八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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あけました。


さて、元日初投稿となる初々しい(?)作者がお贈りします新年一発目のヒロインは一体誰なのでしょうか('・ω・`)!?



初小町

 

 

 

 夢と現実の狭間で気持ち良くふよふよ浮遊していると、瞼の向こう側にかすかな光を感じた。微睡みの中、しばらくまったりとその光を感じていると、次第にゆっくり開いてゆく瞳。

 そして、徐々に脳が働きはじめる。

 

 

 んっ、と伸びをして、ベッドからむくりと起き上がる。そしてこの冷える一夜を共に過ごした愛しの彼……その名も毛布くんとの別れを名残惜しみつつも、いつまでもこうしているわけにはいかないと、身体からえいやっと引っぺがした。

 

「ふぁぁ〜……」

 

 カーテンの隙間から差し込む陽射しを見る限り、目論見通りまだ早朝と言っても差し支えない時間帯である事が窺える。

 今日はとても大切な一日。だから一分一秒だって無駄には出来ない。

 

「んしょ」

 

 ベッドから下りて着替えを済ませると一目散に洗面所へと向かい、お年頃なJKらしくきちんと身だしなみを整える。もう去年までとは違うのだ。いつまでもほぼ下着姿で家の中をうろつくようなお年頃はとっくに過ぎ去ったのである。

 

 寝癖を直して可愛く整え、ばっちりメイクとは言い難い……というよりは、クラスの男子には「すっぴんとの違いがあんま分からない」と言われる程のナチュラルメイクを施す。むふふ、美少女ともなると、メイクなんてほんの少しで十分なのですよ!

 ではなぜ朝から時間を使ってまでわざわざメイクなどするのか。それはもちろん、一番大切な人には、いつでも一番可愛い自分を見せていたいからに決まってる。特に今日は、ね。

 

 髪をセットしメイクもおっけー。そしたら鏡に向かってきゃるんと笑顔。

 よーし、今日もばっちし可愛いよー!

 

 最高の自分作りを完了させるとすぐさまキッチンへと向かい、色々と下準備を済ませる。今日という日を目一杯楽しむ為にも、出来る限り急ピッチで事を運ばねばならない。

 あらかた用意を終えたらキッチンを後にし、とててっと階段を上がる。そして十五年ものあいだ毎日見続けてきたとあるドアをノックもせずにばったーん! と開けるのです。

 

「お兄ちゃんあけおめー! 初小町が初起こしにきてあげたよー!」

 

 そう、今は元日。なにをやるにも初づくし。初寝起きに初着替え。初メイクに初料理。

 でも、あんな初モノそんな初モノ数あれど、小町にとっての最高の初モノはもちろん初お兄ちゃん。そしてお兄ちゃんにとっての最高の初モノは……当然の如く初小町なのです!

 

 

× × ×

 

 

「はーい、おしるこ出来たよ〜」

 

「おお……いつもすまないねぇ」

 

「お兄ちゃん、それは言わない約束よ?」

 

 そんな朝のありふれたやり取りを済ませ、小町は炬燵布団に包まってぬくぬくしているお兄ちゃんの隣を陣取ると、ちょっと向こうに詰めてとばかりにグイグイ押し込み炬燵に入り込む。

 普段であれば向かいの面に入るんだけど、今日はお兄ちゃんに初小町を堪能させてあげないとだからね♪

 

 おっと、今の何気ない比企谷家のありふれた光景だって今年初だったっけ。んーと……初茶番?

 

「そういや母ちゃんと親父ってまだ寝てんのか?」

 

 おお……美味そう! なんて、小町特製のおしるこをキラキラした腐った目で見つめながら、ふと思い出したかのようにお兄ちゃんはあたりをキョロキョロ見渡した。

 

「ん? お母さんは年末の忙しさでここんとこ疲れまくってたからねー。今日くらいはゆっくり寝かせといてあげようよ。お父さんは知んない」

 

 まぁ? おおかた昨日の深酒がたたってるんだろうけど。ゆうべは酔っ払って小町に甘えてきて死ぬほどウザかったなぁ……

 

「お、おう、そうか」

 

 小町のお父さんに対するやや冷ためな対応にぶるっと身震いしたお兄ちゃんは、そんな寒気を吹き飛ばすかのように、できたてホカホカのおしるこをずずっと啜った。

 

「おー、二年ぶりに食ったけど、やっぱ小町のおしるこは最高だわ」

 

「そりゃねー。愛情がたっぷり入ってるもん。自分への」

 

「お兄ちゃんにじゃないのかよ」

 

 ま、そりゃ多少は入っていますとも。新年早々照れ臭いから言わないけど。でもカーくんの朝ごはんと同じくらいの愛情は込めといてあげたからね? お兄ちゃんっ。

 

「ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ」

 

「お兄ちゃんへの愛情ってそんなことなの?」

 

「去年の今ごろは、お兄ちゃんに気を遣わせたりお兄ちゃんに対してまったく気を遣わなかったり、そんでもってこうやっておしるこのひとつも作ってあげられなかったからさ、今年はおしるこくらい何杯だって作ってあげる所存であります!」

 

 おこたでぬくぬくしながらも、小町スマイルでびしっと敬礼をしてあげると、妹の暴言にうんざり気味に顔を引きつらせていたお兄ちゃんの顔が優しく綻ぶ。

 

「そりゃありがたい。んじゃお兄ちゃん、小町の愛情チャージの為にも、三が日にかけておしるこ三十杯はいけちゃうぜ」

 

「うわぁ……さすがにそれは気持ち悪いよ」

 

「解せん……」

 

 

 こんなアホなやりとりをしながらも、どこか優しい微笑みを浮かべる兄を見て小町は思う。

 

 そう。去年の今ごろはお兄ちゃんになんにもしてあげられなかった。なにせナーバス丸出しの受験生だった小町には、この時期にお兄ちゃんのお腹を満たしてあげられるような余裕はなかったのだ。だから、おしるこを作ってあげたのは実に二年ぶり。

 

「ま、お兄ちゃんが気持ち悪いかどうかは今更だからともかくとして、今年はお兄ちゃんの方が受験生なわけだし、今年は小町がお兄ちゃんに気を遣ってあげる番だもんね」

 

 思えば去年の今ごろは、お兄ちゃんにいっぱい気を遣わせちゃったなぁ。マリッジブルーもかくやと言うほど不機嫌さを丸出しにしてた時だってあった。気を遣ってくれてるお兄ちゃんに当たっちゃう事だってあった。

 

 それでもお兄ちゃんはいつも優しく見守ってくれた。いつもダメダメで目が腐っててどうしようもない愚兄のくせに、そういう時だけは、ふんわりと優しく包み込んでくれるようなお兄ちゃんパワーを遺憾なく発揮してくれるから困る。

 なにが困るって、そりゃ、ねぇ?

 

「そりゃあんがとよ。んじゃまぁ遠慮なく甘えさせてもらいますかね」

 

「う、うん」

 

「どした小町、なんか顔赤いけど」

 

「そ? あ、じゃあ炬燵とおしるこの熱にやられちゃったのかもね」

 

 いえいえ、やられたのは炬燵やおしるこの熱なんかじゃなくって、そうやって小町にしか見せないお兄ちゃんの優しい笑顔に触発された、ちっちゃな胸の奥の方に封印してる密かな熱によるものなのです。

 

 

 ──元旦の初モノづくし。初おこたに初笑い。初お兄ちゃんスキルの初笑顔に、初お兄ちゃんスキルの初笑顔にやられた千葉の妹の小さな胸。

 ここまで初づくしな元旦だもん。だったら今日くらいは、昔胸の奥に押し込めたこの“初”を、少しくらい表に出しちゃったってバチは当たんないよね。

 

「むふー」

 

 カーくんよろしく、小町は隣でサトウの切り餅をもちもち〜っと伸ばしてるお兄ちゃんにぐりぐりと頭を擦り付けてマーキング。初甘えである。

 

「どしたの小町ちゃん?」

 

「やー、一年の兄は元旦にありって言うじゃん? だから御利益の為にもお兄ちゃんからパワーを奪っとこうかと思って」

 

「いや、その『けい』は兄じゃなくて計な。あと計は計画の計であって、一年の計画を立てるなら初めから立てとけみたいな意味で、決して御利益があるとかパワースポットとかでは──」

 

「お兄ちゃん、あんまり細かいとみんなからウザがられるよ」

 

「おい、高校生にもなって相変わらずおバカなこと言ってる可哀想な妹に、親切なお兄ちゃんが優しく説明してやってるってのに失敬だな。あと俺はエブリタイムみんなからウザがられてるから、そんなのは今更だ」

 

「うわぁ、ウザい」

 

 別に小町にとっては一年の始まりに必要なのが兄だろうと計だろうとどっちだっていいのです。

 いま小町が必要としているのは、一年の計とやらをただの言い訳に使った、お兄ちゃんの初ぬくもりだけなのです。

 だって今日は朝から……、んーん? もっとずっと前から決めてたんだもん。せめて今日くらいは、小町の大切な“初”を表に出そうって。

 

 

 

 ──胸の奥の奥、でもそこよりもさらにずっと奥の方にしまい込んだ密かなる想いであり、小町にとってとても大切な“初”

 ……それは、小町の“初”恋の相手がお兄ちゃんだということ。

 

 でもこれは別に小町が他の子たちと比べて変ってるわけでは決してない。ない、はず。

 だって妹にとってお兄ちゃんていうのは、一番早く意識する異性であり、一番早く自分の事を守ってくれると認識できる、とってもカッコいい存在なのだから。

 ほら、良く居るじゃん。将来お兄ちゃんのお嫁さんになってあげる! っていう幼い女の子。だからこれは決して小町に限った不埒な気持ちなのではなく、妹として生まれてきたからには誰しもが抱く気持ちなのです。だから大した問題ではない、はず。

 

 ちょっと問題なのは、そんな誰しもが抱いて、誰しもが幼い内に他の感情により昇華できる幼さ故の未熟な想いを、小町の場合ちょっとだけ長く引きずっちゃったってだけの話。なんなら未だにちょっと引きずってるまである。うん、やっぱ大問題だー!

 

 でもしょーがないじゃん。これは小町が悪いんじゃなくて周りの男の子達が悪いのです。だって、あんなしょーもないお兄ちゃんなんかよりも素敵だなって思わせてくれるような子が現れてくれないんだから。

 だから小町は、未だに初恋から抜け出せないでいるのです。

 

 

 ……何度この気持ちをお兄ちゃんに伝えようとしたことか。お兄ちゃんがシスコン過ぎるせいだからねって。だから小町だってこんなにブラコンこじらせちゃってるんだからねって。

 

 でもそれを言ってしまったら、お兄ちゃんとのこのぬくぬくの空気感が壊れてしまいそうで……。確かにお兄ちゃんは極度のシスコンだけど、いざ妹から異性として見てるとか言われたら、さすがに思うところもあるだろう。

 

 それによってお兄ちゃんが小町に対して態度を変えるとは思わない。だってお兄ちゃんだもん。今までと変わらず、誰よりも小町の事を大切にしてくれるだろう。

 でもそれはやっぱり、厳密には“今まで”とは微妙に違うと思うのです。ほんの少し小町に遠慮しちゃうかもしれない。ほんの少し小町によそよそしくなるかもしれない。ほんの少し……、小町をどう扱えばいいのかを計りかねるかもしれない。

 多分それは本当に微々たるもの。他の誰に気付かれることもない、ほんのちょっとの揺らぎのような。

 

 でもこんなお兄ちゃんと十五年も一緒にいた小町にはわかってしまう。感じてしまう。

 そしてそれを感じてしまったら、今度は小町がお兄ちゃんに対して遠慮やよそよそしさを出してしまう。それは、世界で唯一お兄ちゃんにしか分からないような小さな揺らぎ。

 

 お互いの揺らぎは微々たるものでも、ぶつかれば波紋のように大きく揺らぐ。大きく揺らいで反発しあって、もう元には……、この幸せなぬくぬく感には戻れないんだろう。

 

 だから小町は、この気持ちを知られるわけにはいかなかった。確かにお兄ちゃんは小町の初恋の人ではあるけど、それより前にお兄ちゃんは小町の大切なお兄ちゃんだから。

 大切なお兄ちゃんとのぬくぬく感を失うくらいなら、こんな気の迷いは封印してしまえばいいって、そう思ってずっとやってきた。

 

 それはもしかしたら、お兄ちゃんが物凄く嫌う欺瞞ってやつなのかもしれない。自分の本当の気持ちを決して表には出さず、ただただぬくぬくした毎日を守る日々。

 

 でも、いくらお兄ちゃんが嫌う行為だからって、こればっかりは絶対口にしてはいけない秘密。だから小町はせめてもの慰めとして、油断すると溢れてしまいそうになるこの想いを、今日くらいはこうやってお兄ちゃんにぶつけまくっているのです!

 隣であったかい炬燵とおしるこに身を任せているお兄ちゃんにぐりぐりと頭を擦り付けて、くんくんと匂いを嗅いで、今のうちにお兄ちゃん成分をたっぷり補充するのが、本日の小町の初目的。

 

 だから今日は朝から張り切ったんだよ? 少しでもこの時間を楽しむ為に。もうこういうの、最後にするから……

 

 

「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

「ん? お、おう」

 

 茶番から一転、突然神妙な顔と真剣な声で話し掛ける妹に、お兄ちゃんは軽く戸惑った。

 そりゃびっくりするよね。おちゃらけた空気からこんな風に突然かしこまったのなんて、小町が総武の受験を終えて、お兄ちゃんに三つ指立てて今までのお礼を言ったとき以来だっけ? しかも今は隣で甘えまくってる最中だもん。そりゃ何事だ? ってびっくりするに決まってる。

 

 ……あのとき、本当はこのままお兄ちゃん離れしようかなって思ったんだよ? いつまでもお兄ちゃん離れ出来ない小町と、いつまでも小町離れ出来ないお兄ちゃんじゃしょうがないもんね。

 でも結局出来なかったから、小町がお兄ちゃん離れするのを先のばしにしちゃったから、だから今から小町は宣言します。小町はもうお兄ちゃん離れするよって。

 

「こうやって一緒の炬燵入って新年を祝うのなんて、今年で最後じゃん?」

 

「え、なに言ってんの? お兄ちゃん死んじゃうの?」

 

「だってお兄ちゃん、四月から大学入って一人暮らしだし」

 

「い、家から通うつもりだったんですけど……」

 

「お兄ちゃんはねぇ、いい加減家から離れなきゃダメだよ。いつまでも家に寄生してたら、ホントダメ人間になっちゃうよ。なんなら手遅れ気味なくらいなんだから」

 

「ひ、ひでぇ……」

 

「なので四月からは一人暮らし決定です!」

 

「マジ……かよ……。つ、つうか仮に一人暮らし始めたとしたって、せめて正月くらいは帰省したいんですが……」

 

「寄生ダメ、ゼッタイ」

 

「寄生じゃなくて帰省だからね……?」

 

 よよよと泣き崩れる猿芝居劇場を開演するお兄ちゃんには悪いけど、そんなのじゃもう小町は動かない。

 だってこれは小町の為でもあり、他ならぬお兄ちゃんの為でもあるんだから。

 

 今はまだお兄ちゃん以外に恋をしたことのない小町だけど、いずれ……、そのうち……、近い内に……、いや、そんなに近くもないかもしんないけど、いつか絶対にお兄ちゃんよりも素敵だなって思える男の子と、こうして寄り添う日が絶対来る……はず。

 でも今のままだとお兄ちゃんショック受けまくって落ち込みそうだし、絶対紹介出来ないもん。泣かれたらさすがに引く。そういうウザイのは、お父さんだけでおなかいっぱいなんですよ小町は。

 つまりね? お兄ちゃんが小町離れしてくれない限りは、小町はお兄ちゃん離れ出来ないのです。

 

 お兄ちゃんには、多分近い内に彼女の一人や二人出来るでしょう。少なくとも卒業式に三人くらいから告白されんだからね。そのホウレンソウは小町が直接いただいております!

 だからお兄ちゃんは来るべくその日に向けて、ちゃんと覚悟しとくんだよ?

 

 それなのに、彼女が出来ちゃうであろうお兄ちゃんが妹離れ出来ないままとは何事ですか! 両手に花気取りかー!

 はっきり言って、そんなんじゃお義姉ちゃん候補さん達に失礼だし、お兄ちゃんもいい加減小町から卒業しないとダメなのです!

 

 

 

 ……ホントはね、小町だってずっとこのままでもいいんなら、このままでいいのになって思ってるよ。てかこのままでいたい。

 本音を言えば、お義姉ちゃん達にお兄ちゃんを取られちゃうのは結構もにょる。小町はみなさんのこと大好きだけど、でもやっぱり一番大好きなのはお兄ちゃんだから。

 大好きなお兄ちゃんとずっとこの家で過ごせたら、どれだけ幸せなんだろ、って思うよ。

 

 

 でもね、いつまでもこのままじゃいられないから──

 

「だからね」

 

 ──だからせめて今日くらい、小町の大切な“初”を、思いっきり表に出したって……いいよね?

 

「今年のお正月は、初小町をたっぷり堪能して、小町成分をたっぷり補充していいからね」

 

 ──これで最後だから、小町の初恋心をたっぷり補充させてよね。

 

「今年は受験生のお兄ちゃんを、たっぷりと甘えさせてあげるね。ふっふっふ、いつもだったらウザイけど、今日くらいはこういうのも許してあげようじゃないか☆」

 

 ──今年で初お兄ちゃんに甘えるのは最後にするから、たっぷり甘えさせてよね。

 

 

 

 

 ……心と言葉はいつだって裏腹だ。

 今のうちに補充しときたくて堪らないのに、口を衝いて出てくる言葉は「補充していいよ」

 今のうちに甘えときたくって仕方ないのに、口を衝いて出てくる言葉は「甘えさせてあげる」

 

 本当は声を大にして言ってやりたいよ。甘えさせてよって。補充させてよって。

 でも今日からお兄ちゃん離れ計画を遂行していくつもりの小町には、それは出来ないお約束。

 だからまるで安いツンデレヒロインみたいに、小町は心とは裏腹な言葉を紡ぐのです。

 

「あーあー、わぁったよ。小町がそんなにお兄ちゃんに出ていって欲しいんなら、しゃーないから一人暮らしする方向で考えとくわ」

 

「……うん」

 

「……だからまぁ、その、なんだ……。今日は目一杯甘えさせてもらうからな」

 

「……っ」

 

 可愛い妹から出てけ出てけと言われて、拗ねちゃったのかと思われたお兄ちゃん。

 ホントは違うんだよって言いたくて、でも言えなくて。だから小町は弱々しい声で「……うん」と返事を返したの。

 

 でも、察しのいいお兄ちゃんはそんな小町の本心に薄々気付いたのだろう。

 いや、さすがに本心の本心までは気付くわけはないけれど、でも、本当は小町が甘えたいんだろ? 小町だって本当はお兄ちゃんを家から追い出したいわけじゃないんだろ? 小町もお兄ちゃん離れしようと頑張ってるんだろ? って、そこだけはうっすらと分かってくれたみたいで、小町の頭をぐりぐり撫でながら、いつもの笑顔……、小町にしか見せない優しい笑顔で「甘えさせてもらう」と言ってくれた。

 

 

 ──ホントお兄ちゃんはお兄ちゃんだよね。

 いつも頼りないのに頼りがいがあって、いつも格好悪いのに格好良くって、……そして、いつも小町に一番優しい大好きなお兄ちゃん。

 

「……うん! ホントお兄ちゃんはシスコンなごみぃちゃんだなぁ」

 

 というわけで、小町は仕方がないので、お兄ちゃんにぎゅうっと抱きついてあげました!

 まったくー、ホントお兄ちゃんはしょうがないなぁ。ではではたっぷりと小町のぬくもりを堪能しなさいな!

 

 

 

 こうして比企谷兄妹の新たな年……、ただの新年ってだけじゃなくって、今までの兄妹仲とは確実に変化していく新しい年。そんな新たな年の初めのこの日は、こうしてゆっくりまったりぬくぬくと過ぎてゆくのでした!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜……、にしても一人暮らしかぁ。今日だけで小町成分いつまで持つの……?」

 

 とはいえこのお兄ちゃんである。小町の気持ちは理解してくれても、長年培ってきたこのダメダメな性根が、この残酷な現実を認めてくれるわけではないのだ。

 

 ダ、ダメだからね! そんな捨てられた仔犬みたいな顔したって、小町は拾ってあげないんだから!

 

「ま、まぁちょっと急すぎたかもしんないし……? んじゃ仕方ないから、お正月くらいは顔だしたっていい、かも……?」

 

「え……、正月の帰省もダメだってマジだったの? ……おいおい、じゃあ四月に家出たら、小町に正月まで会えないのかよ……」

 

 うぅ〜、ずるいよお兄ちゃん。そんな顔されたら、小町むずむずしちゃうじゃんかぁ……

 

「も、もー、しょうがないなぁ。んじゃ、たまに……ほんっとたま〜に、小町が通い妻してあげるよ! 本当にたまにだからね?」

 

「おお、マジか!」

 

 もー、なんですかその嬉しそうな顔はー! なんか小町までニヤけそうになっちゃうじゃんか!

 

「た、たまにって言ったって、週二とか週三くらいしか行ってあげないんだからね!」

 

 

 

 

 

 ──どうやら小町は、まだまだお兄ちゃん離れが出来ないようです……

 でもま、小町、お兄ちゃんのことが世界で一番大好きだからしょうがないよねっ。

 

 あ、今の小町的にめっちゃポイント高ーい☆

 

 

 

 

おしまい♪

 

 




というわけで102話目にして初の小町でした!
いやー、読み始めるまで、まさか今回のヒロインが小町だなんて誰も気付かなかったでしょうね。(志村!サブタイサブタイ!)


それにしても、なぜここまで小町ヒロインがなかったのか。実は私には実姉が居ましてですね。ぶっちゃけ、我が身に置き換えると姉弟同士の恋愛とか、想像しただけで吐き気レベルの蛮行なんですよねー。
あ、別に姉が死ぬほどブサイクとかってわけではなく、学生時代は友達に「姉ちゃん可愛いよなー」とか言われてたくらいなレベルですよ?
それでもやはり姉弟間においてはソレって無理なんです(・ω・;)


なので今まで小町ヒロインは書けなかったのですが、以前からずっと初の小町を書きたくて書きたくて、なら新年初出しだし初小町にしよう(ピコーン)とね☆
内容的にもこれくらいならまだいけるかなー?なんて思いまして。
なにせ実際小町は理想の男性像があからさまに八幡ですしね。(確か嫁度勝負かなんかの時に言ってましたよね)

そんなこんなで新年一発目が初小町となったわけです。



てなわけで新年早々お読みいただきまして誠にありがとうございました!
更新速度は日に日に落ちる一方ではありますが、まだなにかしら書いていくとは思いますので、今年もどうぞよろしくです♪ノシノシ


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