八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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どうもです!今回はなかなか早く更新出来ました゚+。(*′∇`)。+゚


しかしここで残念なお知らせです。今回のお話は超久々な“あの”オリジナルヒロインストーリーです。
オリヒロとかいらねぇよ!という読者様ごめんなさいm(__;)m




小さな恋のうた

「……んっ……ん〜」

 

 

 カーテンの隙間から零れてくる陽の光を感じながら、ベッドの上でのびーっと新しい今日を迎える私。

 お年頃の乙女とは到底思えないボンバーヘッドをぼりぼり掻いてむにゃむにゃと目を擦る。

 

 やー、我ながら酷いもんですなぁ。爆発した頭に着崩れてお腹丸出しのパジャマ姿。ズボンはずり落ちてて、パンツ丸出しどころかパンツそのものも半分ずり落ちて半ケツ状態ときたもんだ。ケツだけ星人ぶりぶり〜。

 っべー! 寝呆けまなこでオケツをぷりぷり振っている場合じゃないわ? お願い私! これでも一応女の子なんだから、もっと自分を大切にしてあげて!

 

 こんなあられもない姿、誰にも……特に異性には絶対見せらんないわよ。もし彼氏できて、朝チュンがこのザマだったら一発アウトですありがとうございました。

 ヒュゥ〜ッ、あっぶね! 直哉と付き合ってた頃はまだそういうカ☆ン☆ケ☆イ☆にまで発展してなくて良かったぜ! 私から振ってやったのに、危うく私が振られるという汚点を残しちゃうとこだったわー。

 

 と、ホッと胸を撫で下ろしつつ、あ、そういや今って何時なん? とスマホに手を伸ばす。なにせ今朝はコイツが鳴り出す前に起きてやったからね。

 フッ、相棒さん? いつもいつもお前の勝利で終わると思うなよ?

 

「ブハッ……!」

 

 時刻は七時半を優に回っておりました。おいおい、鳴ってたんなら鳴ってたって早く言ってくれよ相棒。

 

 ちっきしょう! この乱れきった痴態も目覚ましが鳴ってたのに気付かなかったのも、それもこれもアニメを深夜に放送するのがいけないんだい!

 なんであんな時間にアニメやんのよ。そりゃ寝不足で色々と乱れちゃうでしょうが。私は悪くない。アニメ制作委員会が悪い。

 

 

 寝坊を社会のせいにして直ぐ様ベッドから飛び降りた私は、うひぃ〜……! と小さく声を漏らしつつ慌ただしく登校の準備を始める。くっそ、今日はあの日だから荷物多いのよぉ! やっぱゆうべの内から用意しとけば良かったよぅ!

 あ、ちなみにあの日と言っても、別に準備する荷物とはナプキンのことではないですよっ? 朝からこれは酷い。

 こぉ〜ら! 良い子はナプキンでググったらダ メ だ ゾ☆

 

 朝イチから酷い下ネタをブッ込んだ私は、念入りに選定したブツをせっせとスクールバッグに押し込む。

 作業を終えたら次はおめかしの時間だぜ! どたどたと階段を下りて洗面所で歯磨き&洗顔&寝癖直しを済ませる。ここまでの所要時間およそ十分。

 さらに、自室に戻ると着替えとメイクまでを十分程で行うというどったんばったん大騒ぎな朝の一幕であった。女の子の朝にあるまじきタイムアタックである。

 もう! 今日に限ってこれかよ! 今日はあの日なんだから、朝の準備くらい念入りにさせてよぅ……! こんなずぶ濡れ頭と乱雑メイクじゃなくってさぁ! ……自業自得以外の言葉が思い浮かばない。

 

 

 ──こうして私 家堀香織は、いつも通りの平穏な朝を迎え、意気揚々と学校に向かうのだった。今日に限ってどころかこれがいつも通りなのかよ。

 

 

× × ×

 

 

 朝の戦場を全力で駆け抜けた私は、ようやく我が学舎(まなびや)へとたどり着く。寝癖直すためにびっちょびちょに濡らした髪も、やっとこさいい感じに乾いてきましたわ。女子がドライヤーも使わず自然乾燥って……

 

 登校時間ギリギリという事もあって、校門から昇降口までは人もまばら。何人か見かける生徒達は、我先にと早足で自分の教室へと向かっている。

 

 ……まったく〜、どいつもこいつも朝くらい余裕をもって行動しなさいよね! 小坊中坊じゃあるまいし、私達はもう高校生、もう立派な大人なのよ? 大人は何事も十分前行動が基本なんだからねっ?

 なんて思いながら、競歩の如くお尻ぷりぷり早歩きで下駄箱へと向かう私は、どうやらこのギリギリな高校生達の中でも特に余裕をもって行動できていないダメ高校生な模様です。実に怠惰デスネェ。

 ほ、ほら、私クラスになったら重役出勤ってやつですよ(震え声)

 

「……なん、だと?」

 

 ひーこらとようやく自分の下駄箱に到着した私。

 いつものようにローファーを脱いでいつものように上履きに履き替えようとした私の目に、いつもとは違う物が飛び込んできた。それは、私の下駄箱にそっと添えられた一通のお手紙。

 

「うわ、マジ……?」

 

 これはまたなんとも古風な。最近でも普通にあんのね、下駄箱入りのラブレターって。

 

 まぁぶっちゃけ、私ってトップカーストで中心張れるくらいにはお顔整ってるんでそれなりにモテますし? ふひ。

 だからまぁ今まで何度か告られた事だってありますし? ふひひ。

 だから別にラブレター貰ったくらいで、別にそこまで童謡はしないのよ。動揺して変換が童歌(わらべうた)になっちゃってる件についてはスルーの方向でオナシャス。

 

 そう。告られるくらいならそうそう動揺しないんだけども、こうしてラブレター貰ったのは初めてだわ。ちょっとびっくり。

 今までされた告白っつったら、休み時間とか昼休みに教室に居たら廊下から呼び出されたりとか? 帰ろうと思ったら校門で待ち伏せされてたとか? あとは、別に合コンってわけじゃないけど、何人かで一緒に遊んでたらいつの間にか二人きりになるよう誘導されてて告られたりとか?

 元カレんときがその流れだったよね、確か。

 

 とまぁそんなこんなで、こうやってお手紙貰うのはお初だったりします。なんていうか、手紙入れる時に上履きの匂いとか嗅がれちゃってないかちょっぴり不安☆

 

 発想が完全に変態みたいになっちゃってるけど、……だってほら、ラブレター入れるって事はさ、私に好意があるわけじゃん……? そしたらさ、野獣な男子の目の前には、好きな女子が毎日履いてる、年季の入った上履きがあるわけですよ。

 ……なんつーの? 男子って、好きな子のリコーダー舐めたりするんでしょ? そしたらさ、上履きくらい嗅ぎそうって思っちゃっても仕方ないじゃない。

 ……下駄箱にラブレター入れられてると、女子的にはぶっちゃけ結構怖いゾ……?

 

「……えっと」

 

 若干の身震いを覚えながらも、家堀香織様宛の封筒の裏っ側に目をやってみる。一体どこのどいつよ、私の足のスメルを嗅いだ変態は! (風評被害)

 

「……え、三年……!? 綾瀬……?」

 

 ……ぜ、全っ然知らん。てか三年で私が関わった事がある人なんて部活の先輩くらいなもんだし、三年生って時点でほぼ知る由もないけども。

 

 マジかよ……、私、全然知らない人から告られるとかめっちゃ嫌なんだけど……。なぜ嫌いかの詳細については、あざとくない件第十五話を参照っ! これは酷いステマ。

 

 じゃあまぁ手紙でも致し方ないっちゃ致し方ないか〜。初見のうえ学年が2コも違うんじゃ、余りにも接点が無さすぎて教室で呼び出すとかどっかで待ち伏せとかは流石に気まず過ぎだもんね。まぁそもそも接点ゼロの相手に告ろうとする意味は分からんけど。

 仕方ねーなぁ、んじゃまぁ上履きをクンカクンカした件については見逃してやろう。風評被害がとどまる所を知らない。

 

「ちっ、モテる女はツライぜっ♪」

 

 で、バッグに手紙を押し込みつつ、愚痴なんだか自慢なんだかよく分からない独り言をぽしょりと呟きながら教室へと向かう私は、見事朝のHRには間に合いませんでしたー!

 

 ちっきしょー! こんなギリギリ出勤の日(自業自得)にラブレターなんて寄越しやがって! 色々と葛藤してたら時間食っちまったじゃんか!

 許すまじ、綾瀬先輩とやら。

 

 

× × ×

 

 

「……うおっ、これはまたなかなかのイケメンさんじゃねぇか……っ」

 

 壁からこっそり覗いた先には、なんともいい人そうなイケメンさんが一人、そわそわと立ち尽くしておりました。

 

[突然こんな手紙出しちゃってごめん。

家堀さんにお話したい事があります。もし良ければで構わないので、昼休みに体育館の裏まで来ていただけませんか?]

 

 そんな内容の手紙を読んだあとの昼休み。当然お断り目的ではあるけれど、えーい、別に行きたかないけど無視しちゃうのはなんとも寝覚めが悪りぃや! と、なんとも男前な理由で呼び出し場所である体育館の裏へとやってきている私。

 もちろんラブレター貰っちゃった事はいろはにも紗弥加にもナイショだよ? だってその二人ならまだしも、智子とか……あとは、ね、バカに知られるとマジウザイからね。

 

 本日の私には昼休みにとても大切な用事がある。だから本音を言うとこの時間に呼び出しとか、ホントご勘弁願いたかった。

 うっわぁ……昼休みかぁ……勘弁してよぉ……などとぶちぶち文句垂れながら、重いスクールバッグをうんしょと担いでやって来ました体育館裏。

 さてさて、一体どんな人が私に愛を囁くつもりなのかしらんっ? と、最近すっかり私の得意技となってしまった覗き見をしてみますとアラびっくり。予想外な爽やか系イケメンさんが!

 

「……ほへぇ〜、三年にも結構イケてるのも居るんだねー……」

 

 直哉もそこそこイケメンだったけど、こっちの方がずっとイケメンだわ。ふむふむ、あんなイケメンが私の上履きをハスハスしたのか〜。いやん! ちょっぴり興奮!

 

 

 我が総武高校は、良くも悪くも現二年生が目立ち過ぎているため、正直な話一年生のあいだで三年生が話題に上がる事などほとんど無い。名が知られている三年生と言ったら、城廻めぐり元生徒会長くらいなもんじゃないかしら。

 そりゃね! 雪ノ下先輩とか三浦先輩とか葉山先輩とかが居ちゃあね〜。我らが一年にもいろはという注目人物が居るのだから、地味目と目されている三年生の話題など、我々のあいだでは特に需要がないのであ〜る。

 

 そんな目立ち過ぎる二年生と一年生生徒会長の弊害なのだろう。そこそこの美人さんやそこそこのイケメンさんくらいでは、残念ながらただ埋もれていくだけ。つまりあの綾瀬先輩とかいう三年生も、葉山先輩という太陽に隠れてしまった被害者の一人なのだろう。葉山先輩マジ逆光。

 

 ……にしても、なぜ私とは無関係なはずの三年のイケメンさんが私に告白を……? これはもしかしたら告白というのはただの勘違いとか? 話してみたら実はこの人オタクで、こうしてこっそりとアニメの事やらラノベの事やらの話がしたいだけとか?

 そんな可能性もなきにしもあらず。いやいや、私オタバレしてないし。そもそも私、別にオタとかじゃないんで。

 

 とにもかくにもいくら考えてたって埒は開かないのよ。私これから用事あるし、どんなお話だろうと長居してる場合じゃないのさ。

 よし、女は度胸! と、勇ましく突撃でござる!

 

「あ、あのっ……、こ、こんにちは」

 

「あ、家堀さん、……来てくれたんだ」

 

 うはっ! なにその嬉しそうな爽やかスマイル! ちょっと頬とか赤らめちゃってるし。ちょっぴりドキドキしちゃうんでやめてもらえませんかね。

 ……あかん、やっぱこれ告白だわ。

 

「ど、どうも……っ」

 

 ど、どうも……っ、じゃないわよ。甘酸っぱいな私。乙女か。

 なんなの? どうもの後ろにスラッシュ三本くらい付けとけばいいの? なによ顔真っ赤なんじゃない私ってば。

 だって仕方ないじゃん! なんだかんだ言って緊張しちゃうし恥ずかしいのよ、告白される瞬間っつーのはさ。しかもイケメン!

 

「あ、の〜……、綾瀬先輩、ですよね」

 

「あ、うん、綾瀬……です」

 

「ど、どもです。家堀、です」

 

「……あはは、知ってる」

 

「ですよね、え、えへへ」

 

 やだ! なんなのこの初々しいやりとり! こんなん私のキャラとちゃうよ!

 

 初めて会った二つ上のイケメンから告られちゃいそうという事態に、思いがけず乙女がちらちらと顔を覗かせちゃう可愛い私。

 やー、なんだかんだ言って、香織ちゃんも立派な女の子なんだなー。お父さん安心しちゃったよ! 女の子なんだかお父さんなんだか。

 

「あの……、ごめんね? 突然呼び出しちゃったりして」

 

「い、いえいえ!」

 

 ポッと頬染めあははと苦笑して、慌てて両手をぶんぶん振る私の姿、いつも乙女がどこかに旅立ったとか言って馬鹿にしてるあの連中にも見せてやりたい。RECスタート!

 

「えと、それで、……お話って……?」

 

 確かに、確かにちょっとだけドキドキしてはおります。おりますよ? 悪い?

 いくら知らない人から告られる事をなんだかなぁ〜、って思っていようとさ? 可愛い女の子から告白されたら、男だったら誰だって嬉しいっしょ!? 女の子だっておんなじなんだからね!

 それでも、いつまでも二人してドキドキテレテレしているわけにはいかないのよ。わざわざ、要件はなんぞ? なんて白々しく聞かなくたって、この人がなにを言わんとしてるのかくらい分かりますよ?

 でも聞かないことには会話が進まない以上、こちらからトスを上げてあげるのが淑女の嗜みってやつなのだ。本音を言うと、早く言ってくんないともにょもにょして仕方ないの!

 

「あ、うん。……そうだよねっ……。あ、あはは、なんか緊張しちゃうな……っ」

 

「……っ」

 

 いやいや、緊張すんのこっちですってばぁ!

 っべーわ〜、この顔真っ赤にして頭ぽりぽり掻いてる綾瀬先輩は、これから私にどんな甘い言葉を囁いてくれるのん!?

 

 

 なんとも形容し難い緊張感が渦巻く中、果たして綾瀬先輩は私へと想いを告げるのだ。そう、こんな想いを──。

 

「その、家堀さん。俺、前から家堀さんの事、す、好きでした」

 

 と、どうせここまで来て全然告白なんかじゃありませんでしたー! ってオチなんだろぉ? な展開を見事回避し、まさかまさかのガチ告白であります! うひょっ、香織びっくり!

 これはキマシタ香織に春が!

 

「そ、そですか……っ。その、あ、ありがとうございます……。あ、あはは、や、やば、超あっつい!」

 

 手をうちわ代わりにパタパタさせて、ポッと火照ってしまった頬の熱を冷ます。やだ、もう乙女丸出し!

 

 ……しかし、しかしである。

 

「……あ、あの、でも……ですね……?」

 

  ──どんなに照れくさかろううとも、どんなに浮き足立っていようとも、これは聞いておかねばなるまいね。もしかしたら、めちゃくちゃ失礼な発言になっちゃうかもしれないんだけども。

 ……ど、どしよ、もし私の間違いだったら……

 

「……う、うん」

 

「その……、もしかしたら失礼なこと言っちゃうのかも知れないんですけどぉ……」

 

「な、なんだろ」

 

「……綾瀬先輩と私って、これが初対面、ですよね……?」

 

 そうなのですよ。なんで関わったこともない私にこうして告白なんてしてきたのか、それだけは聞いておかなくちゃならないのだけれども、これ実は私のただの勘違いで、関わったことあんのに私が忘れてるだけだとしたら綾瀬先輩にめっちゃ失礼になってしまうのよ! だから、この質問を投げ掛けるのは死ぬほど気まずいのであります!

 

「あ、うん、これが初対面だね。今まで話した事もないよ」

 

「で、ですよね〜」

 

 あっぶね! 良かったぁ、初対面で!

 

「……え、えと、じゃあなんで私のこと知って、なんで私のこと好っ……、あ、いやいやいや! ……気、気に入ってくれたのかなー、なんて疑問に思ってしまいまして……」

 

 そして、初対面で良かったという安心を得られた以上は、次は当然本題へと入るわけでして。

 ……なんでこの人、私のこと好きとか言ってんの? って話なのよ。

 

 私のことなんてなんにも知らないくせに、一体どこら辺に惚れられるっての? 少なくとも私は、知らない相手に惚れたりなんかしないもん。もちろん見た目だけで「うひょ、かっけぇ!」とか「うへへ、イケメンじゅるる」とかは思ったりするけども、それとこれとは話は別。格好良いからって人気があるからって、告白したいとか付き合いたいとかまでは思わない。そう思うとしたら、それはそこから相手をよく観察して、相手を知ってからのお話。

 だから不思議でしょうがないのよ。初対面の相手に告白する人の心境が、さ。

 

 

 ……ま、まぁ? そりゃ気持ちは分からんでもないよ?

 そりゃこんな素敵な美少女が目の前にいたら一目惚れくらいしちゃうよねっ! ついつい目が追っちゃうよねっ! 俺の女にしたくなっちゃうよねっ!

 私家堀香織は、誰しもが認めるリア充完璧美少女なのである。フッ、まーた私の魅力で男を一人駄目にしちまったか。まったく、罪作りな女だぜ! ふへ。

 やめてください、会場に石を投げ入れないでください。

 

「……い、いやー、実は俺、一色さんのファンだったんだよね。ほら、一色さんてすごい可愛いし、男子にすごい人気あるじゃん? たから俺もつい、ね。あはは……。で、家堀さんってよく一色さんと一緒に居るじゃない?」

 

 あっれー?

 

「あと、最近髪型変わったけど、ちょっと前まで金髪ゆるふわロール? だった……、名前までは知らないけど凄い美人の子。あの子とも最近よく一緒に居るから、なんか君らのグループが凄い目立っててさ。だから家堀さんのこと知ったんだよね」

 

「ソ、ソデスカー」

 

 いやん! 私ってば自意識過剰☆

 

 なんだよ! 結局いろは目当てだったのかよ! あともしかして襟沢も目当てだったりしたのん? そりゃね、あいつら目立つかんなぁ。

 おいおい綾瀬さんよー、テレテレな顔であははじゃないよ? いろはとか襟沢だと無理そうだから私に鞍替えしたんですね分かります(白目)

 いや、いろはは無理でも襟沢ならいけると思いますよ? イケメンならホイホイ付いていきそうまである。あ〜あ、なんかもうめんどくさー。襟沢をオススメして帰っちゃおっかな?

 

 と、若干やさぐれた感のあるわたくし家堀香織ではありましたが、どうやらそれは早とちりだったようです。

 なぜなら、次に綾瀬先輩から繰り出されるクリティカルな口撃によって、私はまたも顔を赤らめさせられるのだから!

 

「……で、さ。最初の頃は廊下とか歩いてる一色さんに自然と目が行っちゃってたりしたんだけど、……いつの間にかいっつも一緒にいる家堀さんの方が気になるようになっちゃって。……ほら、なんだっけ? なんかいつも「かしこまりました?」みたいなこと言ってすごい楽しそうに横ピースしてる姿とか見てたら、あぁ、なんかこの子元気でいいなぁって。……で、気付いたらいつも家堀さんを目で追うようになってたっていうかなんというか……。あ、あはは、やっぱ照れるね」

 

 おうふ……、私、人前ではかしこまってないつもりだったのに、思いっきりかしこまってるトコ目撃されちゃってんよッ……! しかも廊下とかでさァ……! (今更感)

 

 いやいやいや、今はそれはいいのよ。その件については夜な夜なベッドの中でたんまり悶えるとしよう。

 今はそんな事よりも、この人が私を好きになってくれた理由について……そしてこの人がそれを全部白状してくれた事について、しこたま悶えなければ!

 

 や、やっばい! なんだこれ、超照れんだけども!? なにがやばいってマジやばい。

 ──うん、ちょっと嬉しいかも。

 

 今までは、知らない人に告られんのなんて御免蒙りたかっただけのイベントだったのに、今回はなんかちょっと嬉しい。

 もともといろは目当てでこっち見てたのに、私の元気な姿を見る内に私の方が気になるようになってくれただなんて、なんかそれって、ああ、ちゃんと私のこと見てくれたんだなぁ……って、ちょっぴり胸がほっこりしちゃう。

 それに、この人がめっちゃいい人なんだって事も再認識出来たし。

 だって、告る時に「もともと一色さん目当てだった」なんてわざわざ言わなくたってよくない? そんなの、告られてる側からしたらマイナスイメージにしかなんないもん。なんだよ顔とか人気目当てでいろはに惚れてたくせに、そんな一瞬で乗り換えたのかよ、こいつ女好きなだけかよ、って。

 だからそこら辺は上手く誤魔化しときゃいいのに、この人そこら辺全部包み隠さず言っちゃってやんの。意外と馬鹿なんじゃない?

 

 でも、だからこそなのよね。私的には、逆に綾瀬先輩への好感度が跳ね上がっちゃった。

 この、一切嘘の見受けられないはにかむ笑顔で、一切嘘を吐けない爽やか系イケメンさんに、少しときめいてしまった。

 

「……そんな、感じなんだ」

 

「は、はい」

 

「……で、そのー…………、も、もし良かったら、俺と付き合ってもらえない、かな」

 

「……」

 

 ──ちょっとだけ想像してみる。この人と付き合った自分の姿を。

 

 イケメンだし当然みんなに自慢できる、私の元気なトコが好きだと言ってくれる先輩。

 目立つ有名人のいろはじゃなくて、有名人の隣のモブな私を選んでくれたこの先輩の彼女になったら、……とても幸せなんだろうなぁ。なんかいつも二人して笑っていられそう。

 

 直哉とは手を繋ぐだけで違和感しかなくて、結局それ以上の関係になろうとは思わなかったけど、綾瀬先輩となら笑って手を繋いでいられそうな予感だってする。

 うん。二人でどこか出掛ける想像をしてみても、二人で美味しいものを食べてる想像をしてみても、二人で夜を過ごす想像をしてみても、どんな想像をしてみても、私は笑顔でいられてるぞ〜? これはアレかも。棚ぼた的で運命的な出会いなのかもしんない!

 

 

 ──そして、私は綾瀬先輩への答えを返す。

 なんの迷いも躊躇いもなく、ただただ頭に浮かんだ返事を即答で。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい。私、綾瀬先輩とはお付き合い出来ません」

 

 

× × ×

 

 

 一つ目の用事がようやく完了し、次は二つ目の用事へと向かうべく、またもやえっちらおっちら重いスクールバッグを担いでとてとてと移動中な私。

 ……うっわぁ、アレはマジで失敗したかなぁ……。逃した魚はなかなかおっきいかもしんない!

 迷わずリリースした私に後悔する資格なんかないってね!

 

『そっか……! うん、分かった。でもホントありがとう家堀さん、わざわざ来てくれて。……あはは、やっぱ凹むなぁ。……うん、凹むけど、凹むんだけど、……卒業前にちゃんと気持ち伝えられて、良かったよ』

 

 弱々しく微笑んで、しょぼんと去っていった綾瀬先輩。くっそ、あんたやっぱりええ人やぁ……。

 ふぇぇ……いっそ「んっだよ、勘違いしてお高く止まってんじゃねぇよ糞モブが!」とかって下衆に罵られるくらいの方が胸が傷まなかったよぅ……。うう、あの寂しげな笑顔を思い出すたびに胸がズキズキする。

 

 それにしても、あんなイケメンであんないい人に言い寄られるチャンスなんて、私には二度と無いんじゃなかろうか(白目)

 でもでも仕方ないじゃない! だって、一週間前からずっと楽しみにしていた週に一度のスペシャルイベント。まさにいま向かっているあの場所が、私を呼んでいるんだもんっ♪

 

 

 早歩きでその場所へと向かう私の目に、ようやくあの場所とあの場所の主の姿が飛び込んできた。

 おほっ、相変わらずにやにやとテニスコートを眺めておりますなぁ。あなたを見てるのが私じゃなかったら完全に事案ですよ?

 

 

「すみませんっ、お待たせしちゃいましたー」

 

「いや、別に待ってないから大丈夫だ」

 

「へっへー、またまた〜。首を長くして超待ってたくせにぃ。相変わらずの捻デレさん乙っ」

 

「……だからなんでその変な造語が普通に浸透してんだよ……」

 

「ひひ」

 

 うんざりと顔をしかめるこの人との会話で、ようやく先ほどまでのモヤモヤがどこか遠くへとぶっ飛んでくれた。うん、やっぱこれこれ!

 

 

 ……さぁ、やってきました本日のメインイベント!

 メインイベンターを務めますは当然わたくし家堀香織と、捻デレ先輩でお馴染みのこの方っ──

 

「こんにちは、比企谷先輩!」

 

「……おう」

 

 

 そう。本日は週に一度の比企谷先輩とのラノベ借り受けDay及び、オタトークに花を咲かせる会の日なのです! どんどんどん、ぱふぱふ!

 

 

 八幡プレイスの小階段にいつも通りダルそうに座っている先輩の横にちょこちょこ移動した私は、隣に勢い良くどーん! と腰掛ける。

 ふむふむ、やっぱこれよねー。この人の顔見ると、私にとって一週間に一度のこの時間がかなり大きくなってるんだなーって実感しちゃって、思わず顔も弛んじゃうってなもんよ!

 

「なんだ、随分とご機嫌じゃねーか」

 

「そりゃそうですよ〜。なにせこちとらこれの続き読みたくてやきもきしてたんですもん」

 

 そう言って、ぱんっぱんに膨らんだスクールバッグから取り出したるは、先週先輩からお借りしたラノベが数冊。三日で読み終わっちゃったけど!

 その愛おしき本達をしずしずと先輩の胸元に差し出した私は──

 

「早よ! 続きを早よ!」

 

「へいへい、ほらよ」

 

「いぇい!」

 

 感謝を込めて前回分を返却し、続く数冊を有り難くお借りする。おーおー、読みたかったぞぉ、続きちゃーん。

 

「ったく、だからこっちも先週貸しときゃよかったろ」

 

「ダメですダメです。一気に借りたらすぐ終わっちゃうじゃないですか。ゆっくり読んで、楽しみは長く続けていかないと、ね♪」

 

「……さいですか。ま、お前がそれでいいんなら別に構わんけど」

 

「ふひ」

 

 そうなのさ。一気に借りちゃったら、いつこの時間が比企谷先輩にとって不要になっちゃうか分からないもん。

 比企谷先輩からラノベ借りて、その批評会が出来るこの時間。それこそが、今の私にはめっちゃ重要な時間なの! 楽しくトークする為に夜更かししてまで観る深夜アニメだって、全部この時間の為なんですから。

 

「あ、そだ! でぇ、これは前に先輩が興味あるって言ってた漫画です」

 

 そんな時間をより長く楽しむ為に用意してきた漫画数冊を比企谷先輩へとフォーユー。

 私からも貸し出し出来れば、この時間をさらに楽しめちゃうのだから。倍率どーん!

 

「え、マジで持ってきてくれたのか」

 

「そりゃもう! 比企谷先輩にはいっつもお世話になってますからねー。なのでラノベだけでもクソ重い中、頑張って持ってきましたよっ?」

 

 と、先輩の為に! とか強調しながらも、ホントはこの時間を出来る限り続けていきたいという我欲まみれというね。

 

「若干恩着せがましいがそりゃどうも。つかお世話っつってもラノベ貸してるだけだろ」

 

「それもそうですけど、それの批評会を先輩と出来るのも楽しいんですってば。あとアニメトークもね☆」

 

「ああ、お前ガチオタで隠れオタだからな。俺以外とはこっち系の話出来ないから溜まってんだろ」

 

「だから私オタとかじゃないからぁ!」

 

「はいはい」

 

 ぐぬぬ。なんか最近、こうやって軽くあしらわれるようになってきてね? 最初の頃はリア充美少女香織ちゃん相手に結構緊張してたくせにさー。ま、そんな風に壁無く扱ってくれるトコがまた嬉しいんだけど!

 

 ……おっと、いつまでもにやにやしている場合ではないのである。時間は有限、昼休みは有限なのだから。

 今日はただでさえ時間押しちゃってるんだし、早いトコ至福の時間を楽しんじゃいましょー!

 

「さてっと。お互い貸し借りも済んだ事ですし、そろそろ行っちゃいますかー」

 

「お前張り切りすぎだろ」

 

 なにか問題でも?

 だってさー、めっちゃ楽しいんだもん! つい顔がにひっ☆と弛んじゃうぜ!

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うふ。ではまずはラノベの話から行きましょっか! 例のシーンについての考察なんですけどー──」

 

「ああ、アレはだな──」

 

「え、マジすか!? でも──」

 

「だからアレはな──」

 

 

 

 ──あー、やっばい! やっぱめっちゃ楽しい!

 

 そうなのだ。今、私ってば青春をすっごい楽しんでんのよ。

 それはもう、どんなに優しくて、どんなにイケメンな彼氏が出来る可能性があろうとも、そんなものに邪魔されたくないくらい……そんなものに時間を費やしたくないくらいに。

 

 もし私に彼氏が出来たとしたら、まず間違いなくこの掛け替えのない時間は消え失せてしまう事だろう。

 

 私は彼氏に気を遣って。

 先輩は私に気を遣って。

 

 だから、この時間を犠牲にしてまで綾瀬先輩と付き合うか? という自問自答には瞬時に答えが出た。はっきり言って、この時間に比べたら素敵なイケメン彼氏なんて全然要らないの。全然惹かれないの。

 

 ……綾瀬先輩、本当にごめんなさい。先輩はホントに素敵な人だって感じました。今の私にこの時間が無かったら、たぶんあなたとのお付き合いを了承してたんじゃないかなぁ? って思います。

 でも今はこの時間がなによりも大切だから、あなたの気持ちに応える事が出来ませんでした。

 こんな私に振られるなんて黒歴史を作らせてしまってごめんなさい。そして、こんな私を好きになってくれて、本当にありがとうございました……!

 

「いや、だからそうじゃなくてだな──」

 

「いやいや、でも私的にはあそこのヒロインの心境は〜──」

 

 我ながら、なんて残念な子なんだろって思うよ。恋愛よりもオタライフ。素敵な先輩彼氏よりも、腐り目の先輩オタ友を選んじゃうなんてさ。

 ……それでも、私にとったらこっちの方がずっと魅力的なんだからしょーがない。だから今の私には恋愛なんて不要。ただただ余計な存在なのである。

 こうして下らない話に花を咲かせながら、この下らない先輩と笑い合ってる今こそが一番大切。

 

「てか比企谷先輩、女の子の気持ちなんて理解できないでしょ」

 

「ばっかお前。物語の中では美少女ヒロインでも、アレ書いてんの中年のおっさん──」

 

「それは言っちゃダメぇェ!」

 

 

 

 ──んー、でもなんだろな。ただ馬鹿みたいにゲラゲラ笑ってオタトークしてるだけなのに、なーんか最近ちょくちょく鼓動が早くなったりするんだよな〜。

 普段キモい死に顔晒してるこの先輩が、時折見せる楽しそうな笑顔を見ちゃったりした時なんか、ね。……心不全?

 

 でも、そんなに心地が悪いもんでもない。てかむしろ心地好いまである。ドキドキというよりはとくんとくん? ちょっとぽかぽかしてちょっとるんるんして、な〜んかいい感じ。

 まるで心臓がご機嫌な鼻歌でも口ずさんでいるみたいな、とてもとても小さなうたみたい。

 

 この心臓のハミングがなんなのかはよく分からない。だって、こんなの初めての感覚だし。いやん! こんなの初めてぇ☆

 だからまぁ、分からないなら分からないで今はまだいっか。今はそんなことよりも、目の前のめくるめくこの素晴らしきトークタイムと、今夜のラノベの続きを楽しもう! そう遠くない未来、この小さなうたの答えに行き着くその日までは。

 

 

 

 

 ──これは私 家堀香織が、まだ本物の恋を知る前の、小さな小さな恋のうたの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、……な、なぁ家堀」

 

「なんですか?」

 

「あー、……なんだ」

 

「はい?」

 

「……またこうして、漫画とか貸してくれると、……まぁ、その、助かる」

 

「っ! ……へっへ〜。まぁ比企谷くんがそこまで言うんなら仕方ないですなー」

 

「うん、ウザいからやっぱいいわ」

 

「わー! 嘘です嘘です! ……ふふっ、かしこま☆」

 

「…………な、なぁ家堀、非常に言いづらいんだが、かしこまの時代はもう……」

 

「やめてェ! それだけは言わないでぇぇッ! ……うぇぇん! まだGWに映画あるからワンチャンあるもぉん!」

 

 

 

 

お終い☆

 

 

 

 




というわけでお久しぶりの香織でした!
久しぶり過ぎてコレが香織でいいのかどうなのかよく分からん('・ω・`)
後れ馳せながら、3月でかしこまが終わってしまった記念に☆

というわけで、また次回お会いいたしましょう!ノシ




さて、ここでちょっとしたお知らせです。
今回を持ちまして、この短編集でのオリヒロ系SSは終了です!
というのも、やはりオリヒロ系というのが好きではない読者様もたくさんいらっしゃるでしょうし、前々からこの短編集でオリヒロ書くのはもうやめよっかな?と思っておりましたので。

なので、今度からは新連載としてオリヒロSS用の短編集をチラシの裏で投稿しようかなー?なんて考えております。最近スランプで筆がなかなか進まないので、オリキャラ短編をチラ裏でやるくらいが一番気楽かな♪と。
てか実は今回の香織SSはソレの1話目として書き始めたんですよね(^皿^;)
でもソレを香織好きな読者様にお伝えする場が無かったので、今回はこちらでの投稿とさせていただきましたm(__)m



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