を察知した。

「ともかく、アレを何とかしないと! ロズレイド、リーフストーム!」

「ロズレイッ!」

放たれた若草の嵐は、不恰好な人形のようなものを巻き込むと、それを蹴散らした。

再びビビヨンの姿が現れるが、その愛くるしい外見からは想像できないような雰囲気を放っていた。

「さっきの技、よく分かんないけど絶対に能力を上げる技だよね……」

海未とのバトルで、それを学んでいる穂乃果は警戒を強める。が、

「ビビヨン、ぼうふう!」

ビビヨンが巻き起こす、吹き荒れる突風。

「ロズレイ……ッ⁉︎」

ロズレイドは勢いよく舞い上げられると、続いて地面に叩きつけられた。

「ロズレイド⁉︎」

「ロズレイド、戦闘不能! ビビヨンの勝ち!」

審判の声に、穂乃果は歯を噛む。

「何て威力……。確かに効果はバツグンだったけど、それ以上の威力……。これは、強敵だよ……!」

「もうおしまい? だったら鍛えて、再挑戦して……」

「まだだよ! 絶対に諦めないんだから!」

穂乃果は笑顔を隠し切れないまま、ボールを放る。

「ムクホーク!」

「ホーク!」

飛び出したムクホークに、穂乃果は早速指示を送る。

「ブレイブバード!」

「みがわり!」

ムクホークが低空飛行で突っ込んだ先には、不恰好な人形らしきもの。それを蹴散らして終わった。

「くっ……」

「ドレインキッス!」

「フィリリ!」

不意の攻撃を受けたムクホークはよろめき、何とか態勢を立て直す。

「フィリリリリリ!」

そして、対照にビビヨンの羽ばたきは元気を取り戻していく。

「みがわりを使うと、体力を消耗しちゃう。でも、ドレインキッスは相手にダメージを与えてさらに自分を回復できちゃう技なの!」

「そ、そんな……」

能力上昇で、今やムクホークより素早いビビヨン。スピードを生かした戦法が封じられ、穂乃果は悩む。

「さあ、ガンガン攻めるよ! ぼうふう!」

「フィリリリ!」

再び吹き荒れる突風。閉じ込められたムクホークは、

「ゴッドバード!」

「ホーク!」

強引に突破した。

「はい⁉︎」

流石にミカも予想外だったのか、目を見開く。

「みがわり!」

「フィリリリ!」

ギリギリで攻撃を回避され、穂乃果は無意識に両拳を握りしめた。

「あっぶな〜。そんな力技でくるなんてね……。一瞬も油断できないよ」

冷や汗を拭ったミカ。それを見ていた穂乃果は、

「…………?」

何かを閃いた。

「これなら、もしかして……。ーームクホーク、ブレイブバード!」

「ビビヨン、みがわり!」

今までと同じ結果が、繰り返される。

「何を考えて……」

「ブレイブバード!」

「っ! みがわり!」

またも、同じ。

「まさか……!」

ミカは、穂乃果の意図を察する。

「ブレイブバード!」

「みがわり!」

人形らしきものが粉砕され、ビビヨンが姿を現わす。だがその羽ばたきは、かなり鈍っている。

「やっぱりそれが狙いか……!」

「今だよ! ムクホーク、でんこうせっか!」

ムクホークは矢のように俊敏な動きで、ビビヨンに突っ込んだ。

「フィリリリ……」

「ビビヨン、戦闘不能! ムクホークの勝ち!」

「やった! 上手くいったねムクホーク!」

「ホーク」

ミカは、してやられたという表情。

「みがわりは、体力を消耗して繰り出す技。まさかそれを逆手に取って、ドレインキッスで回復する隙を与えないなんてね……。流石は穂乃果」

「えへへ。でも、頑張ってくれたのはムクホークだから!」

嬉しそうに、ムクホークの頭を撫でる穂乃果。

「……そっか。ポケモンを信頼したからこそ、なんだね」

ミカは、優しく微笑みを浮かべる。

「……さ、私の最後のポケモン。私の最高の本気、ぶつけるね!」

「もちろんだよ!」

「出てきて、スピアー!」

「シュビィィ!」

「スピアーか……。このままムクホークで行けるよ! ファイトだよっ!」

「ホーク!」

「ふふっ。果たしてそうかな?」

「え?」

「穂乃果、メガシンカを使えるようになったんだよね。それを知った時は、ホントにびっくりした。けど、嬉しかった」

ミカは、ポケットから何かを取り出す。

「全力で、闘えるから」

その正体を知った穂乃果は、目を見開いた。

「スピアー、メガシンカ!」

ミカのキーストーンと、スピアーのスピアナイトが反応した。不思議な光が四散した時、

「シュビィィィィィィィッ!」

スピアーはメガスピアーへとメガシンカしていた。

「メガシンカ……!」

「さあ、行くよ!」

「来るよ、ムクホーク! 構えて!」

「ホーク! …………?」

ムクホークが相手の攻撃に備えたその瞬間、ムクホークはスピアーの姿を見失っていた。

「どくづき!」

「シュビィッ!」

スピアーがいたのは、ムクホークの背後。発見すらできなかったムクホークへ、無慈悲な一撃が襲った。

「ムクホーク、戦闘不能! スピアーの勝ち!」

地面に叩きつけられたムクホークは、そのまま立ち上がる事はできなかった。

「速すぎる……! それに、凄い威力……!」

メガスピアーの破壊力を目の当たりにして、穂乃果に戦慄が走る。

「……これが、ミカの全力なんだ。ずっと私達を助けてきてくれた……」

友達の、本気。

「だったら私も、それに応えなきゃ! リザードン、ファイトだよっ!」

「グオォ!」

穂乃果は右手を掲げ、その手首に左手を添える。

「メガシンカッ!」

穂乃果のメガリストバンドと、リザードンのリザードナイトXが反応した。不思議な光が四散した時、

「グオォォォォォォッ!」

リザードンはメガリザードンXへとメガシンカしていた。

「穂乃果のメガシンカ……。あの時のヒトカゲが、ここまで成長したんだ。その力、見せてよ!」

「もちろん!」

「スピアー、シザークロス!」

「フレアドライブ!」

スピアーは、まさしく目にも止まらぬ速さでフィールドを移動すると、一瞬でリザードンの背後へ回った。

「グオッ⁉︎」

「やっぱり速い……!」

「このスピードを攻略しない限り、私のスピアーには勝てないよ!」

素早い移動を繰り返しながら、スピアーは両手の針を振って挑発する。

「確かに、リザードンじゃあのスピアーにはついて行けない……。どうにかしてチャンスを作らないと……!」

「さあ行くよ! ドリルライナー!」

「シュビィィ!」

スピアーは回転すると、両手と尾の針を一まとめにして突っ込んできた。

「地面タイプ……!」

「グオッ……⁉︎」

堪らずよろけるリザードン。

「メガリザードンXは、飛行タイプの代わりにドラゴンタイプになる。タイプの変化が仇になっちゃったね?」

「そんな事ない! 今だからできる、リザードンの強さもある!」

穂乃果は吠えると、真っ直ぐリザードンを見つめる。

「できるよ。私とリザードンなら、できる!」

「…………」

リザードンも、静かに穂乃果を見つめ返す。

「攻撃だって、当たらなければ意味ないからね! スピアー、動いて撹乱して!」

「シュビィィ!」

フィールドの制空権を支配するスピアー。リザードンは、迂闊に動けない。

「焦るな……焦っちゃダメ……チャンスは来る……まだだから……」

穂乃果はブツブツ呟き、必死でスピアーを目で追う。

「ドリルライナー!」

スピアーが、回転しながら突っ込む。

「今だ……! リザードン、掴んで!」

「グオォ!」

ダメージを受けながら、リザードンはスピアーの針をガッチリと鷲掴みにした。

「シュビ⁉︎」

慌てて逃れようとするスピアーだが、リザードンは離さない。

「スピアー、引き剥がして! どくづき!」

「シュビィィ!」

「グオォォォォォ……!」

超至近距離で猛攻を受けるリザードン。だが、

「絶対に離しちゃダメだよ、リザードン!」

その手の力は緩めない。

そのスピアーの攻撃がやんだ瞬間、

「今だよ! かえんほうしゃ!」

「グオォォォォォォッ!」

今度はリザードンが、超至近距離で炎を吐いた。

避ける事は叶わなかったスピアーは熱風に全身を包まれ、盛大に吹っ飛ばされる。

そして、

「スピアー、戦闘不能! リザードンの勝ち! よって勝者、チャレンジャー、穂乃果!」

六回目の穂乃果の旗が、上がった。

「か、勝った……。勝ったよリザードン!」

「グオ!」

リザードンの首に飛びつき、笑顔でぶら下がる穂乃果。

「あーあ。負けちゃったかぁ〜……」

ミカはやはり残念そうに、だが晴れ晴れとした表情で、

「おめでと、穂乃果。でも、私はまだ一人目だからね? フミコとヒデコは、もっと強いよ? まだまだポケモンリーグは、始まったばかりだよ!」

ポン、と穂乃果の背中を押した。

「私、ミカとバトルできて嬉しかった。こんな風に、一緒に闘えて……」

「それはこっちのセリフ! 穂乃果の全力とバトルできて、凄く楽しかった! ありがとね!」

「うん!」

穂乃果は笑顔で頷くと、次へと開かれた扉をくぐった。

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