八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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あたしの記憶の中のアイツは【中編】

 

 

 

 

 

最悪だ……なんでこんなことになっちゃったの……?

 

あんなに楽しみにしてたのに……実際あんなに楽しかったのに……彼だって、あんなに楽しそうにしてたのに……

 

 

……でも、彼は本当は全然楽しくなかったんだろう。あんなオマケみたいな人の為に、わたし達に対して当て付けみたいにあんな子達まで用意してたんだから……

 

……ああ駄目だ。わたしなんてほぼ初対面みたいなものなのに、それなのに一方的にオマケみたいに思って軽く扱っちゃってたこういう所に、彼は……葉山くんは頭にきていたのだろう……

 

「………か」

 

「……ちか」

 

「千佳っ!」

 

ボーっと考え事をしてたら、どうやら呼び掛けられていたみたい。

 

「……あっ、ごめん……なに?」

 

わたし達は、あの最悪の瞬間を味わったカフェから出ると、無言で駅へと向かいそのまま電車に乗り帰宅の途へとついていた。

わたしに呼び掛けていた友達、折本かおりは、申し訳なさそうな弱々しい目でわたしを覗きこんでいた。

 

「千佳……今日はホントごめん……千佳、あんなに葉山くんと遊べるの楽しみにしてたのにね。あたしが調子に乗ったから……」

 

「そ、そんな事ないよっ……むしろわたしの方が問題でしょ……よく知らない比企谷くんの事を笑ってたりしたんだからさ」

 

「だってそれってあたしのせいじゃん……おな中のあたしがイジリキャラみたいに扱ってたら、千佳だって同じような扱いになっちゃうのは当然だよ……」

 

「………」

 

確かにそれはあるけど……でもそれにわたしは乗っちゃいけなかったんだよ。

 

「でもさ……あんな子達を用意してたって事は、そもそも今日のお出掛け自体、葉山くんにとってはあの瞬間だけが目的だったって事だよね……比企谷くん呼ぶけどいいかな?って話になった時にはもう、わたし達のこういう所は見透かされてたわけだ……」

 

「………だね」

 

 

本当に最悪だ……待ち合わせからの葉山くんのあの笑顔はずっと作り物だったわけだ……わたし達のはしゃいでる姿はさぞ滑稽に見えた事だろう。

 

 

そのあとわたし達は無言のまま、それぞれの家へと向かい帰路についた。

調子に乗ってた自分に対する反省と、なんであんなヤツの為にこんな気分にさせられなきゃいけないのかという微かな憎しみ。

そんな相反する感情がグルグルと渦巻きながら。

 

 

× × ×

 

 

結局土日はなにもする気が起きずにダラダラと過ごし、気が重いまま月曜日に登校してもやはりかおりは沈んだままだった。

もちろんわたしだって明るくは振る舞えなかったが、かおりの落ち込みようは思いの外深刻みたいだった。

 

わたしと違ってこの子は別に葉山くんにはさして興味が無かったから、たぶん罪悪感と自己嫌悪に苛まれてるんだろうな。

普段から特に深く物事を考えたりせずにノリと勢いで感情をストレートに表現する子だから、知らず知らずのうちに昔の友人をバカにしていた自分に嫌悪感を抱いてるんだろう。

 

 

かおりはそれから何日かはこんな感じだったが、日が経つにつれて少しずつマシになってきた。

 

ようやく会話の端々にウケるという単語が出てくるようになってきたそんなある日、一年の時わたし達と同じクラスだった友人の瑞希が、お昼休みにフラっとやってきたのだ。

 

「よっす!かおりー、千佳ー」

 

「あれ?瑞希じゃん。どったのー」

 

「んー、ちょっとねー!かおり達なら……特にかおりならノリいいから一緒にやってくれるかなぁ?って思って誘いにきましたー!……ねぇねぇ、生徒会と一緒にクリスマスイベントやんない!?」

 

瑞希は生徒会役員の一人と付き合ってるんだけど、どうやらウチの生徒会が他校の生徒会と合同でクリスマスイベントを企画しているみたいで、その彼氏に誘われたらしい。

で、出来れば生徒会以外のメンバーを有志として何人か集めて、より多くのマインド?を集めてよりたくさんのシナジー効果?を生み出したいんだそうだ。

 

最近発足したウチの生徒会って、ちょっと変り者の集まりなんだよねぇ……特に会長なんかは……

他の高校生で、あの会長と渡り合える(悪い意味で)人なんているのかなぁ……?

 

同じような人種でもなければ、よっぽど頭の回転が良くて、よっぽど臨機応変で、よっぽど口が上手くなきゃ、とてもじゃないけど渡り合えなさそう……なんか振り回されて諦めちゃう未来しか見えない。相手の生徒会の人たち可哀想だな。

 

「……んー、どうしよっかなぁ……あ、そーいえば相手の高校って?」

 

かおりもあまり乗り気じゃないみたいだけど、一応聞くだけは聞いてみるみたい。

 

「あー、それがさぁ!総武高校らしいよー!なんか生徒会メンバー、負けらんないってみんな張り切っちゃってるみたい!」

 

 

……………!

 

 

まさか……ここで総武高校が出てくるとは……

かおりに視線を向けると、わたしと同じく心底驚いていたみたいだが、次の瞬間その瞳がキラリと輝いたように見えた。

 

「あたし参加でっ!」

 

その目を見た時、たぶんこう答えるんじゃないかとは直感したものの、あまりの即答っぷりにちょっと苦笑してしまった。

 

「千佳はっ!?」

 

いや、さすがにねぇ……?

 

「うん……わたしはちょっと……」

 

「だよねー。それじゃ瑞希、あたしだけ参加ってことで!」

 

「了解ー!サンキューね、かおり!千佳も気が変わったら教えてちょー」

 

瑞希はそう言うと満足気にウチの教室をあとにした。

 

「……かおり、相手は総武だよ?ひき……比企谷?くんは絶対居ないだろうけど、葉山くんとかあの子達とか居たらどうすんの!?」

 

「うーん。どうだろ?まぁ比企谷は居ないだろうし、もしかしたら葉山くんは居るかもね。そういうのに参加してリーダーシップ取りそうなタイプだし。ホントは居ない方が助かるけどねー」

 

「だったらなんで?」

 

するとかおりは本当にこの子らしい面白いモノを見つけちゃった子供のようにニヒッと笑いこう言うのだった。

 

「リベンジだってリベンジ!だってこのまま総武高校に暗いイメージ持ったままなんてつまんないじゃん!?それに、絶対有り得ないけど、もし比企谷とか居たらウケるしっ!」

 

 

そっか。もし仮に誰かしらと会っちゃって気まずかったとしても、このまま悶々としてるのなんてかおりらしくないもんねっ!

ま、もしも葉山くん辺りが居たとしても、せいぜい気持ちぶつけてウケてきなさいよねっ!

 

 

× × ×

 

 

あれから数日経ち、昨日はかおりが例のイベントの有志として初参加した日だ。

かおり、どうだったのかな?なんて朝から考えてたんだけど、あの子の事だからなんか面白い事があったんなら、ゆうべのうちに電話なりメールなり入れてくるよね。つまり大したことは何もなかったんだろう。

 

 

そんな事を思いながら教室の扉を開けると、なんだかワクワク顔しちゃってるかおりがわたしの席を陣取ってました。

ニヤニヤしながら目だけで早く来いと急かすかおりを見ながら席へと到着すると開口一番。

 

「千佳やばい超ウケる!昨日イベントの会議に行ったらさ、なんと比企谷居んのっ!まじウケんだけどぉ!」

 

と、お腹を抱えて大爆笑。

でも実際わたしもビックリした。まさかあの暗そうで存在感も無さそうな彼が、そういう場に来てるなんて。

 

「そうなんだ……えっと、比企谷?くんは総武の生徒会かなんかなの?」

 

「………は……はぁ…はぁ…………へ?」

 

いやいやかおりさんウケ過ぎですよっ!?どんだけ面白いのよ!?

 

だからぁ……ともう一度訊ねると……

 

「いや、なんか手伝いに来ただけみたい」

 

これまた意外だ。なんかの間違いで生徒会に入っちゃったって言うんならまだ分かるけど、手伝いってそれって有志って事でしょ?

あんな人に友達から誘いが掛かるのも不思議だし、それを大人しく受諾するのも不思議……

 

でも、悔しいけどあの葉山くんにあそこまでの事をさせる存在なんだよね、あの人って。

もしかしたら……実はなんかすごい人なのかも……

 

「でさぁ!比企谷が好き好んでそんな手伝いに来るって謎すぎるから、あたしてっきりあの子達と一緒に来てんのかと思ったわけ!でさぁ、比企谷ひとり?って聞いたらさー、アイツなんて答えたと思う!?」

 

いや知んないから……

すると爆笑してた顔を一瞬でキリリとさせてこう一言。

 

「ああ、だいたいいつもな……………ブーっっ!!だ、だって……さ!……くくく……プーッ!あははははっ!……ああ、だいたいいつもな………ブハっ!まじウケんですけどー!」

 

なにがそんなにウケるのかしら……?

ヒィーヒィーとお腹を抱えて苦しそうに涙を流してるかおりを見て、この子大丈夫かしら?と思う気持は強かったけど、なんか元気になって良かったな……って思う気持ちもほんのちょっぴりだけ芽生えてきた……!

 

 

× × ×

 

 

それからのかおりは、朝イチはほぼ比企谷くんの話しかしなくなった。

 

『千佳ー!昨日比企谷超ウケんの!だってあの比企谷がだよ?あの比企谷が、ウチの生徒会長に話合わせて、『フラッシュアイデアなんだが』とか『それだとイニシアティブがとれない』とかって超真顔で言ってんだもんっ!あれヤバいって!』

 

『千佳ー!なんか比企谷向こうの生徒会メンバーに超頼られてんだけど!向こうの生徒会長って一年の美少女でさぁ、最初は比企谷がその子狙ってるから手伝いに来てんのかと思ってたんだけど、見てたらどうやら違うっぽくてその生徒会長が頼って連れてきたらしいんだよねー!しかも最近じゃ他の生徒会メンバーも明らかに比企谷頼りになっちゃっててさー!もう裏の生徒会長って感じなんだよねー!あの比企谷が裏の生徒会長とか!まじウケるっ!』

 

『千佳ー!昨日さぁ!比企谷が超可愛い小学生女子と二人でなんか作業してんのー!ヤバいウケる!あと一歩で捕まるっての!しかもその小学生に『他にやることないわけ?暇人』とか罵られてんだよ!?もう面白すぎてあたし死んじゃうよー!』

 

『千佳ー、昨日さぁ、ついにあの子達が登場したよ。いよいよウチの会長達が末期だから助け呼んだのかなぁ……』

 

『千佳ー!昨日ついに比企谷達とウチの生徒会が正面衝突しちゃってさー!ウチの会長、比企谷とあの黒髪ロングの美人に叩きのめされちゃってさー!まじウケるっ!………でさ、帰りに比企谷と二人になれたからちょっと話したんだよね。やっぱアイツ面白いよ。あたしさ、昔は比企谷なんか超つまんないヤツとか思ってたのに。でもそれは見る側が……あたしが悪かったのかなって思ってる。たぶんあたしがつまんないヤツだったんだよ。今のアイツとなら……ってか今のあたしなら、アイツと友達になりたい……かな?……なんつってー!超ウケる!』

 

 

そしてクリスマスイベントは無事終了し冬休みも終わり、新学期が始まってからもかおりは事あるごとに『比企谷がさー』『アイツ今ごろどんなウケる事してんのかなー?』なんて話ばっかりしてたっけな。

 

こんな話ばっか毎日聞いてたら、そりゃこの子は日に日に比企谷くん好きになっていってるんだな……って事くらい気付くし、もちろん自分自身が比企谷くん大好きって理解してるから、毎日こんな話ばっかわたしにしてくんだろうなって思ってた。

まさか自分で気付いてないとはねぇ……

 

 

そんな少し前の記憶を手繰り寄せていたら、かおりもたぶん同じ頃の記憶を辿っていたんだろう。

 

ちょっとだけ頬を染めて居住まいを正して、気まずそうに苦笑いを浮かべながらわたしに話し掛けてきた。

 

 

「あ、あははは〜……参ったな〜……そんなわけ無いじゃんとか思ってたけど、色々思い出してたら結構思い当たる節があるね、こりゃ……ウケるっ……」

 

かおりがこんな風な恥じらいの表情を見せたのなんて初めてじゃない?超レア!

 

顔を真っ赤にして居心地悪そうにモジモジしながら頬をポリポリ掻いているかおりは、なんだかとても可愛いらしく見えた。

でも!それでもまだ納得はしてないみたい。

 

「で、でもさぁ、確かに比企谷ウケるし嫌いでは無いけどさ、きゅ、急に好きとかなくない!?……だって、友達ならアリだけど、付き合うのは無理とかって思ったし!」

「いやまぁそれならそれでいいんだけど…」

 

「だからさぁ、あたし決めた!次の土曜あたりにでも比企谷とデートしてくるっ!」

 

「はっ?えっ?きゅ、急にっ!?」

 

この子マジで直感で生き過ぎでしょっ!思い立ったが吉日じゃあるまいし!

 

「だってさぁ、あたしが納得してないのに千佳に勝手にそこまで思われてるなんてやっぱ納得いかないじゃん?なんか悔しくない!?だから会ってデートして確かめてくる。ホントにあたしは比企谷のこと好きになっちゃってるのかどうかを!」

 

 

 

未だ若干頬を赤らめながらもニヒッと楽しそうにガッツポーズしてみせるかおりには、さっきまでの昨日の同窓会で沈んだ様子など一切無く、まさにかおりらしく大いにウケて輝いてる、そんな笑顔だった。

 

 

ふふっ、あんたホンっト無茶苦茶だけど、まぁそっちの方がかおりらしいよね!

 

 

「じゃあ楽しんで来てよ!報告楽しみに待ってるからさっ」

 

「おうっ!」

 

 

 

 

続く

 





ありがとうございました!

ホントはこのシリーズは折本視点で済ますつもりだったのですが、千佳視点も欲しいとのご意見頂いたので、中編のみ千佳視点にしてみました!

というわけで、後編はまた折本視点に戻しての八幡とのデート回となります。
折本は一体どうやってあの八幡をデートに誘うのか!?
そこはもちろん折本らしくGoing My Way!我が道を行く!ですよっ(笑)

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