ギルの発言に心揺れるリリ。
そして、事件が起きる。
「ほいほい、お待たせ」
「……結果は?」
「……残念ながら、これじゃあそんなに高くないぞ、せいぜい一万ヴァリスくらいだ」
「……そうですか…」
ノームの店主に言われ、分かっていた結果を告げられた。
「お前さんにしては珍しいな、こんな物を持ってくるなんて、…ここ最近は来ていなかったし」
「……特に理由なんてありませんよ。これもダンジョンで拾ったものですし」
この武器も、ダンジョン内でたまたま拾ったもので、
「……そうか。そう言えばここ最近は、冒険者の間で噂になっとる、手癖の悪いパルゥムは聞かなくなったのう」
「……何が言いたいんですか?」
「いや、別にお前さんを疑っとる訳じゃないじゃよ?そのパルゥムは女で、しかも複数犯らしいからの」
ただのぅ、とノームの店主は言葉を続けた。
「何があったか分からんが、足を洗ったとジジイは思っただけじゃよ」
「……私には分からないですね…」
その会話を最後に、男のパルゥムは、顔を俯かせたまま店をあとにした。
ーーーーーー
「……昨日も逃げ出しちゃった…」
「何をしているベル?」
「……どうしたんだいベル君?」
目が覚めると、ベルはソファーで毛布をかぶり、クッションに顔を埋めていた。
ギルが昨日ホームに戻ると、喜びの歓声を上げるベルと、珍しく考え込むヘスティアがいた。
事情を聞くと、どうやらベルに魔法が発現し、それに喜び。ヘスティアは逆に、例のスキルが魔法にも影響したのかと疑問に思っていた。
ベルも興奮気味だったが、夜も遅いと言う理由から、お披露目は翌日にすることにしたのだが…
「うぐぅ~……っ!」
……朝からこんな体勢で、呻いている。
「はぁ。何があったか知らないけど、君もほんとに多感なぁ…」
「まったくだ。ベルよ、いつまでもそんなことをしているな!」
ギルの言葉に、ベルはのろのろと起き上がってきた。…どういう訳か、ベルの顔は真っ赤になっていたが。
「そうだ。ベル君、昨日のあの本を見せてくれよ。今日は昼まで暇なんだ」
「あ、はい。いいですよ」
そう言って、ベルは図鑑のような分厚い本をヘスティアに渡した。
「ふぅん、見れば見るほど変わった本だ、な…ぁ?」
「……なんだこれは、白紙ではないか?」
表紙をじろじろと見て、何ページか無造作に目を通していた神様は、不意に動きを止めた。
気になったのか、後ろで見ていた王様は本が白紙なのを見て、そう言った。
……白紙?昨日は色々書いてあったような…?
「……これは、
「ぐ、ぐりもあっ?」
「何なのだ、それは?」
耳にしたことのない単語を聞き返し、僕は嫌な予感がし、嫌な汗が出た。
「簡単に言っちゃうと、魔法の強制発現書…」
瞬間、先程まで真っ赤になっていた顔が、今度は真っ青になっていた。
「グリモアとは、ずいぶんと面白いものがあるな…。しかし、白紙なのはどうしてなのだ、読むには適性でもあるのか?」
「一回読んだら効能は消失するんだ…。ちなみにベル君、このグリモアはどうしてここにあるんだい?」
「知り合いの人に借りました…。誰かの落とし物らしい、デス…」
ヘスティアの、効能が消失したと聞いて、ますますベルは青くなった。
「ネ、ネダンハ…」
「『ヘファイトス・ファミリア』の一級品装備と同等、あるいはそれ以上…」
オワッタ。
重苦しい沈黙がホームに落ちる。
「いいかいベル君?君は本の持ち主に偶然会った。そして本を読む前にその持ち主に直接返した。だから本は手元にない、間違っても使用済みのグリモアなんて最初からなかった…そういうことにするんだ」
「黒いですよ神様!?」
「まったくだ、たわけ。この件は我に頭を下げれば、良いものだ」
えっ?と、僕と神様は王様を見た。
……これって王様のだったんですか…?はぁ…、良かった
「……王様君、この本君のだったのかい?」
「ああ。この世の財は全て我の物だ」
「「えっ?」」
……ちょっと雲行きが怪しいぞ…。
僕と神様は、互いに顔を見合い王様に再度聞いた。
「……王様、これって王様がシルさんのお店に忘れたものじゃないんですか?」
「ベルよ、我が物をどこぞに忘れるとでも思うか?」
「……つまり、これは王様君が忘れたものじゃないけど、王様君の物ってことかい?」
「まぁ、そういうことになるな」
「「……」」
神様も怪訝な目で見ていたが、僕はそれを聞くと、白紙になったグリモアを持って、脱兎の如くホームを飛び出た。
……王様のじゃないじゃん!?
内心でそう悪態をつきながら。
ーーーーーー
「まったく、あやつは…」
「そ、そうですね…」
あのあと、ベルがホームを飛び出し、何処に行ったか分からなくなったため、ギルは先に集合場所の中央広場に来て、リリと会った。
そこでリリに、先程のことを話リリはそれに、苦笑いで返した。
「ちょっとよろしいですか、そこの旦那?」
「……何用だ、雑種」
「……ッ!」
そうしていると、後ろから三人の男が現れ、その一人が声をかけてきた。その三人を見たリリは、驚愕していた。
「へっ、そう睨まないでくだせぇ、用があるのはそこのやつだけなので」
隣で震えているリリを指差して、そう言った。
「失せーーー」
「王様!申し訳無いのですが、暫くお待ちしてもらってもかまいませんか?リリはこの人たちに用があるので!」
失せろ、とギルが言う前にそれを遮って、リリは笑顔でギルにそう言い、先の男達と木陰の方に消えていった。
少しの時間待っていると、ベルがいつぞやの路地裏で出くわした、黒髪のヒューマンと話してるのを見かけた。
ギルは離れた位置で話を聞いていたが、終わった瞬間ベルに近寄って行った。
「ベルよ」
「あっ、王様!」
「今日はリリと二人でダンジョンに行くがよい、我は所用を思い出した」
「えっ?」
キョトンと、首を傾げたベルだったが、こちらが何か言う前に去ってしまった。
「……ベル様?」
すぐ後ろにいたリリが呆然と僕のことを見上げていた。
「リ、リリっ?いつからそこに?」
「ちょうど今ですけど…あの冒険者様と、何をお話していらっしゃったんですか?」
「えーと…いやぁ、ちょっといちゃもんをつけられちゃって…」
「そうですか…。王様は何処にいってしまいましたか?」
「あっ、王様?王様はさっき用事があるとかなんとかで…」
それを聞いた、リリは驚きの表情を浮かべ、俯いてしまった。
「……やっぱりリリを…」
「リリ?」
俯き小声で話していたため、僕は聞こえなかった。
「さぁ、行きましょうベル様。今日は王様もいないので、ベル様のご活躍を期待していますよ?」
僕の脇を抜け、リリはバベルに向かって行き、僕もそれ以上何も言わず、黙ってリリの後をついていった。
「……もう、潮時かぁ」