八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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どうもご無沙汰しております!まさかの一年ぶりに帰ってきました短編集です☆
一年ぶり、しかもいろはす生誕祭をスルーして帰ってきたというのにこの内容…(白目)


というのも、もともとはもう筆を置くつもりだったSS作家業ではありますが、昨今のこのご時世……しかもさらに自粛が延長になった事で、あまりにも暇を持て余してイライラもやもやムラムラ(ムラムラは違う)している方々もおられるだろうと思い、ほんの一時でも暇を潰せるお役に立てればなぁ、と、ふと久し振りに筆を取った次第であります(^_^)


という事で、お暇なら見て行ってよね♡




吾輩は猫である。

 

 

 吾輩は猫である。名前はまだ無い……こともない。

 ただ、複数の名前がある為、正直なところ吾輩自身自分の名前がいまいち分からないのである。はたしてカマクラなのか、はたまたカーくんなのか。

 大好きな御主人様(母)にはカマクラと呼ばれ、これまた大好きな小町にはカーくんと呼ばれ。さて、御主人様と小町、どちらを取ればよいのやら。うーん、悩ましい。

 

 ただ、この家において吾輩よりも格下のオス二人、『あんた(御主人様呼称)』と『八幡』にもカマクラ呼ばわりされていて中々に腹立たしいので、ここは一旦カーくんという事で肉球を打っておこう。

 

 ぽむっ。

 

「あれ? カーくん、手なんて合わせてどったの?」

 

「にゃあ~」

 

「んー、よくわかんないけど、今日も相変わらず可愛いのう!」

 

「にゃあぁ~……」

 

 く、苦しい。小町は大好きなのだが、こうやってちょくちょくぎゅうぎゅうしてくるのがたまに傷である。……まぁ、なんだかんだ言ってこれはこれで嫌いというわけでもないのだが。

 

 

 

 

 ──と、このようにして、我が比企谷家はいつものように平穏な時間がゆっくりと過ぎてゆく……と思っていたのだが……

 

 

 

 

 ぴんぽーん、と、不意に来客を知らせるチャイム音が、今は吾輩と小町以外は留守にしている我が家に鳴り響いた。

 

「あ、来たかも」

 

「……にゃっ」

 

 ……むぅ、せっかくまったりとステイホームしていたというのに。

 

 吾輩、この音は正直苦手である。なぜなら、いつぞやの招かれざる客を思い出させるから。

 あれは、そう。まだ暑い暑い最中だった。突如やってきた小町の友人とおぼしき、頭に巨大に膨れ上がった毛玉を乗せた人間が連れてきたあの忌々しい犬。

 あいつは、吾輩のテリトリーに無遠慮に踏み込んで来た。

 わんわんきゃんきゃんと無駄に吠えながら、嫌がる吾輩を構いまくるあの胴長短足の憎っくき犬。ここは吾輩が寛ぐ吾輩のとても大切な場所だというのに、あの犬のせいでこの吾輩が避難せざるを得ない羽目になってしまった。吾輩のベストプレイスなのに……!

 しかもあろうことか、吾輩の御主人様なのに、小町があの犬をとてもとても可愛がったのだ。

 

 

 ──小町は僕のなのにっ! ……けふん。

 

 

 そんな経緯もあって、吾輩はあのチャイムとかいう音が苦手となってしまった。また件の犬が吾輩のベストプレイスに無遠慮に踏み込んで来たらどうしよう、と。

 

「カーくん、ちょっといい子にしててね! 小町のお友達が来たみたいなんだ~」

 

 そう言って、小町はぱたぱたと玄関に向けて走っていった。その友達とやらがあの毛玉と犬じゃないといいなぁ……なんて思いつつ、小町の楽しそうに跳ねる背中を憂鬱に見送る吾輩は、そっとソファーの下へと潜り込むのであった。

 

 

 × × ×

 

 

「お米ちゃん、遅くなっちゃってごめんね。雑よ……副会長が卒業しちゃってからわたしの仕事増えちゃってさー」

 

「いえいえ、休日出勤ご苦労様であります!」

 

「うわぁ、あざとい」

 

「なんですとー! 小町、いろは先輩にだけはそれ言われたくないんですけど」

 

「いやいや、わたしあざとくないですし。素ですし」

 

「……ヘッ」

 

 

 

  結果的に言うと。チャイムと共にやって来たのは、あの毛玉と犬ではなかった。

 我が家にやって来たのは、いつも小町が着ている服と同じ服を着た、どことなく小町と似た雰囲気を醸し出している人間。今まで何人か小町の友人を見てきたが、この人間──どうやらいろはと言うらしい──は初めて見る。

 

 するといろは、小町にリビングに通されたかと思うと、感心した様子で室内をキョロキョロ見渡し始めたではないか。そしてほほぉ~と感嘆の溜め息を吐くと、こんな一言を溢す。

 

「へー、ここがお米ちゃんの家かぁ」

 

 するとその一言を聞いた小町は、なんとも嫌らしい笑みを口元に浮かべ──

 

「ふふふ、確かにここは小町のお家でもありますけど、お 兄 ち ゃ ん のお家でもあるんですよ。なんならいろは先輩的には、そっちの方が重要なのでは?」

 

 と、こんな返答をするのだった。

 

 それにしても、お米ちゃんとは小町の事だろうか。『あんた』にも『ねぇ』や『ちょっと』等々いくつかの呼び名があるし、八幡にも『ごみぃちゃん』という立派な呼び名がある。つまりこのお米ちゃんという呼称も、小町の持つ吾輩の知らない呼び名の中のひとつに違いない。

 しかし、なぜに人間はこうも名前をいくつも持ちたがるのか。吾輩なんてカマクラかカーくんのどちらかに統一してくれた方が助かるというのに。まったくもって、人間とは不可思議な生き物である。

 

 閑話休題。

 

 

 

 ──小町のお兄ちゃん。即ち八幡の事である。

 八幡は我が比企谷家において、あんたと共にカースト最下層の存在だ。

 でもごくたまに、ごくたまーに、ご飯をくれたり痒い所をかりこり掻いたり撫で回したりしてくれるので、……ふむ、まぁ嫌いではない。

 

「は? 別に先輩の家かどうかとか、わたしには関係ありませんし?」

 

 そう。確かに吾輩は嫌いではない。

 しかしながら、それはあくまでも家族贔屓から見た吾輩の偏見である。身内の贔屓目で見てもあの八幡はなかなかに生意気でふてぶてしくて可愛いげのない存在である。身内ではない第三者のいろはのこの様子を見るに、八幡の事はあまり好ましく思っていないのかもしれない。

 なぜならいろはは小町に八幡の事を出された途端、ほんのりと頬を肉球色に染め上げて、嫌~な顔で唇をつんと尖らせたのだから。

 

「さてさて、それはどーですかねぇ」

 

 しかし、そんないろはの表情に対する小町の表情もこれである。

 この顔はあれだ。ちゅ~るをくれる時、吾輩がるんるんで顔を近付けると、嘗める寸前で悪戯してひょいって引っ込める時の愉しそうな顔だ。あれ、僕やなんだよなぁ……

 

「なにその顔、まじムカつく。つかソレがなによりも重要なのは、重度のブラコン拗らせたお米ちゃんじゃん」

 

「はい? 別に小町ブラコンじゃないですし。ただ、ちょっとだけ余所の妹よりも少しだけ兄が好きなだけですし」

 

「うわぁ、こいつやっぱやべー。普通に気持ち悪」

 

「ほんとなんなんですかねこの人。超ムカつく」

 

「いー!」

 

「いーっだ!」

 

 

 

 ……ふむ、それにしても。

 

 とりあえず八幡のことはさておいたとしても、この二人、仲が悪いのだろうか。友達を家に招いたのに、仲が悪いというのもおかしな話だが。

 しかし人間というのはかくも不可思議な生き物である。内心では好ましく思っていないのに、表面上では見せ掛けの好意を見せて取り繕うものだ、と、我が家のカースト最下層の二人が真顔で語り合っていたのを何度か目撃した事もあるし。

 まったくもって、人間とは本当に不可思議な生き物である。

 

 それにしても、本当にこのいろはという人間が小町と仲が悪いのであれば、それは小町を愛する吾輩にとっても由々しき事態。我が家の……いやさ吾輩の敵として、この不届き者を警戒しよう!

 

「……フシャ~……っ」

 

 と思ったのだが──

 

 

「おっと、それはそれとして、小町とした事がお客さまをリビングに立たせたままにしておくなんてなんたる失態! ささ、いろは先輩っ、ソファーに座っててくださいな♪」

 

「ありがとー。あ、そういえばごめん、今日ちょっと忙しくて手土産用意できてないんだ」

 

「だいじょぶです! 昨日友達と青山遊び行ったんで、今日の為にと思ってキルフェボンでフルーツタルト買っときましたよ☆」

 

「マジで? 美味しくて好きー。でもあそこって1ピースでも超高くない? ホールで買ったら破産するレベル」

 

「ふふふ、全然余裕です。明日うちに遊びに来る友達に美味しいお菓子買っときたいんだけど、おこづかい足んないんだー。あ、ちなみにその子は女子なんだけど、足んないぶん男子も呼んで出してもらおうかなー、って言ったら、父がたっぷりおこづかいくれたんですよ」

 

「うわぁ……、なんかお米ちゃんのお父さん、先輩の将来の姿に重なるんだけど」

 

「ほんと兄が父になった時、ああなっちゃうのが小町の心配の種だったりします」

 

「あはは。まぁわたしから見たら、今の先輩も身内には十分過保護過ぎな感じですけど。にしてもいいなぁ、青山とか最近あんまそっち遊び行けてなくてさ」

 

「前々からクラスの子に誘われてまして。目的は表参道のQ‐POTカフェだったんですけどね」

 

「マジで!? 超行ってみたい! わたし女友達あんま居ないから、行った事ないんだー」

 

「あー、なるほど」

 

「いやいや、そこはちょっとは否定でしょ。てかお米ちゃんだって性格かなりアレなのに、女子の友達多いとか意味わかんない」

 

「性格アレとか失敬な! ……でもまぁあれです。小町、兄がアレなんで、逆に人間関係が上手くそつなくこなせるんですよ。幼少時代の環境ゆえの処世術ってやつですかね」

 

「あー、わかるー。今ならまだしも、子供の頃から先輩みたいのが身内にいたら、自分はああならないように上手く生きなきゃ、って思うもんね」

 

「そうそう、そうなんですよ! さすがはいろは先輩。同じクズ同士、うちの愚兄の理解は他の誰よりも上です」

 

「ははっ、褒められてる気しねー」

 

「なに言ってんですか、超褒めてますよ。主に小町の友達として☆ あ、そだ、じゃあもしよかったら、今度二人で行っちゃいます? ふふふ、超おしゃれで超可愛かったですよ~」

 

「行く行く~! じゃあ今日のお返しに、今度そっちで奢るね」

 

「わぁ、楽しみ~! でもいいんですか? あそこでお茶すると、ゾッとするほど高いですよ?」

 

「だいじょぶだいじょぶ。お父さんにちょっと甘えたフリすれば臨時のおこづかいとか超余裕だから」

 

「ですよねー。年頃の娘が居る父親の役割なんて、だいたいどこの家庭も変わらないですよね。ふふふ」

 

「ふふふふふ」

 

 

 

 ……これが世に言うガールズトークとかいうものだろうか。言ってることの大半がおかしな呪文のようでまったく意味がわからない。ただ、この二人がこのトークを心から楽しんでいる事だけはひしひしと伝わってきた。

 

 そんな、まるで仲が悪そうに言い合ったり、にんまりと悪そうに微笑み合ったりしているこの二人を見て、吾輩はこう思うのだ。

 

 

 ──あれ? 僕の勘違い? この二人、仲いいの?

 

 と。

 

 

 ……やはり。人間とはかくも不可思議な生き物である。

 

 

 × × ×

 

 

「あ、猫」

 

「我が家の愛描カマクラくん、通称カーくんです! どうですか超可愛いでしょう」

 

「……んー、微妙?」

 

「なんですとー!」

 

 

 

 自身の思い違いなのか? やはりこの人間は小町と仲良しなのか? との思考が頭を過りはじめたと同時に、最初に感じた『どことなく小町に通じるものがある』という感覚も相まって、なんとなく吾輩はこの人間──いろはに興味を抱いてしまった。

 興味を持つ。即ち興味対象の匂いを嗅いでみたいという衝動に駆られてしまった吾輩は、ソファーに腰掛けるいろはの足元へとそっと忍び足で近寄っていたのだが、その最中、件の目標に我が姿を発見されてしまった。

 

「にゃー」

 

 しかし、それでも吾輩の足は止まらない。一度興味を持ってしまえば、野生の衝動はおいそれと止まれないのである。この人間が悪い人間ではないことくらい、わざわざ匂いを嗅がなくても、小町とのやり取りや醸し出す雰囲気だけでなんとなく解るし。

 

 

 

 そしてついに辿り着いたいろはの足元。恐る恐るではあるものの、吾輩と違い毛に覆われていない剥き出しの素足に鼻を近付けてふんすと嗅いでみた。

 やはり、なかなかに悪くない匂い(吾輩に敵意を持っていない匂い)である。

 

「へー、カーくんが初対面の人の前にすぐ出てくるなんてめずらしー」

 

「そなの?」

 

「はい。かなり珍しいです。この子すっごい警戒心が強くて、慣れてない人が家に入ってくると、すぐどっか隠れちゃうんですよ。ほんとは人に興味津々なくせして、興味なんかねぇよって態度取って、好奇心よりも保身を選んじゃうんですよねー」

 

「うっわ、なんかどっかの誰かさんみたいじゃん。このぶすっとした表情とか目付きの悪さとか、素直じゃなくてひねくれててめんどくさそうなとことか」

 

「あはは、わかります? ま、慣れてくるとそこが堪らなく可愛いとこではあるんですけどね♪」

 

「…………ま、まぁ、そこはちょっとだけわからなくもない……かも?」

 

「あ、いろは先輩がついにデレた」

 

「デレてないし。てか猫がちょっとだけ可愛いって言っただけで、なんでわたしがチョロインみたいな扱いを受けなきゃならないんですかね」

 

「へへ~」

 

「うわぁ、ムカつく顔。やっぱこの子性格すごいなー」

 

「お互い様です♡ じゃ、小町お茶淹れてくるんで、カーくんと遊んでてくださいね」

 

「うん、よろしくー。っしょ」

 

「に"ゃっ」

 

 

 またよくわからないガールズトークに華を咲かせている二人をよそに、いろはの足をすんすん嗅ぎ続けていると、不意に両脇を抱えられ、ひょいと持ち上げられる吾輩の体。

 無礼にもなんの断りもなしに吾輩を持ち上げたのは、もちろんいろはその人である。

 

 いろははキッチンへと向かう小町の背中を見送ると、どれどれ~? と、持ち上げた吾輩を顔の近くに持ってゆき──

 

「ふーん」

 

 じーっと。不躾に。舐め回すように。

 まるで値踏みでもするかのように、吾輩の顔を細目で覗きこんでこう一言。

 

「やっぱこのぶすっとした顔が誰かさんぽくて、ぜんっぜん可愛くない」

 

 と、こんな酷い暴言を吐くのだった。

 

 おかしい。吾輩、可愛さにはそれなりの自信を持っているというのに。なぜなら、普段小町からしこたま可愛いと言われ続けているのだから。

 

 しかし、ぶすっとしてるだの可愛くないだの酷い言い種ながらも、なぜかいろはの顔に浮かぶのはとても穏やかな微笑み。その瞳は、温かな優しさに満ちていた。

 

「ま、アレはしばらく雪乃先輩に貸し出しといてあげとく予定だし、しょーがないから今はこの可愛くない猫で我慢しといてあげよっかな。ちゅうぅぅ~っ、ふふ」

 

「に"ゃぁ~」

 

 相も変わらず酷い言い種ながら、なぜか吾輩の顔に桃色の唇をぐりぐり押し当ててきたいろは。嫌がる吾輩を無視し、お腹に顔をもふもふもしてくる。

 

 

 

 

 初対面の吾輩を馴れ馴れしく乱暴に持ち上げたのに……、酷いことばかり言ってるのに……、それなのにまるで御主人様や小町が向けてくるような、愛しい者を愛でるような優しい眼差しを向けてきたり、うざったいくらいぐりぐりもふもふしてくる、この小町にちょっとだけ似た変な人間の顔をすぐ間近に見ながら、にゃあにゃあ嫌がる吾輩カマクラは思うのだ。

 

 

 

 ──やはり、人間とはかくも不可思議な生き物である。

 

 

 と。

 

 

 

 了

 

 

 




というわけでホントお久しぶりでしたが、最後までありがとうございました!こういう暗く辛い時期なんで、猫視点にでもなって、まったりのんびり美少女ヒロインのちょっと恥ずかしい日常風景でもこっそり愛でようぜ!?という、中身のまったく無い一年ぶりの最新話でした☆


またこんな風にゲリラ雷雨ばりのゲリラっぷりで突然更新する事もなきにしもあらずなので、またその際はどうぞよろしくお願いいたしますノシ

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