八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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ご無沙汰しております!

ついにやって来ましたみんな大好き2月の大イベント♪

え?なんのイベントかって?
それはもちろん☆





のけものフレンズ

 

 

 

 友人宅での誕生日パーティー。それは、ぼっちにとって最早都市伝説である。

 そんなものは漫画やアニメ、ラノベやドラマでしか目にした事のない、実在さえも疑われるほどの未確認行事なのだ。最早UMAレベル。

 だって小学生の頃クラスメイトのお誕生会にお呼ばれしたからご自宅に行ってみたら、え、なんでこいつ居んの? って顔で見られましたもん。主役に。

 

 あの時なんで俺行っちゃったんだろう。てか主役が誘ってくれたわけじゃないんなら、俺いったい誰から誘われたんだっけ? 別の人を誘ってる所に偶然居合わせて、自分も誘って貰ったと勘違いしちゃったんですねわかります(白目)

 

「あはは! マジでー? 超ウケるんだけどー!」

 

「だよねー! わたしもあんとき超笑っちゃったよー」

 

 そう。お友達の家にお呼ばれするお誕生会など幻なのである。そんなものは三次元には存在するはずもない、ただの妄想の産物。

 ま、まぁ? こんな俺でも? 友達……ではないが、部活メイトの誕生日くらいなら呼ばれた事だってありますよ? 去年由比ヶ浜の誕生日で大勢でカラオケ行っただけだけど。

 だが決して自宅にお呼ばれしてみんなでケーキ囲んでワイワイしたわけではない。あれはあくまでも部活動の一環みたいなとこあるし。

 

「てかここのケーキめっちゃ美味くない!? やば、ずっと食べてられんだけど」

 

「うんうん、めっちゃ美味しいよねー! 主役なんだから遠慮せずもっと食べたまえー」

 

「いぇーい!」

 

 だから誰かの誕生日に主役の家に集まってパリピするなんてのは、少なくとも俺の人生にとっては無関係なのだ。無関係だったはずなのだ。

 

「あ、今日はもちろん食べまくっていいけどさ、今度学校帰りに寄ってかない? もっと色んな種類食べたいじゃん?」

 

「それあるー! ……てかさ、さっきから比企谷やけに静かすぎじゃない?」

 

「ねー。比企谷くんも一緒に盛り上がろうよー」

 

「ま、比企谷みんなでわいわいやるのとか苦手そうだしねー。ウケる」

 

「いやウケないから……」

 

 

 ──そんな実在未確認でUMAで幻だった主役宅での誕生日パーティーだと言うのに、なぜに俺はここでこうしているのだろうか……。まぁ女子二人で盛り上がってるだけで、ほぼ放置状態の俺は完全にのけ者ではあるけれど。

 

 

 

 比企谷八幡十七歳の冬。

 友達……なのか? よく解らないが、俺を友達だと言って無理やり引っ張ってきた女の子と、そして友人どころかギリギリ知り合いという括りでさえも疑問符を打たざるを得ない、名前さえよく知らない女の子との三人で、なぜか俺は今、主役の部屋でパリピしています(遠い目)

 

 

× × ×

 

 

 本日の学校生活も無事終わり、俺は愛する我が家に向けて一路自転車を走らせていた。

 

 ここは総武高校付近から我が家付近までの川沿いを真っ直ぐ伸びるサイクリングロード。距離だけで言えば家までは若干遠回りにはなるものの、曲がり角やら信号やら車の往来等を考えると、結果的にはこちらの方がずっと早く目的地に辿り着けるので、通学時にも帰宅時にもよく利用する道である。

 

 そんな行き付けの店ならぬ行き付けの道をきこきこ漕いでいると、真っ直ぐなサイクリングロードの遥か向こうで、なにやらぴょんぴょん跳ねながら手を振っている人影が。

 夕方のサイクリングロードという事もあり、辺りには利用者がそれなりにちらほらしている。ロードバイクと呼ばれるスポーツタイプの自転車を颯爽と走らせる者。夕方の散歩がわりにのんびりママチャリを走らせる者。俺と同じように学校や会社からの帰宅にこの道を利用する者。そんな数居る利用者の中の一人を待っているであろうその影。

 距離がある為まだ全体像程度しか把握できないが、どうやらその影は二つほど。

 制服姿である事、そしてその制服がスカートである事から、JCかJKか知らないが、二人は女子学生とみられる。

 二人のうち手を振っているのは片方だけのようで、もう一つの影は元気に手を振っている影の隣にただ佇んでいた。

 

「なんだありゃ」

 

 サイクリングロードを利用している誰かを待っているのはわかる。わかるのだが、あれじゃ待たれている方が恥ずかしいだろ……と、思わず待たれ人に同情してしまうくらい目立っていた。

 ぴょんぴょんと元気に跳ねすぎて、パーマがかかっているのかくしゅっとした黒髪ボブと制服に隠れたバスト、そして短いスカートが我が儘に跳ねまわり、そんなJKを横目で眺める道行く男たちの心もぴょんぴょん跳ねまくっている。無論八幡含む。

 

「……おーい…………がやー……」

 

 そんな元気いっぱいなおっぱいとスカートをこっそり眺めつつ(俺みたいのがガン見してると躊躇なく通報されちゃうんですよ!)ゆっくり近付いていくと、ついには元気なJKの元気な声も聞こえてきたようだ。どうやら待ち人の名前を叫んでいるらしいが、あいにく全て聞き取れるほどに距離は縮まってはいない。聞き取れるワードはとても断片的だ。

 ガヤってなんでしょうね。にぎやかしのガヤかな?

 

 しかしここまで近付くと、ようやくその二人の全容が明らかになってきた。二人は、どこか見覚えのある制服を着ているわけだが、制服フェチではない俺は、基本総武の制服と小町のセーラー服以外は記憶にない。唯一記憶にあるとすれば、それは部活関連で何度か見る羽目となったご近所の高校・海浜総合くらいか。てかあれ海浜の制服じゃん。

 

「……あ、やっぱ合って……ウケる…………おーい……ひ……がやー」

 

 おいおい海浜の生徒だったのかよ。海浜の女子で二人組。片方はパーマ頭の元気な女、片方はショートカットで大人しめの二人組とかちょっと嫌な予感しかしないんですけどー、なんて思っていると、なんかパーマの方が何かにウケたらしい。いやウケないから。

 ……うわぁ、嫌なやりとり思い出しちゃったよ。これやっぱアレじゃーん……

 

 これはもう間違いなくアレである。私の記憶が確かならば、あれにおわすは我が古の記憶を否応なしに刺激してくる黒い歴史の生き証人の一人、折本かおり嬢その人である。てことは一緒に居るショートカットの女は、これまた黒歴史たるダブルデート(笑)の生き証人、確か仲……仲……なんとか町さんとかいう女子だろう。それもう仲町さんでよくない?

 

「ひきがやー、おいーっす」

 

 なんという不運だろうか。授業に部活に人間関係にと今日も一日ストレスをしこたま溜め込み、ようやく可愛い小町が首を長くして待つ愛しの我が家に帰れるとウキウキしていた帰り道、まさかこんな所で折本に偶然遭遇してしまうとは。

 誰待ってんのか知らないが、なんでよりにもよってこんなところで待ち合わせしてんだよ。

 

「……はぁ〜」

 

 しかし、やれやれと深い溜め息を吐き出しつつも、結局のところこの遭遇は俺にはなんの関係もないエンカウントだ。何の気なしに帰路を進んでいたら、たまたま道端に見たことある石が落ちていたという程度のどうでもいい遭遇。

 こちらが気にしなければあちらも気にしない。俺などは数居る通過者の中のたった一人。なんなら気づかれないまま通過できちゃうまである。むしろ気づかれない可能性の方が無限大。

 

「ちょっと? ねぇ比企谷ー」

 

 であるのなら、これはもう気にしたら負けの世界である。道端には目を向けず、真っ直ぐ前だけを向いて通り過ぎてしまおうそうしよう。

 

 そして俺は、なにも見なかった体を装って、二人の女子高生の横を静かに通り過ぎ──

 

「ちょっと比企谷! なに普通に通り過ぎようとしてんの? ウケないんだけどー」

 

「…………お、おう、折本か、一週間ぶりくらいだな」

 

 ……ダメだったよ小町。早く帰って早く小町の笑顔見たかったのに、お兄ちゃん折本に見つかっちゃったよ……

 

「なんで気付かないフリしてそのまま行っちゃおうとかしてんの……?」

 

 恐い恐い恐い。お前それなりに顔整ってるし常時笑顔だから、怒った顔すると必要以上に恐いんだってば。

 

「すまんな、気付かなかったわ」

 

「なんでよ、さっき遠くからあたしのこと見てたじゃん。てか目ぇ合ってたし」

 

 うっそん。まだ誰なのかも分からないくらい遠かったのに、見てたのバレてたのかよ。つーか目なんて合わせた記憶ないんですけど、折本目線からは目が合ってたんですか。なんなの? 視力3くらいあるの? サンコンさんなの? なんなら東京暮らしで常人レベルにまで視力落ちちゃったサンコンさんより目がいいまである。

 

 よし、このままだとちょっと恐いから、とりあえずここは適当な軽口と自虐ネタでひらりと躱しておこうか。

 

「いや、なんか女子高生がぴょんぴょん跳ねてんなぁと思って見てたくらいで、知り合いだって気付かなかっただけだ。知り合いでもないのにあんま見てると、俺とか即座に通報されちゃうだろ。だからその時点でそっち見るのやめたんだよ。まさか折本だとは思わなかったわ」

 

「ぶっ! ……つ、通報って! ひ、比企谷ってどんだけ世間様に後ろめたい事あんのよ……ッ、ウケる!」

 

 責めるような細目から一転、大きな瞳をきょとんと見開いたかと思うと、ぶはっと噴き出し腹を抱えてけたけた笑いだした折本。どうやら渾身の自虐ネタが彼女のウケの琴線に触れてくれたようだ。むしろこいつの琴線に触れないネタがあるのかどうか疑問だが。

 あ、そういえば俺って中学のとき折本につまらないヤツって評されてたんだっけ。っべー、俺ってば折本にとって超レアキャラじゃね? ミスドで再会したときもレアキャラ呼ばわりされてたし!

 どうも。はぐれメタルがぼっちの極地に達して王様になっちゃった事でお馴染みのメタルキング八幡です。

 

「ま、そういう事ならしょーがないか。てなわけで改めまして、比企谷おいーっす」

 

「お、おう……」

 

 と、どうやら気付かなかったフリして通過しちゃおうと思ってた事は許してもらえたようなのだが、このあまりの切り替えの早さと裏表のない眩しい笑顔に、思わずあっけに取られてしまった。

 

 

 ──中学の頃、折本を好きだった頃はこういう開けっ広げでサバサバしている彼女に恋心を抱いていた。女子が話し掛けてきてくれる事などほとんど無い自分に気さくに接してくれる、優しく明るいところに。

 

 しかし、振られてから数年経ったミスドの再会時には、こういう開けっ広げでサバサバしている彼女に不快感を抱いた。どうせ薄く広い友達との繋がりを得る為の、サバサバ系を気取ったキャラ作りだろ、と。

 

 では、今はどうだろうか。ダブルデートやクリスマスイベント、バレンタインイベントを経た今は。

 

 少なくとも、今ではこのサバサバがキャラ作りとは思っていない。たまたま雪ノ下・由比ヶ浜と三人で入ったお洒落なカフェ。そこで偶然出会ったバイト中の折本。そこで目の当たりにした、今まで俺が目にした事の無かった彼女の表情や態度、そしてそのあと折本のチャリでニケツした帰り道での様子を見て思ったものだ。

 誰にでも気さくに話し掛けてゆく様は、ただしく友達を作りたいと願う姿勢だと。

 なにも得る物などないのに、わざわざクラスのつま弾き者にも気安く話し掛けてきてくれた彼女は、サバサバ系を気取った打算的な女などではなく、本当にサバサバしている女の子なのだと。小町も言ってたしね。折本先輩のからっとしたところは結構好きだって。

 

 だから今の俺はこう思う。この開けっ広げでサバサバしている彼女の笑顔は、前ほど不快ではない、と。

 人間なんて、その時の心理状況によって同じ事象でも全く異なって見えるものなんだよなぁ……

 

「じゃあまぁ、そういう事で」

 

 だがしかし、今の俺が折本をそれなりに好ましく思っている事と、ここで折本と和気藹々するのは話が別である。

 好ましく思っていると言っても、それは“人として悪くないヤツ”と思っているという程度の話で、別に友達と思ってるとか、ましてや中学の頃のような恋愛感情がよみがえったわけでもない。あくまでも、知り合いの中の良い奴カテゴリに入る元同級生、というだけの関係性。

 そもそもここで誰かを待っている折本と、たまたまこの時間にここを通っただけの俺が、ここで昔話に花を咲かせる必要性はないのである。花が咲くほど話が弾むわけがないっていうね。

 大体さっきから折本のツレが苦そうな顔で気まずそうにもじもじしてるし、そろそろおいとました方が皆の為だ。まさにWINWIN。ごめんね? せっかくの楽しい待ち合わせを邪魔しちゃって。

 

 さてと、それじゃあ再会の挨拶も済ませ別れの挨拶も済ませた事だし、愛する我が家に向けてペダルを漕ぎだしましょうかね。ケイデンスを上げろ!

 

「え、ちょ、ちょっと待ってって」

 

「うお!」

 

 しかし、ヒーメヒメと鼻歌混じりにとっとと退散しようとペダルを踏み込んだ矢先、腕を掴まれて走行を妨害されてしまった。危ないよ折本さん!

 

「……え、なに?」

 

「いやいやなにじゃなくって。なんで行っちゃうのよ。せっかく待ってたのに」

 

「なんで行っちゃうもなにも、意図せず知り合いと街中で会っちゃった時のよそよそしい通過儀礼は終わっただろ…………って、は?」

 

 あれ? 今この人変なこと言いませんでした? せっかく待ってたのにとか聞こえた気がしたんですけど。

 

「いやいや、だからここで誰かを待ってんだろ? だったら関係ない通行人に構ってないで、来たるべくお友達に集中しろよ」

 

「だからぁ、待ってたヤツが来たから超構ってんだけど」

 

「すみません、ちょっとなに言ってるのかよく分からないんですけど」

 

「ウケる」

 

「いやウケないから」

 

 なんだこれ?

 

 

× × ×

 

 

 折本の口から発せられた思わぬ真実に、頭上に疑問符が八万個ほど浮かぶ事しばし。

 

 まぁ待て。ちょっと待って欲しい。いや、待ってたのは折本の方らしいから、待つのは俺ではない。自分がなにを言ってるのかよく分からないが、とりあえず落ち着け八幡。

 

 ──なぜだ? なぜ俺は折本に待たれなくてはならない。俺と折本の間に、待ち合わせをする関係性など果たして存在していただろうか。答えは否だ。待ち合わせもなにも、連絡先さえ知らない仲なのだから。

 こいつに最後に会ったのは一週間とちょっと前。バレンタイン前に海浜と合同でチョコ作りイベントをしたとき以来だ。思いのほか最近会ったばっかで八幡びっくり!

 しかし、その時こいつと「今度また会おうぜー!」と再会を示し合わせた記憶はない。まぁ「今度また会おう」は再会を約束する言葉ではないが。むしろ「たぶんもう会う機会ないよね」っていう、再会約束とは真逆の言葉だよね!

 

 だから本当に意味が分からない。折本かおりが、学校帰りの俺がここを通るのをわざわざ待っていた……?

 

「ほら、今日って二月二十一日じゃん?」

 

 いくら考えても俺一人では決して答えの出せない超難問に無謀に挑んでいると、そんな俺の様子に見兼ねたのか、はたまた俺の様子など一切お構い無しなのか(たぶん後者)、折本は突然本日の日付を教えてくれた。

 

「? ……おう」

 

 で? っていう。

 いやいや、今日が二月二十一日なんて事はこっちだって分かってんだよ。どう考えても俺が聞きたいのはそういう事じゃないだろ。どぅーゆーあんだすたーん?

 

「だから比企谷も呼ぼうかと思って、ここで待ってたんだよね」

 

「いやわかんねーよ」

 

 おいおい折本さんよ、もっと文脈の流れ考えてよね! 二月二十一日だと俺を呼ぶって理論がわけわからないよ。

 

 相も変わらず眉間にシワを寄せ続ける俺。折本の意図が読めなすぎて、このままだと将来シワだらけになっちゃうよ。

 すると、ここでようやく折本が、この謎を解く為の決定的なヒントを与えてくれる事となる。

 

「あ、そっか。中学のとき比企谷に言ったことなかったっけ? 今日、あたしの誕生日なんだよねー」

 

 と、色んな意味でとても衝撃的なヒントを。

 

 ……あ、そういえば二月二十一日って折本の誕生日だったっけ。

 うん。知ってた。超知ってた。完全に記憶の奥底に封印しちゃってたけど、八幡それ知ってたよ。

 当然折本から聞いたわけじゃないよ? 当然折本の友達に聞いたわけでもない。ただ、なんか教室で聞き耳立ててたら勝手に耳に入ってきちゃっただけだから!

 ……ねぇ男子ー! なんで小中学生くらいの頃って、好きな女子の誕生日とか覚えちゃってるんー? 本人に聞いたわけでもないのに、もしかしたら家に呼ばれちゃうかもとか、遊びに誘われちゃうかもとかそわそわ期待しちゃってるんー?

 絶対に誘われませんから! なんなら誕生日知ってること知られたら「……え? なんで知ってんの……? え、ちょ、ガチで怖いんだけど……」って真顔で引かれますから! 残念!

 

「へ、へー、そうなんだ。そりゃおめでとさん」

 

 だから、知ってた事は死んでも言いません。墓まで持ってゆく所存です。

 ぼく全然知らなかったよー? という体で、冷や汗かきかき上手く誤魔化せたつもりの俺は、で、それとこれの何が繋がってんの? と言葉を続けた。

 そして、その問いに返ってきた解答が──

 

「でさ、こないだのチョコ作りイベントんとき、今年は比企谷にチョコあげるって約束したのにあげる機会なかったからさー、だったら、せっかくだったら今日ウチ呼んで一緒に楽しもっかなー? って思ったわけ」

 

 これまたなんとも理解し難いこの答えである。おいおい、余計に脳が処理しきれなくなっちゃったよ。

 折本の謎提案に混乱するばかりではあるけれど、とりあえず理解し難いツッコミどころを潰していくしかないだろう。

 

「ちょっと待て、チョコ貰ったろ。コミュセンで」

 

「へ? バレンタインチョコはあげてないじゃん。あれはチョコ作り会でのただの試食じゃん」

 

「……そ、そうなんだ」

 

 なんだよ、あれてっきりあげると宣言されたバレンタインチョコかと思ってたよ。

 

「え、えっと、……じ、じゃあウチ呼んでって言うのは……?」

 

「ん、前々からね? 誕生日は千佳と二人でウチで遊ぼうよって話になってたのよ。まぁ遊ぶって言っても、部屋でダベったり千佳オススメのケーキ食べたりするくらいなんだけど」

 

 そう言って、折本は千佳と呼ばれた仲町さんとやらの手元を人差し指でちょちょいと指差した。

 なるほど彼女はホールケーキが入っているのであろうケーキ屋の大きな袋を両手で大事そうに抱えている。その表情は死んでいるが。なんか本当にごめんね?

 

「だからそこに比企谷呼んじゃおーかなって」

 

「なるほど全然わからん」

 

 折本が俺を待っていたという謎はようやく解けたのだが、その思考回路があまりにも自由過ぎて、余計に理解し難くなってしまいました。

 

 今日誕生日だから友達と一緒に居た←わかる

 

 チョコくれる約束だったのにあげてなかったから待ってた←まぁわかる

 

 チョコあげてなかったから誕生日会に呼んじゃえ☆←さっぱりわからん

 

「……あんなのただの口約束だったし、そもそも俺はあのイベントで貰ったつもりでいたのに、まだあげてなかったと気にしてくれていたのは有り難いんだが、それでなんでお前の誕生日パーティに呼ばれなくちゃなんねぇの? 俺が施しを受ける立場なのに、俺がお前を祝いに行くの?」

 

「施しとかへり下り過ぎウケる! 別にそんな深く考えることもなくない? ほら、バレンタインも誕生日もお祭りみたいなもんなんだし、せっかくそういうタイミングが重なったんだから、友達なんだしついでに楽しんじゃえばよくない?」

 

「バレンタインと誕生日が同列になっちゃったよ」

 

 パリピにとってはどんなものでもイベント=騒ぐ為に存在するモノ、だからね。

 奴らにとっては、花見も花火もただの背景に過ぎず、レジャーシートの上は貸し切りの飲み屋みたいなものだ。せっかく春の爽やかな青空の下美しく咲いている花も、せっかく真夏の夜空に咲き誇っている豪快な花火も、決して奴らの目にも心にも残らないのだから。

 

 

 

 ……って、……ん? それはそれとして、あれ? 今この人おかしなこと言わなかった?

 

「……いやちょっと待て、俺、折本の友達だった?」

 

「ウケる、友達じゃん。コミュセンの帰りに午後ティー奢ったトキ、友達ならいいかもねって言わなかったっけ?」

 

「確かに言ってたような気がしないでもないが……」

 

 マジかよ、あれ友達宣言だったのか。あのときのその台詞は、あんたの彼女とかマジ無理ー、がメインテーマかと思ってたよ。

 

「だよねー! つーわけだから、今からあたしんち行くよ、比企谷っ」

 

「ちょっと? 全然つーわけになってないよね。女子んち行くとか、一緒に帰って友達に噂とかされたら恥ずかしいし……」

 

「大丈夫だって、あんま友達とか居ないんでしょ? 大体いつも一人だけどなって言ってたじゃん、ウケる」

 

「ウケないから……」

 

 せっかくのときメモネタをマジ返しされて心を抉られる懲りない俺。一色同様、このネタはリア充にはあまり通じないのかな?

 

「んじゃ行くよー」

 

 そして、断固拒み続ける気の俺を放置して折本はとっとと先に行ってしまう。

 これ、無視してこのまま帰っちゃってもよいのだろうか? とは思いつつも、そこはさすがは折本かおり。折本の家に行く事があたかも決定事項であるかのように自信満々に歩いていく彼女の小さくて大きな背中は、人に流されるまま生きてきた俺ごときには有無を言わせぬオーラを放っていた。あかん、これ付いていかなきゃダメなやつや。

 

「おーい比企谷ー、なにしてんの? 早く行くよー」

 

「」

 

 

 ──こうして俺は、中学時代の同級生であり無惨な失恋相手でもある折本かおりに、力ずくで連行されるのであった。

 

 

 

続く

 





2月の大イベント、それはもちろん折本生誕祭です☆
バレンタインじゃなくてそっちかよ、もはや誰も覚えてねーよ(・ω・)


今まで折本の誕生日を描いた事がなかったので、もう二次作者から半分足を洗いかけてしまっている今、もしかしたらこれがラストチャンスかも!と書き始めてみました。
これにてぶーちゃん的主要ヒロインの生誕祭SSは完遂のはず(・ω・)

1話完結にしようかと思いましたが、ホント筆がなかなか進まずこのままだと誕生日までに書き終わる気がしなかったので、少しでも気分を乗せる為にとりあえずここまでを投函です。
後編はなんとか21日に投稿できるよう頑張りますm(__;)m



ではでは次回、21日に投稿できるか来年の2月21日になるか皆目見当が付きませんが、折本の部屋で乱交パーティー編☆でお会いいたしましょう←ドイヒー



※このお話の中で出て来た『折本のバイト関連』の話は、特典小説Anotherにて描かれていた出来事です。

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