八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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自信を持って言えます。


今作は、今まで散々作品を書いてきた中で…………一番の酷さだとっ……




私の青春ラブコメはまだまだ打ち切りENDではないっ【後編】

 

 

 

比企谷のあまりのハーレム王ぶりに絶句したままの私と、己のあまりのハーレム王ぶりにある意味絶望で絶句したままの比企谷は、遠い目をしながらしばらくチビチビと飲み続けていた。

 

ははっ、今の私の目に光彩は宿っているのだろうか……?

そんな気持ちになってしまう程の力のない無表情な冷笑でグラスの中の液体を眺めていると、隣からシュボッという良く聞き慣れた音がした。

 

「ほう、君も煙草を吸うようになったのか」

 

ふと横を見ると、私の隣では比企谷がなかなかさまになっている様子で煙草をふかしていた。

私の視線に気付いた比企谷は、親指の爪でチョイッとフィルターを弾いて灰を灰皿に落とすと、指に挟んだ煙草を軽く掲げる。

 

「ああ、これっすか?……んー、まぁ、そっすね」

 

グラスに残った酒をグイと煽ると、もう一度軽く煙草をふかしてから立ち上ぼる煙を見つめニヤリとする。

 

「……昔、かっこつけた大人が居ましてね。いつかその人みたいに格好良くなりてぇなって真似事みたいに吸ってたら、いつの間にかいっぱしの喫煙者になっちゃってましたよ」

 

 

か、格好いい……

 

い、いやいや待て待てっ!なんだ格好いいって!?

くっ……なんだ?もう酒が回ってきてるのか私は……?

 

「……ふっ、そうか。それは悪いことをしたね」

 

たしかに若干酔いが回ってきているのかも知れんが、だが教え子にこんな風に言われるのは教師冥利に尽きるというものではないか。

私はとりあえず一旦気持ちを落ち着けて、皮肉めいた笑顔を向けながら自分も煙草を取り出した。

 

「……まったくですよ」

 

そして教師と教え子は笑顔で煙草をふかしながら、今一度乾杯するのだった。

 

 

× × ×

 

 

先ほどまでの淀んだ空気はどこへやら、今はまた穏やかな空気の中で酒を酌み交わしている。

そんな時、不意に比企谷はこんな言葉を発したのだった。

 

「……それにしても、あの時はホントびっくりしましたよ」

 

「ん?先ほどの偶然の再会か?ふふっ、確かに驚いたな」

 

私が比企谷に視線を寄越すと、比企谷はとてもじゃないが、つい先ほどの記憶を呼び起こしているのではないかのように、どこか遠くを見ていた。

 

「……違いますよ。そんな事じゃあない。……俺が言ってるのは、あの日……俺達の前から先生が突然居なくなったあの日の事を言ってるんすよ……」

 

「………………そうか」

 

「……はい。ホントびっくりしましたよ。春休み終わって学校行ったら、先生はすでに転任してたんですからね。なんにも言わずに……」

 

 

───私は、比企谷達が二年生を無事に終了したのを見届けてから、春休みの内に転任した。

転任の話は二月ごろには上がっていたのだが、私はその事は生徒には言わず、転任が完了するまでは他の教師や校長たちにも口止めをお願いしておいた。

つまり比企谷をはじめ、生徒達がそれを知ったのは四月の始業式だったのだろう。

 

「なんで…………誰にもなにも言わずに行っちゃったんですか?」

 

「……そうだな。まぁそれなりにフラグは立てておいたのだがね」

 

「…………『今、近い場所でこの光景を見られてよかったよ』、『いつまでも見ていてはやれないからな』、『溜めてしまっている仕事があってな……。三月までもうあまり時間がないし、今のうちに片付けておきたいんだ』…………っすよね。……確かあのヘンテコなバレンタインイベントの時に言ってましたよね」

 

……まったく、この小僧めっ……

 

「ふっ、なんだ、やっぱり気付いてたんじゃないか」

 

「……後々考えたら、ですよ。……ああ、あれはそういう事だったのか……ってね」

 

「……そうか」

 

「……はい」

 

 

なぜなにも言わなかったのか……か。

それは、先ほど君が言っていた事の裏返しに理由があるんだよ。

 

『いつまでも見ていてはやれないからな』

 

あの時の私の台詞。

裏を返せば、許されるのであれば、いつまでも見ていてやりたい……そういう事だ。

 

私は教員生活の中で、間違いなくあの時あの学校で、君達と共に学んでいられたあの瞬間が最高に一番楽しく幸せだった。

 

捻くれながらも優しく悲しい比企谷。

常に完璧であろうと藻掻く本当は弱い雪ノ下。

元気な笑顔の裏でそれに迷う由比ヶ浜。

葉山も三浦も海老名も、それぞれ問題を抱えながらも毎日を生きていた。

ふふふ、ついでに一色もな。

 

どいつもこいつも問題児ばかりだったが、だからこそこいつらが成長していく姿を一番近くで見られている事が、教師として大人として、何よりも幸せだった。

あんな充足感を得られた事などないんだよ。後にも先にも私の教員生活の中で。

だから教師としてあるまじき事を思ってしまったのだよ。

 

───ああ、いつまでもこの子達をそばで見ていたい……

 

と。

ふふっ、まさに教師失格だな。

 

この職に就いた以上は、どんな生徒であれ常に平等でなくてはならない。

今まで送ってきた生徒達。これから迎える生徒達。

それなのに私は、あの時の生徒達に肩入れをし過ぎた。

 

今まで送ってきた生徒達の事も忘れ、これから迎えるべき生徒達の事も考えもせず、ただ今この瞬間のこの生徒達さえずっと見守っていけたらいいのに、なんて考えてしまっていた。

 

 

だからこそ言わなかったのだ。言えなかったのだよ。教師失格のけじめとして。

 

失格の私が今後も教師を続けていく以上、こいつらに見送られて感動の涙など流している場合では無いなんて思ってしまったんだよ……

 

「誠に情けのない話だが、あの頃は私にも少し思う所があってね……本当に勝手な話だが、あのまま去る事がベストだと考えていた……。ふっ、今にして思えばどうしようもない馬鹿馬鹿しい理由なのだがね」

 

「……」

 

「それに……」

 

いかんいかん。ついしんみりとしてしまったな。せっかくの酒の席が台無しになってしまったではないか。

だから私はニヤリと比企谷に笑い掛けた。

 

「……熱い友情で結ばれた友が、別れの言葉などなにひとつ言わずにそっと去っていく……はははっ!少年マンガの王道ではないか」

 

すると心底呆れた笑顔を私に向けた比企谷は、やれやれと首を横に振る。

 

「……へっ、じゃあ仕方ないっすね」

 

 

……ありがとう、比企谷。

情けない私の、情けなく逃げ出した理由をそれ以上追及しないでくれて。

いつかまた酒の席で、この情けない理由を君に話せる時がくるといいな。

 

私は、小馬鹿にしたような表情を無礼にも恩師に向ける、この小生意気で小憎たらしい元教え子に、心からそう思うのだった。

 

 

× × ×

 

 

しんみりした話も幕を閉じ、宴もたけなわになってくると酔いもほどよく回り、話題の中心は私の近況になってくる。

このまま良い話で終わると思った?残念!私は平塚静ちゃんでした!

…………ふむ、少し酔っているな……

 

「なぁ〜、比企谷ぁ〜」

 

「……なんすかね」

 

「そんら嫌そうな顔するら〜」

 

「……だって、さっきから永遠にそれの繰り返しじゃないですか……」

 

「なーんれ私は結婚出来ないんだろうら〜……?」

 

「無視かよ……そして結局また始めんのかよ……めんどくせぇなぁ、この酔っぱらい……」

 

ちっくしょぉぉぉ……なーんで結婚出来ないかなぁ、私は……

こんなに若くてこんなに美人だというのに……あと若い。

 

「なぁなぁ比企谷ぁ〜、私って美人じゃらいかぁ?スタイルらって抜群にいいんらぞ〜?」

 

「おいよせやめろ……元教え子の前で揉んでんじゃねぇよ……」

 

「男ってやつは、チチがでかくて美人なら、あとはもう何でもいいんじゃらいのか〜……?」

 

「何でもいいわけねぇだろ……」

 

本当に私がモテない理由がまったく分からん……

こんな優良物件など、なかなか居ないんだからねっ……?

 

すると比企谷は面倒臭そうに、それでいて照れ隠しのように頭をガシガシと掻くと、目を逸らしながら私がモテない理由を教えてくれる。

 

「アレですよ……平塚先生は……格好良すぎるんですよ」

 

「…………はへっ?」

 

な、なんだ格好良すぎって!?

 

「…………はぁぁぁ、……あの頃は恥ずかしくて言えませんでしたけど……今ならまぁいいか……」

 

どきどきっ……

 

「前に言ったじゃないですか。それは相手に見る目がないんですよって」

 

「あ、ああ……」

 

「……あれにはまだ続きがあったんすよ……」

 

すると比企谷は耳まで真っ赤にしてそっぽを向く。

その赤くなった耳は、アルコールによるものなのかね……?

 

「俺があと10年早く生まれていて、あと10年早く出会っていたら、たぶん心底惚れていたんじゃないかと思う…………俺はあの時そう思ったんですよ……」

 

「…………にゃ!?にゃにを!」

 

こ、こいつは突然なにを言い出すんだ!?

まさかこの私まで落とす気じゃないだろうな!?

 

「先生は……男の目から見たら格好良すぎるんですよ。だから並大抵の男じゃ及び腰になっちまう。……ま、俺みたいな将来の夢が専業主夫だった奴からすれば、その余りの頼れる格好良さに、心底惚れ抜いちゃうと思うんすけどね」

 

ふっ、と薄く笑みを浮かべながら煙草を口に持っていく姿は、なんだかとてもムラム……げふんげふん。

 

「でも、並みの男だと下手にプライドが邪魔しちゃって格好良すぎる先生には手が出せない。だから昔言ったように見る目がない……というよりは、先生に見合うようなろくな男にはまだ出逢えていない……って言った方が正しいかもですね」

 

ひ、比企谷め……!なんて恥ずかしい台詞を恥ずかしげも無くっ!……とは思ったが、やはり恥ずかしいのか、赤くなった顔をさらに誤魔化すかのように、グラスに残っていた酒を一気に飲み干した。

 

「……だから、まぁ……悪いのは先生じゃなくて周りの情けない男共っすよ。もし先生が悪いとするのならば、先生の魅力が高レベル過ぎってとこじゃないですかね。……だから、そんなに焦んなくたって、いまに先生の魅力に見合うようないい相手が見つかりますよ。……だって先生は、マジで魅力的なんですから」

 

 

 

 

………………きゅんっ。

いやいや、きゅんっじゃないだろうが!私は!

 

おのれ比企谷ぁ!お、お前はそうやって色んな女をスケコマシて来たのだな!?

キザっぽさは無く、なんなら照れた笑顔でそんな事を言われたら、お前に興味を持った女など即落ちに決まっとろうがぁぁっ!

なんという天然ジゴロか!

 

「そそそそうかっ!あ、あははははっ……ま、まぁそこまで言われてしまっては私も悪い気はせんよっ……!」

 

「……うっす」

 

だから言うだけ言って、その照れ顔はやめんかぁ!

は、反則なんだからぁっ!

 

 

くぅぅぅ!こ、これはいかん!

酔いが冷めてきたんだか余計に酔いが回ってきたんだか、もう良く分からんっ……

 

 

『10年早く生まれていて、あと10年早く出会っていたら』

 

……か。

 

───いや、しかし待てよ……?

確かにあの頃の十ウン歳差はかなりデカかった。そもそも教師と生徒だったわけだしな……

だが今ならどうだ……昨今では、たかだか十ウン歳差の夫婦くらい、全然オッケーではないのか……?

 

今の比企谷はたぶん25〜6歳くらいだろう?そして私は30ウン歳だ……

───そんなに問題なくね……?

むしろ適齢期……!!

 

 

確かにコイツには言い寄る女が多く居る。

だがしかし幸いな事にコイツ自身は未だ誰を選べばいいのか分かってはいないではないか……それどころかその選択による今後の人生を悩んでいるまである……

 

わ、私ならば……あんな小娘共など黙らせられる程の力も持ち合わせているわけだし、比企谷も私を選べば幸せになれるのではないか……?

か、可愛い元教え子を救う為ならば、私が比企谷を拾ってやるのもまぁやぶさかでは無いしな!

こ、これで上手く既成事実さえ作れればっ…………

 

 

 

 

 

って、いっかぁぁぁーん!

 

わ、わわわわ私は何を血迷っているのだ!?

い、いくら酔っているとはいえ、何をアホな事を考えているのだ私はぁぁ!

 

性職者たるこの私がっ…………って性職者ってなんだぁ!!聖職者だろうが!

誰が安いAVの話をしているのだアホか!?

 

 

ダメだ……どうやら思いの外酔いが回っているらしい……

今日はせっかくの再会の素晴らしい日なのだ。酒に飲まれるな私っ!

 

よし。冷静になってきたぞっ?取り敢えず一旦落ち着いて、この可愛い元教え子と、今一度純粋な気持ちで酒を酌み交わそうではないかっ……!

 

 

「よし比企谷!次の注文はまだかね!?は、早く次の乾杯をッッッ!」

 

「……いやなんでそんなに目がギラギラしてんだよ……」

 

「ふはははは!よーし!今夜は飲むぞぉ!もう記憶無くなっちゃうまで飲んじゃうぞぉ!いぇ〜い」

 

「勘弁してくれ……」

 

 

× × ×

 

 

「思い……出した……」

 

私はわなわなと両手で頭を抱える。顔から一気に血の気が引いていくのが分かる……

私はなにしてるんだ……!昨夜の自分にラストブリットを食らわせてやりたいっ……!

 

「二日酔いの寝起きにネタ挟まなくていいから……取り敢えず服着てくださいよ……」

 

なんということか……

私は7年ぶりくらいに再会した元教え子にあろうことか欲情して、酔い潰して既成事実をこしらえようとしてたのかぁぁぁ!……もう死にたい……

 

しかしあれ以降の記憶は一切無い……そしてこのあられもない姿……ま、まさかっ……!

 

 

「ひ、比企谷!き、君はまさか再会を果たして気分良く酔いつぶれたのを良いことに、か弱い美人恩師を襲ったのか!?」

 

「襲うかよ!そこ憶えてねぇのかよ!?一番面倒臭いところじゃねぇか!」

 

「だが私はなぜ服を着ていない!?」

 

「酔いつぶれたあんたを介抱して送り届けたら、散々部屋で暴れるわ吐き散らかすわした上に、『あぁぁぁ!暑いわぁぁ!』とか叫びながら服脱いで勝手に寝ちまったんだろうが!……こっちだってそこそこ酔ってたのに、あんたが暴れた後の片付けやら吐き散らかした後の掃除やら、ゲロまみれで汚れた服洗濯したり朝飯用意したりで死ぬほど働いたんだぞ!」

 

「」

 

「大体なんでパンツ履いてんのに襲われたと思うんだよアホか!むしろこっちが襲われかけたわ!」

 

「」

 

 

…………これは酷い(白目)

 

 

私はその後、元教え子に土下座で謝ってから、用意してくれていた味噌汁を黙って有り難く頂いたのだった……比企谷め、料理もなかなか上手いじゃないか。

それにしても……既成事実は作れなかったのか。残ね……げふんげふん。

 

 

 

 

「時に比企谷」

 

「なんでしょうか……」

 

「こうしてせっかく再会出来たんだ。良かったら……今夜も飲みに行かないかね……?いい店を知ってるんだ」

 

「なにその死亡フラグ……遠慮しときます……」

 

「な、なぜだ!?いいではないか!比企谷〜、一緒に飲みに行こうぜー!」

 

「磯野野球しようぜみたいな言い方はやめてください。絶対帰ります」

 

「なんて強情なんだね君は!いいじゃないかぁっ」

 

「すみません許してください」

 

 

───その後も粘った私だったが、なぜか全力で拒否されて比企谷は去っていった……ふふふ、奴め照れおって。

…………私、昨夜なにしたんだろう……

 

だが、私はしっかりと比企谷の連絡先は手に入れ、いずれまた飲みに行こうとの約束もちゃんと取り付けたのだった。

 

 

 

 

 

こうして、数年ぶりに再会した比企谷との宴はひとまずの幕を閉じた。

比企谷はとても魅力的な男に成長しており、この私もほんの少しだけだが惑わされるほどだった。

 

そんな比企谷との関係は今後どう変化していくのかは分からないが、せっかく奇跡の再会を果たせたのだ。ほんの少しずつでも、奴との関係もいい感じに変化させていきたいものだと思う。

 

ま、まぁ別に比企谷とどうこうなりたいというわけでは決して無いが…………決して!無いがっ!!

ふふふ、それでもまだまだ若い私達だ。今後どうなっていくかなんてのは誰にも分からんからなっ。

 

つまりなにが言いたいのかといえば……

そう!私の、私達の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はっ!?これではまるで例のアレではないか!?

ち、違うぞ!?決して違うんだからぁ!!

 

 

 

私の青春ラブコメは、決して打ち切りENDなんかでは、断じてぬぁぁぁぁぁぁいっ!!!

 

 

 

終わりっ(意味深)

 







ありがとうございました!
うん。これは酷い(白目)


実はこの物語は、今話の中盤にあった転任ストーリーを思いついたのが始まりでした。

なので、当初は偶然飲み屋で再会した八幡と静ちゃんが、その転任の経緯を酒を酌み交わしながらしっぽりと語り合う……って程度の考えだったのです。

でもそれだとただ真面目ストーリーなだけだし恋愛全然関係ないしと考えて、頭の中で少しずつ話を膨らませていった結果、こんなにも酷い酷いお話が出来上がりました!キラッ☆
キラッじゃねーよ(吐血)



ではでは皆様!このままルミルミかめぐ☆りんに引き返して、荒んだ心を癒してくださいませ(・ω<)


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