八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

46 / 117




メリークリスマスっ☆
いや早えーよ。



12月に突入したんで、ようやく以前からずっと温めてきた作品のお目見えとなります!

変た……紳士、淑女の皆様、どうぞごゆるりと、共に聖夜を祝いましょう……





ぼっち姫は、愛する王子様と共に運命の国で聖夜を祝う【前編】

 

 

 

11月。

まだ木々が赤や黄色に色づき始めてから僅かしか経っていないというのに、テレビの向こうでは早くもクリスマス特集で賑わっている。

 

『きゃーっ!超綺麗ー!!今年のディスティニークリスマスもすっごい盛り上がってますよぉ〜!?メリークリスマ〜ス!』

 

土曜日のお昼過ぎ、ちょっと頭の緩そうな女性リポーター達が年甲斐もなく大はしゃぎ。

ばっかみたい。まだ11月だっての。

なにがメリークリスマスなんだか。

 

まぁこの女性タレント達もあくまでも仕事ではしゃいでるだけの話なんだろうけど、正直ちょっと引くよね。

いい大人が11月にメリークリスマス!とか言ってキャーキャーしてるのって。

 

 

でも…………ばかみたいに思いながらも、テレビの向こうでキラキラしてるディスティニーランドのクリスマスイルミネーションを見てると、ほんの少しだけ羨ましく思っちゃう自分が居る。

私はココアの入ったマグカップを両手で持ってふーふーしながら、つい食い入るようにテレビを見ていた。

 

「……クリスマス……かぁ……」

 

私自身はそんなに声を出したつもりじゃ無かったし、むしろ声に出ちゃったことさえ気が付かなかったくらいのぽしょりとした呟きだったんだけど、それが聞こえちゃったのかな?

リビングのソファーでテレビを見ていた私に、キッチンの方から声が掛けられた。

 

「あ〜!今日のブランチはディスティニーのクリスマス特集なんだぁ。なーに?留美〜、そんなに羨ましそうな顔しちゃってぇ」

 

「……別に……羨ましくなんて無い。ただ、このタレント達がばかみたいだなって引いてただけ」

 

「またまたぁ!もう留美ったら無理しちゃってぇ!ふふふっ?八幡くんと行ってきたらぁ?」

 

……うー……ママは八幡のあの日の訪問以来、ことあるごとに私をからかってくる……

もう何度もからかわれてるけど、いつまで経っても全然慣れなくて顔がいつもすっごい熱くなる……

 

「……別に私はクリスマスとか興味ない……し。…………それに、受験生の八幡は……今が一番、大事な時期でしょ。…………だから私は、別に八幡とクリスマスにディスティニー行きたいとか…………これっぽっちも思ってない……から」

 

 

──八幡とは、あの訪問以来何度か会ってるけど、今が追い込み時期だからしばらく会うのは我慢してる。

もう9月をちょっと過ぎたくらいから一度も会ってない。

たまにメールでやり取りくらいはするけど、私が八幡の邪魔になっちゃうのは嫌だから、電話はしなくていいって言ってある。

 

自分が男の人を好きになることなんて無いと思ってたから知らなかったけど、好きな人の顔が見られないのも声が聞けないのも、こんなにも胸が苦しくなるものなんだな……

 

「……留美……」

 

ママは私の顔を見て、とても心配そうな顔をしてる。

無理なんかしてないよ。別にホントに大丈夫なのに……

 

「あ、でもさ、八幡くんだってたぶんここのところ勉強し詰めで、ちょっとくらい息抜きしたいんじゃなーい?」

 

「……もう、ママしつこいしうるさいっ……私は八幡とディスティニーなんて行きたくないんだってば!」

 

私はソファーから不機嫌そうに立ち上がると、テレビを消して自室へと向かう。

……ママごめんなさい。ママが私の心配をしてくれてるのはすごく良く分かる……

でも今は私が我慢しなくちゃいけない時期だから。

 

 

部屋に戻って八幡に貰ったダッフルくんを抱きしめると、ベッドにぼふっとダイブする。

枕元に置きっぱなしの携帯を見ても、八幡からの連絡はもちろん無い。今ごろ、一生懸命頑張ってるんだろうな……

 

液晶に映しだされる、私に頬っぺたにキスされて真っ赤になって動揺してる八幡と、八幡とお揃いのメイちゃんのストラップを眺めながら、いつの間にか目の端に浮かんでいた水滴を袖でごしごししてると、ふといつかの電車内でのあの約束が頭を過った。

 

 

『なんか寂しいね。また来たいな……。八幡!その……今度は……ランドにも行こう…ね』

 

『そうだな。また今度……な』

 

『うんっ、やくそく』

 

 

……別にあの約束はいつ果たすとか、そういうのを決めて言ったわけじゃない。

だからあの約束が今後果たされないわけじゃないけど……

でも……でも……

 

「……八幡に会いたいな……一緒にディスティニーのクリスマス……行きたい……」

 

 

× × ×

 

 

「あのさ、鶴見さん。ずっと前から気になってたんだよね。俺と付き合わない?」

 

「……なんでですか?」

 

「いや、なんでって……ホラ、もうすぐクリスマスだしさ」

 

「……クリスマス?クリスマスになると付き合わなきゃいけないの?」

 

「あ、いや……そういうわけじゃ」

 

「大体あなた誰?……私、あなたの事なんて知らないんだけど。……話が以上なら私はこれで」

 

「……え!?ちょっと!?つ、鶴見さん?」

 

まだ後ろで喚いている見知らぬ男子生徒を無視して、私は教室に荷物を取りに戻る。

 

ホントばっかみたい。

なんで告白とクリスマス前がセットになってんの?全然関係無いじゃん。

そもそも話したことどころか会ったことさえ無い男子に告白されなきゃなんないとか意味分かんない。

 

教室に戻ってくると、私を一人の女の子が待っていた。

 

「あ、鶴見さんお疲れ〜!今日もバッサリ切り捨ててきたのー?今月入ってから何人目〜?」

 

「もう……からかわないでよ、小野寺さん。大体小野寺さんだって、ついこのあいだ告白されて断ったばっかじゃん」

 

「いやー、お互いモテる美少女は困りますなー。男子的にも女子的にも……」

 

男子からはいらない告白をされて女子からは疎まれる。

唯一の友達の小野寺さんも、そういった煩わしい人間関係に苦労してる。ホントめんどくさい……

 

「それにしても……ホントばっかみたい。なんでもうすぐクリスマスだからって、会ったこともない知らない男子に告白なんてされなきゃなんないの?」

 

「知らないって……うわー、勿体なーい。今日呼び出してきた先輩知らないの?イケメンで女子に超モテモテの、サッカー部の次期主将って言われてるウチの学校の超有名人だよ?」

 

ホントは勿体ないなんて全然思ってないくせに。

 

「……全然知らないし興味ない。……ああ、だから誰?って言ったら愕然としてたんだ。……自分が女子に人気があるからって、女子なら誰でも自分のこと知ってるはずだって思ってたってことね。馬鹿じゃないの……?」

 

そういう自信過剰なナルシストとかホントきもい。

どうりで一目見た時から生理的に受け付けなかったんだ。

いつもより振り方がキツくなっちゃったワケが分かった。うん、納得。

 

「今日の鶴見さんは一段とドギツいねっ。ま、鶴見さんには大好きな彼氏が居るんだもんねー」

 

小野寺さんには八幡の事は話してある。

そういう話を他人にしちゃうのは正直まだ少し恐かったんだけど、八幡も応援してくれたし頑張って一歩踏み出してみたんだ。

でも……

 

「……だから彼氏じゃないって。まだただの婚約者」

 

「いやだからそれおかしいってば……」

 

「?」

 

「ふふっ、まぁいっか!んじゃ帰ろっか!」

 

最近は毎日のように二人で帰宅するようになった。

今日だって、ワケ分かんない告白呼び出しにも関わらず、私が戻ってくるの待っててくれたしね。

 

「うん。帰ろ」

 

 

そして二人で帰宅の徒についた。

ただ、ここ最近の帰り道は少しだけ胸が苦しくなる。

すっかりと陽が落ちるのが早くなった夕暮れどきに、街のクリスマスの灯火がとっても良く映えるから。

 

 

× × ×

 

 

帰り道は、至るところでイルミネーションがキラキラしてる。

個人の家の玄関先にもLEDライトで光り輝く飾りやリースが飾られ、駅前の店の軒先にも可愛らしいツリーが飾られている。

 

私はよく大人びてるとか冷めてるとか思われがちだけど、実は昔からクリスマスは大好きだったりする。

日常の生活がつまらないから、少しだけ非現実感を味わえるこの雰囲気と輝くイルミネーションが、つまらない日常を支配してくれるクリスマスは、なんだかちょっぴりワクワクしてくるんだよね。

 

でも、今はそんなつまらなかった日常が、とても幸せなんだって気付いた。

大好きなママが居てパパも居て、まだおっかなびっくりではあるけど、ほんの少し信じられる友達が居て。

そして……なによりも大切な八幡が居て。

 

だから、そんな気持ちになれた初めてのクリスマスに八幡と一緒に居られたとしたら、どれだけの幸せを感じられるのか知りたかったな……

 

「……さん?……るみさん?……おーい、鶴見さーん?」

 

「……え?なに……?」

 

うわ……なんか私、店の軒先に飾られたツリーを見てたら、ついぼ〜っとしちゃってたみたい。

 

「……なにって…………あ、ほう、はは〜ん?」

 

そう言って小野寺さんはちょっと意地悪そうな笑顔を私に向けてきた。

 

「……なに?」

 

「いやいやいや、なるほどね〜!どうりで最近より一層不機嫌オーラ放ってるワケだぁ」

 

……なに?より一層って……

なんだか私がいつも不機嫌オーラ放ってるみたいに聞こえるんだけど。

でもとりあえずそんな事よりも……

 

「なるほどって、どういうこと……?」

 

「ふふーん♪さっきもクリスマスとか馬鹿みたいとか言ってたくせに、実はクリスマス大好きなんでしょー」

 

むっ……

 

「それなのに彼氏さん……じゃ無かった、婚約者さんが受験生で会えないから荒んでるんでしょー!」

 

「……なっ!?そ、そんなんじゃ……ないっ……」

 

うーっ……すごくムカつく顔でニヤニヤしてる小野寺さんをつねってやりたい……

 

もうっ……!なんでママといい小野寺さんといい、こんな風にすぐからかってくるかなぁ……!

顔が火照って仕方ないからやめて……っ。

 

「いやー、いいなぁ鶴見さん!そんなに大好きな人が居てさー」

 

「べっ!別にそんなに大好きってわけじゃっ……」

 

「やーん、鶴見さん超かわいー!そんなアワアワしてるトコ学校で見せたら、もっとモテちゃうよぉ?」

 

「……むぅっ」

 

ホントムカつくっ!

 

「ねぇねぇ鶴見さん!あの鶴見さんがそこまでデレちゃう婚約者さんって超気になるんだけど、今度私にも会わせてよぅ!」

 

「絶対いや」

 

「即答!?もうケチんぼー。ケチケチルミルミー、ケチルミー」

 

「……ケチルミゆーな」

 

 

……だって、八幡を好きになる女の子って、ちょっと変り者が多いっぽいんだもん……

小野寺さんもかなりの変り者だから、八幡のこと好きになっちゃうかも知んないし……せっかく友達になれた小野寺さんと、また変な関係になっちゃうのは……ちょっとだけやだ、かも……

 

 

そんなくだらない会話をしてたら、いつの間にかいつもの別れ道までやってきていた。なんだか最近、帰り道が短くなった気がする。

そしたら去りぎわに小野寺さんが声を掛けてきた。

 

「ねぇねぇ鶴見さん!」

 

「……なに?」

 

「だから膨れっ面やめてっ!?…………あのさ、余計なお世話かも知んないけどさ、いくら婚約者さんの為って言ったって、我慢は体に良くないよぉ!?へへっ、じゃねっ」

 

もうホントうっさい……!

でも……まぁありがと。

 

 

× × ×

 

 

「クリスマス、かぁ……」

 

小野寺さんと別れて一人っきりの帰り道。

私は去年のクリスマスを思い出す。

 

そういえば去年のクリスマスは八幡と過ごせたんだっけ。

あの頃はただの憧れとしか思ってなかったし、周りに人もいっぱい居たから、あんまり八幡と一緒に過ごせたってイメージはないんだけど。

 

あの日、本当に奇跡的に八幡との再会を果たした。

最初は恥ずかしさと緊張で素直になれなくてあんまり喋れなかったけど、ホントに……ホントに嬉しかったなぁ。

えへへっ、クリスマスの奇跡とかいう馬鹿げた言葉を本気で信じちゃったっけっ……

 

「クリスマスの奇跡……起きないかな……」

 

はぁ……まったく。私ってまだまだ子供だな。かっこわる……

そんな馬鹿げた事を考えながら家までの最後の角を曲がった時、ホントに奇跡が起きちゃった!

だって、玄関の前に……サンタが立ってるんだもん!

 

別に本物のサンタがソリに乗って待っていたわけでもサンタのコスプレをした不審者が立っていたわけでもないけど、でも今の私にはサンタにしか見えなかった。

 

「八幡っ!!」

 

鏡を見てるわけでも無いのに、今の自分の顔がどうなってるのか良く分かる。

たぶんこれが少女マンガとかだったら、パァッって文字が顔の横に書かれちゃうような、そんなだらしない顔だと思う。

走りだした私が大声でサンタの名前を呼ぶと、その腐った目をしたサンタは私の姿を確認するとニヤッと笑って片手を上げた。

 

「おう」

 

 

× × ×

 

 

もう自分でもなんだか分からないくらい必死に駆け寄ると、ちゃんと八幡だと確認出来るようにギュッと腕を掴んだ。

八幡が消えちゃわないようにギュッと……ギュウッと。

 

「はぁっ……はぁっ……な、なんで?……なんで八幡が……家に居んのっ?」

 

「ん、ああ。……っとその前に、久しぶりだな。二ヶ月ぶりくらいか?」

 

「あ、うん。久しぶり……正確には二ヶ月と8日ぶりだけど……で?なんで居んの?」

 

「おう。ほれ、コレ渡しにきた」

 

八幡がコートのポケットから出したのは、カードサイズの一枚の紙……

 

「……これ」

 

それは……夢の国、運命の国への招待状だった。

 

「いや、まぁ、なんだ……前にシー行った時に約束してたろ?次はランドの方に行くって。……まぁ別に今じゃなくてもいいんだが、ちょっと最近勉強疲れで精神的に参っちまっててな。気晴らしにはちょうどいいかなと。……留美のクリスマスが空いてんならどうだ?」

 

「………………ばっかみたい。こんなの、わざわざ持ってこなくたって、電話か何かで連絡すればいいのに」

 

 

どうしよう……嬉しすぎて顔が緩んじゃってるし泣いちゃいそうだしで顔が上げられないじゃん……ばかはちまんっ……

 

「こんなの持ってくる暇があんなら、少しでも勉強してれば?……八幡ってホントばか」

 

「ったく……久々に会ったっつうのに相変わらず酷い言われようだな」

 

八幡はすごく苦笑いしてるけど、だってこればっかりは仕方ない……私、嬉しくても満面の笑顔で抱きつくようなキャラじゃないし、家の前でそんなことしたら八幡逮捕されちゃうし。

 

「……八幡はホントどうしようも無いけど、勉強の合間を縫ってわざわざパスポート持ってきた八幡のばかっぷりに免じて、特別にクリスマスはランド付き合ってあげる」

 

そんな見え見えのツンデレ行為に付き合ってくれた八幡は、私に掴まれてない方の手で頭をぽんぽんと優しく撫でてくれた。

 

「おうそうか。そりゃありがとな、ルミルミ」

 

「だからルミルミって言わないで、キモい」

 

 

 

八幡にルミルミって言われて頭を撫でられるのは、子供扱いされてるみたいで好きじゃない。

だから普段だったら頬を膨らませて冷たい視線を向けてキモいって言うんだけど、今日はどうしたって無理そう。

 

 

だって、さっきからずっと俯きっぱなしの私の顔は、そんな顔が出来る余裕が無いくらいに、だらしなくニヤケっぱなしだから……

 

 

 

続く

 






てなわけで遂にやってきましたルミルミの出番です!

ちょっと前に香織のディスティニーデートを書いた際、なにゆえランドデートじゃなくて以前にルミルミで書いたシーデートなんだよオイ、と思った方もおられる事でしょう。
え?別に居ない?


それは、ランドデートはこのクリスマスルミルミでかなり以前からやる予定があったからなのでしたっ!!
なにせ八幡は、以前にランドに行くってルミルミと約束しちゃってましたからね(・ω<)

八幡がパスポートを持ってわざわざ留美宅で待ってたのは、どうせルミママに脅されたんだろ?とお思いの読者さまもいらっしゃるでしょう。

う、うん。ま、まあ、ね?
そんな夢の無い話をしても誰も幸せにはなれないので、まぁその話はやめましょうや……(遠い目)



さて、今回は初となる全編ルミルミ視点で行ってみたいと思いますので、ちょっと期待外れの方もいらっしゃるかも知れませんが、ぶっちゃけ八幡視点だといちいちネタを挟まなくちゃいけなくて疲れるんですよっ!
(またえらいぶっちゃけたな……)


まぁ冗談はさておき、みんな大好きルミルミ編の続きをお楽しみにっ♪



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。