八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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私の責任で荒らしてしまったあーしさん編もこれにて終了です><

前話の後書きに私の葉山に対する考え方を追記しときました。





本物の顔と偽物の顔【後編】

 

 

 

 

「…………は?」

 

あーしの宣言から固まること数秒。ようやくヒキオから出た言葉はたったの一文字。

 

真っ赤になっているであろう顔を頑張ってヒキオに向けてみると、唖然と疑問と馬鹿にしたような感情が織り混ぜになった、なんともムカつく顔であーしを見ていた。

 

ヒキオの分際でマジムカつく……!

でも……ムカつくんだけど、なぜだか不快では無い。だってそこには嘘がないから。

 

「……は?聞こえなかった?だからアンタは今日からあーしと一緒に昼食べればいいって言ってんだし」

 

「いや意味分からん……そして断る」

 

そう言いながらも声ちっちゃいよヒキオ。なんでこんな美少女相手にビビってんだし。

 

「あーし最初に拒否権ないからって言ったよね」

 

そう言いながら、ヒキオの前の空いてる椅子……つーかあーしがヒキオと話してる間に持ち主が逃げ出して空いた椅子に座ると、そのままヒキオと向かい合う形で机にパンを広げる。

 

あまりにも有無を言わさぬあーしに対して固まっていたヒキオがようやく口を開いた。

 

「あ、いや、俺購買行かなくちゃアレなんで……」

 

「これヒキオの」

 

そう言うだろうと思って、ヒキオの分も買っといてるに決まってんじゃん。

もちろん後で請求すっから。

 

「あ、いや、飲みもんとか買いに行かなきゃアレなんで……」

 

あーしは黙ってカバンから水筒と紙コップを取り出す。

ヒキオが何かと理由をつけて逃げ出そうとする事なんか分かり切ってたから、逃げ道は塞いどく。

あーしは無言で紙コップに紅茶を注いで、ヒキオの前に置いた。

ヒキオの顔が超引きつってて笑える!

 

「……どうも」

 

引きつりながらもパンと紅茶を受け取るヒキオが、なんか可愛く思えてきちゃったし。

 

そしてヒキオとあーしの、初めての二人きりの時間が静かに始まった。

 

 

× × ×

 

 

「……」

 

「……」

 

無言……

 

なんだしこれ……こんな昼ごはん初めてだ。

 

クラス中が何事かと息を潜めている分、余計にヒキオとあーしの無言の空間が一際強調される。

 

二人でもしゃもしゃとパンを食べ続けていたが、そんな気まずい無言の空気についに痺れを切らした。あーしが。

 

「ヒキオ。なんか面白いこと喋れし」

 

「おい、いきなりの無茶振りだな。三浦、ぼっちのコミュ力舐めんなよ」

 

「そんなん知んないし。つーか喋れ」

 

愕然とするヒキオ……だってしょーがないじゃん……こう見えてあーしさっきから結構緊張してんだから……

 

「なんで頬膨らませてんだよ……一色かよ」

 

べ、別に脹らませてないし……!てかあんなんと一緒にすんなし!

あーしが無言で睨んでると、ヒキオが根負けした。

 

「いやホント、君の睨みはぼっち程度なら簡単に殺せるんだからね?」

 

「……あ?」

 

「ごめんなさい…………チッ、しゃーねぇなぁ。んじゃ質問だ。なんで俺とメシ食ってんの?」

 

いきなりその質問!?あーしだって良く分かってないし……!

 

「別に……なんとなく?」

 

なんとなくでヒキオ分のパンとかコップまで用意してあるとかおかしいんだけど……

 

「なんで疑問形なんだよ……つうかお前なんていくらでも一緒にメシ食うヤツ居んだろ。由比ヶ浜は……まぁ雪ノ下とか……海老名さんとか」

 

「あー、海老名な昼はクラスのお仲間と食べるんだってさ。休み時間とか放課後はあーしと一緒だから、昼くらいは新しいクラスメイトと打ち解けた方がいいし」

 

本当はあーしが海老名にそう言ったんだけど。

卒業したら、ずっと一緒に居てあげられるワケじゃないし。

 

「海老名さんのお仲間とか、なんか恐ええんだが……ツッコミ役が一緒に居てやんなくていいのかよ」

 

「……は?誰がツッコミ役だし」

 

「ごめんなさい……まぁ休み時間はいつも三人で廊下でくっちゃべってるしな」

 

「いつもとか、なにあーしらの事いつも見てんの?キモいんですけど」

 

「便所行くといつも廊下に居んだろうが……」

 

そういえばヒキオがトイレ行く時、よくチラチラ見てんね。

 

「でも他にも居んだろメシ食うヤツなんて。昨日とかだって、クラスの連中と食ってたろ?」

 

ヒキオって、ホント良く見てるよね。

他人がなにしてっか興味津々のくせに、なんで関わろうとはしないんだろ。

ま、こいつにも色々あんだろうし、それは聞かないけど。

 

「ああ……別にあーしが一緒に食べたかったワケじゃないし。なんか勝手に集まってきただけ」

 

ホントただ苛々するだけだし、あんな連中。いつも媚びるような偽物の顔しかしない。

それに……ヒキオの陰口ばっか言ってる連中と、今さら仲良くするつもり無いっての。

 

「このクラスに、別に仲良くしたいヤツ居ないんだよねー。なーんか気分悪いし」

 

「おいおいクラスの皆さんが聞いてるぞ……」

 

「どうでもいいし。だからヒキオ、今日からはあーしの相手に決定ね」

 

「なんで俺なんだよ……お前と二人でメシとか、目立ち過ぎちゃってぼっちには難易度高す…」

 

「何度も同じこと言わせんな……」

 

ギロリと睨みを効かせると、やれやれと溜め息をつき一言。

 

「はいはい……拒否権は無いんだろ。わーったよ……でも面白い事は喋れんからな」

 

「……………ど、努力しろしっ」

 

 

ヒキオがようやく二人の昼ごはんの了承をした途端、なんだか胸がキュっとなってポカポカした。

なんかニヤけそうになっちゃったから、サンドイッチをかじって誤魔化す。

 

 

 

こうしてこの日からあーしとヒキオは、昼休み限定の友達?になった。

 

 

× × ×

 

 

あれから二週間。今では昼休みが結構楽しみになってる。

 

ま、ヒキオは相変わらず面白いことなんてなんも言えないし、やっぱり無言の時間が長かったりすっけどね。

でもまぁ、意外とそんな時間も悪く無いんだよね。

 

そしてあーしがヒキオとグループを組んだ事により、ヒキオの陰口も無くなったように思う。

 

「〜〜〜♪」

 

あーしは自分の影響力ってのを結構理解してる。

影響力って言っても、別にあーしが何かするワケでも何かを求めるワケでもない。

勝手に周りがあーしの顔色を伺って勝手に動くだけだし、今まではさして興味も無かった。

 

でも“それ”が厳然と存在してる事は理解してたから、今回だけはそれを利用してやった。

別にヒキオが可哀想とかヒキオを助けたいとか、そんなん全然興味ない。

ただあーしがムカついてたからやっただけだ。

 

「〜〜〜♪」

 

ま、裏では知んないし、なんならあーし含めて悪口言ってっかも知んないけど、関わりあいの無い連中が裏でコソコソやってたとしてもどーでもいいしね。聞こえたらキレっけど。

 

「あー、そういや前に雪ノ下さんが言ってたっけなー」

 

あれは進路希望調査表の件で依頼に行った……つうか雪ノ下さんに喧嘩売りに行ったトキだっけ……

 

『私は近しい人が理解してくれているならそれだけで構わないから』

 

……成る程ね。こういう事なワケだ。

あの頃のあーしは、分かってるようで分かってなかったのかも知んない。

 

「〜〜〜♪……よしっ!完成っと」

 

へへっ。たまにはこういうのも悪く無いんじゃね?

 

 

そしてあーしは用意したソレをしまい、登校の準備の為に自室へと戻った。

 

 

× × ×

 

 

四時限目のチャイムが鳴り響き、あーしはヒキオの席へと向かう。

 

「ヒキオ早く行くし」

 

「おう」

 

最近は空気が気持ちいいし、昼休みはヒキオ曰くベストプレイスとやらで昼ごはんを取る事が多くなった。

 

始めはベストプレイスってなんだし(笑)くらいに思ってたんだけど、購買の裏だし風が気持ち良いしで結構気に入ってんだよね。

ただ真冬も一人であそこで食ってたとか狂気の沙汰だけど。

 

ヒキオと並んでベストプレイスに向かう道すがら、隣のヒキオをチラ見してふと笑ってしまった。

 

「……あんだよ」

 

「いや、だって最初の頃は二人で購買行くのなんて超嫌がってたのに、二週間もしたらアンタも慣れんだね」

 

「……全然慣れてねぇから。毎日視線とか超痛いから……お前が認めてくれんなら超一人で行きたい」

 

そんなん認めないけどねー。

そんなくだらない雑談をしながら購買を“通り過ぎる”。

 

「おい三浦。購買行かないのかよ」

 

「いーから。今日は用意してきてっし」

 

「は?」と訝しむヒキオを無視していつもの場所へ。

階段の段差に座って、ヒキオが隣に座るのを待つ。

ぷっ!そういや最初はここで隣に座るのも躊躇ってたっけなコイツ。

もちろん強制的に座らせたけど。

 

ヒキオが隣に座ったのを見計らって、あーしは早起きして用意しておいたモノを取り出した。

 

「へへっ!じゃ〜んっ!」

 

そう。取り出したのはあーしが初めて作ったお弁当!

 

「いや、じゃ〜んっ!て……え?なにそのキャラ」

 

「……は?驚くとこはソコじゃないっしょ」

 

まったくコイツは……

あーしがギロリと睨み付けると慌てた様子で釈明する。

 

「いやいやちゃんと驚いてるから!……え?三浦料理なんか出来たの?」

 

「最近ちょっとだけ始めてみたんだよねー。バレンタインの時チョコ作ったじゃん?お、結構料理楽勝かもーってさ!」

 

ヒキオ……チョコ作りんトキどう見ても楽勝そうじゃなさそうだったろ……って顔で見んのやめろし。殴るよ?

ホンっトこいつの顔は嘘つけないから、なんだか一緒に居て楽なんだよねー。ムカつくけど。

 

そしてこの嘘をつけない顔が、弁当箱を開けて分かりやすく歪む。

 

「たっ……確かに見た目はまだアレだけど、味は保証すっし……!」

 

「そ、そうか……頂きます……」

 

警戒しながらも、いい感じに焦げ目が付き過ぎた卵焼きをパクりと一口……

うわっ……目が離せないっ……結構緊張するもんなんだ、これ……

 

するとヒキオは「あれ?」と首をかしげ、次はいい感じに歪んだ形のミニハンバーグに箸を伸ばしてパクり。

 

「どう……?」

 

てかヒキオ早く感想言えしっ!なんで最初の一口でなんも言わないし!

 

「……あれ?……普通に旨いわ」

 

「……は?そんなん当たり前っしょ!あーしが早起きしてわざわざ作ったんだから、美味しくないワケなくない!?」

 

そうは言うけどなかなか嬉しいぞ!?これっ。ヤバいニヤけるっ!

 

あーしはニヤけを誤魔化すように自分の分のお弁当をパクつきながらヒキオに憎まれ口を叩きつけた。

 

「つうか普通にってなんだし普通にって……あとで五百円ね」

 

「金取んの!?」

 

「はぁ?当たり前だし!むしろあーしの手作り弁当が五百円とか、超お得っしょ!」

 

 

なんか…………いいな、こういうのも。

 

 

× × ×

 

 

ヒキオは食べ終わると隣で横になる。最近の昼休みは大体こんな感じ。

 

ヒキオが寝てる間はあーしはスマホ弄ったり、すぅすぅと寝息をたてるヒキオの寝顔を見てたりする。

つうかコイツ油断しすぎじゃね?

ヒキオもあーしと同じように、この時間が結構安らいだりすんのかな……

 

「やっぱ……目ぇ瞑ってっと、ヒキオってまぁまぁイケメンなんだよね〜」

 

最近はヒキオの寝顔を覗き見んのが日課になったりしてる。覗き見るってか、結構近くで見ちゃってたりしてっけど……自慢のゆるふわロールがヒキオの顔に当たっちゃわないように気を付けながらね。

 

「……今度、伊達眼鏡でも掛けさしてみっかな……」

眼鏡を掛けたヒキオを想像して、思わず吹き出しそうになった。

いやでも案外似合うかも!

 

 

そんな想像しながら結構近くで見てたらヒキオが急に目を覚ましそうになった。

 

「くぁっ……結構寝ちまったか?まだ時間て大丈夫か?」

 

あっぶな!危うく覗いてんのバレるとこだった!

そういえばついこないだ、覗いてるトコ結衣に見つかって放課後に超怒られたんだよね〜……

それから若干監視の目が厳しいし……

 

「うん。まだもうちょい時間ある」

 

「そっか」

 

ま、ヒキオとあーしはただの友達だし?

そんときもただの友達だからって何度も言ってようやく納得してくれたけど。

 

 

友達………か。

そういえば、あーしとヒキオって友達……なのかな?

 

別に昼休み以外はほとんど喋んないし、もちろん放課後に一緒にどっか行った事もない。

 

ホントは前からちょっと気になってた……あーしとヒキオって、なんなんだろ……でもなんかちょっと聞くのを躊躇ってたんだよね。だって、コイツ普通に否定しそうだし!

 

 

よし。せっかくだし、ちょっと聞いてみよう。

 

………………でも聞くとなったら聞くとなったで……緊張してきた……

ううっ……なんか顔が熱くなってきた……

 

「あの……さ、ヒキオ……」

 

「ん?どうした?」

 

あーしは所在なげに震えてる手に、ギュっとスカートを握りこんだ。

 

「…………あーしらってさ……なに?」

 

「……は?」

 

だから少しくらい表情隠せし!

あ、いや、ヒキオは隠さなくていいや……

 

「いや、だからさ……あーしらって、どんな関係なんだろってさ」

 

「………は?うん、なんだ。……いや?……なんだ?……昼飯を一緒に食う、クラスメイト……?」

 

 

ガクンと肩が落ちるあーし……

悩んだ末の答えがソレか……やっぱ友達でさえ無いんじゃん……

 

 

…………まぁいっか!だったらこっから始めればいいだけの話だし!

 

「じゃあさ、ヒキオ」

 

あーしはヒキオの目を真っ直ぐに見つめる。

 

「お、おう」

 

急にあーしに見つめられたもんだから、ヒキオはキモくキョドっててなんか可愛いしっ。

 

 

「あーしらさ…………友達になんない?」

 

 

そう。あーしとヒキオは友達っ。まずそっから始めよう!

今後のことなんて知んないし先のことなんてどうだっていい。

まずは今っ!あーしはヒキオと友達になりたい!

 

すると困惑気味の表情を浮かべるヒキオが、予想通りの言葉を口にする。

 

「ちなみに拒否権は……」

 

「あると思うん?」

 

「ですよねー……」

 

 

 

 

嫌っそうに面倒くさそうに歪ませるそのムカつく顔は、本当の感情がたっぷり詰まった本物の顔。

嘘も偽りもなんにもなく、心から嫌そうな顔を浮かべるヒキオの本物の顔を見てると心から思う。

 

 

隼人も……こんな風にいつも本物の顔が出来たら、もっと楽に生きられるんだろうな……って。

 

あーしはバカだから、隼人の悩みも隼人の苦しみも……なんにも分からない。なんにも分かってあげられない。

 

そしてたぶん……これからもそれはあーしには一生分からないことなんだろう……

 

だからせめて思う。いつの日か隼人も、目の前のコイツみたいにいつも本物の顔が出来るように……楽しければ心からの笑顔を、辛ければ心からの嫌そうな顔を気にせずに人に見せられる、そんな心安らげる人生を送れますように……

 

 

「ねぇヒキオー!もうすぐGWじゃん。あーしら友達になったんだからどっか遊び行こうよ!」

 

「……いや、GWはちょっと用事が……アレがアレしてな……?」

 

「オッケー暇って事ねー。んじゃあGWまでに何か色々考えとくしっ!」

 

「いやいや三浦さん?俺の話聞いてます?大体俺ら受験生だぞ。お前成績とか悪そうだし今が大事な…」

 

「……………………は?」

 

「了解しました……」

 

 

 

GW、ヒキオと二人で遊びに行ったりなんかしたら、まーた結衣に怒られんだろーなぁ。

まぁ別にいっか!あーしとヒキオは友達だしっ!

 

 

 

あーしは心の底から嫌そうに顔を歪めるヒキオの脛をゲシゲシ蹴りながら、来るべきGWへと心弾ませるのだったっ!

 

 

 

 

 

終わり

 





というわけで、初?の友達ENDでした!(大体友達のまま終わってますが(苦笑)、ヒロインが友達を選択するのは初かな?と)
まぁ普通に考えて、あのままいきなり付き合いに発展するとか有り得ないと思うんで。


ホントこの度は私の不用意な対応で各読者さまにご迷惑・ご不快な思いをさせてしまいましてスミマセンでした><

前話の後書きの追記でも述べたように、今後は葉山には触れないようにしようかと思ってます(汗)
なにぶん自分の中で決めてあるスタンスは変えられませんので……


そして次回は!………スミマセン!ちょっとだけお休みするかもですm(__;)m
この後、あざとくない件の方も一応の完結(新刊まで休載)となりますので、それの執筆が終わったらたまには一週間くらいは何も書かないでいてみようかな?と前から思ってました(笑)
この数ヶ月、ちょっと生き急ぎすぎたかな?ってくらいの勢いで書いてたんで(笑)
ま、もう何かしら書いてるのが習慣じみちゃってるんで、もしかしたら書いちゃうかも知れませんけども(苦笑)


それではまたお会いしましょう!

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