ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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魔剣

「それがスキル『英雄願望(アルゴノゥト)』の力だよ」

 

今日起きた出来事…。11、12階層に出現する稀少種(レアモンスター)『インファント・ドラゴン』。上層においてその小竜は実質上、階層主だ。

 

それを僕が倒したのだが、その時に自身の右手に集まる光の粒子があった。僕はそれが『英雄願望』のスキルなのではと、神様に相談し神様は肯定してくれた。

 

「自分より強大な敵を打ち倒すための力…。どんな窮地も覆す可能性を持った、言っちゃうなら、資格かな」

 

そう言って自身の推測を語っていく神様。その青みのかかった神秘的な瞳は僕を見上げていた。

 

「馬鹿みたいに英雄に憧れる子供が、英雄になるための切符さ」

 

 

「まさに、『英雄の一撃』ということか…」

 

神様の言葉を聞いて、王様は笑みを浮かべながらそう呟いた。

 

僕の目は知らない間に神様に釘付けになっていたが、王様の言葉でハッとして、慌てて頭を振った。

 

「そう言えばベルよ、貴様新たに下僕を見つけたようだな」

 

「もしかしてヴェルフさんのことですか?嫌々、下僕じゃなくてパーティーのメンバーですよ…」

 

「ふふっ、君がヘファイストスのところの子とパーティーを組むなんて…これも何かの縁かな?」

 

神様はくすくすと笑う。実際神様(おふたり)は天界の頃からの付き合いらしいので、親友同然なんだとか。

 

……でも王様、下僕は酷いですよ…。

 

「そう言えば彼は、魔剣が打てるらしいね?」

 

「えっ?」

 

「何?」

 

神様の不意に出た言葉に王様と一緒に驚いた。

 

……魔剣が打てる?

 

神様は聞いていないのかい?と小首を傾げながら神様が知っている事を話してくれた。

 

「贋作なんかじゃない、正真正銘の『魔剣』さ。それこそ『クロッゾの魔剣』と呼ばれるに相応しいほどにね」

 

「ほう…。これがあるゆえ、魔剣があっても可笑しくはないが、よもや打てるとはな」

 

そう言って王様は、自身の剣を触っていた。

 

……これ?

 

疑問に思ったが、神様が続きを話すのでとりあえず置いておくことにした。

 

「でも、彼は魔剣を作らないんだ」

 

「……ぇ」

 

「作製しようとしないんだよ、何故か。一度作ってしまえば富と名声が確約されている筈なのに、彼は魔剣を打とうしない」

 

魔剣を作れるのに、作らない。なんでだろう?

 

「腕は確か、だけど何か訳あり…。君が契約を結んだ鍛冶師くんは」

 

訳あり、か…。ヴェルフさんの黙っていたことを聞いてしまい、僕も黙ってしまった。まだ出会って日も浅いし仕方のないことかもしれない…。

 

「まぁ、そやつのことはどうでもよい。だがこの世界の魔剣は興味がある」

 

「相変わらず王様君は辛辣だねぇ…。魔剣っていうのは振れば魔法の恩恵に与れる、多くの人が欲しがる魔法の剣さ」

 

「……ん?」

 

どうしたのだろう?神様の魔剣の説明は何も間違ってないはず。なのに王様は首を傾げていた。

 

「どうかしたかい?まぁ、行使制限もあるからうまく使わないといけないけどね」

 

「……待てヘスティア、我は魔剣(・・)の説明をせよともうしたはず」

 

「だからしてるじゃないか、魔剣の説明」

 

神様は横にいる僕を見て、間違ってる?と聞いてきたが、僕の知っている情報となんら間違っていなかった。

 

「……ちなみにだが、貴様らが魔剣と呼んでいるものは、全てそうなのか?」

 

「そうだよ?全部振れば魔法の力を使えて、行使制限を越えれば砕けるよ」

 

うん、それが魔剣。僕も一度でいいから使ってみたいな…。まぁ僕には似合わないか。

 

でも、本当にどうしたんだろう王様?

 

「一番すごいのは、『海を焼き払った』とさえ言われているよ!まぁ、海全部というわけではないけど、それでもすごいでしょ?」

 

「……一番凄くてか?」

 

「一番凄くてだよ!」

 

「……それはどこにある?」

 

「砕けたに決まっているよ。何?王様君も欲しくなっちゃった?」

 

伝説とまでされた『海を焼き払った魔剣』。そんなものが本当にあるのだろうか、でも実際に語られているし、あったのだろう。

 

……凄いなぁ…。

 

「……まぁ貴様らは、本物を知らんしな…」

 

「えっ?」

 

王様が呟いた言葉を疑問に思ったが、王様は何でもないと流した。

 

……一体本物ってなんだろう?

 

ーーーーーー

 

「あれ?王様こんなお昼からどうなされました?」

 

「前に言っておったではないか、まぁ酒の席の言葉道化が忘れているのも無理はないか…。貴様街を見たいと言っていたであろう?」

 

まだ日も明るい時間、私たちのいる区域は歓楽街と言うこともあって開いていないが、王様はこの一室に来ていた。

 

街に出歩きたい…。確かに言ってはいましたけど…。

 

「……無理でございます王様、私のこの首輪は『魔道具(マジックアイテム)』。私がこの歓楽街から出れば、即座に音を立てて連れ戻されてしまいます…」

 

「ふん」

 

私の首にはめられた首輪は、逃亡防止用。故に壊そうとすれば音をなりたて、すぐさま信号を送るのですが…。

 

王様が何気なく、虚空から取り出した槍によってそれは取り外された。

 

「では行くぞ道化」

 

「えっ、え、ええっ!?」

 

何で!?本当にこれは外されたら音が鳴るはずなのに!

 

「ま、待ってください王様!せめて書き置きを…」

 

私は出掛けられるとは思ってもいなかったので、近くにあった紙に書き置きを残そうとしたが、王様は…。

 

「では行くぞ」

 

「キャッ!?」

 

私を抱えて窓に近づき、そして…。

 

「キャぁぁぁっ!?」

 

飛び降りた。

 

書き置きも途中までしか書けず、後で何を言われるやら春姫は心配です。でも、外に出られることに私の顔は破顔していた。

 

ーーーーーー

 

「これがオラリオの街…!」

 

夢にまで見ていたオラリオの街。遠出の時などはカーゴに入れられていたので見ることは叶わないと思っていましたが…。

 

「今回は貴様の褒美。故にどう振る舞おうが許そう」

 

本当に外を見れるなんて…。やっぱり王様はすごいお人です!

 

「王様!私あれ食べてみたいです!」

 

私は終始興奮したままで王様と街を見て回った。…そう言えば王様のアレは、武器も出せるのですね。あの首輪を切れるなんて、そんなにすごい武器なのでしょうか?

 

ーーーーーー

 

「おい春姫、例のことなんだけど…」

 

アイシャは春姫に例の件について春姫の部屋に来ていたのだが、そこには一枚の紙と外された首輪しか置いてなかった。

 

「なっ!?あいつ何処へ行った!?」

 

慌てて置いてある紙を拾う、そこには…。

 

『王様とでかーーー』

 

中途半端に書かれていたが、その書かれている単語で犯人が誰か分かってしまった。

 

「あ、あいつは…!」

 

ぐしゃっと、紙を握り顔を怒りで染めて一人の男を思い浮かべた。

 

どうやってこの首輪を外したんだ!?

 

「……でも、あいつになら…」

 

一人事のように呟いてから、フッと笑った。

 

もしかしたら託せるかも知れない…。あの女神からあの子を。

 

誰もいない部屋でアイシャは一人覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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