ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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ついに完成したベルとギルの武器。

ベルと別れ、怪物祭に向かうギル。

そこでシルという娘に会う。

そして、事件が起きる。


王と娘

「はい、これ」

 

「おおぉ…!?」

 

ヘファイストスから渡された小型のケースと鞘に収まった剣に、ヘスティアは目の下に隈を作りながらも、今にも輝かんばかりだった。

 

「要望には答えたつもりよ」

 

「うんうんっ、流石ヘファイストス!文句なんてあるわけないよ!」

 

ぱかっと、蓋を開けてヘスティアは漆黒の鞘に収められた、漆黒の柄を持つ短刀を見た。そして、黄金の鞘に収まった一振りの剣を鞘から少し抜き、その黄金の刀身も確認した。両方ともヘファイストス入魂の作だ。

 

「あっ、そうだ、この武器の名前をつけなきゃ!この短刀の方は、僕とベル君の愛の結晶ってことで『ラブ・ダガー』でいいとしてーーー」

 

「やめいっ、駄作臭ぷんぷんじゃない!…でもそうね、コレはあんたの武器としか形容しようがないし…『神のナイフ(ヘスティアナイフ)』ってとこかしら」

 

いやー照れるなぁ、とご満悦なヘスティア、彼女のツインテールも彼女の機嫌を示すように波打っていた。

 

「もうひとつの方は王様君って言うぐらいだから『王の剣(キングソード)』ってとこ?」

 

「まぁ、そっちは本人にでも付けてもらうよ!」

 

「もう一人の方は随分適当ね…。しかし、この剣本当に私が作ったのよね?なにか凄い波動を感じるのだけど…」

 

「そうかい?ヘファイストスは天界の神匠なんだからこれぐらい、ちょちょいのちょいさ!」

 

そうかしら、とヘファイストスは自信が打った剣を見据え小さい声で呟いた。

 

ヘファイストスは『力』を封じられていたため違和感の正体ーーーこの剣が星の恩恵を取り込んでいたことに気付かなかった。

 

「言っておくけど、ローン、踏み倒すんじゃないわよ」

 

「わかってるっ、わかってる!」

 

浮かれているヘスティアは笑顔で頷き、ヘファイストスにそう返した。そして、彼女は早速この場を出ていく準備を始める。

 

「もう行くの?」

 

「ああ、悪いけど!」

 

「ヘスティア浮かれてるけど、わかってる?この武器たちは、生きているのよ」

 

今すぐ出ていこうとしているヘスティアにヘファイストスは再度忠告した。その真剣な声音にヘスティアも振り返り、ヘスティアも顔を真剣なものにした。

 

「あんたが刻んだ『神聖文字』通り『ステイタス』が発生している。つまり装備者が獲得した『経験値』を糧にすることで、この武器たちも進化していくわ」

 

だから今のままじゃ不良品。持ち主に渡って始めて息づくのよこの武器たちは、と補足した。

 

「勝手に至高へ辿り着く武器なんて、鍛冶師からしてみれば邪道だわ。もう作らせないでよね」

 

「ああ、わかってるヘファイストスには本当に感謝してる。ありがとねヘファイストス!」

 

「本当にわかってる…って、行っちゃったし」

 

ヘスティアはヘファイストスに再度礼をして、飛び出すように部屋を後にした。

 

ーーーーーー

 

ベルが出ていってから、目を覚ましたギル。昨日エイナから怪物祭なるものがあるらしく、それに行くためギルは今日ベルとダンジョンに向かわなかった。

 

……ベルも結局はダンジョンには行かず、怪物祭に向かったのだが…

 

「ふむ。やはり祭りを名乗るだけあるな、有象無象がわらわらとわいておるわ」

 

ギルは一人そう言い、適当にブラついていた。そうしていると見覚えのある娘が出店の前で揉めているのを見掛け、その方向に寄っていった。

 

「お客さん、お代を早く出しておくれよ」

 

「す、すいません。あれ、どこにいれたんだろ?」

 

(お財布がない?なんでどうして?)

 

シルは立ち寄ったお店でクレープを買ったのだが、待ちきれず一口食べてから払おうと思い、口をつけたが、どこを探そうにも財布は見つからなかった。それもそのはず、その財布は店に忘れ、今はベルが持っているのだから。

 

「なに、お客さん、もしかして盗人かい?だったらギルドに通報するよ!」

 

「ち、違います!」

 

店主の言い分に、目尻に涙をため否定したが、一向に財布を出さないシルに店主も流石に声をあらげた。

 

(ど、どうしよう?このままじゃミアお母さんに迷惑かけちゃう…)

 

もし、ギルドに通報されれば、身元を確かめられ『豊穣の女主人』に至らぬ迷惑がかけられてしまう。そう考えてしまい、シルは今にも泣き出しそうだった。

 

しかし、そのタイミングで一人見知った男性に声をかけられた。

 

「娘よ…いったい何をしている?」

 

「あ、あなたは、ベルさんのお連れさん!?」

 

「なに、あんた知り合いなの?だったらお代をとっとと払ってくれない?他のお客さんの迷惑なんだよね」

 

シルは声をかけられたことに驚き、店主は知り合いなら払ってくれと言った。

 

「ふん、態度の悪い雑種だな。まぁいいわそんなはした金出してやるわ」

 

そう言って、ギルは自身の上着に手をいれ硬貨を数枚出し、カウンターに置いた。

 

店主はそれを確認し、毎度ありと言って次の客の相手をしだした。ギルは、ふんと鼻を鳴らし、その場を後にした。シルは慌てて、そのあとを追った。

 

「す、すいません、お金払って貰っちゃって…」

 

「まったくだ、見知れた顔が余興にでも興じているのかと寄ってみれば、王たる我に金をたかるとは頭か高いにも程がある」

シルはギルのその言い草に、迷惑をかけてしまったと思い、また目尻に涙を浮かべた。ギルはそんな様子を怪訝な目で見ていたが、チッと舌打ちをしてシルに顔を向けた。

 

「貴様には、ベルが散々世話になっている、我の下僕の世話代だと思って先の不敬は許してやる」

 

「えっ?あ、ありがとうございます」

 

その尊大な物言いに、シルは戸惑ったが許してくれるようなので、お礼を言った。

 

「して娘、貴様財布も持っていないのか?」

 

「あっ、はい…どこかに忘れたみたいで…」

 

「ふん。金の管理もままならないとは愚かな娘よ」

 

「うぅ…せっかく楽しみにしてたのに…お財布探してたらお祭り終わっちゃうよぉ…」

 

ギルの指摘に、シルはせっかく泣き止んだか、また俯いてしまった。

 

「フハハ、なんだ貴様道化の類いか、我を笑わすとはなかなかに愉快な娘だ」

 

「うぅ…、酷いです人が悲しんでるのに」

 

「クックッ、貴様もまっこと愉快なやつよのぉ」

 

事情を話したシルだが、同情してくれるどころか笑われてしまい、更に落ち込み財布を探しに来た道を引き返そうとしたが、待てと呼び止められ振り返った。

 

「娘、貴様の道化ぶりに免じて、我との同行を許そう」

 

「……ごめんなさい、私お財布を探さないと、お金もなくちゃ何も買えないですし」

 

「たわけ。道化に金を払わすなど、王の名折れ。道化の分など我が払うに決まっておろう」

 

「えっ?本当ですか?」

 

「我は虚言は言わん、ほれ案内も貴様に任してやる。我を楽しませろ」

 

シルはギルの発言に、俯いていた顔を上げ輝かせた。

 

「本当にいいんですか?私出店で色々買っちゃいますよ?」

 

「くどい。我を誰と心得る。王の中の王ギルガメッシュなるぞ!娘一人の金がないなどあり得ん」

 

「フフ、そしたら王様このシルめが案内しますよ」

 

そうして、ギルとシルは出店で賑わう街を歩いていった。

 

ーーーーーー

 

「おーいっ、ベルくーん!」

 

「えっ?神様、どうしてここに!?」

 

「おいおい、君に会いたかったからに決まってるじゃないか!いやぁー会おうと思っていたら、本当に出会えるとは、僕達はただならぬ絆で結ばれてるね!」

 

「す、凄いご機嫌ですね神様…」

 

「理由は後で話して上げるよ!それより今はお祭りやってるんだぜ!デートするしかないよ!デート!!」

 

「ええっ!?」

 

「ふふっ、さぁ行くぞ、ベル君!」

 

ベルとヘスティアがそのようなやり取りをして、合流した時、ギルもギルとてシルと祭りを楽しんでいた。

 

「王様!私あれ食べてみたいです!」

 

「ふん。そう急くな娘。店主、金は置いたぞ貰っていく」

 

店主の返答も聞かず、お金を置いてさっさと商品を受けとるギル。シルはそんなギルの態度に憤慨した店主にすいません、と頭を下げて自身も商品を受け取りギルの後をついていく。

 

「ふふっ、これ美味しいですね」

 

「所詮は下民の食べ物、王の口には合わん」

 

口では、文句を言うギルだが手にした食べ物は残さず食べていた。そんなギルを見てシルも更に頬を緩ます。

 

「私王様のこと誤解してました。…本当は優しいんですね!」

 

「たわけ。王の中の王たる我が、寛容な心を持ってるのは、至極当然!」

 

シルは初めてギルが店に来たとき、態度のでかいお客さんだなぁと思っていたが、こうして出店を回っているうちにそんなことは思わなくなっていた。

 

そうして、祭りを楽しんでいた時シルは駆け回っている集団がいることに気づいた。

 

「……あれ?なんか騒がしくなってきてません王様?」

 

「はん。雑種の騒ぎ等、我にとっては些細なこと」

 

そうでしょうか…とそう返したが、シルは嫌な胸騒ぎを感じ始めていた。ギルも興味がないと言っていたが、怪訝な表情をしていた。

 

シルは走っている中で、ギルドの職員と思わしき人を見つけ話しかけた。

 

「すいません。何か慌ただしくなってますけど何かありました?」

 

「ごめんなさい、急いでるの!」

 

「雑種、何があったか早く申せ」

 

ギルドの職員は、シルの質問にそう言って去ろうとしたが、進行方向にギルが立ち塞がったため、渋々と理由を話した。

 

「騒ぎになるから、絶対に言わないでね。モンスターが逃げ出したらしいの…。向こうの方は冒険者達が総出でことにあたっているから大丈夫だけど、こっちで白髪頭の少年とツインテールの女の子が追われてるみたいだって情報があって」

 

二人も気を付けてね、と言ってギルドの職員はギルの脇を通って行った。

 

「えっ!?王様それってベル君じゃ…!」

 

「娘よ、所用ができた我は行く」

 

その発言に顔を青ざめながらギルに詰め寄ったが、ギルはその場で跳躍し一気に屋根まで上がっていった。

 

「ええっ!?王様!?」

 

シルはギルの行動に驚愕し、声をかけたが、ギルはシルを見向きもせずに、屋根づたいに去っていった。

 


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