「ツバサさん……」
「あら、私を知っているの? 高坂穂乃果さん?」
「え……どうして私の名前を……?」
文字通り驚愕した穂乃果に、ツバサは不敵な笑みを浮かべて答える。
「だって有名だもの。次々とジムリーダーを撃破している、凄腕のルーキートレーナー、って」
「あ……なんだ……」
「あら、あまり嬉しそうじゃないわね。ルーキーじゃ不満かしら?」
「い、いえ、そういうわけじゃ……」
歓喜と落胆、対極の表情を浮かべる穂乃果に、
「やっぱり噂通り。あなたって面白いわね!」
ツバサは笑う。
「へ?」
「私ね、ずっとあなたに注目していたの。スタスカでオリジン団を追い払った時も、コンテストで優勝した時も」
「どうして……?」
ツバサはそれには答えず、
「ねえ、もし良かったら、私とバトルしないかしら? 噂の実力を確認してみたいの」
かつて、UTXで対峙した時と変わらぬ不敵な笑みを思い出した穂乃果は、
「やります!」
ほぼノータイムで宣言した。
ーー適度な広さの空間を見つけた二人は、それぞれ向かい合う。
「じゃあいいかしら。使用するポケモンは一体。私はこのエンペルトで行くわ。……ロゼリアは、照明役よろしくね」
「リア」
闘えない事を若干残念に思いながら、ロゼリアは返事する。
「タイプは水と鋼か……」
ポケモン図鑑を確認した穂乃果は、少し迷ってボールを掴んだ。
「ハーデリア、ファイトだよっ!」
「ワウ!」
穂乃果の繰り出したポケモンを見て、ツバサは少し驚いた表情を浮かべた。
「ノーマルタイプは、効果今一つよ?」
「分かってます。でも、今のハーデリアなら!」
「何か秘策があるようね。楽しみ」
「よーし、ハーデリア、とっしん!」
「受け止めて!」
ハーデリアの突貫は、
「ペルト!」
エンペルトにガッチリと止められてしまった。エンペルトは数センチ後退したに過ぎない。
「やっぱりノーマル技じゃダメか……。ーーハーデリア、あなをほる!」
「ワウ!」
ハーデリアは地面に潜り、見えなくなる。
「なるほど……。地面タイプの技なら効果は抜群。ーーエンペルト!」
ツバサが注意を促そうとした瞬間、
「今だ!」
「ワウ!」
そのエンペルトの足元、真下からハーデリアが飛び出した。
「ペルトー!」
直撃を受けて高々と打ち上げられたエンペルトだったが、
「う……、やっぱりムリか……」
しっかりと着地する。
「相性が悪い相手にも対処できるように、対策を立てておく……。噂通りの実力ね」
「あ、ありがとうございます。ーー偶然覚えただけなんだけど……まあいっか」
やや苦笑の穂乃果は、
「ハーデリア、もう一度あなをほる!」
「ワウ!」
再び地面に潜ったハーデリア。だがツバサもエンペルトも慌てた様子は無く、
「エンペルト、穴に向かってハイドロポンプ!」
「ペルトー!」
「えっ!?」
エンペルトはハーデリアが空けた穴に大量の水を噴射し、
「ワウーッ!?」
その水に押し上げられるように、ハーデリアが地中から打ち上がった。
「強力な技だけど、地面の穴は繋がっているの。覚えておくといいわ。ーーエンペルト、ハイドロポンプ!」
「ペルトー!」
空中で身動きが取れず、
「ハーデリア!」
直撃。落下したまま、力無く倒れた。
「勝負あったわね」
「……はい」
穂乃果はハーデリアをボールに戻し、歩み寄るツバサに目を向けた。
「いい勝負だったわ。何かあなたに、可能性を感じたの」
「そう、なんですか?」
「ええ。よければ、またバトルしましょう」
穂乃果は、差し出された手をしっかりと握る。
「はい!」
踵を返したツバサは、思い出したように、
「そうそう、ウェスリードジムの専門も鋼タイプよ。今の戦法は悪くないから、対策に気をつける事ね」
そんな事を言い残して、アロリーム側の出口へと消えていった。
「ありがとうございます!」
姿が見えなくなる直前に、穂乃果の言葉が洞窟に木霊した。
『麓の洞窟』を抜け、しばらく街道を進んだ穂乃果は、ウェスリードシティに到着。
「うわぁ〜……」
アロリームシティでも似たような声を上げた穂乃果だが、今回は前回を上回るように聞こえる。
ウェスリードシティは、まるで秋葉原の町のようにビルが乱立する大都会だった。
「何か、音ノ木坂に戻ったみたい……」
入り口で若干放心しながら呟いた穂乃果は、
「まずはポケモンセンター探さないと」
すでにポケモントレーナーそのものの言葉を発しながら、歩き始めた。
探し求めていたポケモンセンターは、割とすぐに見つかった。
「はぁ〜……」
何しろ、他の町とは比べ物にならない大きさだったからだ。
「大きいなぁ……。まるで病院みたい……」
そんな事を呟いてから、
「……ん? 病院?」
ある事に思い至った。
「もしかして……」
穂乃果がポケモンセンターの中に入ると、
「冒険お疲れ様」
何度見ても同じ顔にしか見えないジョーイさんと、もう一人。
「……何? 何か用?」
やや冷たい顔を向ける、
「真姫ちゃん!」
「は、はあ? 何で私の名前を?」
「私だよ! 穂乃果!」
「穂乃果? 知らないわ。誰よ」
穂乃果必死の自己紹介も、軽く一蹴される。
「そうだよね……。真姫ちゃんも覚えてないよね……。あはは……」
「ヴェ……」
捨てられた仔犬のような目の穂乃果に、真姫は軽く怯む。
「も、もしかしたらどこかであってるかもしれないわね。私が忘れてるだけで」
「真姫ちゃん……!」
「どう? これでいい?」
やや投げやりな真姫だったが、穂乃果は笑顔。
「うん! ありがとう! ーーここ、もしかして真姫ちゃんのポケモンセンター?」
「そんな訳ないでしょ! パパとママの病院よ」
「あ、そっか」
「はあ……何か疲れた。ーーじゃあ私、もう行くから」
さっさとポケモンセンターを出ようとする真姫。
「え、ちょ……」
片手を上げかけた穂乃果を置いて、真姫はそのまま出て行ってしまった。
「…………」
手を下ろした穂乃果は、
「……むう、昔の真姫ちゃんみたい……」
そう呟く。
「ーーあなた、真姫のお友達?」
と、不意に背後からそんな声。
「は、はい!」
直立不動で返事した穂乃果が振り返ると、
「あ、真姫ちゃんの……、お母さん?」
「ええ、そうよ。よく分かったわね」
白衣に身を包んだ女性。
「見た所トレーナーのようだけど……、真姫のお友達?」
「えっと……、友達というか……」
歯切れの悪い穂乃果は少し悩んだ後、
「ーーでも、仲間でした!」
真っ直ぐ言い切った。
「そう……。それならお願いがあるの」
「お願い?」
「ええ。あの子、一応ここのジムリーダーなんだけど、あまりバトルに積極的じゃないのよ。この病院はあの子が継ぐ事になってはいるけど、それに縛られている気がするの。ーー仲間、のあなたの言葉なら、届くかもしれない。お願いしてもいいかしら……」
「真姫ちゃんがジムリーダー……。分かりました! 私も、真姫ちゃんとバトルしたいですから!」
「お願いね。真姫は、この町の北にある、離れにいると思うわ」
「はい!」