ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

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探索隊

ギルドの前にて、ベル達を救出するため『タケミカヅチ・ファミリア』から三名。ヘルメスとアスフィ、そして何処から頼んだ覆面の冒険者。とギルとヘスティア。

 

最初行方が分からなかったギルがいることに、他の者達は驚きの声を上げたが、一言「雑種ごときが、我に意見するでない」と一蹴し、全ての質問をことごとく流した。

 

……その態度にむっとしたが、ヘスティアが必死で説得して何とか纏めた。

 

ギルは一度、覆面の冒険者を一瞥しただけで誰か分かったが特に何も言うわけでもなく、先陣きってダンジョンに向かって行き、他の者もそれに続くようにダンジョンに突入していった。

 

「……ヘスティア、彼が見つかったのはいいけど、彼のLvは?」

 

「恩恵を与えてないから、彼にはそんなものないよ…。何で先頭を歩くんだよ王様君…」

 

後方で話す二人の神。その話を聞いた他のメンバーも、その内容に驚きそしてため息を吐いた。

 

……それで先頭を歩くだなんて、死にたがりかよ、と。

 

しかし、彼等のその予測はものの数分で瓦解した。

 

ーーーーーー

 

現在位置はダンジョン13階層。

 

ヘスティア以下ベル達捜索隊は、出発から約数時間、早くも『上層』を突破し『中層』へと足を踏み入れていた。その進捗状況は、ひとえに…。

 

ーーー先頭(・・)を歩く一人の男によって。

 

「なぁ…。何でモンスター達は、彼を見て逃げ出すんだ?」

 

「し、知らないよ!?」

 

ここまで戦闘回数一回と言う、信じられない事態に後続にいたヘルメスはヘスティアに問う。

 

その一回も、7階層にて出会った『キラーアント』の2、3匹。そんなもの、これだけいる人数なら一瞬でかたがつく。

 

他のメンバーもその異常な光景に、衝撃を共有した。

 

……モンスターが彼を見て逃げている?

 

そのあり得ない考えに、その者の背中を見る。が、その視線に振り返ることなく、歩みを進める。

 

「で、でも、ここからは中層だ。皆気を引き締めろ!」

 

「は、はい、桜花殿!」

 

「う、うん!」

 

「えぇ…。ここから先は、油断してはなりませんよ」

 

手酷い痛手を受けた先ほどまでの過去に桜花は、命と千草号令を飛ばし、そして二人は弛んだ自分に活を入れた。アスフィもまた同意した。

 

「……そうです。私の出番は、ここから…」

 

……覆面の冒険者もまたぐっと両手を握った。

 

ーーーーーー

 

ダンジョン14階層、『中層』と呼ばれる階層。

 

ここにベル達が居ないことに、方針を18階層までに変えた。覆面の冒険者が提案した事と、ヘスティアが与えし恩恵が切れてないことから。生きているが、地上へ向かうのは諦め安全領域(セーフティポイント)である、18階層を目指してると考えたからだ。

 

そう考えていたその時、モンスターの群れが…。

 

「ーーーさっさと失せろ、犬っ!」

 

……去っていた。一喝だった。

 

それだけで群れをなしていた『ヘルバウンド』。それと共にいたモンスター達は、蜘蛛の子を散らしたようにダンジョンの奥に逃げていった。

 

「……暇だな」

 

「暇ですね…」

 

「う、うん…」

 

「あ、あり得ない…」

 

その光景を遠い目で見る三人。アスフィにいたっては、眼鏡をずらし呆れ返っていた。

 

「ヘスティア…」

 

「だ、だから、僕も知らないよ!?」

 

後方で成り行きを見ていたヘルメスは、隣にいるヘスティアをうろんげな瞳で見つめる。

 

「ま、まだ、ここには中層において強モンスターとされる、『ミノタウロス』がいる…」

 

……覆面の冒険者は、そのモンスターならと、一筋の望みにかけた。

 

ーーーーーー

 

ダンジョン15階層。

 

ここで、あるモンスター達を見つける。

 

『『『キュイ!?』』』

 

「む?」

 

兎の外見をした三匹のモンスター。白と黄色の毛並みに、額には鋭い一角が生えているモンスター、『アルミラージ』だ。

 

そのモンスター達と、ギルは見つめあい暫しの沈黙が流れた。

 

後ろにいたメンバーは、そのモンスターの強さを知っていたが、既に結果が見えているのか、逆にこのモンスターに初めて興味を見せた男に視線を送る。

 

『キィィッ!?』

 

その男から逃げ出すように走り去る、三匹の兎型モンスター。やはり駄目だったか…、等と思った直後…。

 

「……止まれ」

 

その男がその逃走を阻んだ。言葉だけだが、その声音に反応して三匹のモンスター達はその場で、ピタリと制止しキギッと振り返った。

 

そして、ゆっくりと近付き一匹のアルミラージの首根っこを掴み持ち上げた。

 

『キュ、キュイ!?』

 

『キュイイイイッ!?』

 

持ち上げられた一匹は悲鳴染みた鳴き声を上げ、他の二匹はそれを見て逃げ出した。他の二匹には興味がないのか、その視線はその捕まえた兎に向けたままだった。捕まえられた兎は、恐怖からガタガタと震えていた。そして、ギルは振り返り…。

 

「ベルも見つかった事だ、戻るぞ」

 

「何言っているんだい!?」

 

ヘスティアが突っ込んだ。他のメンバーは、その言葉にどう反応して良いか分からず、様子を伺う。

 

「知っておる、わざと言ったのだ。AUOジョーク、大いに笑うがよい。ハハハハハ!」

 

……誰も笑えなかった。

 

そのことに「やはり雑種には、難しかったか…」と他のメンバーに呆れていた。そして、捕まえていた『アルミラージ』に再び目線を戻して「誰ぞ、紙とペンを持っていないか?」と聞いてきた。

 

そのかけられた言葉に首を傾げたが、サポーターである千草がバックパックから、それを取りだし差し出した。そして、一旦覆面の冒険者にアルミラージを渡し、その紙に何やら書いていく。

 

そして書き上げた紙をアルミラージの背中に貼り付けた。そこには…。

 

『王様のペット

 

名前は偽ベル

 

よろしくね!』

 

と書かれていた。その書かれていた内容に、目を点にするメンバー達。

 

「本来なら貴様のような、贋作(にせもの)。疾くゴミにするのが常なのだが…。今、我が居住にて留守番している奴がいてな。それの遊び相手にでもなっていろ」

 

そして、二通の手紙をそれに持たせ、地上に続く方向を指差し「ーーーに行け。道順はわかったな?」と言ってから地面に降ろした。最初言われたことが理解できていないのか、キョロキョロと視線をさ迷わせていたアルミラージいや、偽ベルだったが再度「わかったな」と一睨みされて、首を縦にブンブンと振っていた。

 

「ではさっさと行くがいい。偽ベル」

 

『キュイイイイ!』

 

甲高い鳴き声を上げながら、地上に向かう方向へと走り去っていった。それを見て、満足気に頷いてからまた歩みを再開させた。

 

「……命、千草今のがテイムだ。滅多に見れないぞ」

 

「な、なるほど…」

 

「う、うん…」

 

「……いや、違いますよ」

 

何やら変な勘違いをしていた三人に、アスフィは突っ込みを入れた。

 

その後ろで見ていたヘルメスは、再度ヘスティアを見たが「僕はもう知らない!」とそっぽを向いていた。

 

ーーーーーー

 

ダンジョン16階層。

 

『ヴォオオオッ!』

 

抗戦は、まず不可能だった。

 

まず意志が折れた。次に戦意を挫かれ、最後に立ち向かう気力を、本能を…。

 

「……誰に吠えている、雑種!」

 

ーーー『ミノタウロス』が折られた。

 

咆哮を上げたミノタウロスは、しかし瞬時に壁に同化するように張り付き、動こうとしない。まるでその脅威が去るのを待つように、自らをダンジョンの壁に擬態するかのように。

 

「なぁ桜花君、『ゴライアス』が彼に挑むか賭けをしないか?」

 

「……自分は、ゴライアスに」

 

「じ、自分は彼に」

 

「う、うん。私も…」

 

「ヘルメス様ご自重下さい…」

 

最早やることない事に、ヘルメスは暇潰しに賭けを提案し、それに同意する三人。それをアスフィは諌めるが、ちゃっかりゴライアスに賭けていた。ヘスティアはギルに賭け、見事に三対三に別れた。

 

「……わ、私が、ここに来たのは…」

 

……覆面の冒険者は賭けに参加しなかったが、ここに来た理由を虚空に問うていた。

 

ーーーーーー

 

ダンジョン17階層。『嘆きの大壁』

 

……そこにそいつはいた。

 

『オオォォォッ!!』

 

けたたましい咆哮を上げるゴライアス。

 

「この我に吠えるか、雑種!」

 

王の一喝。それにたじろぎ、その巨体が後ろに下がる。その光景に彼に賭けた三人は希望をこめ、後ろから野次を飛ばす。

 

しかし…。

 

『オオオオオォォォッ!!』

 

恐怖を振り払うかのように、雄叫びを上げ突っ込んできた。

 

「ほう…。雑種が我に歯向かうとどうなるか、その身で知るがいい」

 

「「「ヨシッ!」」」

 

「「「くっ…」」」

 

その行動にぐっと握り拳を固める男神含む三名。対して、外したことに苦虫を噛んだ表情を浮かべる女神含む三名。

 

ギルは向かってくるゴライアスを再度睨み、手を上げ王の財宝を開こうとしたが…。

 

「何しているんですか!?早く洞窟に逃げなさい!」

 

「む!?何をする、離せリュー!」

 

背後から覆面の冒険者に押され、18階層に続く洞窟に、飛び込んだ。他のメンバーも、何かしょうもないことを言っていたが、それに続くよう洞窟に飛び込んだ。

 

……こうしてベル達捜索隊は18階層に辿り着いた。

 

ーーーーーー

 

夜中。ギルド内の受付では、神会が終わり今日の仕事がやっと終わりを告げた、エイナが帰り仕度をしていた。

 

……結局神会を開いたものの、有益な情報は何もなく無益なもので、『俺が、ガネーシャだ!』等とふざけた事しかなかったらしい。

 

昨日も夜中に駆り出されて、今日も夜中まで働いて疲れた。早く帰ろう…。と思っていたとき、そいつ(・・・)は突如として現れた。

 

『キュイイイイッ!』

 

「な、何で!?アルミラージがここに!?」

 

ギルドにやって来るはずのないモンスターが、ロビーにいた。夜中のために、冒険者の数も少なかったが…。このモンスターは他に目もくれることなく、自分(・・)の所に走ってきた。

 

そして、くわえていた手紙を差し出した。

 

「えっ?ええ…。もしかしてテイムされてるの?」

 

その知性を感じさせる行動に、誰かにテイムされていると分かり、ほっと安堵の溜め息を吐く。そして、手紙を開き一体誰のものだろうと思案した。

 

が、その書かれている内容を見て、ピシッと固まった。

 

『我の命令だ、光栄に思え。そやつを我の居住に連れていくがよい』

 

ギギッと首を、壊れた機械のように動かし渡してきたモンスターに向ける。そこには振り返り、背中の紙を見せつけるようにしている、アルミラージ。いや、偽ベルがいた。

 

……確かに似ているけど。でも…。

 

「あ・の・ひ・と・めぇぇ!!」

 

エイナの絶叫が、夜のギルドにてこだました。

 

このあと、偽ベルを送り届けた。

 

 

 

 

 




『ヘスティア・ファミリア』ホーム。

そこで寝ていた、春姫は目を覚ましていた。

「う~ん。あれ?ここは?」

知らない場所に、キョロキョロと周りを見回すが、覚醒した頭はもしやあの人のホーム?と考え付いた。

『キュイ!』

「えっ!?モ、モンスター!?」

突然現れたモンスターに驚愕して、ベットの上で体を縮めこませるが、そのモンスターはくわえていたもう一通の手紙を差し出した。そこには…。

『そやつは貴様の留守番までの遊び相手だ。腹が空いたのならば、ここへ行き我の名を出せ』

その書かれている内容と、振り返り背中の紙を見せつける偽ベルに「王様のペットですか。よろしくね」と微笑んだ。

そして、下の方には『豊穣の女主人』と書かれた場所への地図が載っていた。


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