八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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お久しぶりでございます!

ネタ切れの為もういろはす生誕祭SSは書かないつもりだったのですが、結局書いちゃった(*^^*)
今回のは中身も無いし短いしで本当に大したこと無いお話なのですが、もしよろしければ愛するいろはすの誕生日を一緒に祝ってやって下さいまし☆


いろは酒

 

「ではでは……、お誕生日おめでとうございまーす! かんぱーい」

 

「自分で祝っちゃったよ……」

 

「だって先輩が音頭とってくれないんだから仕方ないじゃないですかー?」

 

「……そりゃ気が利かなくてすみませんね。なんかそういうの言うのって、照れ臭くてあちこち痒くなんだよ。……ま、おめでとさん」

 

「ふふ、ありがとうございます。ではでは改めまして、かんぱーいっ」

 

 

 ホイップクリームのようなきめ細かい泡と黄金色に輝く液体が並々注がれたガラスとガラスが重なり、店内にはかんと甲高い音が鳴り響く。俺と一色は、居酒屋の座敷席にてジョッキ片手に今日という日を祝いあった。

今日は四月十六日。そう、言わずと知れた世界の後輩一色いろはの二十歳の生誕祭である。

 記念すべき二十歳の誕生日をただの居酒屋で祝うとか、なんとも色気の無い話だとお思いの方も居るだろう。しかし俺と一色は全くもって色気のある関係では無いし、そもそもこの飲みの席は一色本人からのかねてよりの希望でもあるのだ。

 

 

 こいつと出会った頃は、まさかこんなにも長い付き合いになるとは……、ましてや二人で誕生日を祝う日が来ようとは夢にも思っていなかった。

 この謎の長い付き合いは、高校時代は生徒会長にさせた責任を感じている事をいいことにやたらとこき使われ、卒業して大学に行けば解放されるかと思いきや、決してそんな事はなく、今度はなぜか受験勉強を手伝わされ(生徒会長にされたおかげで勉強する時間が取られてしまいました。責任取って下さい、ですってよ、奥さん!)、その後葉山を追うために受けたらしい第一志望に合格出来ず、滑り止めとして仕方なしに通う事となった我が大学の後輩として現れたこいつに、またも責任取って下さいとこき使われて今に至る。

 

 今までのあれやこれやを鑑みてみると、俺と一色の不可思議な関係が未だ続いているのが不思議でならないのだが、それなのにいざこうして二人で酒を酌み交わしてみると、これがまたごく自然でごくごく日常的な光景だと感じてしまうのも、よくよく考えてみるとそれもまた不思議なものだ。

 

「……うえっ、まっず!」

 

 そんな感慨に一人耽りつつ、ごくごくとジョッキを煽る世界の後輩をぼーっと眺めていると、件の一色が予想外の反応を示した。

 え? 辛い辛い仕事終わり(講義)の後のビールって超うまくない?

 

「なんだお前、ビール苦手なの? だったらビールなんて頼むなよ」

 

「いや、先輩もそうですけど、ビールってみんなめっちゃ美味しそうに飲むじゃないですか。だからそんなに美味しいものなのかなって、今日までずっと楽しみにしてたんですよ。で、いざ飲んでみたらなんですかコレ、めちゃめちゃマズイじゃないですか。詐欺ですよ詐欺」

 

「詐欺ってのは詐欺する側の騙す意図を立証出来て初めて成立するんだよ。美味い美味い言ってる側が本気で美味いと思って飲んでいる以上、そこに罪状は存在しない」

 

「うわぁ、相変わらずめんどくさ」

 

 うるせぇな。こちとらこのめんどくさいのをアイデンティティーとして二十年以上生きてきてんだよ。相変わらずなのは比企谷八幡としての証そのものだろうが。こういうところがめんどくさいんですね分かります。

 

 

 ……って、ん? 普通に流すところだったけど、この子ビール初めて飲んだの? それってなかなかのレアケースじゃない?

 

「なんだお前、ビール飲んだこと無かったのかよ。飲みに来たらとりあえずビールがキャッチコピーみたいなもんだし、普通飲み会とか行きゃ一度くらい口にするもんなんじゃねぇの?」

 

 そうなのだ。どんなにビールの味が苦手な人でも、飲みに来たら一度は経験するものなのだ。今まで経験した事のないこの苦味を。

 

 ビールの味は独特だ。千葉の甘味処と名高いマッ缶愛溢れる事でお馴染みの俺にとって、それとは真逆の道を全速力でゆくこの苦いだけの液体はぶっちゃけクソ不味いと思ったものだ。気が付いたらクセになっちゃってたけど。

 とはいえ未だマッ缶と別れたつもりはありません。あのふざけた甘ったるさは僕の永遠の友達です。あたし達、ズッ友だよ!

 

「いやいや、だって飲み会とか行ったこと無いですし」

 

 ビールの苦味の虜になりながらもマッ缶への愛を居酒屋の中心で叫んでいると、一色から返ってきた答えはこれまた予想外のものだった。

 

「嘘だろお前。お前みたいなパリピできゃるんなJDが飲み会行ったこと無いとか無理ありすぎだろ。毎夜毎夜合コン三昧なんじゃねぇの?」

 

「先輩はわたしの事なんだと思ってるんですかね。合コンなんて行くわけないじゃないですかー?」

 

 なんとも嘘臭い間延びした言い方ではあったけれども、その実こいつの目はそれを真実だと語っている。

 マジかよいろはす。大学入ってからのこの一年間、合コンした事ないのかよ。そりゃちょこちょこ俺んとこに来ては一緒にランチ食ったり夕飯食ったりしてんなぁ、とは思ってたけれど、別に毎日ご一緒していたわけではない。今夜友達とごはんなんですよー♪ とか言ってた時って合コンだったんじゃないのん?

 

「なんですかその腐った目は。もしかして信用してないんですか。だってそもそもわたし昨日まで十代だったんですよ? 今日からようやくアルコール解禁なわけですし、合コン行ったってしょーがないじゃないですか」

 

「は? 合コンどころか酒飲むのも初めてなのかよ。あと腐った目は今に始まった事じゃないから」

 

「お酒はハタチからですよ? 知らなかったんですか?」

 

「今どきそんなの守る大学生なんて居ないだろ。大学生なんてみんなで酒飲んで騒ぐくらいしかやること無くない?」

 

「……真面目に勉学に励んでる全国の大学生の皆さんに怒られますよ先輩……」

 

 ちなみに俺も大学生ではあるが、みんなで騒いだ事は一度もない。元奉仕部で飲んだり平塚先生とサシで飲んだり戸塚と二人っきりで飲んだりと、あくまでもしっぽり飲む派である。そういやこないだなぜか葉山とも二人で飲んだな。材木座? 誰それ。

 

 とにかく、俺は大学生の中でも特にスペシャル(異質)な存在だからみんなで騒ぐ習慣はないが、リアルが充実している普通の大学生……しかも自他共に認めるモテ女である一色ほどの女の子が、まだ二十歳前だからという生真面目な理由で飲みの席に繰り出した事が無いなんて、それはもうあまりにも不自然な事態なのである。

 だからこれは「わたしお酒弱いんですよ~。あぁ、少し酔っちゃったかもぉ」的なあざとい妄言の一種かと思ったのだが、こいつの態度を見る限り、どうやらあながち眉唾というわけでもなさそうだ。

 そもそもそういう酔ったフリ飲めないフリは葉山辺りに対してするべき事であって、決してなんの得にもならない俺に対して行う事ではないし。

 

「え、じゃあなに、マジで今日が初飲みなのか」

 

「ですです。ガチで今夜が初体験です」

 

 そう言って真剣な顔でウンウン頷く彼女。わざとじゃないんだろうけど今夜が初体験とか言うな。ドキドキしちゃうだろ。

 そんな密かなドキドキを感じ取っちゃったのか、いろはすったらロマンシングなサガばりに頭上にピコンと豆電球を光らせて、なんとも性悪そうなにんまり笑顔を浮かべる。そして初めてのアルコールが回ってしまったのか頬をほんのり朱色に染めて、スウィーツとビールを混ぜ合わせたような、こんな甘ったるくて苦~い囁きを耳元にぶちかましてくるのでした。

 

「ふふ、だからぁ、今日先輩がわたしを大人にしてくれたんですよ~?」

 

「……っ」

 

 前言撤回。やっぱりわざとだったわ。

 ……今夜はタチの悪い相手とのタチの悪いからまれ酒になりそうだ。

 

 

× × ×

 

 

「せんぱ~い、も一軒行きましょーよ、も一軒」

 

「……どの口が言うんだどの口が」

 

「あれ~? もひかしてわたし酔ってるとか思ってます~?」

 

「……はいはい酔ってない酔ってない」

 

 わたし酔っちゃったかもぉ、という女は全然酔ってない。わたし全然酔ってないからぁ、という女は超酔ってる。これは世界の真理である。

 

 

 

 背中に生々しい体温の温かさと生々しい肉まんの柔らかさを感じつつ、初めての飲み会をそれなりに楽しんだ二人は居酒屋からの帰路をゆっくり進む。

 ゆっくり進んでいるのは、別に背中に感じるおっぱいの感触をじっくり堪能したいからというわけではない。ないったらない。単純に、あんまり揺らすと背中で吐くからだ。

 ついさっき突然えづき出した時はどうしようかと思ったからね。急いで下ろしたら近くの公衆トイレに走り込んで桃色天然水をたっぷりリバース。これは酔いが醒めたときさぞや酷い黒歴史となる事だろう。

 

 『とりあえずビール』は失敗に終わったものの、気を取り直して注文した甘い系サワーにはご満悦だったようで、次から次へと違う味を試した一色。特にゆず茶サワーとかいう、ゆず茶サワーの上に乗ったゆずシャーベットを少しずつ溶かして飲むという女の子が好きそうなあざとい品をいたく気に入ったようで、それだけで三杯余裕でした。

 

 当然俺は何度も止めた。なにせ彼女はアルコール初摂取なのである。いくらほぼジュースと言ってしまってもいいサワーとはいえ、それはあくまでもアルコールに慣れている人間ならばのお話。慣れていない人の中には、缶チューハイ一本でべろべろになってしまう人間だっているのだ。

 

 しかし止める度に一色はこう言うのだ。

 

『へーきへーき! 全っ然なんともないんで。もしかしたらわたしってお酒超強いかもです。せっかく待ちに待ったバースデー初飲みなんですよ? 今日の主役はわたしなんですから、わたしがいいって言えばいいんです。なので気にせず飲みましょー。はい、かんぱーい』

 

 前々からずっと楽しみにしていたらしい『二十歳の誕生日のお祝い』を持ち出されてしまうと、こちらとしても本当に弱い。見た感じは本当に平気そうだったし、お祝い中である事を考えると主役の願いを無下には出来ないのも主賓の悩ましいところ。

 一色とか、普段から至る所に合コンに行っては男に奢らせて回る事に精を出してると思っていたものだから、なんとなく「酒に強そう」なんてイメージが定着して油断していたのも敗因のひとつだろう。

 

 異変に気付いた時にはもう遅い。歩けやしないしそこら中で吐こうとするし、それでいてまだ自分は平気だとか思ってらっしゃるようで、手に負えないとはまさにこの事を言うのだろう。

 しかし、初飲みの付き添い人となったというのに、本人の望むがままここまで飲ませてしまったのは完全に俺の責任である。例えどんなに酒臭かろうとも、例えどんなにゲロまみれになろうとも、例えどんなに背中のむにゅむにゅが気持ちよかろうとも! コレを安全な場所まで運ばなくてはならないのもまた俺の責任なのだ。最後のはただのご褒美でした。ふぇぇ……柔らかいよぉ……!

 

「あ、せんぱいせんぱい、あそこの店とか良さそうじゃないれすかー? ゆず茶サワーあるかなー♪」

 

「お前はもう黙ってろ」

 

「ぶーぶー」

 

 子供か。

 大学生になって二年目。最近少しは大人っぽくなってきたかと思いきや、酒に飲まれた一色はすっかり子供である。

 

「……ったく」

 

 しかし、まぁ考えようによっては、一色の初飲みがこれで良かったのかもしれない。

 今はこんなんだが、酔いが覚めて自分を冷静に見つめられるようになった時、一色は初めて自身の恥態を知って後悔する事となるだろう。

 

 何事においても、自分の限界を知っておくというのはとても大切なこと。これに懲りて、こいつはもう二度とこんなむちゃくちゃな飲み方はしないだろう。

 だからこそ、その初めての酒の相手が俺で本当に良かったと思う。

 

 一色は高校時代と変わらず、相変わらず生意気で相変わらず人を舐め腐っている小憎たらしい後輩だ。けれど、どんなに小憎たらしくとも、可愛い後輩である事に間違いはない。

 そんな可愛い後輩が、どこの誰とも知れないパリピ野郎の毒牙に掛かってしまうのは、正直あまり面白くない。

 

 もちろんこいつが望んで毒牙に掛かりたいのであれば、そこは俺の範疇ではない。好きに毒牙に掛かればいいだろう。

 しかし、こいつはこう見えて実は真面目で一途で一生懸命な女の子なのだ。酒に飲まれた勢いで、別に好きでもない男の毒牙に掛かるのを望んでいない事くらいは知っている。

 

 だからこそ、どうやら酒に飲まれてしまうらしい一色の初めての酒の相手が俺で良かったと本当に思う。

 もし初めての酒の席が低俗な合コンとかであったのならば、自分の酒の弱さを知らないこいつは容易くお持ち帰りされていたことだろう。

 もしもそんな事になって、もしも一色が涙するような事になったのならば、俺はそいつをぶっ殺しに行かなければならなくなるわけだ。やー、本当に初飲みの相手が俺で良かったにゃー。

 

「……くくっ」

 

 そこで俺は、思わず混み上がってきた笑いを噛み殺す。

 まさか一色相手にそんな風に思う日が来ようとは夢にも思っていなかったのだから。これ完全に身内に対する思考だよね。

 いつの間にこいつの存在がこんなにも俺の心のウェイトを占めるようになっていたのだろう。他人に対して壁を建設しまくっていたどうしようもないひねくれ者の俺のパーソナルスペースに土足でズカズカ上がり込んできては、自由奔放に暴れまくって俺の心に勝手に自分の居場所を作ってしまうとは、一色いろは、恐ろしい子っ!

 

「……え、なに一人で笑ってるんれすか、もしかしてわたしの身体の感触楽しんじゃってるんれすか。ちょっと気持ち悪いんで下ろしてもらっていいれすかね」

 

 おい酔っぱらい、酔いはどうした。めちゃくちゃ冷静じゃねぇか。

 

「今のお前が気持ち悪いとか本当にシャレにならんから。だったら早く下りろ」

 

「と思ったんれすけども~、おんぶして貰ってる方が楽なんれ、もうちょっとらけ我慢してあげますね♪」

 

「下りないのかよ。あとなんで俺が我慢してもらう側なの?」

 

「んふ~、ホントは下ろしたくないくせに~。先輩ってホント素直じゃないれすよねぇ。んふふ~、あー! ここ先輩の匂いが濃いれすよ~?」

 

 おいこらやめろ。下りないどころかなんでより強く引っ付いてくるんだよ。酔っぱらいすぎだろこいつ。にまにましながら首もとハスハスしてくんのやめろ下さいお願いします! ぷるぷるの唇がうなじに押し付けられて首筋にキス状態になっちゃってるから!

 

 

 ――こ、これはヤバい!

 

 

 相も変わらず柔らかい女の子のふわふわな身体。相も変わらずほのかに漂ってくる女の子の甘い匂い。

 小町ほどとは言わないが、身内とも思えるほどとても大事な存在だと自覚してしまった途端にこの始末である。

 一色の飲みっぷりにばかり目が行ってすっかり醒めていたけれど、実は俺だってそれなりに飲んでいるのだ。当然だろう。可愛い後輩との初めての飲みの席なのだから。

 感じるぬくもりと女の子の香り。いくら可愛い後輩とはいえ、こんな状況ではこの小悪魔の色香にくらくらしてしまうというものだ。

 可愛い後輩を泣かせる奴はぶっ殺すなどと偉そうに宣いながら、俺自身が酒の勢いに負けて一色を泣かせてしまってはもとも子もない。このまま甘える一色に抱き付かれたままでは非常にマズイ。八幡のハチマンが暴れだしてしまいそうだ。

 酒と色香の酔いを醒ます為にも、ここはひとつこの酔っ払いととりとめのない会話でもして、この昂る気持ちとハチマンを鎮めようではないか。こんなにべろんべろんな一色とまともな会話になるとは思えないが、今は会話の内容は二の次三の次。第一に考えるべきは、急に甘えるように引っ付いてきた一色からの精神的な脱却一点のみ!

 

「……あー、なんだ、そういや一色」

 

「なんれすかー? hshs」

 

「……だからそれやめてね? ……さっき飲んでる最中聞こうと思ってすっかり忘れてたんだが、お前あれだよな、今までよく飲みの誘いに乗らなかったな。お前って二十歳になるまで飲酒はしませんみたいな真面目な奴だったっけ?」

 

 小悪魔の誘惑から逃れる為にとりあえず絞り出した話題ではあるが、実は飲んでる最中から気になっていた疑問。

 高校時代ならまだ分かる。なにせ一色は生徒会長という重責を二年ものあいだ担っていたのだから。そんなこいつが、わざわざ法律に触れるような真似をするはずがない。

 しかし生徒会という足枷が外れてしまえば、一色いろはという女の子にとって成人前の飲酒や喫煙等々、他の誰でもやっている、半ば社会に黙認されているといっても過言ではない程度の軽犯罪などものともしないはず。

 だから少しだけ気になってたんだよね。なんでこいつ、今まで飲みに行かなかったのだろうって。

 

 

 

 ――一色の色香に負けないよう、何の気なしに投げ掛けたそんな雑談。

 しかし俺は、酔っ払った一色の普段なら有り得ないくらいの素直さを甘く見ていたのだ。この軽い質問が、とんでもない悪手だったのだと知ることになる。そう、次の瞬間痛いほどに……

 

 

 

「んふ~っ。だーって、ずーっと楽しみにしてたんれすもん、先輩と飲みに行くの。先輩、二十歳前に連れてって下さいって誘っても、それを理由にして絶対断るに決まってるじゃないれすかー? らから二十歳の誕生日までずーっと我慢してたんれすよ? 誕生日祝いらから連れてけって言えば、さすがの先輩れも逃げられないと思ったんれすー。ふへへ~」

 

 ちょ、いろはす!? なんかそれじゃ俺と二人っきりで飲みに行くのをずっと楽しみにしてたって聞こえるよ!?

 っべー、酔い醒ましのつもりが、なんか逆に酒が回ってきたわー(遠い目)

 

「……そ、そうか。……い、いや、でもな? 別にそれは今日まで酒飲まなかった事とは繋がらなくない……? 今日は今日として、別にその前に友達連中と飲みに行ったって合コン行ったって構わないだろ……」

 

「らってぇ、何事も初めてって大事じゃないれすか~? 一生に一度の貴重な体験れすもん、どうしても先輩に大人にして欲しかったからぁ、初めては先輩の為に取っておきたかったんれ~す♪えへへ~」

 

「」

 

 聞かなきゃよかったよ……! 普段散々からかってくる後輩が酔っぱらうと素直になりすぎて困る件について(白目)

 あと大人にしてもらうとか人聞き悪いからやめてね!

 

 

 

 ――なんというか……、実を言うとこいつは、大学に入ってきてからというもの俺に対する好意をあまり隠さなくなった。

 いや、好意とは言っても、それはあくまでも厚意に近い好意であり、恋愛感情としての好きではなく仲間意識としての好きだと思っていた。思おうとしていた。

 しかし、それではそもそもがおかしいのだという考えも頭のどこかにあったのもまた事実。葉山を追い掛ける為に狙っていた大学に落ちて、その滑り止めで選んだ学校がたまたま俺の通う学校だった? そんな偶然、果たして本当にあるのだろうか、と。

 だいたい葉山が通ってんのは日本国民なら誰もが知る某超有名国立大学。もともと一色が狙えるような所ではないはずだ。なんならウチの大学だって良く受かったなという程度の学力だったのだから、本気であそこを狙っていたとは到底思えない。なんなら本当にあそこ受験した? という疑念さえ沸くレベル。

 

 そんな数々の疑念に駆られた俺の内心など知ってか知らずか、またしても後輩として俺の前に颯爽と現れたこいつは、大学に入ってからというものかなりの頻度で俺にからみに来ている反面、特に葉山に会いに行っている素振りも見せない。

 本当に……本当に……、何度「実はこいつ俺を追い掛けて来たんじゃねぇの……?」などと思い掛けてしまったことか。

 

 しかし、そんなわけがない、あの一色いろはが俺なんぞに惚れているわけがないではないかと誤魔化し続けてきた俺に、今のこの状況は非常にマズイ。

 酒に飲まれた一色のこの素直さは、俺の腐った目で見る限り決して嘘臭くはない。まず間違いなく素なのだろう。

 そんな素丸出しの一色が、こうも甘え、こうも好意を口から垂れ流しているこの状況。……それはつまり、今まで何度か頭を掠めてきた数々の疑念が俄然真実味を帯びるという何よりの証明である。

 

 

 ……マジかよ、一色って……マジで俺のこと好きなのん?

 どうしよう。絶対に勘違いしないよう今まで無理に押さえ付けてきた分、なんかすげぇもにょるんですけど!

 っべーわ、意識してしまえばしまうほど、一色の柔らかさと匂いを強く感じて頭がくらくらしてしまう。このままだと酔いが再発して、思わず一色を好きになって告白して振られてしまいそうだ。ここまできて振られちゃうのかよ。

 

 いかんいかん! 餅つけ! 冷静になれ比企谷八幡! これは罠だ。いつものハニートラップに決まっている!

 ここでこの小悪魔の思惑にまんまと嵌まってしまったら、きっと取り返しのつかない事になるに違いない。ここはあくまでも冷静に。あくまでも沈着に。

 

 そう必死に自分を戒めていた時だった。その硬い硬い決意を瞬く間に打ち砕く、こんな甘く危険な悪魔の囁きが鼓膜と心をぶるっと震わせたのは……

 

 

 

「……とゆーわけれぇ、この素敵な日にこうして先輩に無事大人にしてもらったことれすしぃ、…………ふふっ、このまま立派な大人の女にもしてもらっちゃおっかな~……♪」

 

「」

 

 

 

 ――その後、無事一色を家まで送り届けた俺と無事送り届けられた一色。

 アルコールとお互いのぬくもりにこの上なく酔わされた二人は、その勢いのまま手と手を取り合って一気に大人の階段を駆け上がったとか駆け上がらなかったとかなんか色々あったらしいですが、まぁそこら辺はあくまでも二人のプライベートな事なので、ここは思い切って割愛しておこうと思う。…………ふぅ(賢者感)

 しかしこれだけは言っておこう。

 

 

 

 ……大人にしちゃった責任、取らされました!

 みんな、アルコール摂取は計画的にね☆

 

 

 

おしまい!

 

 

 

 

 




いろはすハピバ~♪私がSS書きはじめてから5回目ですよ5回目!

というわけでありがとうございました!
前書きでも述べましたが、今回の誕生日はホントに書くつもりなかったんですよ。
でも結局こうして書いてしまったのは、やはり溢れでるいろはす愛の成せる業なのか(^з^)-☆
中身はカラッポだけどね!



最近めっきり創作意欲が減退してしまい次があるかどうかも分かりませんが、またふとした瞬間に思わず書いてしまう事もあるでしょうから、その時はまた宜しくお願い致します~ノシ

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