八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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ラノベの香りは私を運命の航海へといざなう【中編】

 

 

 

「…………えっと、なにがですか?」

 

引きつった顔を精一杯の笑顔に変えて、私は比企谷先輩にガクブルしながら先ほどの発言の真意を問う。

どうしよう私超ブルブルしてんよ。

 

え?こっちも難聴系返しをして知らないフリしてほっとけばいいじゃんって?

だ、だって!もし誤解があるようならちゃんとその誤解を解いとかないと、せっかくのドリームでディスティニーなミラクルナイトが気持ち良く迎えられなくなっちゃうじゃないっ!

私ミラクルなナイトを迎えちゃうつもりだったのかよ。

 

「え、や、なんか今、新婚旅行がどうとかって言ってなかったか……?」

 

はい!どこにも誤解はありませんでしたッ!

まさに言いましたよその単語!

 

「は…………は?し、新婚旅行……?な、なにを仰っていらっしゃるのでしょうかね……?」

 

「いや、なんかボソッと言ってなかったか……?新婚旅行に来ちゃったみたいとかなんとか……」

 

「…………テヘッ☆やだぁ!聞こえちゃいましたぁ?香織恥ずかしいっ」とかって言ってみようかな……?

こ、これってギャグに見せ掛けて気持ちを伝えるチャンスだったりしない!?

 

 

少しだけ期待して火照る顔をそっと比企谷先輩へと向け………………ひぃぃぃやぁぁぁっ!……ひ、比企谷先輩の顔がっ!物凄く警戒してらっしゃるぅ……!ドン引きしていらっしゃるぅ……!

これ、まだ現状では気持ちがバレたら逃げられちゃうパターンのやつだよ!ご、ごごごご誤魔化さなくては!「テヘッ☆やだぁ!」なんて頬を赤らめてる場合では断じて無いのである!

 

その時、私の中のリトルかおりんが、こそっと耳元で囁いてきた。

ん?それを言えば誤魔化せるってことなのん?

 

『頭が真っ白に……』

 

……あかんそれ誤魔化す時に絶対言うたらあかんヤツや……吉兆だけはあかんて……!

 

 

散々苦悩してようやく辿り着いた答え。それは……

 

「あはは〜!や、やだなぁ!し、しんこん、しんこ……神転…………そ、そう!神様転生モノですよ神様転生モノ!さ、さすがに夢の国ですよねっ、なんかここがあまりにも異世界じみてて、なんだか神様に転生させられて異世界に旅行にでも来ちゃったみたーいっ!……って感動してただけですよー……つ、つまり、し、神転旅行……?みたいな……?」

 

てへへぇっ?と歪んだ笑顔になってっけどさ、え?私なに言ってんの?そんな単語初耳なんですけど。

そもそも私、神様転生モノとか実は全然知んないんだけど。だいたい神転って『しんてん』って読みで合ってんのかどうかすら知らないんですけども?

 

我ながらこれは酷いと思いつつも比企谷先輩を見る。

 

「お、おう……スマンな。俺そっち系あんま詳しくないんだわ……いや、まぁ、なんだ……さ、さすが家堀だな……初めてシーに来た第一声がソレとか……なかなか突き抜けてるっつうか……?うん。やっぱすげぇわ」

 

「………………」

 

安定のドン引きである。

おいおい、これ結果的に正解だったのん?

ガチオタ疑惑に拍車が掛かってんだけど?てかすでに疑惑ですらない件について。

 

その時、私の頭の中ではこんなビジョンが浮かんでいた。

そのビジョンの中で、私は大草原のようにわらわらと草が生えては高速で流れていくモニターの中で、膝を落として両手を地面についてうなだれていたのでした……

 

 

× × ×

 

 

ぶわっと溢れる涙を華麗にスルーし、私は気持ちを立て直しに図る。

スタートではまさかの出遅れ(むしろフライングで一発失格まである)だったけど、いつまでも大草原の中でうなだれている場合では無い!

 

「まぁそれはいいとしてですね……比企谷先輩!せっかくココに来た以上、私、実はどうしてもやりたい事があるんですよ!」

 

自分で言うのもなんだけど私メンタル強えーな。

 

「おうどうした。いくら夢の国でもさすがに俺tueeeeは出来ないと思うぞ?」

 

「」

 

自分で言うのもなんだけど私心が折れんの早えーな……

 

「ち、違いますから……あの、私は別にオタクとかでは無いんで……」

 

説得力ェ……

 

「と、とにかくソレの準備があるんで、ちょっとここで待ってて貰えますか?そしてその……お、お願いを聞いて欲しいんですけども……」

 

「は?なんだよ準備って。お願いってどんな?」

 

「そ、それは準備が終わってからでっ……!比企谷せんぱーい……お願いしますっ……」

 

「……たく……しゃあねぇな。まぁ家堀の頼みだってんなら、一色みたいな酷いもんでもねぇだろうしな……」

 

ふへへぇ、どうやらやはり比企谷先輩は年下の甘えには弱いらしい。

しかも私はいろは程のあざとさが出せない分、逆に先輩にこうかばつぐんらしい。ついさっき知ったのだ!

 

「ではでは」

 

そして私は眼前に広がる地中海の名を冠するというメディテレニアンポートを背にし、すぐ目の前にあるパーク内最大のおみやげ品の店、エンポーリオの中へとウッキウキで吸い込まれていくのだ。

 

そしてソレはあった。

ニヤつく口元を押さえつけながらなんの迷いもなくそのブツを手に取りレジへと向かい、流れるようにスムーズにソレを入手した私は、小走りで比企谷先輩の元へと向かう。

 

「お待たせしましたー」

 

「おう……てか準備ってなんだったんだよ。なんか買ってきたのか?」

 

その言葉に私はふふん!とまぁまぁ育ってる胸を張り、袋からブツを取り出した。

 

「じゃじゃーん!」

 

私が取り出したソレを見て、予想通りに顔を引きつらせる比企谷先輩。

クックックッ……でもね?さっきお願い聞いてくれるって約束……しちゃったんだからねっ?

 

「ふふふー、ミキオさんとミニコさんの耳付きカチューシャでっす!さぁさぁ!恥ずかしがらずに一緒に付けましょうっ」

 

「いや無理だから」

 

「な、なんでですかー!?」

 

「いやそんなもん付けられるワケねぇだろ……」

 

すると私は、わざとらしくちょっとだけぶすぅっとした態度でこう言ってやりましたよ。

 

「……さっき、お願い聞いてくれるって……約束したじゃないですか……嘘だったんですかぁ……?」

 

「うぐっ……ち、ちくしょう……家堀だから油断してたわ……お前マジ一色の友達だな……」

 

 

人生終了しましたとでも言わんばかりに、心底嫌そうな顔をしてる比企谷先輩にちょっぴり罪悪感。無理やり連れてきて無理やりこんなの付けさせて。

でもスミマセン!私も必死なんです……

 

だって!せっかく女の子に生まれたからには、一度でもいいから大好きな人とディスティニーでバカップル丸出しな行為したいじゃん?

 

 

そしてついに私はミニコさんの、比企谷先輩はミキオさんのカチューシャを装着したのだっ!

 

 

× × ×

 

 

一言で言おう。マジやばい。

 

ぐぅっ……比企谷先輩めぇ……どんだけ私を萌えさせれば気が済むのよっ……!

死ぬほど恥ずかしそうにミキオ耳のカチューシャを付けてる比企谷先輩マジやばい。

ちなみに比企谷先輩が嫌々装着してから、私、軽く10分くらいは悶えてましたよ、ええ。

 

でもでも!ミニコさんのカチューシャを付けた私を見て、比企谷先輩ってば、ちょっとだけ私に萌えたっぽいんだよねっ!

なんかカチューシャ付けさせられて嫌そうだった表情が、私を見た瞬間に萌え萌えきゅんっ☆ってなったの見逃さなかったんだからっ。

 

もーっ!遠慮とかしないで惚れちゃってもいいのよ?

ばっちこーい!

 

 

そんなこんなで、今私たちはお互いに恥ずかしがりながら悶えながら、センターオブジマウンテンの列に並んでいる。

なんか前に友達が、コレとタワーオブキラーが超楽しかったって言ってたんだよね。

だから比企谷先輩にまずどこ行きたいか聞かれたとき、私はワクテカでMapとToday(ディスティニーに入園すると貰える地図と案内ね)を見ながら、目の前にそびえる火山を指差したのだ。

 

列に並び始めて早一時間超え。さすがに土曜の夢の国はお混みでいらっしゃる。

いやぁ……ディスティニーに来たカップルは別れるとかいう都市伝説。

あんなの年間どんだけのカップルがディスティニー来てんだよ。んなもん単なる確率の問題だろ?なーんて思ってたけど、その都市伝説は中々に捨てたもんじゃないんだね。

 

だって、周りのカップルとか、初めの頃はイチャイチャイチャイチャしてて、あまりにも目障りだから爆発すればいいのにって思ってたけど、今やイチャイチャにも飽きたのかつまらなそうに別々に携帯とか弄ってる始末。穏やかじゃないわね。

 

よく言う話だけど、車の運転とかこういうイライラする時にこそ、お互いの本性がモロに出んのよねー。

こういった時間を穏やかな気持ちで乗り越えられない程度の貴様らなど爆発するまでも無い、早く別れてしまうがいいわぁ!フハハハハ。

 

そんな前後左右がギスギスカップルに囲まれた中、私たちカップルはと言うとぉ……きゃっ!カップルって言っちゃった☆

 

んん!ん!私たちは超マイペースで超穏やか!

気が向いたら学校の話したりオタ話したり各自で好きに過ごしたり。

男と一緒に居て、会話が無いのにこんなにも気まずく無いのなんてホント比企谷先輩くらいだ。

まぁ私は比企谷先輩のミキオ姿を見て悶えてればいいしね♪

 

「やー、長いですね。比企谷先輩は行列に並ぶのとか大丈夫な方なんですか?苦手そうですけど」

 

「おう。さすがはディスティニーと言うべきか、ここのは統率が取れてるから特に問題はないな」

 

統率って……軍隊かよ。

 

「随分と長いこと並んでて疲れたんじゃねぇの?ほれ、荷物持っといてやるよ」

 

くっそう……この天然スケコマシめが……!

こういうふとした瞬間の何気ない優しさで雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩、そしていろはを散々たらして来たんか?ん?そうなんか?

そして現在たらされ真っ最中の私は、熱く火照った顔を精一杯下に向けながら、比企谷先輩に荷物を渡しちゃったりするのですっ……

 

 

× × ×

 

 

「うぉぉぉぉぉっ!」

 

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 

超油断してました!ランドのスプライドマウンテンと全然違うじゃんか!

乗り物に乗り込んでゆっくりと地底を探索するこのアトラクションは、スプライドマウンテンと同じようにラストにただ落下して終わるアトラクションかと思ってた。

 

ゆっくりと進む乗り物。光るキノコ(巨大化したり1UPしたりはしないのよ?)や光る地底生物。

薄暗い中、そんな幻想的な光景を隣の比企谷先輩と中々の密着度でキャッキャウフフしながらうっとりと見てたんだけど、ラスボス的な巨大な地底怪獣の出現と共に、この乗り物の野郎が急にとんでもない加速で頂上へと向けて一気に走りだしやがったのだ。

 

なななナニコレ〜!こんなの初めてぇぇ!

乗り物は山の山頂まで辿り着く。そこから一瞬だけ視界に広がった外の景色は、まるで空高くからメディテレニアンポートを一望するかのような雄大な景色。

そしてそのままの勢いで一気に落下!ナニコレ超楽しい!

 

落下した後は呆然として一瞬の沈黙ののち、落ち着いた時には顔を見合わせて二人して大爆笑。

 

「ヤバイ超楽しい!ひ、比企谷先輩ってば、うぉぉぉぉぉっ!だってぇ!あはははは」

 

「んだよ家堀だって、ひぃぃぃぃぃっ!とか言って叫んでただろうが。くくっ」

 

「これ超サイコーじゃないですか!?また後でもう一回乗りましょうよ!」

 

「そうだな。にしても、さっき見えた景色とか、夜景だったらすげぇ綺麗そうじゃねぇか?」

 

「ですねー!超綺麗そう!……じゃあじゃあ!次は夜に乗りましょ!」

 

「おう、まぁいいんじゃねぇの?」

 

 

やっばーい!なんかもう普通のカップルみたいなんだけど!自然に笑い合えてるよ、私たち。

しかもなんか超幸せで超楽しいうちに、夜まで一緒に居られる事が決定しちゃった!

それにしても……へへっ、比企谷先輩があんなにも楽しそうにしてくれるなんてな〜。ホント無理やり連れてきて良かったぁ……

 

 

アトラクションの施設を出ると、さすが一時間以上並んでただけあってさっきまでよりもずっと混雑していた。

 

うっひゃぁぁ、こりゃスゲーや……やっぱ休日とかのディスティニーは凄いですね。

やばいこれはぐれたら即終了のお知らせ。

 

ふと比企谷先輩を見ると信じらんないくらいに引きつっていた……

 

「いやぁ比企谷先輩。コレは凄いですねー……」

 

「そうだな。どうする?帰る?」

 

帰んねぇよ!帰宅の提案ナチュラル過ぎんだろ!!

これはマズい……今さっきまで夜まで一緒に居られるぅ♪とか思ってたばっかなのに早くも帰宅の予感……

 

せ、せっかくの奇跡のシーデートなんだもん!どうにか比企谷先輩をつなぎ止め無いとっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

つなぎ止め……る?

その時、私は以前比企谷先輩との間で夢見た行為が頭を過った。

 

 

……やばい……手、繋ぎたい……

 

 

いやいやさすがにそれは無理ゲー過ぎる!

さすがにそこまでは高望みしすぎて夢見がちだけど、でもこれってチャンスっ……!

 

「あ……あの、比企谷……先輩……?」

 

「おうどうした」

 

「こ、これってちょっとこのまま歩くのって、ぜ、絶対にはぐれちゃうじゃないですか……」

 

「だな。よし帰るか」

 

「だから帰んねぇよっ!!」

 

「すみません……」

 

いやんっ!つい激しいツッコミをっ!

 

「えっと……その、だからですね……?」

 

ふぇぇ……こ、これは恥ずかしいっ……

 

「だからっ……その……はぐれちゃわないように、袖……摘んでて、いい、ですか、ね……?」

 

うぉぉぉぉぉっ……なんて恥ずかしさだよっ!

でもあまりにも恥ずかし過ぎるこの状況のおかげで自然と目がウルウルしまくっちゃって、そんなナチュラルウルウル上目遣いの私には、年下甘やかしスキルが高レベルで自動的に発動されちゃう比企谷先輩が敵なうはずもなかったのだ!

 

「……ほれ」

 

嬉し過ぎてつい涙がこぼれそうになってしまった。

恥ずかしそうに明後日の方向を向きながら、頭をガシガシと掻いた比企谷先輩が左手を差し出してくれたのだ。

 

胸がきゅんっとなる。夢見ていた比企谷先輩の手が、今目の前にあるんだもん。

手を繋げるわけではないんだけどね。

 

「ご、ご迷惑をお掛けします……」

 

声にならない程に小さい声で、恐る恐る比企谷先輩の袖をちょこんと摘んでみた。

 

「おう……はぐれんなよ」

 

はぅっ……やべぇよ……手が尋常じゃなく湿ってきちゃったよ!

なにこの手汗!めっちゃヌルヌルじゃんかよぉ!

これはもう比企谷先輩のコートの袖がビチョビチョになっちゃうレベル。

 

 

ごめんね?私の中の乙女ちゃん!

ちょっと前までは働け働けと、ブラック企業ばりに乙女を働かそうとしてたのに、今は仕事をしない乙女ちゃんが恋しいよっ!

この瞬間だけでもカムバッ〜ク!

 

 

 

混み合うパークで、ちょっと先を歩く比企谷先輩の背中と左手の袖、そしてその袖をちょこんと摘むヌルヌルの手を眺めながらニマニマする私。

そんなヌルヌルな幸せを噛み締める恋する乙女な香織ちゃんなのでした☆

 

いやんヌルヌルな幸せってなんだか卑猥っ(海老並感)

 

 

続く

 






香織シーデート【中編】でした!
ありがとうございました☆
爆発しちゃえばいいのに……ってくらいに、完全に普通のデートになっちゃってますがこんなんでいいんでしょうかね?(汗)
そして香織はこのデート中に手を繋げるのか!?


そんなこんなで、なんかイベントがありすぎて終わる気がしない……orz
デート回って恐い(白目)
次回、ちゃんと後編で終われるんでしょうか!?


ではではまた次回お会いいたしましょう!



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