たたずむサーナイトを見て、
「でも実際、どう闘おう……」
穂乃果は戦略に悩む。
「穂乃果ー! 分からない事考えるなー!」
ヒデコからそんな声が飛ぶ。
そ、そっか。よーし……リザード、ひのこ!」
「サーナイト、ひかりのかべ!」
サーナイトに向かった火の玉は、その半分ほどが霧散してしまう。結果、サーナイトにダメージは見られない。
「そんな……」
「ふふん、ひかりのかべは、特殊攻撃を半減するのよ!」
「リフレクターの逆バージョン、みたいな感じ?」
まあそうね。上手い事考えるじゃないーーって敵に訊くんじゃないわよ!」
「ご、ごめん……。って、にこちゃんのせいじゃん!」
「うるさいわよ!」
「ザード……」
「サナ……」
リザードとサーナイトも、お互いのトレーナーの応酬に呆れを隠さない。
「よーし、リザード、メタルクロー!」
「サーナイト、サイコショック!」
「サナ!」
念力の粒が、リザードを襲う。
「な、何今の技!」
立ち上がったリザードに安堵しつつ、穂乃果は驚く。
「ふふん、サイコショックは、相手に物理ダメージを与える技よ。特殊攻撃が得意なサーナイトなら、意表をつけるのよ!」
「そんな技があるなんて……。ーーでも大丈夫! こっちには秘密兵器があるもん!」
「秘密兵器?」
これには、にこのみならずヒフミも首を傾げる。
穂乃果はすっ、と息を吸い込むと、瞳に光を宿す。
「凛ちゃん……ありがとう。ーーローキック!」
「ザード!」
「サナ……ッ!」
効果は今一つながらも、低い回し蹴りが決まりサーナイトはよろめく。
「落ち着いて、サーナイト! サイコショック!」
「っ……当たらない……!」
リザードに苦もなく躱される。
「今の技……スタスカジムで使ってた……」
「相手の素早さを下げる技!」
「そっか……リザードが早いんじゃなくて、サーナイトが遅くなったんだ……」
ヒフミが呟く間に、リザードはサーナイトに肉薄。
「メタルクロー!」
「ザード!」
鋼鉄の如き爪は、確かにサーナイトに届く。
「サーナイト、戦闘不能! リザードの勝ち! よってこの勝負、チャレンジャー・穂乃果の勝ち!」
審判の旗が振られるのを確認すると、にこはやれやれと首を振った。
「何でこんなのに負けたのか……。分からない事が、にこの敗因かもしれないわね。ーーおめでとう、穂乃果」
「あ、にこちゃん」
リザードに抱きついていた穂乃果が、にこを見る。
「これが、アイドルバッジ。このジムを制覇した証になるわ」
「うん!」
「それと、このわざマシンも。ーー中身は〈サイコショック〉。効果は、さっき話した通り。特殊攻撃だけど、与えるダメージは物理よ」
「ありがとう!」
「凛のローキックを使いこなせた穂乃果なら、きっと大丈夫ね」
「うん! 頑張る!」
元気よく頷いた穂乃果は、
「ねぇ、にこちゃん」
「何よ?」
「にこちゃんは、アイドルが好きなんだよね? だから、コンテストを観てるんだよね?」
「……そうよ。それがどうしたのよ」
「じゃあ、どうしてジムリーダーをやってるの? 私がやったみたいに、コンテストに出て、歌って、踊って、楽しもう! って思わないの?」
その問いに、にこの瞳が一瞬揺らぐ。それが動揺なのか、別の何かなのか、穂乃果には分からない。
「そうね。正直、何でこんな事してるんだろう、って思った事はあるわ。コンテストに出て、お客さんを笑顔にできれば、それでいいと考えた事も」
「じゃあーー」
「でも違うの。確かに、にこはコンテストが好き。ーーでも、それと同じくらい、ポケモンも好きなの。コンテストだって、ポケモン無しには成り立たない。さっきの穂乃果だって、ヒトカゲが進化しなかったら、優勝はできなかったでしょ?」
「それは……」
「にこはね、ポケモンと一緒にいたいの。一緒に頑張って、一緒に笑って、一緒に泣く。ーーだから私は、コンテストよりジムを選んだの」
「にこちゃん……」
「何でもいい、どっちでもいい、っていうのは甘えよ。ーーコンテストの世界で活躍しようとか考えてるなら、ジム制覇は諦めなさい」
「……分かった。私は、ジムを巡る! そしてポケモンリーグに挑戦する!」
そう宣言した穂乃果に、にこはふ、と力を抜く。
「穂乃果なら、そう言うと思ったわ。闘って、そう感じた」
「にこちゃん、ありがとう!」
「はいはい、調子いいんだから……。ーーいい? 次のジムがあるのは、ウェスリードシティ。凄く大きな町よ」
「えっ? アロリームもかなり大きいよ?」
「それ以上なの。カイトゥーン地方最大ね」
「そうなんだ……」
「絶対負けんじゃないわよ!」
にこなりのエールを受け取った穂乃果は、
「うん。約束する!」
力強く頷いた。
「ーーウェスリードシティへは、ウテックス山を抜けるの」
出発の少し前、ヒフミが教えてくれる。
「ウテックス山?」
カイトゥーン地方にそびえる山の事。ーーほら、あれ」
ヒデコが指差した先には、フォルリーフから見え続けていた巨大な山。標高二千メートルはあるだろうか。
「……って、いくら穂乃果でも知らないわけないか」
「そ、そうだよねー……」
適当に話を合わせる穂乃果。
「ウェスリードへ抜ける道は、別名『麓の洞窟』。基本一本道だし、長さも大した事ないから、抜けるのは難しくないハズだよ。ただ……」
ミカが身振りを加えて説明してくれる。
「あと、私たち三人から穂乃果へ、エールの意味を込めてこれを」
フミコが差し出したのは、何かのわざマシン。
「これは?」
これは特別なわざマシン、ひでんマシンだよ。地方によって種類が違ったりするけど、この中には〈フラッシュ〉が入ってる」
「『麓の洞窟』は、凄く暗いの。電気を通せないからなんだけど……真っ暗で危ない。そこで、この技! 使えば、全部は無理でも、自分の周りくらいは明るくできるわ。懐中電灯を持って行ってもいいけど、こっちの方が楽よ。ポケモンに覚えさせて使ってね」
「そんな技があるんだ……。ありがとう!」
笑顔で礼を言った穂乃果は、それから右を見る。
「……普通のトレーナーが〈フラッシュ〉を使うには、アイドルバッジが必要になるのよ。許可証みたいなものね」
一応見送りに来たにこが、補足で説明する。
「そっか……。じゃあ、にこちゃんのおかげでもあるんだね! ありがとう!」
「そ、そんなのいいから、さっさとチャンピオンになって帰ってきなさい。そしたらまた、バトルしてあげてもいいわよ?」
「うん、頑張る!」
町から踏み出した穂乃果は、
「みんなー! 色々ありがとー!」
振り返って大きく手を振った。
「ーームクバード、つばさでうつ!」
「リキー!」
「わ、ワンリキー!」
倒れ伏したワンリキーに、ムクバードは鬨の声を上げる。
「やった!」
穂乃果は悔しがるトレーナーを尻目に、翼を羽ばたかせてホバリングするムクバードを見る。
「ついにムックルも進化……。これなら、次のジムだって負けないよね!」
順調にバトルと勝利を重ねた穂乃果は、ようやく『麓の洞窟』に到着した。
「うわぁ〜……」
文字通り山の麓なので、穂乃果は目の前にそびえ立つウテックス山を見上げる。
「穂乃果、あんまり山とか見た事ないけど、これは高いなぁ……」
そう呟いてから、やや右側に大きな空洞を発見した。
ここが入り口という旨の看板がある。
「ここが……」
黒々と広がる入り口前に、穂乃果は少し怯む。
「だ、大丈夫! やろうと思えば、何だってできる!」
自らを奮い立て、穂乃果は洞窟の中へと姿を消した。
ーーのだが、
「ま、真っ暗……」
入ってすぐ、入り口の明かりが届かなくなると、一メートル先も見えなかった。
「これは無理だなぁ……」
穂乃果は呟くと、
「ロゼリア、フラッシュ!」
「リアー!」
ボールから飛び出したロゼリアは、まばゆい光を放つ。だが、不思議と穂乃果には眩しさが感じられない。
「何だか、優しい光……」
とにかく進めるようになった穂乃果は、脇道は無いが曲がりくねった洞窟を歩く。照明が無いせいか、他にトレーナーもいない。
と穂乃果が思った直後、
「ん?」
「あ?」
若干見慣れた、そしてあまり見たくない男がいた。ーー正確には、その服装が、だが。
「オリジン団!」
「お前……噂のお邪魔トレーナーか!」
懐中電灯を持つオリジン団の男は岩石のようなポケモンを連れていた。
「邪魔はさせん! イシツブテ、行け!」
「邪魔はそっちだもん! ロゼリア、メガドレイン!」
岩、そして地面の四倍弱点には耐えられないかと思いきや、
「うそ……」
「イシツブテの特性は《がんじょう》。そう簡単には倒れないんだぜ! やっちまえイシツブテ! じばく!」
「っ⁉︎」
イシツブテが構えに入った瞬間、
「エンペルト、ハイドロポンプ!」
どこからか飛んで来た攻撃に、イシツブテは倒れる。
「くっ……、新手かチクショウ!」
下っ端は即座に踵を返し、暗闇に消えた。
「今の……?」
ポカンとする穂乃果に、
「危なかったわね」
と声が飛ぶ。穂乃果が振り向き、暗闇から現れた、
「あ、あなたは……」
ニコリと微笑むその姿は、
「初めまして」
「ツバサさん……」