『──さあー、ついにこの時が来ましたポケモンコンテスト! 最高のパフォーマンスで優勝を掴み取るのは、果たして誰だーっ!』
マイク片手のハイテンションな司会により、出場選手が紹介されていく。
「最後に、なんと飛び入りの参加者! フォルリーフタウン出身、穂乃果選手とヒトカゲ!」
「ど、どうもー……」
いかな穂乃果といえど、飛び入り、という観客の期待の目は痛い。
『さあまずは規定演目です!』
その声を聞きながら、穂乃果はオトノキ地方のポケモンコンテストは、エントリーしたポケモンと一緒に、決められたお題で演じる規定演目、自由に演じる個性が試される自由演目からなる、というにこの言葉を思い出していた。
「やっぱり、にこちゃんはにこちゃんだ!」
穂乃果はそう呟きながら、規定演目に臨んだ。
──決して物覚えがいいとはいえない穂乃果にとって、その場で伝えられるお題をこなす規定演目は、苦手と言えた。
だがそれを持ち前の明るさで乗り切ると、続いて自由演目。
「自由演目、穂乃果どうするんだろ」
「さっきはちょっと怪しかったけど……」
「大丈夫かなぁ……」
観客席で見守るヒフミは心配げな表情をし、
「……ふん。まあまあね」
ムスッとしたにこは、それでもコンテストを楽しんでいた。
「それではエントリー№8、穂乃果さんの自由演目です!」
ヒトカゲと共に元気よく飛び出した穂乃果は、
「実は私、コンテストとか初めてで……よく分かりません!」
そんな事を言いだす。
「……はあ?」
にこを含め観客は怪訝な表情を浮かべる。
『おおっと穂乃果さん、これはどうしたのでしょうか』
「だから……、──歌います!」
そう言って穂乃果は目を閉じると、息を吸い込む。
「“だって、可能性感じたんだ。そうだ進め~。後悔したくない目の前に、僕らの道がある~”」
突然響いた歌声に、観客のざわめきはピタリとやむ。そしてヒトカゲは、歌声に合わせて小さくステップを踏む。
「──“Let's Go!”」
そう穂乃果が右腕を振り上げたその瞬間、
「カゲーッ!」
ヒトカゲが光に包まれた。
「え、これって……」
穂乃果、観客が注目する中、ヒトカゲは、
「──ザード!」
『な、ななななななんとぉ! 穂乃果さんの歌声に応えるかのように、ヒトカゲがリザードに進化したぁぁぁっ!』
「リザード……?」
「ザード!」
進化したリザードは、穂乃果に向き直る。
「…………」
しばらく黙った穂乃果は、みるみる笑顔になる。
「凄い! 凄いよリザード! ──よーし、このまま行っくよー!」
「ザード!」
そのままススメ→トゥモロウを歌い切った穂乃果は、降り注ぐ拍手におじぎをした。
──穂乃果が優勝したのは、言うまでもない。
優勝のリボンを片手にコンテスト会場から出た穂乃果を、
「優勝おめでと!」
「凄かったよー!」
「感動しちゃった!」
「……ふんっ」
笑顔のヒフミと仏頂面のにこが出迎えた。
「ありがとう! でも、本当に優勝できるとは思わなかったな……」
苦笑いを見せた穂乃果に、
「ヒトカゲが進化したのは、穂乃果との絆じゃない?」
「そうそう! ヒトカゲが穂乃果の気持ちに応えたんだよ!」
「仲良さそうだもんね!」
ヒフミは称賛の雨を降らせる。
「そっか……。そう言われると、そんな気がしてきた!」
ひとしきり喜んだ穂乃果は、
「…………」
無言で腕を組むにこに向き直る。
「にこちゃん!」
「……何よ」
「優勝したよ! これでジム戦してくれるよねっ!」
屈託ない穂乃果の言葉に、
「……はぁ。そうね」
にこは複雑な気持ちで肯定する。
「よしっ! ──じゃあポケモンセンター行ったら、挑戦しに行くね!」
「……好きにしなさい。──ただし!」
にこは穂乃果にビシッと指を突き付けると、
「コンテストで優勝できたからって、私に勝てるとは思わない事ね!」
「……うん。分かった!」
真剣に頷いた穂乃果は、ポケモンセンターへ駆けていく。
「……何なのよ。あの穂乃果っての……」
ペースを狂わされっぱなしのにこは、力なく指を下ろした。
「──それでは、アロリームジムリーダー・にこVSチャレンジャー・穂乃果のバトルを始めます。ジムリーダーの使用ポケモンは三体。チャレンジャーに制限はありません。なお、チャレンジャーにのみポケモン交替が認められます」
あれから小一時間。穂乃果はようやくジム戦を叶えた。
「よろしくね、にこちゃん!」
「ジムリーダーに馴々しいわよ!」
「でも、にこちゃんジムリーダーっぽくないし」
「ジムリーダーじゃなきなゃなんなのよ!」
「んー、子供?」
「どういう扱いよ!」
そんなやり取りが続いた後、
「えー……、両者、ポケモンを出して下さい」
審判がツッコんだ。
「まったく調子狂うわね……。──行きなさい、バリヤード!」
「バリー!」
「あのポケモンは……」
ポケモン図鑑を取り出した穂乃果。
「エスパータイプか……。それなら! ──ヨーテリー、ファイトだよっ!」
「テリー!」
穂乃果が繰り出したポケモンを見て、ヒデコは首を傾げる。
「何でヨーテリー?」
「あ、確かヨーテリーって、かみつくを覚えるんじゃなかった?」
「そっか。悪タイプの技は、エスパータイプに効果抜群……」
自信ありげにヨーテリーを選択した穂乃果を見て、
「「「成長したね……」」」
感慨深く呟くヒフミ。
「よーしヨーテリー、すなかけ!」
ヨーテリーの巻き上げた砂が、バリヤードにかかる。
「バリ……」
バリヤードは慌てて顔を覆い、
「今だよ! かみつく!」
「甘いわね。──リフレクター!」
「バリー!」
「テリッ!?」
確かに直撃したヨーテリーの攻撃は、その半分ほどが不可視の壁に阻まれた。
「な、何で!?」
「リフレクターはね、相手の物理攻撃を半減する効果があるのよ!」
「そんな……これじゃダメージが入らないよ……」
「トレーナーの迷いは致命的よ! バリヤード、ねんりき!」
「ヨーテリー!」
直撃をもらってしまったヨーテリーは、かなりのダメージを受けて吹っ飛ばされた。
「大丈夫!?」
「テリー! ──……ッ」
気丈に立ち上がるが、ダメージは深刻。
「交替した方が……でも、ヨーテリーはやる気だし……」
穂乃果は一瞬ヨーテリーを見やると、
「……よし。──行くよヨーテリー!」
「テリー!」
「替えないの? そのヨーテリー、立っているだけで精一杯よ?」
にこの得意げな笑顔に穂乃果は、
「大丈夫! 私はヨーテリーを信じてるから!」
同じく笑顔をぶつける。
「テリーッ!」
ヨーテリーが一際大きく鳴くと、
「え、ちょ、ちょっと! これって……!」
ヨーテリーの体が、光に包まれた。
「進化だ!」
「はあ!? ちょっと穂乃果! アンタさっきヒトカゲを進化させたばかりじゃ……!」
「凄い! 凄いよヨーテリー!」
「人の話聞きなさいよ!」
そんなやり取りの間に、
「ワウッ!」
「あれは……ハーデリア!」
ポケモン図鑑を確認した穂乃果が、歓喜の声を上げる。
「…………」
しばらく呆然としていたにこは、
「ふ、ふん。いくら進化したからって、ダメージは回復しないわ。穂乃果がピンチなのは同じよ!」
「うっ、そうだった……。ロゼリアみたいに回復技はないし……。どうしよう……」
「ワウ!」
ハーデリアは、決意の眼差しで穂乃果を見る。
「ハーデリア……。うん、分かった。──行っけぇぇっ!」
「ワウゥッ!」
ハーデリアは、バリヤードへ向かって突貫を仕掛ける。
その尋常でない気迫と勢いに、
「バリ……!?」
動けないバリヤードは食らうがままとなる。
「バリヤード、戦闘不能!」
「って何よ今の威力は!」
「今の技……すてみタックルだよ!」
「ノーマルタイプ最強クラスの技じゃん!」
「あ、でも待って……? すてみタックルって確か、自分にも反動ダメージが……」
ヒフミの声に喜びかけた穂乃果は、慌ててハーデリアへ視線を向ける。
「ワウ……」
それまでなんとか立っていたハーデリアは、こらえ切れずに倒れてしまった。
「ハーデリア、戦闘不能! よってこの勝負、引き分け!」
「最後の力を振り絞った攻撃だったんだ……。──お疲れさま、ハーデリア」
ハーデリアをモンスターボールへ戻した穂乃果は、優しく労いの言葉をかける。
一方、にこもバリヤードへ労いの言葉をかけると、
「やるじゃない。ヒトカゲの進化も、あながちまぐれじゃなさそうね」
「いやぁ、あはは……」
「照れてんじゃないわよ……」
軽く肩を落としたにこは、
「行きなさい、ゴチミル!」
「チミル!」
「これもエスパータイプか……。じゃあ……」
ポケモン図鑑の代わりに穂乃果が掴んだのは、
「リザード、ファイトだよっ!」
「ザード!」
「ゴチミル、サイコウェーブ!」
「チミー!」
「いきなり!? リザード、よけて!」
「ザード!」
ギリギリで回避したリザードに、
「リザード、メタルクロー!」
「甘いわね。かげぶんしん!」
「えっ、ゴチミルがいっぱい……」
「ザ、ザード!」
やみくもに攻撃するが、本物には当たらない。
「リザード落ち着いて! ……そうだ! ──リザード、回りながらひのこ!」
「ザード!」
リザードはその場で回転しながら、火の粉を吐き出す。
放射状に広がった火の玉は、全ての分身に当たる。
「チミーッ!」
当然、本物にも。
「そこだ! メタルクロー!」
「ちょ、そんなのアリ!? ──ゴチミル、みらいよち!」
「チミルッ!」
ゴチミルが攻撃モーションをとったのと、リザードの攻撃が届くのは同時だった。
「ゴチミル、戦闘不能! リザードの勝ち!」
「……リザード、平気? 攻撃、食らわなかった?」
「ザード!」
リザードにこれと言ったダメージは目立たず、ひとまず穂乃果は安心する。
「──どう? にこちゃん!」
「まだバトルは終わってないわよ! ──行きなさい、サーナイト!」
「サナ!」
「サーナイト……。何か強そう……」
「ふふん、どう? にこに似て綺麗なポケモンでしょ」
手でサラリとツインテールを流したにこに、穂乃果は、
「あー……うん。そうだねー……」
「ちょっとは心を込めなさいよ!」