八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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なんか……やってしまいました。






ぼっち王子はぼっち姫の居城へと【中編】

 

 

 

「それでね、八幡君っ!もう留美ったらパパが居ないとこだといっつもいっつも八幡八幡言ってるのよ〜?」

 

「お母さんほんともういいから……あっち行っててっ……」

 

「いーやっ!ママだって八幡君ともっとお話したいんだからー。でねー?八幡君。こないだシーから帰って来たあとなんてねぇ?」

 

「わー!わー!わー!……もうお母さんホントやだっ!……八幡。お母さんの話なんて聞かなくていいから……」

 

「なんでよ〜?だって留美ったらホント可愛かったのよ?だってこの子ったら…」

 

「もうホントいい加減にしてよママ!……うぅぅ……バカはちまん……」

 

なぜか俺が罵られました。

 

現在昼飯が終わり、俺は鶴見母娘のガールズトーク?に引きつった笑いで付き合わされている最中である。

母親が子供の赤裸々トークを子供の目の前でカミングアウトしまくって、子供が恥ずかしくて死にたくなるってよくありますよね。

 

その例に漏れず、留美も足をバタバタさせながらちっちゃい手で顔を覆い隠して悶えに悶えている。

通常のそんな光景と違うのは、それを聞かされている俺も手で顔を覆いたいくらいに恥ずかしいという点だろう。やだマジ恥ずかしい。

 

「もうっ!ママあっち行って……!」

 

「もう留美ったらしょうがないわね〜。いつもみたいに満面の笑顔で八幡八幡って言えばいいのに〜」

 

「ママぁっっっ!」

 

「はいはい。それじゃあ八幡君が買ってきてくれたケーキでも頂きましょうか?ママお茶入れてくるわね」

 

悶える娘と悶える俺を残してキッチンへと去っていったルミママを複雑な思いで見送りつつ、留美の方に視線を向けると涙目の留美が真っ赤な顔で口を尖らせて、なぜか俺を睨んでいた。

やだちょっと理不尽。

 

 

とにかくルミママが席を外した事で、ようやくリビングは、というか留美が落ち着きを取り戻したと思った矢先、なんかルミママがすぐに引き返してきた。

 

「留美ごめんっ。紅茶切らしちゃってたみたいだから、ちょっとコンビニで買ってきてくれない?」

 

「……えー……やだ」

 

「いいじゃないすぐそこなんだから〜」

 

「だって、お母さんと八幡残して行きたくないもん」

 

確かに俺もこのお母さんと二人で残りたくはない。

 

「あの……俺が買ってきますよ」

 

「八幡君はお客様なんだからいいのっ」

 

「だったら八幡、一緒に行こ?」

 

「留〜美!だから八幡君はお客様だって言ってるでしょ?お客様にお買い物頼むなんて失礼なことはママ許しませんっ」

 

すると留美が、ぶす〜っとすっごいむくれっ面になる。

 

「……だったらママが行ってくればいいじゃんっ……」

 

「母親として、年頃の娘と年頃の男の子を家に残して出ていけるわけ無いでしょ?」

 

い、いや、なんかするわけないでしょうが!

と、若干非難の目をルミママに向けたのだが、その時ルミママと目があった。

…………ほーん。

 

「留美。まぁお袋さんの言う事ももっともっちゃもっともだ。ちゃんと待ってっから、ちょっと買ってきてくんねぇかな」

 

「八幡まで……分かった。買ってくる……急いで帰ってくるから、お母さんと変な話しないでよね八幡」

 

「あんがとな、留美」

 

ポンポンと頭を撫でると、渋りながらも赤くなって目を逸らした。

やべぇな……今日だけで一体何回お兄ちゃんスキルが発揮されちまうんだよ。

俺は悪くない。社会が悪い。可愛すぎるルミルミが悪いのだ。

 

「んじゃあよろしくな」

 

「うん」

 

早く帰って来たいのだろう。ててっと急いで家を出ていく留美を見送る。

さて……

 

「比企谷君。ちょっとお話があるの。聞いてくれるかしら」

 

「……はい」

 

本日呼び出しを食らった理由はどうやらここからが本題のようだ。

ふぅ、リビングに待っているのは果たして鬼か蛇か……

 

 

× × ×

 

 

ソファーに向かい合って座ると、早速留美の母親が話し掛けてきた。

 

「さ、留美が帰ってきちゃう前にきちんとお話しとかなくちゃね。改めまして。比企谷君、今日はわざわざ来てくれてありかとう」

 

留美の母親は、先ほどまでのフランクさのナリを潜ませ、落ち着いた様子で語り掛けてくる。

成る程。やっぱ留美の母親だわ。

 

「……いえ、こちらこそご挨拶が遅くなってしまってスミマセン」

 

これからどんな会話が成されるのかも知らない俺は思わず畏まってしまったのだが、そんな俺を見て留美の母親は優しく微笑んだ。

 

「ふふっ、そんなに畏まらなくてもいいのよ?私はただ、比企谷君にどうしてもお礼を言いたくて来てもらったんだから」

 

「お礼、ですか……?」

 

どういう事か尋ねようとすると、留美の母親はおもむろに頭を下げた。

 

「比企谷君。あなたには感謝してもしきれないわ。留美に、娘に笑顔を取り戻させてくれてありがとう」

 

「ち、ちょっ?」

 

そして、留美の母親が苦しい胸の内を語りだした。

 

 

「……去年の夏前くらいだったかしら……あの子、急に笑わなくなっちゃってね?ちょうどその頃から家にお友達を連れてくる事も無くなっちゃったから、もしかしたら留美はお友達と何かあったんじゃないか……って心配していたの」

 

そうか。千葉村での一件よりも前からああいう状態が始まってたんだもんな。

 

「でもあの子、私達に心配掛けたくないからか、なんにも言ってくれなくってね?……だから私も父親も、留美が自分から話してくれるまで待とうって、気付かないフリをしていたの」

 

「……」

 

「結局そのまま夏休みに入っちゃってね?学校で千葉村に行く事になったみたいで、私達は気付かないフリしながらも、夏は暑いし疲れちゃうから、無理に行かなくてもいいのよ?って言ったんだけど、あの子が自分でどうしても行くっていうものだから、心配だったけど行かせたの。……ちょっと過保護だけど、知り合いに様子を見るのをお願いしてね」

 

知り合い?

 

「千葉村から帰ってきてから、あの子ちょっとずつだけど笑うようになったの。その時はまだ理由を言ってくれなかったけどね」

 

そうか……あんな最悪な解消の仕方だったけど、あの時からちょっとずつでも留美は強くなれていたのか。

 

「でもね?あの子が一気に変わったのはクリスマスの前あたりからなの!……ふふっ、その頃からなのよ?あの子が八幡って言いだしたのは。最初はなんの事かと思ったんだけど、コミュニティーセンターから帰ってくる度に『今日八幡がめんどくさそうな顔して手伝ってくれたの!』『八幡が劇の主役やらないか?って言ってくれたの!』って、もうホント嬉しそうに」

 

あいつ、あんなに「どうしてもって言うならやってあげてもいいけど」みたいな顔してやがったくせに、ホントはそんなに楽しそうだったのか。

 

「だからさすがに私も聞いちゃったのよ。八幡って誰のことなの?って。…………そしたら、その時になってやっと全部話してくれたのよ、あの子。八幡は千葉村で出会った高校生だって。そしてそこで留美の為に苦しんでくれた人なんだって。夏前からお友達となにがあったかって事も、クリスマスであなたと再会できて嬉しかったってことも全部」

 

「そう……なんですか」

 

すると留美の母親は、とてもとても悲しげな笑顔になった。当時の辛い心境を思い出すかのように。

 

「私は母親なのに、愛する娘が苦しんでる時になんにもしてあげられなかったの……情けないわよね、母親なのに…………だから留美からあなたの事を聞いて、ホントはちょっと悔しかったのよ。母親の私がなんにも出来なかったのに、見ず知らずの高校生に負けちゃうなんてね……って」

 

「でも……留美を真っ直ぐに育てた親御さんが居たからこそ、そんな状態でもあんなにいい子のままへこたれずに頑張れていたんだと思いますよ」

 

そう言う俺の言葉に、悲しげな笑顔から一転、とても優しい笑顔へと変わった。

 

「うふふっ、本当にしっかりしたいい子なのね、比企谷君は!留美の言ってた通りの男の子でホント良かったわっ」

 

「あ、や、そ、そんな大したもんでは…」

 

「悔しかったんだけどねっ?でもそれ以上に本当に本当にすっごく嬉しかったのよ。やっと留美が笑ってくれたってこと!……だから改めてもう一度言わせてね?……ありがとう、比企谷君。留美を笑顔にしてくれて」

 

俺は、こんな立派な母親に、こんな風に感謝してもらえる事なんて何一つやっちゃいない。

……やっちゃいないが、ここでそれを言うのはなんだか無粋な気がした。

だから、一言だけ返しておこう。

 

「……いえ、とんでもないです」

 

 

× × ×

 

 

そんな畏まった話が一段落すると、留美の母親とはまた色んな話をした。

なんとルミママと平塚先生は高校時代の先輩と後輩の仲らしく、千葉村でも信頼出来る平塚先生にお世話をお願いしたんだそうだ。

まぁそりゃ普通に考えたら高校教師がなぜ小学生の林間学校のお世話をボランティアで行くんだよ?って話だよな。

てかルミママっていくつだよ。むしろ平塚先生がいくつだよ。

 

それにしても、てことは平塚先生は最初からなにか問題がある事を知っていて、俺達に解決の課題を出していたって事なんだろう。

 

 

『そりゃ、いくら娘がしっかりしててその娘が信用して懐いてるからって、見ず知らずの男子高校生と夜遅くまでディスティニーで遊ぶことなんて許すわけないでしょお?』

 

とは、ケラケラ笑いながら話したルミママの談である。

どうやら留美が家で俺の話題を出すようになってから、俺のことはこっそりと平塚先生からリサーチ済みだったらしい。

ですよねー。ルミママの娘への貞操観念にちょっと安心した瞬間であった。

 

しかし平塚先生は俺のことをなんと言っていたのやら……ま、どうせいつぞやのように『リスクリターンの計算と自己保身に関してはなかなかのもの。刑事罰に問われるような真似だけは決してしない小悪党』とかなんとかだろうな。

 

「さて!それじゃあそろそろ留美も帰ってくる頃だろうし、最後にもう1つだけ」

 

「な、なんでしょう……?」

 

「あの子、ホントに比企谷君を心から信頼しているの。だからね?申し訳ないんだけど、あの子の我儘に付き合っててもらえないかしら?」

 

「我儘、とは……?」

 

「彼氏のフリをしてあげたままでいて欲しいってこと!……ふふっ、大変でしょ?高校三年生が、中学一年生の彼氏になってあげてるなんて。世間体とかね?」

 

ニヤっと笑うルミママに、あはは……としか返せない。

 

「ちゃーんと分かってるから。留美の勘違いなんだって。だから愛する娘を持つ母親の我儘だと思ってお願い出来ないかな?比企谷君。……私、留美が苦しんでる時になんにもしてあげられなかったダメダメな母親だから、せめてこれからは留美が幸せになれる為にだったらなんだってしてあげたいの」

 

こんな良い母親にこんな風に懇願されちまったら断りようがないわな。

そもそも俺自身が留美の勘違いに対して断りきれてないわけだし。

ったく……こんな良い親御さんの爪の垢を煎じて、うちのクソ親父に飲ませてやりてぇぜ。

 

もとより留美が本当に好きなやつでも出来るくらいまでは、留美の勘違いに付き合ってやるつもりだったわけだから、答えなんか決まってる。

 

「まぁ……俺なんかでお役に立てるんなら、しばらくは留美の勘違いに付き合いますよ」

 

「うふふっ、さすが留美とルミママが見込んだ男の子ね!それじゃあ今後ともよろしくね、八幡君っ」

 

「うっす」

 

話が付いたちょうどその頃、心配そうな顔した留美が帰ってきた。

 

「ただいま。八幡……お母さんと変な話してなかった?」

 

「おうおかえり。大丈夫だぞ?留美がいつくらいまでオネショしてたのかなんて全然聞いてねぇから」

 

「……バカはちまんっ」

 

ペシッと頭にチョップを食らわせてからむくれっ面でパタパタとキッチンへと走っていく留美の背中を見ながら、あの母親に愛されてればこいつの将来は安泰だな、なんて思う今日の八幡なのでした〜。

 

 

× × ×

 

 

留美が買ってきてくれた紅茶を飲みながらケーキも食い終わり、さてそろそろおいとましましょうかね?と思っていたのだが、ルミママはまだ俺を帰してはくれないようだ。

 

「あ、留美!せっかくだから、留美のお部屋に八幡君をご招待してあげたら〜?」

 

いやいやもう私帰りますんで。

 

「え……う、うんっ」

 

ちょっと留美さん?そんなに恥じらってまでそんな危険な提案を肯定するんじゃありませんっ!

なんでちょっと嬉しそうなのん?

 

いくら留美が中学一年の子供と言ったって、さすがに女の子の部屋に二人っきりとか八幡恥ずかしいんですけど。

 

「あ、いや、俺はそろそろ…」

 

「は、八幡……ほら、早く行こ」

 

断る気まんまんだったのに、ルミルミに手を握られて逃げられなくなってしまったでござる。

 

「ひゅーひゅー!お二人さんお熱いわね〜!」

 

「……ほんとお母さんってバカ……もう知らないっ」

 

赤く染まった顔をプイッとしながらも、手は離してはくれないんですね。

結局そのまま無理矢理引っ張られて二階に連れていかれる俺に、ルミママが優しく声を掛けてくれた。

 

「八幡くーん。留美まだ中学生だから、不純な行為はほどほどにね〜?」

 

しねぇよ。てかほどほどってなんだよ?

あんたさっき今の状況全部理解してくれてるって言ってたばっかじゃねぇかよ……

すると階段を上がっていた留美が振り向いて、キョトンとした顔でとても可愛く首を傾げた。

 

「八幡。不純な行為ってなに?」

 

「……気にすんな」

 

「?」

 

あれかな?留美は友達居ないから、友達同士でそういった知識とかで盛り上がったりしないから分からないのかな?

俺は友達居なくても知識だけは豊富ですけどね?

 

 

留美の部屋の前までやってくると、留美はすっと手を離した。

 

「……八幡……ちょっと待ってて……ちらかってるかも知れないから、ちょっと片付けてくるっ」

 

もじもじっと一言を残し、一人室内へと入っていった。

やっぱり女の子の部屋って聖域なんでしょうか。

 

 

しばらくドアの前で待てをされていると、「もういーよ」と声がかかった。

 

やばい中学生の女の子の部屋に入るのにドキドキと緊張してる俺マジキモい。

そんなキモすぎる己をなんとか押さえつつ、俺は留美のお部屋へと突撃!

 

「……し、失礼しまーす」

 

なぜかちょっと震え声で敬語になっちゃう俺まじクール。

っべー!マジパないっしょ!マジでカッコ悪いっしょ!

 

ドアを開けた瞬間にふわりと鼻孔をくすぐる超いい匂い。

いやいや、僕なに意識しちゃってるのん?相手は留美だよ子供だよ?

 

「うん……」

 

部屋に入ると、留美は例の熊のぬいぐるみを抱っこして、壁を背もたれにしてベッドの上に座っていた。

 

ぐるりと部屋を見渡してみると、やはり留美の部屋らしく女子中学生、最近はJCって言うの?とは思えないくらい落ち着いた雰囲気だった。少なくとも、小町の部屋のようなバカそうな空気がしない。

それでも所々に置いてあるぬいぐるみやら小物なんかが、やっぱり女の子してんだなと感じた。

 

「……八幡……あんまり部屋じろじろ見ないで……恥ずかしい……」

 

「お、おうスマンなブッ!」

 

留美に部屋を観察している事をたしなめられ留美に視線を向けると…………その……なんだ。三角形の布が……ばっちり見えていた……

 

いやルミルミさん?お客さん居んのに、ベッドの上で膝を立てて座ってちゃダメでしょう?

 

 

「どうしたの?八幡」

 

すっげぇキョトンと首を傾げるルミルミから視線を逸らしていると、俺の赤くなった顔と逸らした視線、そして自分の位置と俺の位置と角度をゆっくりと認識していった留美は、とたんにぷしゅーっと音がするくらいに真っ赤になると、ガバァッっとスカートを押さえて女の子座りになった。

そして上目遣いのすげえ涙目で一言こう言うのだった。

 

 

「……八幡の……えっち……!」

 

 

完全に冤罪です。それでも僕はやってない。

 

 

 

続く

 






ありがとうございましたっ!


今回はルミルミ萌えかと思いきや、意外や意外ルミママ真面目ストーリーでした。
でもそれだけではなんなんで、最初で最後のラッキースケベをルミルミでやってしまいました……orz
まぁ超ソフトなラッキーなんで問題ないですね☆
原作でもあーしさんが見事な群れた布地を披露してましたしねー。

一応言っておきますと、ルミルミのチラリは外堀埋めの為の計算とかではありません!
ルミルミの外堀埋めは、そういった計算とか無縁の天然なのですから(*´∀`*)
ちゃんと言っとかないと、ルミルミの外堀埋めじゃね?と言われちゃいそうだったので言っときました( ̄^ ̄)ゞ

あと、三角形の布の色は読者さまの心の中の想いにお任せします☆


それでは後編でまたお会いしましょう!



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