リューと共にブラブラしているギル。
その帰り道、一人の少女と出会う。
「リューよ、貴様に聞きたいことがある」
「なんでしょう王様」
あれから案内しろと、言ったギルだが、特に行きたい所もなく疑問に思ったものを指差して解説させていた。そして、ふと、この世界に来てから抱いていた疑問を聞くことにした。
「貴様、歴史には詳しいか?」
「……そうですね…。有名所なら文献を見たこともあるので、分かりますが…」
「なら問題ない。古代メソポタミアの王で人類最古の王の名だ。簡単だろう…」
「……申し訳ない。私の見た文献には、当てはまる人物がいません」
「なにぃ?」
頭を下げるリューを見て、疑問は確信に変わった。
どうやらこの世界では、ギルが統治した時代はなかったようだ、無論リューだけの意見では決定付けるには早計過ぎるが、今まで出会う者全てが知らないと来ているのだ、ここまでくればギルも認めるしかないだろう。
ーーーここは、自分のいた世界とは違うのだと。
「……何か気に触りましたか?」
「いや小さきことだ、気にすることはない」
ギルは異世界に来たことを些事だと言いきり、また歩きだした。
(……世界が変わろうが、時の果てまでこの世界は我の庭だ…)
内心で、そう決定付けたギルであった。
ーーーーーー
「ちょっと遅くなっちゃったな…」
エイナさんとバベルにて防具を新調し、彼女の住居に送ってから帰路についたため、もうすっかり日が暮れてしまった。
近道のために、メインストリートを外れ路地裏を進んでいたが、僕の耳に二つの足音が聞こえた。
「なんだろ…?」
路地裏を進んでいたとはいえ、少し後ろに戻ればメインストリートの道も見える。それに大分、近道したためもうホームも近い、そんな場所で面倒事は、少し不味い。
僕は不安になりながらも、近くの曲がり角から、顔をだし様子を伺おうとした。
「あぅっ!」
「うっ!?」
瞬間、勢いよく飛び込んできた小さな物体にぶつかった。小柄な僕よりも更に小さい物体は、良く良くみれば亜人の女の子だった。
「すいません、大丈夫ですか!?」
「ぅ……っ」
「追い付いたぞ、この糞パルゥムがっ!!」
もぞもぞと、立ち上がろうとした少女の後ろから、一人のヒューマンが現れた。迸った怒声に、思わず僕も身を震わせた。
「もう逃がさねえからな…ッ!」
凄まじい形相で睨んでくる相手。今にも襲いかかってきそうな雰囲気に、僕は少女を隠すように、青年の前に出た。
「……あぁ?ガキ、邪魔だ、そこをどきやがれ」
「あ、あの。いったいこの子に、何をするきですか…?」
「うるせえぞガキッ!今すぐ消えやがれ!」
僕は青年の物言いに、尻込みしたが、同時に覚悟もした。
ーーーこの場から、この女の子を残して帰れない。
「ガキがッ!なんだお前、そのチビの仲間だったのか!?」
「しょ、初対面ですっ」
「じゃあ何でそいつを庇ってんだ!?」
「……お、女の子だからっ?」
「マジなんなんだお前…!」
本当に何を言っているのだろう…。
でも実際にそれしか理由がなく、それだけで充分だった。
男だったら、女の子が襲われてたら、普通に助けるでしょ?
「いい、まずはテメェからぶっ殺す…!」
男は後ろに装備していた剣を抜いた。反射的に僕も『神様のナイフ』を構える。が、初めての対人戦、足が震えてしまっている。
カッコ悪いほど怖じ気づいている僕の姿に、男は獰猛な笑みを浮かべた。格下だと悟ったのだろう。
やられるイメージしか湧かないが、退くことは絶対にしない。
次の瞬間、男が一気に飛びかかってくる。
「止めなさい」
「何をしている雑種」
が、男の剣は振り下ろされることはなかった。
はっと振り向いた僕達の目に映ったのは、大きな紙袋を抱えているリューさんと、いつもの憮然とした態度の王様だった。
「次から次へと…!?お前らは何だぁ!?」
「貴方が危害を加えようとしているその人は、私のかけがえのない同僚の伴侶となる方です。手を出すのは許しません」
「そこのベルは我の下僕だ、手を出すのであれば、それ相応の報いを受けることになるぞ」
王様の下僕発言はいつものことだけど、彼女は何を言っているのだろうか…。
「どいつもこいつも、わけのわからねえことをっ…!ぶっ殺されてえのかあっ!ああ!?」
「「吠えるな」雑種」
ーーーしんっ、と空気が凍る。
大声を散らしていた男は、先程までの威勢はなく、顔を青ざめていた。……多分、僕もだろう。亜人の女の子もカタカタと、震えている。
それほどまでに、二人の出すプレッシャーは強烈過ぎた。
「命が惜しくば、疾く失せよ雑種」
「……そうですね、私は命までとりませんが。上手く加減が出来るとは思わないことです」
……何故この人達が言うと冗談に聞こえないのだろう…
「く、くそがぁ!?」
男は顔色を青くしたまま、退散していった。
「……」
「大丈夫でしたか?」
「いつまで座りこんでいるつもりだベルよ?」
いつの間にか、腰を抜かして座り込んでしまった僕に手を差し出してくれるリューさん。王様は僕の様子に首を傾げていた。
お、王様も王様で凄かったけど、リューさんも凄かった…。もしかして冒険者とか…?
「あ、ありがとうございます、助かりました…」
「いえ、こちらこそ差し出がましい真似を。貴方ならきっと何とかしてしまったでしょう」
「いや、そんなことはぁ…」
僕は頬をかいて視線をずらした。
「お、王様達はどうしてここに?」
「なに、日も暮れておったし、ホームに戻ろうかと思ったところで、貴様を見かけたに過ぎん」
「私も帰り道が一緒でしたので」
王様、今日リューさんと一緒だったのかな?それとも途中で会ったのかな?
僕は、今の恐怖を忘れる為に頭を別のことで埋めることにした。
「して、ベルよ。こんなところで何をしていた?」
「……へっ?あ、そうだあの子…あれ?」
周囲を見回したが、先程までいた女の子の姿は消えていた。
「誰かいたのですか?」
「え、ええ。その筈なんですけど…」
怖くなって逃げ出しちゃったのかな?…まぁ僕も腰を抜かす程怖かったけど…
「では、私はこれで」
「うむ。機会があればまた顔を出してやろう」
「本当に、ありがとうございました」
「楽しみにしています。では…」
そう言ってリューさんはお辞儀をして、僕も慌ててお辞儀しかえした。そして、そのままリューさんとはそこで別れた。