八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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ぼっち姫の初デートは、運命の潮風と共に【後編】

 

 

 

お姫様に感謝の贈り物を無事に手渡たせた俺は次に向かう為に出発しようとしたのだが、そのお姫様に止められた。

 

「八幡。私買い忘れてたのがあるから買ってくる。ちょっと待ってて」

 

「おうそうか。だったら俺も着いてくぞ?」

 

「八幡は座って休んでて。どうせ普段は引き籠もってて、今日は慣れない外出で疲れてるだろうからちょっと休んでなよ」

 

「いや、それ分かってんなら連れてくんなよ……しかもまださっきシーに着いたばっかなんだけど」

 

とまぁそんな俺をあっさり無視し、留美はまた店に入っていった。

マジで俺中学生に舐められすぎィィィィーっ!

 

 

涙を隠して座って待っていると、しばらくしてルミルミがルンルンで帰ってきた。

 

「ほら八幡。時間もったいないから早く立って」

 

いやまじ酷くね?このルミノ下さん……

楽しそうだからいいけどね。

 

立ち上がって歩きだしたのだが、なぜか留美がついてこない。

あれ?っと振り向くと、留美は右手を見て左手を見てう〜ん……とお困りのご様子。

いや、困って見てるのは手じゃなくて、その手に持っているものか。

右手にはカゴバッグ、左手には胸に抱き抱えたぬいぐるみ。

 

「留美、どうした?」

 

するとちょっと恥ずかしそうに上目遣いで答える。

 

「……これだと……両手が塞がっちゃって……手……繋げない……から」

 

 

と、そこまで言い切るとカァッと赤くなって俯いちゃった!俺が。

俺がかよ。

 

 

とまぁ冗談はさておき……いや半ば冗談でもないのだが……真っ赤に俯いている留美に右手を差し出してやった。

 

「ほれ……そのバッグ持ってやっから」

 

「うん……ありがと」

 

 

こうして右手にカゴバッグ、左手にはルミルミの手、そしてルミルミの左手にはぬいぐるみという構図が出来上がり、新たな仲間を加えた俺達はまたシー探索に身を投じるのだった。

 

なんか八幡のお兄ちゃんスキルレベルがここにきて急上昇ですね!

 

 

× × ×

 

 

その後は各エリアをとにかく探索しまくった。

くっ……さすが中学一年生だぜっ……体力有り余ってんな……

 

あっち行きたいこっち行きたいあれ乗るこれ乗ると、もうとにかくこれでもかってくらいに遊びまくった。

 

食事はそのダッフルくん?てののショーを見ながら食べられるっていうレストランで取り、歩きながら留美待望のソフトクリームとチュロスも食った。

 

いや……待望だったのはたしかパフェだったはずなのだが、そんな昔の事はもう忘れちまったぜ……

 

 

夕方になり、どうしても乗りたがっていたベネチアゴンドラに乗っていた時には、本当にタイミング良くプロメテス火山が噴火したりとルミルミ大興奮!

いやマジ持ってるわ、この子!

 

 

そして今は夜の水上ショー・ファンタジアミュージック!を待つべく、二人でメディテレーニアンポートの一角に陣取っている。

どうやら早めに場所取りをしておかないと綺麗に見られないお花見スタイルらしい。

 

そんな疲れたサラリーマンが花見の場所取りをしているかの如くショーを待っていると、ふと気付いた事があった……

 

「わー……楽しみだね、八幡っ」

 

隣で目を輝かせまくっている留美にその気付いた疑問を投げ掛けた。

 

「……あのよ留美。今さらなんだが、時間って大丈夫なのか……?すっかり夜になっちゃってんだけど、親御さん心配とかしてたりしねぇの?……ちゃんと遅くなるって言ってあんだよな……?」

 

ホントに今さらだな俺……

こんな当たり前の事に今気付くくらい遊び惚けてるなんて保護者失格ですよ!

 

「え?うん大丈夫。今日は八幡とシーに行くから遅くなるって、ちゃんとお母さんに言ってあるから」

 

「おうそっか。それなら安心だな……」

 

 

………………?

 

 

え?今なんつった?こいつ……

 

 

「え?いやいやちょっと待て。誰とって言ったのかな?」

 

「は?なに言ってんの?誰もなにも、今私は誰と来てんの?ばかなの?」

 

ですよねー。僕と来てるんですもんねー…………っておいっ!

 

「え?なに?母ちゃんに俺とシー行くって言ってあんの!?……いやいや俺お前の母ちゃんと面識もなにもねぇんだけど!?」

 

いやマジで意味分からん!え?なに?こいつ俺をどうしたいの?母親に通報してもらうの?

 

俺は驚愕の視線を向けたのだが、急に不機嫌モードに入る留美。

ムッと睨み付けてきたかと思ったら、

 

「……お前じゃない……留美」

 

「あっ……わりい、留美……」

 

ってそれどころじゃねぇだろ……!

 

「大丈夫。お母さんには八幡の事教えてあるから」

 

「教えてあるってなにを!?」

 

やべぇ俺まじパニック!

 

「全部。林間学校での事もクリスマスでの事もこないだ再会した時の事も全部。……最初は心配してたけど、八幡がどういう人かって……八幡がなにをしてくれたのかって……全部話したらお母さんも八幡がどういう人か分かって安心してくれたの」

 

は?……いやいや千葉村での事とか全部話したらヤバい印象しかなくね?

 

「私しっかりしてるから、結構お母さん信用してくれててね?そんな私が一生懸命に話した八幡の事も信用してくれたの。あ、でもまだお父さんには内緒にしときなさいって。八幡殺されちゃうってさ」

 

すでに死にそうなんですけど僕……

 

「だから八幡とシーに遊びに行くって言ったら、気を付けて行ってらっしゃいって。お父さんには上手く言っといてくれるみたいだから安心してね」

 

わーいそりゃ安心だー☆

 

……おいおい母さん。……危機感足りなさすぎだろ……こんな可愛い娘になにかあったらどうすんだよ……

 

「八幡どうしたの?顔青いけど……。あ!でね?今日シーに行くのは許してくれたんだけど、その代わり近いうちに絶対連れてきなさいって言われてるんだった!だから次はうちに行くからね?八幡」

 

なにこれ詰んでんの?

逮捕まっしぐらなのん?

 

「ちなみに行かないとどうなるのかな……?」

 

「なんか良く分かんないけど、通報しますって伝えといてって言われてる」

 

はい!詰んでました☆

 

「そ、そっか……ははははは…」

 

「だから今度会う時はうちに来るんだからねっ。お母さん料理すっごい上手だから期待しててね!……私も……八幡に、なんか作るし……」

 

すっごいモジモジして言ってますけど、俺はモヤモヤが止まらないです……

 

「そうか……期待しとくわ……」

 

「うんっ」

 

 

 

その後ようやく始まった水上ナイトショーは、ウォータースクリーンや電飾に煌めく船などを使った光と音楽の見事なショーだった。

大音量の音楽が空一杯に響き渡り、ウォータースクリーンに写し出される映像や船の煌めきが水面に反射するさまは正に幻想的。

そこに花火や火山の競演者も加わり、圧巻な夢のひとときは幕を閉じた。

 

夢であったのなら良かったのに。

 

 

× × ×

 

 

ディスティニーシーを後にし、京葉線から見える遠ざかるディスティニーリゾートを、留美はとても名残惜しそうに見つめていた。

 

「なんか寂しいね。また来たいな……。八幡!その……今度は……ランドにも行こう…ね」

 

寂しそうに窓の外を見つめる留美の頭を優しく撫でる。

 

「そうだな。また今度……な」

 

俺が無事に来られればねっ!

 

「……うんっ、やくそく」

 

俺の不安など知ってか知らずか、すげえ笑顔で俺を見上げる留美を、またポンポンと撫でてやった。

 

 

混んでいた車内も、数駅を過ぎるとポツポツと席が空きだした。

近くの席が二つ空いたのでそこに腰掛ける。

 

しばらく揺られていると、そっと肩に重みを感じた。

そりゃあれだけはしゃげばな……

 

疲れ切って眠ってしまった留美の幸せそうな寝顔を見つつ、ここで俺まで寝ちまうとマズいな……!と己を鼓舞しながらも意識は闇へと落ちていった……

 

 

× × ×

 

 

やべっ!寝ちまったっ!

 

焦って周りを見渡したら、目的の駅まであと数駅というところだった。

 

「あっぶねー……」

 

未だ幸せそうに寝息を立てている留美だが、可哀想だけど起こすか。目ぇ醒ましとかないと危ないからな。

 

「留美、もうちょいで着くぞ」

 

「……んー……あれ……?私寝ちゃってたんだ……。八幡……寝顔……見た……?」

 

なんか恥ずかしそうにむくれてんなコイツ。

こんな小さな女の子でも、寝顔とか見られんの恥ずかしいのかな?

 

「俺の肩を枕にして、気持ちよさそうに寝てたぞ?」

 

さっきまでの留美の状態をニヤリと教えてやると、

 

「ばか八幡……キモい」

 

寝起きに罵倒されました☆

 

「あっ!そうだっ!」

 

寝起きの中学生に罵倒されて傷付いている俺には目もくれず、ガサガサとバッグを漁りはじめた。

すると、バッグからディスティニーの土産物袋をひとつ取り出した。

 

「八幡。これあげる」

 

土産物袋から取り出したのは、さっき土産物屋で見たダッフルくんのストラップだった。

 

「え?くれんの?なんで?」

 

「……八幡がこの子買ってくれたから、その分浮いたお金で買ったの」

 

抱き抱えたぬいぐるみを優しく撫でながらそう言ってきた。

 

「いや、でも中学生の女の子に貰い物すんのも……」

 

すると土産物袋から、もうひとつストラップを取り出す留美。

それは俺にくれようとしてるダッフルくんの友達のストラップだった。

 

「私がこれ付けるからお揃い……。この子達は八幡と私が別々に持ってたらぼっちになっちゃうけど、だから私達が一緒に居ればぼっちじゃなくなるでしょ?……だから……この子達が可哀想になったら、また私と八幡が会えばいいの……だから、お揃い……」

 

今までで一番てくらいに真っ赤に俯く留美。

いやマジで恥ずかしいのはこっちですから。

 

「お、おう……んじゃ有り難くもらっとくわ……サンキューな、留美」

 

「……………うん」

 

 

 

ちょうどその時、電車は目的の駅に到着した。

 

 

× × ×

 

 

時間が時間だし、もちろん留美を家まで送り届けた。今は留美んちの玄関前だ。

 

「八幡、今日はありがと。……まぁまぁ楽しめた」

 

「おう、俺も結構楽しめたぞ」

 

「…………ん」

 

すると留美は思い出したかのように訊ねてきた。

 

「あ!せっかくだからお母さんに会ってく?」

 

 

いやぁぁぁぁぁぁっ!

 

なんか帰り道がほっこりと平和すぎて、そんな危険な事すっかり忘れてたわっ!

 

「ま……また今度な……」

 

「そっか。まぁ今はお父さんも居るから、八幡殺されちゃうかもしんないしね」

 

いやんホントに殺されちゃうかもっ!

 

 

「じゃあね、八幡。また会いに行くから!」

 

そういうとストラップとぬいぐるみをぶんぶん振って玄関に入っていく。

 

「おう、じゃあな」

 

身の危険を感じつつも、そんな留美の笑顔に笑顔で答えた。

 

「……あっ!」

 

すると留美はなにかを思い出したかのようにたたっと引き返してきた。

 

「ん?どうかしたか?」

 

すると留美は軽く俺を睨むと口を開いた。

 

「八幡……約束覚えてる?」

 

「約束……?」

 

さっき今度ランドにも行こうねって言ってたやつか?

 

「あ、ああ……覚えてるぞ」

 

「……絶対だからね。約束破ったら許さないからっ」

 

するとまた玄関へと引き返し、扉の前まで行くとこちらへ振り向きとんでもない事を口にしやがった……

 

 

「やくそく!許すのはあの一回だけだからね!今度浮気したらお母さんに言い付けるからねっ!」

 

 

 

その恐ろしい一言を放ち、バタンっという音と共に消えていった留美……

 

 

『…………許すのは、その一回だけだからね……っ!』

 

『じゃあ今回だけは許したげる……』

 

 

え………?あんとき言ってた一回って、そういう事なのん?

 

いやいや浮気もなにも俺ルミルミと付き合ってねぇし……

由比ヶ浜とシー行ったの浮気じゃねぇし……

 

 

え、どうしよう。これ本格的に詰んでませんかね。

 

 

× × ×

 

 

…………でも……まぁ留美の人生はまだ始まったばかりだ。

 

昔の俺と同じように、あんなに小さいうちから人を諦め自分を諦め、一人で生きていく事を決心して努力して、そして新しい生き方を自分自身の力で見つけだした留美。

 

そんな留美にはもう友達だって出来つつある。

まだ心を許し切れてないたった一人の友達かもしれないが、今日の留美を見ていたらそれも無用な心配なのかもしれない。

 

今の留美なら、ちゃんと分かってくれる、ちゃんと分かりあえる素敵な友達が集まってくるだろう。

かつて同じようにすべてを諦めていた俺や雪ノ下と同じように。

 

 

だから留美にも、今に俺みたいのじゃなくもっとあいつに相応しいイイ男が現れんだろ。

あんなに素敵な笑顔が出来るお姫様に相応しい素敵な王子様ってやつがな。

 

だからまぁ、それまでは留美の勘違いに付き合ってやりますか。

近いうちにやってくるその日くらいまでは……な。

 

 

 

 

 

 

………大丈夫……だよ……ね?

 

 

 

 

 





はい!八幡詰みました!


という訳で、まさかルミルミだけで計四回になってしまうとは……
そんなルミルミ回、今回を持って終了となります。

次回は八幡がルミルミ家に地獄のご訪問回ですねっ(大嘘)

でも留美はまた書いてみたいですね〜。すごい楽しかった♪
今回のデート回の留美視点とかってのも、需要あるんでしょうかね〜?


次回以降はまだなんにも決めてないんですが、誰書こうかなぁ……


【一応内容の補足です】
留美の母ちゃん危機感ヤバくない?と思われた方もたくさん居るかとは思いますが、裏設定なのか誰かの妄想が広まったのか知らないんですけど、よく留美の母親は教師をやってるって話がありますよね?原作でそんな設定ありましたっけ……?

なので今回はその話に乗っかって、留美の母親は平塚先生とは信頼関係がある知り合いで、事前に比企谷八幡という人物を平塚先生から聞いていた……的な感じで読んで頂けると助かります☆………なんて酷い作者だ……


追記

留美の母親が教師ネタは、一巻に出てきた総武高の『家庭科教師が鶴見』から来たらしいですね〜!
たくさんのご意見ありがとうございました!

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