ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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アイズ・ヴァレンシュタインLv.6。

その貼り紙を目にし、ベルはショックを受ける。




目標

「……これって…」

 

「どうした、ベルよ?…なんだあの雑種か」

 

「待ちなさい!まだ話は終わってないわよっ!」

 

ダンジョンから戻ってきて、ギルドに寄った際に目にした一枚の貼り紙。

 

ーーーアイズ・ヴァレンシュタインLv.6にランクアップ

 

その内容を目にした瞬間、エイナさんと王様が横で言い争っていたが、頭に入ってこなかった。

 

「貴方は何度言ったら分かるのっ!?ダンジョンは危ないから、入っちゃ駄目なの!」

 

「たわけ。あのような穴蔵が危険とでも言うのか?それこそあり得んな」

 

「あ・な・た・は・ねぇーっ!?」

 

エイナさんがその端正な顔を怒りで歪めたとき、初めて僕が呆然と立ち尽くしていることに気づいた。

 

王様も僕の様子に、エイナさんから僕に向きを変えた。

 

「……ベルよ」

 

「はっ、いえっ!大丈夫ですよっ!?」

 

「いったいどうしたの?…あぁ。ヴァレンシュタイン氏のレベルアップの記事か…」

 

すごいもんね…。エイナさんは苦笑いを浮かべながら、アイズさんのレベルアップの話をしてくれた。

 

どうやら、階層主ーーー『迷宮の弧王(モンスターレックス)』を一人で倒してしまったらしい。

 

それも下層域の更にした、『深層』と呼ばれる階域で。

 

「……今回のことは気にしない方がいいよ。階層主を一人で撃破しちゃうなんて、私も聞いたことがないもん。ヴァレンシュタイン氏が特別なんだと思うよ…」

 

「はっ、雑種の功績など、酒の肴にもならんわ」

 

王様は鼻で笑っていたが、僕の胸中は一人でに沈んでいった。

 

目指したあの人の高さに、押し潰されそうになった。

 

「ベル君?」

 

「……あ、すいません、今日はもう帰ります」

 

心配そうな顔でこちらを伺うエイナさんに、苦笑いを返し僕は逃げるようにギルドを去っていった。

 

「まったく。ベルのやつは、またか…」

 

「……ベル君は行っちゃったけど、貴方にはまだお話しがありますからね!」

 

「知らんわ、たわけ」

 

「あっ!?待ちなさーい!」

 

呼び止めるエイナの制止を無視し、ギルドを後にした。

 

ーーーーーー

 

夕刻。

 

シルさんの策略…もといお願いによって、ベルは先程まで皿洗いをしていた。

 

……何で、僕が…。

 

そんな風に思っていたが、リューさんが手伝いを申し出てくれて、尚且つ話し相手にもなってくれて幾分か気分が良くなった。

 

王様はいつの間にかやって来ていて、お酒を飲んで待っていた。

 

……手伝ってはくれなかったけど…。

 

王様に愚痴を言っても仕方ないので、…怒られるし。やっと解放された僕は王様の横に座った。

 

「むっ、ベルか?…慌てて出ていたかったかと思えば…。女将の所で皿洗いとは、どうしたのだ?」

 

「ちょっと、シルさんに…」

 

苦笑いを浮かべ王様にそう返した。店の中にいたシルさんは、僕と目が合うとテヘッと、舌を出してごめんなさい、と言っていた。

 

……もう、シルさんは…。

 

その可愛い仕草に少しばかりドキッとしたが、シルさんから目をそらすように隣にいる王様に視線を向けた。

 

「またあの娘か…。いいように使われるとは、情けないぞベルよ」

 

「す、すいません」

 

確かにその通りだなぁ…。と内心で反省し、女将さんに注文をした。

 

が、尚もこちらを見ている王様。

 

会話も途切れたし、前を向いてお酒でも飲むと思っていたため内心でドキドキしてしまう。

 

……ど、どうしたんだろう、何かやっちゃったかな?

 

「ふん。やっといつもの顔になったな」

 

「えっ?」

 

かけられた言葉に、すっとんきょうな声が出てしまった。

 

「先の雑種の貼り紙を見て、落ちこんでおったではないか」

 

「あっ…」

 

心配してくれてたんだ…。王様のかけられた言葉の意味に、先程の事を思い出した。

 

ふん。と言って視線をそらし、お酒を飲む王様の横顔を眺め僕は笑顔を向けた。

 

「もう大丈夫です、王様…。僕も早くレベルを上げて、追い付けるように頑張ります…」

 

だけど言葉にすると、どうしても暗くなってしまう。

 

そんな僕の言葉に、王様は片眉をつり上げた。

 

「目標が低すぎるわ、たわけ。貴様は我が見いだしたのだ、あのような雑種が目標など片腹痛いわ」

 

「アハハ…」

 

アイズさんでも低いんだ…。王様の物言いに渇いた笑いしか出なかった。

 

……そうだよね、あの人に相応しくなるなら並ぶだけじゃなくて、越えられるようにならなきゃ…。

 

本当にできるのであろうか?僕に…。

 

その遠すぎる目標に、更に目の前が暗くなる。

 

また落ち込んだ僕を見て、王様はため息をこぼした。

 

「貴様は英雄(・・)になるのだろう?」

 

「……!?」

 

「ならば有象無象の雑種など蹴散らし、踏み越えよ!英雄にならんとするなら、当然だ!」

 

「で、でも、それじゃあ…」

 

「……頂きに立ち、それでもあの雑種が良いと申すなら、その時には寵愛の一つでもやるがよい…」

 

僕の懸念に王様はそう言った。

 

英雄か…。そうだよね、僕は英雄になるためにここに来たんだもんね…。

 

そっちの方が高い目標だなぁ、と苦笑した。

 

同じ苦笑いでも全然違うその笑みに、王様はニヤリと笑った。

 

「どうした?抱いた夢の大きさに、怖じ気づいたか?」

 

「そうですね…。でも僕はなりますよ王様!」

 

英雄に…!

 

ーーーだって僕は英雄王(あなた)に見いだしてもらったのだから。

 

 

 


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