八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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ついに八幡生誕祭から逃げ出すという暴挙に出たどうも作者です。
生誕祭の続きは来年の八幡誕生日に上げます(大嘘)

と、途中まで書いたんですがネタが思いつかず筆が止まってしまったんで、いずれ筆が進んだらという事でオナシャス。


さて、そんな生誕祭を投げ出して気晴らしに書いた今回のヒロインとは一体だれなのか!?
(白目)




押し掛け魔王☆

 

 

 

 キャンパスライフ。それはぼっちにとって優しい世界である。

 いやまぁ代返とかノートの貸し借りとか知り合いが居た方が何かと便利なのは確かだろう。

 

 だがそれは青春謳歌(笑)な凡庸学生の話であり、俺のような優秀な学生には当てはまらないのだ。

 

 友人との遊びに時間を取られるわけでもサークル活動に勤しむわけでもない俺のようなぼっちは、代返やらノートの心配などないくらいに時間が有り余っているのだから。もう単位取り放題。なにそれ泣ける。

 

「おーいハッチー」

 

 つまりそこさえ我慢してしまえば(我慢してんのかよ)、ここ大学という広大な空間はぼっちには暮らしやすい。

 

「なぁ比企谷ー」

 

 まぁ中学時代や高校時代にグループ関係を築いていて、いざ大学生になった途端に友達作りに失敗して図らずもぼっちになってしまった初心者ぼっちには辛い生活だろう。

 そいつらのような生温いニワカぼっち共は、学食で一人で飯食ってる所を見られたくなくて、ついには便所飯デビューを飾るなどという話を聞いたことがあるが、そんな大学生にして初めて便所飯を経験するような甘い連中と年季の入ったぼっちを一緒にしてもらっては困る。

 

「ねぇハッチー……?」

 

 長年培われてきたプロぼっちともなると、このキャンパスでのぼっちライフなどぬるいぬるい。

 なにせ学食にお一人様席とかあるんだもん。ぼっちに優し過ぎだろ、どんだけぼっちに過保護なんだよ。

 

「ねー八幡く〜ん」

 

 高校時代はさすがの俺も教室で一人で食うのはキツかった。思い出すぜ、ベストプレイスに逃げ込めなかった悪夢の雨の日を。

 マジで梅雨を殺したいと思ったね。

 

「ハッチー!」

 

 だが大学では一人で居ても誰も気にしないのだ。気にしてるのはニワカぼっち本人のみ。

 そう、このひとつの小さな街のごとき広さと人口を誇る大学では、どこの誰が一人で居ようが皆で居ようが、別に誰も気になどしないのである。ビバキャンパスライフ。

 

「ハッチー!?」「比企谷!」「なぁお前いい加減帰ってこいよ」「八幡くんどうせ聞こえてるんでしょ?」

 

「……チッ、あーうっせーなぁ……」

 

 

 だから俺にそんな至高のぼっちライフを返して!

 

 

× × ×

 

 

 大学に進学して早数ヶ月。

 俺はなんの疑いもなく今までと同じ静かなぼっちライフを送れるものかと思っていた。むしろ信じて疑わなかったまである。

 

 だがそんなことは無かった。

 中学や高校での狭いクラス内の閉鎖的な人間関係に比べ、多様性溢れる人種が集うこの大学生活では、俺のような捻くれぼっちを気に入ってくれる物好きな連中も少なからず存在した。

 いや、それを単に物好きと切り捨ててしまうのは違うのかもしれない。多分高校一年までの俺であれば、この物好きな連中でも俺など歯牙にもかけなかっただろうから。

 結局俺は……今の比企谷八幡は……あの場所で、あいつらで出来ているんだなぁなんて、つくづく感じてしまい思わず口角が上へと歪んでしまう。

 

「うっわ、ハッチーなんか笑ってんだけどー」「キモッ! キモカワ!」「おいお前ら比企谷泣いちゃうから」「そうだぞー、比企谷お前らの真意に気付かないんだから単なる悪口に取られちゃうぞー」

 

 うっせーな……なんで俺一言も発して無いのにディスられまくってんだよ。女子二人はなんか顔赤いし。

 

 

 ──とまぁ、どうしてこうなった? なんて嘆きつつも、なんの因果か俺は大学生活を意外にも満喫している。うるさいし面倒くさいけど、うん、まぁそんなに悪くはない生活だ。

 

 

 

 ……これさえなければ。

 

× × ×

 

 

「でさでさハッチー! 今日みんなで飲みに行くんだぁ」

 

 きましたわコレ。

 

「……ああそう」

 

「ああそうじゃないよー八幡く〜ん! たまには一緒に行こうよ〜!」

 

 そう。こいつらと過ごすようになってからというもの、かなりの頻度でこうして飲みに誘われている。未だほぼ行ったことないけど。

 

「……いや、今日はアレがアレでな……」

 

「もー! それってなんの用事も無いって事でしょお!? 八幡くんてばいつもそうじゃん!」

 

「そうだよハッチー! いーこーおーよぉ」

 

 だからそうやって毎日のように服を引っ張るのをやめなさい、このリア充ビッチ共が! 服にも耐久力ってものがあってだな……

 

 

 ……まぁこいつらの言う飲みってのはいわゆる合コンではなく仲間内での純粋な飲み会なわけだし、こうも毎日誘われてると、たまには行かない事もないかもな、なんて思ってしまいそうになることもなきにしもあらず。どんだけ行く気ないんだよ。

 

 だがしかし! ……マジで俺早く帰んなきゃなんないんだよ、アレがアレで……

 とてもじゃないが飲みに誘われている場合じゃないのだ。あるんですよ、ちょっと生命の危機的なヤツがね?

 

「おい、勝手に用事なんぞ無い事にすんな、俺には守らなきゃならないもんがあるんだ」

 

 いのちだいじに!

 

「どうせ録り蓄めたプリキュアが見たいとかそんなんでしょー!?」

 

「ねーねーハッチー!」

 

 命の懇願をしている俺など知った事かと、二人の女子が袖どころか腕をグイグイと引っ張りだした。柔らかいのが超あたってるからやめてください。

 ぐぬぬっ……今までさんざん断って来たから、ついにこいつらも強行手段に出たらしい。

 やめて! マジで死んじゃうんだってば! 誰か助けてぇ!

 

 

 

 

 ──そんな俺の切なる願いを神様は聞き入れて下さいました。

 結構可愛い女子大生二人に引っ張られて困っている俺の元に(見た目は)女神が舞い降りたのです。

 

 

「ひゃっはろー! ……あっれー? 比企谷くんモテモテじゃーん! ……お姉さんちょっと嫉妬しちゃうなぁ」

 

 

 あかんオワタ……

 

 

× × ×

 

 

「えと……なぜ雪ノ下さんがうちの大学に……?」

 

 魔王襲来と共に俺の隣の席は征服された。

 魔王仕事早い!

 

「えー? 暇だったから?」

 

 ぐっ……だからあんたの暇潰しで俺の人生をカオスへと陥れるのやめてもらえませんかね……

 

「うそうそー、比企谷くんに早く会いたかったからに決まってんじゃーん」

 

 そう言って豊満なアレを押しつけて腕に絡み付いてくる陽乃さん。

 暇潰しと言われた方がよっぽど幸せだったでござる。

 おいおい……みんな固まっちゃってるよ……

 

 

 

 

 ──突然の『見た目は女神! それ以外は魔王!』な雪ノ下陽乃の登場により、学食の空気は一変していた。

 そりゃね? こんな美人、滅多にお目にかかれるものじゃないってのに、その超が付くような美人が俺なんかに会いに来たのだ。そりゃ場も凍り付くってもんだろう。

 俺の友人(?)達も先ほどまでと変わらずに席に着いたままなのだが、完全にこの美人に飲まれてしまい目を奪われている。

 ちなみに女子二人は陽乃さんの気に当てられてガクブル状態。覇王色かよ。トラウマにならないといいんだけど。

 

「……そういうのいいんで。ったく、これだから優秀すぎる大学生は……」

 

「あはは、だってホント暇だったんだもーん」

 

 普通の大学四年生なら、今ごろこんなに暇を持て余しているわけがない。

 だがこの人に就活という文字はないのだ。なぜなら就職先など選びたい放題なのだから。

 雪ノ下建設に就職するも良し、政治家を目指すも良し、なんならこの優秀さを聞き付けた各大手企業からヘッドハンティングされちゃうまである。

 

 そんな暇を持て余している陽乃さんは、ここのところよく俺の前に顔を出すようになった。うん。ホントによく……

 だがこうして大学にまで押し掛けて来たのは初めてだ。いくら暇とはいえ、大学にまで来なくてもいいのに。

 

「でもま、暇も潰せたし目的も達成できたし、そろそろ帰ろっかなー」

 

 え? もう?

 いやいやいま来たばっかじゃん。ホントにこれで暇潰せたの? だったら来ないでくれた方が助かったんですけど。

 

 あと暇潰し暇潰し言って“潰す”という単語を使う度に、女子二人に素敵な笑顔を向けるのはやめてあげてください。

 なんでこんなにギスギスしてるのん? 穏やかじゃないわね。

 

「じゃーねー比企谷くんっ。ま、た、ね♪」

 

 パチリとウインクを決めて颯爽と去っていく雪ノ下陽乃。もう食堂内の男子諸君はメロメロです。メロメロの実でも食べたのかな?

 

「ね、ねぇねぇハッチー!? だだだだ誰!? 今の誰ぇ!?」「わたし聞いてないよ八幡くん! なんなのあの美人!?」

 

 女子二人が涙目で必死に迫ってくる。ごめんね? 泣きそうになるくらい怖かったよね。

 

「おい比企谷ふざけんなよぉ! なにあのすげぇ美人!」「ちょ、お前彼女とか居ねぇっつってたよなぁ! おいマジふざけんなー!」

 

 そしてすっかりメロメロにされてしまった男共も涙目で必死に迫ってくる。

 てか仲間内のこいつらだけじゃなくて、今の現場を目撃した食堂内にいる無関係の連中からの視線も超痛い。

 ……あー、めんどくせぇ……

 

 

「……まて、アレは別に彼女とかじゃないから」

 

「はぁ? じゃあなんだよ!」「なんなのよあの女!」

 

 ……なにこの修羅場。俺、この謎の修羅場に一切関係なくない?

 

「……あー、なんだ……あの人は、高校ん時の部活仲間の姉だ。以上」

 

 そうは言うものの、自分で言っててもその説明に納得いかない。こんな説明で誰が納得するのん?

 

 もちろん誰一人納得などするわけも無く、その後も仲間内からの質問の嵐は永遠と続くのでした。

 そんな質問の嵐に淡々と答えつつも、俺の頭の中には先ほどの陽乃さんの言葉がずっとリフレインしているのだった。

 

『ま、た、ね♪』

 

 

× × ×

 

 

「……はぁ、もうやだ」

 

 肩を落としつつ我が家へと向かう帰り道。

 まぁあの混乱で飲み会話が有耶無耶になったのは助かったが、これってプラマイ的にはゼロどころか大幅にマイナスだろ……主に俺のライフが。

 

 早く愛しの我が家に帰ってライフの補給をしたいところなのではあるが、いかんせん愛しの我が家と言っても愛しの小町が待っていてくれるわけではない。

 そう。俺は四月から一人暮らしを始めた。

 

 元々実家から千葉の私立に通うつもりだったのだが、小町を含めた家族総出で『独り立ちをしろ』と言い含められた俺は、実家離れんならもっと大学の選択肢増やすか……と進路を変更し、こうして泣く泣く都内の大学に通うこととなったのだ。

 

 まぁこの一人暮らしってやつも住めば都といいますか、自分のペースで怠惰な大学生生活を送る上では意外と悪くなく、元々小学生の頃からある程度家事をこなしてきた俺には、唯一の難点でもある小町成分を補給できないことを除いてはなかなかに快適だった。最初のうちは。そう、最初のうちは……

 今の愛しの我が家が俺のライフの補給になるのかと言ったら……まぁ十中八九ならんだろう。せめて残りの一、二割の可能性に微かな夢を見ようか。

 

 

 

 電車をいくつか乗り継ぎついに我が家へ。

 築56年のボロアパートの金属製の外階段をカンカン上り、二階最奥から二番目の部屋へと重い足を運ぶと、一人暮らしにも関わらず、部屋の中からはなんとも美味そうな香りが漂ってくる。

 

「……」

 

 残りの一、二割の可能性が潰えた瞬間である。

 ふぇぇ……お願いだから八幡にも安らぎをください……!

 

 

 絶望に打ち拉がれてはいるものの、なんとか気を取り直してポケットから部屋の鍵を取り出し、極力音が出ないよう静かに静かに回す。

 そおっとドアを開けるものの、哀しいかなこのボロアパートのドアは立て付けが悪いのだ。地震とかでアパート自体が軽くひしゃげちゃってるんじゃなかろうか?

 

 キィッと音を立てて開いたドアに、一人暮らしにも関わらずなぜか中で料理をしていた人物が全力で振り向くと、可愛らしいエプロン姿のその人物は美しい笑顔を浮かべて家主である俺に飛び掛かってきた。

 

 

「おっかえりー、比企谷くんおっそーい」

 

 甘い香りと柔らかい何かに包まれた俺は、一人暮らしにも関わらず今日もその人物にこう言うのだ。

 

「……た、ただいま帰りました」

 

 と。

 

 

 そう。俺には大学の連中と飲み会に行っている余裕などないのだ。

 なぜならば、早く帰ってこないと命の危機に関わるのだから。

 ホラ、今こうしている瞬間にも首に回された腕がギリギリと締まり、しなやかで美しい指先から伸びる綺麗な爪が、俺の柔肌にちょっと突き刺さっているよ?

 

「比企谷くんさー、なんか可愛い子たちからモテモテだったじゃん? まさかとは思うけど……遊びに行っちゃったりしてないよねー?」

 

「……い、いやいやいや……別にいつもと変わらない、です」

 

「……へぇ」

 

 恐い恐い恐い!

 本当はあんたのせいだよ! 講義が終わってからも延々とあいつらに問い詰められてたんだよ!

 

 ……だがそんなことなどお見通し……いや、違うか。

 そうなるよう仕組む為にわざわざ大学まで遠征してきたのであろうこの魔王は、次の瞬間には嗜虐的な笑みを浮かべて俺の腕を強く引く。

 

 

「ま、いーや。ホラホラ、もう夕飯の用意出来てるよ。さ、あがってあがって」

 

 あまりにも美しい笑顔で俺を“俺の”部屋へと招き入れるその人物はもちろん雪ノ下陽乃。

 一人暮らしを始めてしばらくしてから、こうして週の大半を暇潰しにやってくるようになった。

 

 

 そう。この押し掛け女房ならぬ押し掛け魔王の魔の手が伸びたあの日から、俺の平穏な大学生活は終わりを告げたのだった……

 

 

 

続く?続かないかも

 






というわけでありがとうございました!
なぜかなんの前触れもなくはるのんでしたw

ちょっと押し掛け女房なはるのんを書いてみたいと思い立っただけなんですけど(^^;)
なにせ以前唯一書いたはるのんは暗いわ重いわだったんで、たまにはこんなのもいいかな?と。


続くか続かないかはまだ未定です☆


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